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「ダイチ式4-5-1攻略の最適解」~2023.2.4 プレミアリーグ 第22節 エバートン×アーセナル レビュー

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レビュー

エバートンの中盤が見せた根性

 フランク・ランパードに代わり、新監督に就任したショーン・ダイチの初陣。首位のアーセナルに対して、どのような出方をするのかに非常に注目が集まった試合となった。

 エバートンの基本的なフォーメーションは4-3-3。中盤を5枚にする形でアーセナルを迎え撃つ。アーセナルからするとまず4バック相手に突きつけたいのは、WGのマッチアップである。サカ、マルティネッリの両名に対してどのように対応するかがポイントになる。SBが1人で止めることができればOKだが、そうでないならばどこからかカバーを行っていかなければならない。

 エバートンの選択はSHが列を下げてのダブルチームを基本線とする形だった。IHはそれに合わせてハーフスペースを塞ぐポジションをとる。おそらく、アーセナルのWGの最も怖いカットインに対する保険だろう。アンカーのゲイェはそれに伴い横側をスライドをする。SHがSBと挟みながら2人で対応する選択をしたエバートンに対して、次はアーセナル側がどのようなアクションを行うかが問われることになる。

 今季のアーセナルにとってはWG、特にサカにダブルチームをつけてくるチームはプレミアでは珍しいわけではないし、エバートンのこうしたアプローチは非常にスタンダートな部類と捉えていいだろう。今季のアーセナルはここからの戦い方で強さを見せてきたチームである。SHがダブルチームに向かうのであれば、アーセナルのSBは空く。空いたホワイトからサイドチェンジやファーへのクロスなど次の展開にボールを動かしていく。

 だが、この日はそこに至るまでに正直手間取っている感があり、スムーズにマイナス方向のフリーの選手を活用することができていなかった。一方的にアーセナルの選手のパフォーマンスが悪かったというよりはエバートン側の対応の良さがベースにあったとする方が自然だろう。

 特にアーセナルのマイナス方向のパスに対するエバートンの陣地の回復の仕方が非常に素早かったのが印象的。中盤のラインの上げ下げのスピードが非常に早く、根性で対応。アーセナルからすればWGが2枚を引きつけて、空いたところを活用することで展開を進めていきたいところだが、エバートンは運動量でこれをカバー。WGに強気で当たり、前を向かせずコースを限定したことで、アーセナルのマイナスパスを誘発し、ある程度その先の展開を予測できるようにする。実際にマイナスのパスが出たら、それに合わせてラインをあげる。エバートンはこのメカニズムが非常にうまくいっていた。

バランス構築と波状攻撃の抑制

 もう1つ、アーセナル側がボール保持の起点としていたのはエバートンの1トップの周辺。このスペースにジンチェンコやホワイトが顔を出すことでボールを配球する拠点としていた。

 エバートンがこのスペースに潰し役として出てくるのはドゥクレとオナナのインサイドハーフコンビである。だが、彼らはローラインにおいてもサイド攻撃を塞ぐという重要な役割がある。どこまで出ていけばいいか?というのは難しいところである。

 しかし、これも時間の経過が解決してくれた感がある。マイナス方向のパスで追い込むことができる時は迷いなくスイッチをいれ、そうでない時は中央を固めてアーセナルが縦パスを刺しにきたところを回収する。

 従来のエバートンであれば、中盤が積極的にプレスに動いた時に、DFラインがついていけないせいで全体の陣形が間延びしてしまうという問題点が発生することが多かった。だが、この日のエバートンは後方からの押し上げも効いており、高いラインで相手のビルドアップを積極的に咎めることができていた。

 アーセナルはショートパスでプレスを回避することはできても、エバートンの前がかりなプレッシングを超えて、自分たちのチャンスにすることはできなかった。いわば「良くて引き分け」という状況であり、エバートンのプレスを撃退し、リトリートまで持っていければ御の字といったところだった。プレッシャーがそこまでかかっていない状況のアーセナルのバックスのミスも相まって、効果的に前進することができない。

 プレビューでは中盤の構成的に出ていきたがるであろうエバートンのプレスが勇み足になり、アーセナルがプレスを利用して擬似カウンターのような形で決定機を作るパターンを想定していた。だが、出ていく出ていかないのバランスをかなり早い段階でエバートンが見つけたため、こうした決定機を作ることはできず。プレビューで想定したよりもエバートンが統制が取れた守備組織を構築したことは確かである。

 プレスとリトリートの両面で主導権を握ったエバートン。アーセナルがたどり着いた解決策は「それでもWG」である。サカの独力での打開は30分のエンケティアのシュートを生み出しており、ダブルチームを敷いてなおエバートンに対してこじ開ける姿勢を見せた。エバートンはこの時間以降、明らかにイウォビとマクニールを1列下げながら守備の対応をさせている。

 コーディによって防がれたサカの枠内シュートもあり、前半の終盤は比較的アーセナルはエバートンのゴールに迫ることができていた。しかしながら、完全にアーセナルのペースに試合が転がらなかったのは、エバートンの保持における確実な前進がアーセナルの波状攻撃を防いだからである。

