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「『できることをやる』の究極形」~2022.11.5 J1 第34節 FC東京×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

■ロングボール選択の理由は?

 プレビューで想定した通り、高い位置からのプレスの応酬となった立ち上がりだった。どちらのチームも積極的に前からの守備をこなしていたが、特に気合いが入っていたのはFC東京の方だった。

 普段であれば川崎のような中盤3枚のチームに対しては塚川、松木、東の3人は中盤を噛み合わせるように守ることが多いのだが、この試合では立ち上がりに塚川が谷口にプレスに来たように、列を超えて川崎のバックラインにプレッシングに来ることがあった。元々、FC東京はプレス志向の強いチームではあるが、この試合ではもう一段階前がかりの意識で川崎のバックラインにプレッシャーをかける。

 プレスを受けた川崎はビルドアップもそこそこに割り切って前線に蹴る手段を選択。谷口から右サイドの対角のパスや、小林へのロングボール、あるいはマルシーニョへの裏抜けのボールなど様々な形でボールを逃がしていった。

 CFの小林は復調気配とはいえ、彼が得意なのはグラウンダーのボールを収めてのポスト。ダミアンや知念に比べると小林はロングボールを収める安定性はやや欠けている。ロングボールからの前進は今の川崎にとっては最適解とは言い難い。それでも川崎がリスクを回避して長いキックを比較的早い段階で選択したのは、ビルドアップ以外のところで攻め筋があると感じているからだろう。

 それはハイプレスである。FC東京は予想通り、バックラインが幅をとるビルドアップを実施。SBにボールをつけながら前進を狙うという形だった。プレビューでも述べた通り、この形は本来であれば川崎のプレスが苦手な形。外切りするWGの背後のSBにボールを届けられてしまい、川崎のIHが引っ張り出され、スペースが空いた中央を使われるという流れになる。

 しかし、川崎のIHが脇坂と橘田に固定されて以降は、WGの裏のスペースのカバーが間に合うケースが多く、この外切りWGの背後を使うのは机上の空論となるチームがちらほら見られるようになった。これまでのFC東京の試合を見る限り、彼らのバックラインのパススピードの観点から、この試合において川崎の中盤のスライドは間に合うのではないか?という予想を個人的に立てていた。

 この予想は的中。FC東京は開始直後からプレスをかけられると苦戦は明らか。特にSBのスペースに追い込まれた時の苦しさは顕著だった。その理由の一つはサイドにボールが出た時のFC東京の中盤の振る舞いにある。ボールサイドのIHがやたらとSBに近いポジションを取ってしまうのだ。これにより、マーカーを引き寄せてしまうFC東京は川崎がコンパクトに守れる立ち位置を進んで取っていた。

 FC東京の右サイド側を軸に、川崎はプレッシングに手応えを感じていたはず。これが川崎がビルドアップよりもロングキックを優先した理由。敵陣にボールを送り込んで、高い位置から狩る方がよりチャンスになるという公算である。

 FC東京もビルドアップは苦しんでいたが、高い位置からプレスをかけることはできていたため、この試合はボールを持たずにプレスをするチームの方が優勢という流れだった。

 その中でもカウンターからのボールの運び方がうまくいっていたのは川崎の方。カウンターの急先鋒であるマルシーニョを止めるということは対面の中村がとてもうまくやっていたが、脇坂のポジトラが早く、足止めを食らったマルシーニョは冷静にフリーになった脇坂に横パスを送り、カウンターを次のステップに進めることができていた。

 6:40に脇坂の上がりをマルシーニョが待ったシーンや、8分すぎの山根とアダイウトンのデュエルから家長→小林と繋いで中盤でフリーの選手を作るシーンなど、きっちりと中盤でフリーマンを作って前進する意識が強かったこの日の川崎。よって厚みのあるカウンターを繰り出すことができていた。

 マルシーニョの冷静な判断が光ったのは先制ゴールの場面だ。ドリブルからのカットインからフリーになった脇坂にラストパスを提供。芸術的なミドルを冷静にお膳立てして見せる。対面に止められた時の冷静さというこの日のマルシーニョらしいプレーが呼んだ脇坂のスーパーゴールと言えるだろう。

■想定外の流れにおけるFC東京の狙い

 プレスからチャンスは作れているし、トランジッションからの攻撃はスムーズ。陣地回復も敵陣に迫っていく手段も十分で勝利に向けて視界は良好だった川崎。

 しかし、その情勢を変えたのがソンリョンの退場。トランジッションから塚川の裏へのパスを受けたアダイウトンが抜け出したところをソンリョンが倒してしまいDOGSO判定が下される。この日の川崎は裏への抜け出しに関する対応にソンリョンがやや消極的。ジェジエウに任せるシーンが直前にもあった。この場面でも飛び出しに関する判断を誤っての退場になったしまった。

