MENU
カテゴリー

「弱い者いじめは得意分野」~2019.2.24 プレミアリーグ 第27節 アーセナル×サウサンプトン レビュー

 前回対戦のレビューはこちら。

 縦方向に圧縮した陣形とマンマークの徹底、そしてエリア内のストライカーの質的優位でアーセナルを攻略したセント・メリーズでの前回対戦。ヒューズの後を受けて、就任したハーゼンヒュットルの初勝利で降格圏脱出となったその試合から2か月たったサウサンプトンだったが、前節のカーディフ戦に敗れたことで降格圏に逆戻り。上位勢に粘って引き分けて勝ち点をもぎ取る試合もあるものの、下位勢にも勝ち切れる試合が少ないのが調子が上向かない要因。少ないクリーンシートも懸念だ。アーセナルとは近年は内弁慶対決。セント・メリーズでは近年アーセナルに苦杯をなめさせているが、アウェイではプレミア創立以来勝利がないと相性は悪い。2か月前のあの日のように、勝利で降格圏脱出を狙いたい。

 BATEボリソフ相手に逆転劇を演じ、ELベスト16入りを決めたアーセナル。正直、内容は不安定続きだが、ELでもプレミアでもCL出場権確保に向けた道は生きているのは好材料である。長期離脱選手を除けば、けが人も徐々に復帰。10日間で4試合の2試合目というタフな内容だが、エミレーツで降格圏を迎えるという「弱い者いじめ」は大の得意分野で、確か30連勝くらいを重ねている。プレミア3連戦の初戦は意地でも3ポイントが欲しいところだ。

 スタメンはこちら。(ゲンドゥージになってるけど、イウォビです。お家帰ったら直します。)

画像1

目次

【前半】
軽率なミスから「いつも通り」の失点

 セント・メリーズでの試合はハイプレスではなく、ミドルプレスで縦にもコンパクトな陣形を敷いてきたサウサンプトン。しかし、この試合ではサウサンプトンの2トップが前からアーセナルのCBにプレッシャーをかけてきた。4-2-3-1に対する3-1-4-2は前から完璧にハメられるぜ!(シャキーン)という配置なのだが、この試合ではアーセナルのSBにつくのはサウサンプトンのWBではなくインサイドハーフの役目。WBはやや後方でSHを見る機会が多かった。となるとサウサンプトンの中盤は人が足りずCB間に受けに降りるジャカを捕まえにくくなる。ハイプレスで来られたけど、ボールの収めどころがあるアーセナルは、時たま処理を慌てるシーンはあるものの「仕組み的にどこにも出すところがない!」という状況にはならなかった。ちなみにホーイビュルクはコラシナツを気にするケースが多かったけど、ウォード=プラウズはトレイラを気にするケースが多かった。両サイドとやや右サイドよりにいることが多かったトレイラの位置取りの問題かな。あとはコラシナツの推進力と。

画像2

 とりあえず、前に強いCB陣を生かそうというサウサンプトン側のアプローチは前回対戦と同じ。ラインコントロールがお世辞にもうまいとは言えないCB陣を考えるとそれも妥当だと思うが、CBがケアするスペースは前回対戦よりも少し広かった印象。そうなると彼らと対峙するアーセナルのFW陣にも余裕がある。挟み込まれる可能性も低い。というわけで、降りてくる前線への楔を使うことで前回対戦よりもアーセナルは前進がうまくいっていた。

 サウサンプトンのハイプレスとアーセナルの縦に速い展開から一進一退のしばき合いになるのかなと思ったところで、アーセナルに先制点が入る。サウサンプトンはミドルゾーンでのボール奪取がうまくいったあとのスティーヴンスのロストがトリガー。スティーヴンスのボールコントロールが長くなったせいで、ボールが来るまでは特にプレスに積極的じゃないトレイラの前方にボールをコントロールしたのが痛恨。このシーンの直前にレドモンドが独走してアーセナルにカウンターを仕掛けた影響で、サウサンプトンはそれを追うように前がかりになったのも痛かった。スティーヴンスにプレスに行ったトレイラがそのまま前線に走ったのも効いていて、ベドナレクは外のイウォビへのチェックが遅れてしまった。

画像3

 図にはできなかったけど、ラカゼットがクロスが入る直前に進路を斜めにとっているのが、ムヒタリアンをマーカーから自由にするのに一役買っているので、映像残っている人はぜひ見てほしい。ラムジーとクロスする進路を取ることで自身がフリーになっている。素敵素敵。