 主役はキャルバート=ルーウィン。アーセナルの自慢のバックラインに対してもがっちりとボールを収め、セカンドを拾う競争に持ち込むことができていた。こうなると、アーセナルはここから素早く縦にボールをつけることはできないし、フィジカル自慢の中盤がセカンドを拾い、エバートンのチャンスに持っていくことすらあった。途中からイウォビとマクニールの左右を入れ替えたのは、ジンチェンコのところをロングボールのポイントの2つ目として活用するためだろう。

 アーセナルの保持における局面に改善の兆しが見えても、キャルバート=ルーウィンへのロングボールで雪崩のように次から次へと攻撃が飛んでくる状況を防ぐことができる。ここまで押し下げれば、再びアーセナルはエバートンのプレスとブロックを掻い潜りながらWGにいい形でボールを渡すことを模索するところから始める必要があった。

 流れの中でなかなかチャンスを量産できなかったアーセナル。むしろ、前半はセットプレーとキャルバート=ルーウィンのロングボールが元となる攻撃をなんとか0に防いだという表現の方が正しいだろう。

後半の頭に掴んだ糸口

 後半の頭、エバートンのプレスは非常に積極的なもの。前半と同じく、自分たちはプレッシングからリズムを握っていくという意志を強く押し出す立ち上がりを見せた。

 アーセナルはどうすればいいか?またWGに無理をさせるか?という選択肢を問われることになる。だが、後半の頭のアーセナルはエバートンのプレスに対しての解答案を示すことができていた。もっとも、綺麗に相手の狙いを外せたのは50分のシーンだろう。エバートンがトライしたアーセナルの左サイド側の攻撃が終わり、アーセナルが逆サイドに展開したシーンである。

 この場面ではラムズデール→ホワイトのパスで対面のマクニールを振り切ることに成功する。抜け出されたのをみたドゥクレはホワイトのカバーに出ていくことになる。マクニールがホワイトに振り切られ、ドゥクレはホワイトのカバーに奔走する。その上、この場面ではゲイェが攻撃参加により持ち場を完全に留守にしている。

 こうなると、サカがマイナス方向にプレーした時にその動きを阻害できるエバートンの選手がいなくなる。こうなると、マイコレンコは厳しい。マイコレンコがサカになんとかついていくことができたのはSHやIHによってサカがインサイドにプレーする可能性を抑制することができていたから。縦方向に集中することでマイコレンコはサカとのマッチアップに食いつくことができていた。この場面のようにサカに縦と横どちらの可能性も残されており、それをマイコレンコ1人で対応しなければいけない状況では明らかにサカに分がある。

 中央でジャカとウーデゴールの2人がフリーになっていたことを踏まえれば、ゲイェが本来のポジションをとっていたとしても、サカが縦横どちらの可能性も残しており、それをマイコレンコが1人で対応しなければいけない状況を作れれば、十分にアーセナルにはチャンスを作ることができていると言っていいだろう。

 フリーになりやすい逆サイドのSBであるジンチェンコからのサイドチェンジでも悪くはないが、ボールが届くまで時間がかかる分、エバートンの前の選手が戻りやすくなる。加えて、マイコレンコやコールマンは1on1では厳しいことを踏まえて、こうしたロングボールに対してはボールが届く前のインターセプトにかなり腹を括ってトライしにいっていた感があった。よって、基本的には先に示したようなビルドアップから2列目のヘルプが間に合わない状況からWGの進めるコースを増やすやり方の方がアーセナルにとっては理想的だったと言えるだろう。

 逆サイドのマルティネッリも直後に内側の旋回からチャンスを作ったようにWGが内側に入りながらMFの背後をつく形は有効。左サイドには針の穴を通す精度を持っているジンチェンコがいる分、構造的に相手を引き寄せなくとも難易度の難しいパスでWGに優位な状況を作り出すこともできる。

 しかし、それでもアーセナルはペースを完全に掴むことができなかった。エバートンの前進のルートが死んでいなかったからである。アーセナルがいくら保持で解決策の糸口を掴もうと、キャルバート=ルーウィンを使ったロングボールは生きている。アーセナルがプレスで手応えがあるボール奪取はできなかったこともあり、エバートンは後半も前進の機会を得ることができていた。

 そして、エバートンはCKから先制する。セットプレーを説明するのは苦手分野だけども、少し触れてみよう。このコーナーの失点に触れる前にまずは前半にあったエバートンのコーナーキックが連続で見られたシーンをチェックしたい。前半からエバートンのCKはファーを狙ったものが多かった。これに対して、アーセナルはサリバがバックステップ踏みながら競りかけることで毎回ケアをしている。

 毎回エバートンの選手に対するアーセナルのマーカーが変わっていることを踏まえると、ニアとファーに両CBを固定し、最も危険なゾーンをケア。そのエリア以外はマーク相手を決めながらマンツー気味についていく形で守っているのだろう。アーセナルはサリバとガブリエウを外した守備のマッチアップを考えなければいけない上、エバートンは高さのある相手。マッチアップは基本的にはエバートンが有利になるケースが多い。