 FC東京からすると、ビルドアップで満足に前進ができていなかったので、ここしかない!というポイントからこじ開けた格好になる。降りてくる選手への縦パスはほぼ川崎に潰されていたので、裏抜けから一気に前進するしかない状況だったFC東京。実質一点突破を果たした格好だ。

 当然、試合の展開は一変。数的優位を得たFC東京が川崎を崩すことに挑む流れになる。不利になった川崎のプランは明確。プレスは撤退し、ラインを低くしてFC東京を迎え撃つ格好。マルシーニョのロングカウンターに頼ることになる。リードを奪ったこともあり、容赦無くボールを捨てていく川崎だった。

 FC東京は川崎の敵陣深くまでボールを進めていく。正直、撤退したブロックを崩していくという流れは川崎戦ではあまり想定していなかった展開だろう。IHは普段以上にビルドアップへの関与を放棄し、高い位置に張り出して裏を積極的に狙ってバックラインに圧力をかけていく。

 敵陣に進んだ後に狙っていくパターンは主に2つ。大外から抜け出したSBの中村からのクロスが1つ。もう1つはPAの手前の部分から早めにクロスを狙っていく形。

 どちらも共通していたのはニアゾーンから川崎の跳ね返しを避けるようなボールをあげていた事。中村からのクロスからファーサイドを狙うような山なりのものが多かったし、PAの手前からインスイングでクロスを上げていく形はDFラインに裏の対応を迫るものが多かった。

 川崎のバックラインはクロスの跳ね返しは鉄壁。特にニアサイドに関しては谷口とジェジエウを軸にクロスを無効化されるパターンが多い。ならば、ファーや裏を狙うという形を増やす!というスタンスはクロスに対してのFC東京の一工夫が見られた場面である。

 話は前後するが、後半に橘田→車屋にSBをスイッチしたのはファーサイドのSBもこうしたクロス対応から逃れられない局面が続いていたからだろう。高さに不安がある橘田から、CBも務めることができる車屋を入れることでクロス対応を強化した形である。

■ビルドアップの悪癖を狙い撃ちした川崎

 後半、FC東京は少し攻め方を変えてきた印象だ。右サイドからの押し上げに前半以上に特化。前半はクロスを上げる形をとりあえず作っていたが、人数をかけてクロスを入れる前の崩しに手数をかけていた。

 より具体的に言うと大外とハーフスペースの関係性を意識した形を増やし、ハーフスペースの抜け出しなどから川崎のバックラインに裏への対応を強いるようなボールの動かし方をしていた。ニアゾーンでの動きをより増やしていく方向性である。

 52:30のルイス・フェリピの決定機などはその一例。大外の中村のフリーラン、渡邊のポジションなど、谷口とジェジエウが間を閉めることができない要素がたくさんあった。そのため、塚川→フェリピへのパスコースが開く材料が散りばめられていた格好だ。

 右サイドの攻勢を強める一端を担っていたのは積極的なCBの攻撃参加。木本が高い位置に出ていく機会が増えたことで、右サイドの攻撃に厚みがもたらされることに。後半早々に決めた同点ゴールも彼のクロスが生み出したものである。

 同点ゴール以降も攻め立てていくFC東京。同点までと同じ流れで川崎を攻め立てる。際立っていたのはジェジエウだ。57分には先ほどのフェリピと近い形で抜け出した渡邊に逆サイドから潰しに出てきたり、60分には同じく逆サイド側に抜け出したフィリピに対して、逆に距離をとってマークすることでパスコースを消して見せた。どちらも個人の抜群のパフォーマンスでFC東京を見事に封じた場面。交代で入ったGKの丹野も要所でファインセーブを見せて、フィールドプレイヤーを鼓舞する。

 非保持ではなんとか粘れているものの、ロングカウンターで受けてのマルシーニョ!と言うプランがジリ貧気味になってきた川崎。同点に追いつかれたこともあり、攻撃に打って出るプランを構築する必要がある。ボールを握るための大島とロングボールのターゲットとしては小林よりも適任な知念を投入する。

 この交代において効果的だったのは選手の特性以上にフォーメーション変更。川崎は4-4-1から4-3-2にシフトし、FC東京に前からプレッシャーをかけていく。FC東京はこの3-2の前プレ隊にかなり苦しんだ。CBはマークに合っているし、苦し紛れに預けたSBには縦も斜めも消される形になっている。

 裏の勝負を仕掛けられればいいが、FC東京のバックラインにはそうしたフィードを蹴る余裕がある選手がいない。CBはマークにつかれているし、スウォビィクやSBなどは多少蹴る余裕があってもスキルの部分で難がある。よって、U字ポゼッションから脱出できない流れになってしまう。結局、今のFC東京はCBがフリーにならないと前進は難しいのだろう。

 10人でのハイプレスから川崎は勝ち越しゴール。森重から橘田がボールを奪い取り、インサイドでフリーになったマルシーニョにラストパスを送り2点目をゲットする。見事なボール奪取からの素早いカウンターだった。

 森重のミスを前提としてもう少し違う切り口から話すと、この場面では前半で述べたSBがボールを持っている時のビルドアップの拙さが感じられる場面だった。SBの長友に対して、IHの塚川が近づいでボールを受けにくる。

 これによって、川崎はコンパクトに守ることができている。長友→塚川のパスが弱かったこともあり、塚川にはほとんどプレーを選ぶ余裕がなかった。これにより苦し紛れのバックパスが生まれて、失点につながるのである。クリアをすればいいので、森重に失点の直接原因があるのは明白だが、プレスに対して苦しむという大枠で捉えればFC東京のチームそのものの問題に還元できるとも言える。コンパクトな状況でも繋げる技術があるならば別にボールに近寄っていっても構わないが、今のFC東京には少しリスクが高いボールの動かし方のように思える。

 失点したFC東京は3バックにシフトして紺野を投入。サイドから奥行きを使うと言うプランにおいてはFC東京にとってはこれ以上ない適任者である。カットインとクロスで右の大外を担える人材を置くことで、FC東京は右サイドの崩しを強化する。

 この日、二度目の同点ゴールのシーンは紺野の大外のクロスから。逆サイドに配置された渡邊の折り返しに、再びアダイウトンが押し込んで同点に追いつく。

 勝ちが必須な川崎、ここからどうする?と考える間も無く勝ち越しゴールを再びゲット。大外を駆け上がる車屋のクロスを渡邊が処理ミスしてしまい、同点ゴールから間も無くリードを手にすることになった。

 川崎は山村を投入し5-3-1に移行。攻め込んだ後のFC東京のボールの動かし方に対応できる守備陣形にシフトする。時折見せる前方へのプレスにFC東京は苦戦。木本の警告のシーンなど後方のビルドアップが安定しない場面は最終盤になっても拭えない。ボール奪取においてもファウルが多く、川崎に息をつく時間を与えてしまった印象だ。

 川崎はしぶとく逃げ切りに成功。10人ながら敵地で勝ち切るという難題をクリアし、最終節の勝利を手にした。

あとがき

■パッケージとスキル、両面での課題がのしかかる敗戦

 正直、FC東京からすると勝てた試合だろう。押し込んだ相手を攻略するという点に関しては想定よりも上手くできていた。50分台の崩しや2点目のゴールなどはかなりデザインされた形であり、10人とはいえ撤退した守備を崩すプランは持っていたと言えるだろう。

 それだけにもったいない試合運びだ。特に、10人相手のプレスに自陣から脱出できないビルドアップは改善が急務。ボール回しに自信がないのか、ポジションを近づけてボールを回す癖があるので、相手からするとコンパクトにプレスをかけやすい。

 個人の受ける出すの技術、あとは失点シーンのような選手の判断、選手の配置という監督が考えるビルドアップのパッケージ。いずれにも課題が見えたという点が非常に重くのしかかる最終節になった。

■「今できることをやる」の究極形

 優勝は逃したが、よくやってくれたという気持ちでいっぱいである。10人ながらも絶対勝つ!という思いは当然全員持っていたかと思うが、それをハイプレスという形で具現化し、得点に結びつけるのだから見事である。

 今季の川崎は誰が見ても去年よりも苦しい1年だった。スカッドに不満があるファンもいるだろう、それでもこのレビューでは「今のメンバーでもできることはあるのでは?」という思いであらゆる指摘をしていた。

 この日、味スタで見せた後半の川崎は「今のメンバーでできることをやる」の究極形である。10人で目の前の相手を苦しめるにはどうしたらいいか?を実践し、得点という形で結果を手にしたこの日の川崎はまさしく彼らが戦ってきた1年間を体現していたと言ってもいいだろう。

 というわけで今年も終わり。お疲れ様でした。

試合結果
2022.11.5
明治安田生命 J1リーグ 第34節
FC東京 2-3 川崎フロンターレ
味の素スタジアム
【得点者】
FC東京:47′ 74′ アダイウトン
川崎:19′ 脇坂泰斗, 61′ マルシーニョ, 75′ 渡邊凌磨(OG)
主審:山本雄大

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