 失点シーンはファーをケアしたいサリバにドゥクレがスクリーンをかけてバックステップを踏めないようにしている。これにより、ファーのマッチアップであるウーデゴールとターコウスキのデュエルの結果がゴールに直結する形になってしまった。

 原因探しは色々な角度からできるシーンだ。パッと見ると単にフィジカル的に負けたウーデゴールが悪そうだが、アーセナルはそこに関する対応策(=サリバのバックステップ)は打っていたので対応策を封じられた方が直接原因という考え方もできる。ドゥクレを褒めるって考え方もできる。個人的な好みではあるが、体格差を考えると競り負けたウーデゴールが悪いで結論を下すのはやや乱暴な感じもする。

 失点と前後してアーセナルは2人の冬の新加入選手を投入する。左に張ったトロサールはコンディションは悪くはなかったが、味方とのつながりを作るのがうまくいかなかった。特に左の大外でボールを受ける時は顕著で、一旦足元で受けて敵を引きつけながらも周りにパスの選択肢がない状態ばかりだったため、強引にシュートを狙いに行っては正面という場面が目についた。

 トロサールのような相手を一旦引き寄せつつもボールを奪われないスキルは、周りに味方がいてこそという部分がある。ユナイテッド戦を見ても外を回るジンチェンコを使った際に決勝点を生み出すことができている。マルティネッリと同じノリで大外レーンで固定する役割をトロサールに与えてしまったのは不味かったポイントだと思う。

 余談ではあるが、81分のシュートシーンにおいてはトロサールにパスを出したジャカにもう少し粘って欲しかったところ。実際にリリースしたタイミングであれば前が空いているのでシュートを選択して欲しかったし、パスを選択するところからスタートするのならば、コールマンを引き寄せてからトロサールにパスを出したかったところである。

 もう1人の新戦力であるジョルジーニョを獲得した意味は75分のプレーに表れているだろう。ポジションを細かく変えながらフリーになり、確実に空いているスペースに正確に縦パスを送る。トーマスの刺すようなパスとは異なる柔らかいパスで前進の手助けをする。最後のパスのミスはいただけないが、基本的には役割を全うした途中交代と言えるだろう。

 晒された時の守備の脆さの指摘については正直今更というか、そこに不安がないのならば、そもそもカイセドに手を出す必要もなければ、獲得に賛否が分かれることもなかったので、ジョルジーニョを獲得した以上はチームとしてどのようにプロテクトするかを考えながら付き合っていくべき部分だ。ただ、ジョルジーニョが入ってもライン間でのジャカ、ウーデゴール、ヴィエイラなどのプレーからもう一押しが見つからなかったため、アーセナルは押し込んでもなかなかチャンスを作ることができない。

 エバートンは先制点以降、キャルバート=ルーウィンを下げてモペイを投入。これにより、ロングボールでの陣地回復の武器は失ったが、ハイプレスのスイッチ役は引き継ぎながら行うことができるように。アーセナルの選手をあらゆる手段でイラつかせることも含め、モペイはキャルバート=ルーウィンとは異なる形で、アーセナルが嫌がるプレーをしていた。ロングボールの部分もイウォビとオナナが引き継ぎ、なんとか陣地回復を継続。アーセナルをゴールから遠ざけ続ける。

 結局アーセナルはエバートンの守備を攻略できないままタイムアップ。セットプレーからの先制点を守ったエバートンがショーン・ダイチの初陣を飾ることに成功した。

あとがき

兆しを消さないように

 エバートンは非常にソリッドで素晴らしい出来だった。こうした戦いを継続してできれば、残留できるかどうかはもはや問題ではなく目標をもっと高いところに置くことは十分に可能である。問題は継続できなかった時だろう。後方がついていけなければ、中盤の食いつきの良さは強みから陣形を間延びさせる弱みに変わってしまう。怪我が多いドゥクレがシーズンを無事に終えることができるか?という不安材料はある。アーセナル戦で見せた兆しを消さないようにまずは安全圏への脱出を狙いたい。

WGの負荷軽減を丁寧に

 エバートンが素晴らしかったのは確かだが、本文中に示したように後半頭に攻略の糸口があったからこそ、悔しい敗戦になってしまった。個人的にはWGにこれ以上負荷をかけるのは本意ではないので、手前の部分でいかに形を整えて彼らに渡すかをもう一度丁寧にやりたい。このチームならできていたことだし、来週にはまたできることだと思う。負けにナーバスになるファンもいるだろうが、1つの負けでは揺らがないムードを選手たちは持ち合わせているはず。プレミアリーグの難しさを噛み締めながら来週の試合に向けて邁進したい。

試合結果

2023.2.4
プレミアリーグ 第22節
エバートン 1-0 アーセナル
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:60′ ターコウスキ
主審:デビッド・クーテ

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