 完全な余談だけど、ロストの後にペナルティでトレイラを引き倒したのもスティーヴンスで、これはPKを取られてもおかしくないプレー。軽率が重なっているのはいただけない。エリア内にいるほとんどの選手が審判を見た中、「PKだろ!」と両手を挙げたラカゼットが数秒後にゴールを決めているのはさすがストライカーといった風情である。

 軽率なミスからの失点はもう1つ。このシーンでもボール保持の余裕を目いっぱい使った後、苦し紛れのバックパスをGKに出したのはスティーヴンス。そこからの被カウンターの流れは一緒。左サイドから、ファーのムヒタリアンが余っていてそこからゴールを決める。J sportsでベンさんも「サウサンプトンの最終ラインはミスが多いからこういう展開になるのは想定内」といっていたことから最近のサウサンプトンはこんな感じっぽいし、粕谷さんの「とっとと吉田を使え」という意見もうなづける流れになってしまった。

【前半】-(2)
セインツのプレスがハマらない理由

 攻撃面ではサウサンプトンは可能性を感じる部分もあった。両WBのサイドからの突破やインサイドハーフの攻撃参加など、アーセナルが後手を踏む部分もあった。高い位置でセカンドボールを回収できた時間帯には波状攻撃もできていた。しかし、アーセナルが落ち着いてボールを持った時のハイプレス時はあまり機能せず。理由はすでに述べたように中盤の数的不利からジャカをフリーにしていることと、セインツのDF-MF間が間延びしてアーセナルの前線が引いて受ければ簡単に前を向けたことだ。

画像4

 ちなみにインサイドハーフからコラシナツのマークに出ていくのも、時間がかかるので、結局捕まえられなかったコラシナツが裏抜けしたり、コラシナツとイウォビを最終ラインで対応しなきゃいけなかったりという状況になっていた。本末転倒な気がする。裏と間をうまく使ったアーセナルが3点目を取るのは時間の問題と思われたがそれは叶わず。アーセナルが2点リードで前半を折り返す。

【後半】
質問箱に来た質問にお答えします

 毎度のことながら後半は何を書こうか悩むことが多い。今回は質問箱の方に「後半のハーゼンヒュットルのシステム変化の狙いとその実効性、アーセナルのシュートが少なくなった理由についてレビューに書いて欲しい」という質問が来たので、後半部分はそれについて少し考えようと思う。

 まず1つ目の質問について。

後半のハーゼンヒュットルのシステム変化の狙いとその実効性

 後半頭からオバフェミとオースティンの2枚を投入、下がる選手の1枚がCBのスティーヴンスということで4-4-2に移行したハーゼンヒュットル。正直に言えば、初めからこれでよかった感じ。まず、空中戦に強いアーセナルキラーのオースティンとスピードのあるオバフェミのコンビは補完性が高いと思う。
 並びの形を変えたことでプレスも機能し始めた。前半のアーセナルに前進を許したのは、個々人のマーク対象までの距離が遠く、ジャカやコラシナツのような推進力を与えられる選手をフリーにするケースが多かったから。前半は起点になっていたジャカにも4-4-2でマークが噛み合うようになった上に、各個人のマークマンが捕まえやすくなったことで、ボールホルダーだけでなくパスの出ところにもチェックをかけることができていた。アーセナルの最終ラインとMFも決して足元が盤石ではないので、厳しいマンマークによるプレッシャーには手を焼いた。

画像5

 あえて最初からこれをやらなかった理由を考えれば、前半からサウサンプトンのWBの対人守備の対応は結構怪しかったので、4バックにしてサイドが突破された後にCBがフォローに行きづらい状況を作るのは避けたかったのかもしれない。一種の賭け的なフォーメーションで、90分は無理との判断なのかも。

 いずれにしてもこの布陣の実効性が最も高かったのはオバフェミが負傷交代する65分まで。そこまでに少なくとも1点は入らないと、サウサンプトンがこの試合で勝ち点を取るのは難しかったと思う。

アーセナルのシュートが少なくなった理由

 前プレの精度が上がり、自分たちの時間帯が長くなるサウサンプトン。プレス以外にも自陣からのサウサンプトンのつなぎも特にアーセナルは積極的には阻害してなかった。そもそも2点リードしているときにアーセナルがそんなことをする必要があるかは微妙。

 前半のアーセナルのシュートの多さの理由を考えると、まずはDF-MF間の間延びというファクターがあった。サウサンプトンの個々のマンマークが徹底されたことでホルダーへの寄せが早くなり、間延びを使う前に刈り取るもしくはボールを前に進むのを遅らせることができているのというのは理由の1つだと思う。
 もう1つ、アーセナルの前半のシュートが多かった理由はサウサンプトンのミス起因のショートカウンター。その決定的なミスに絡んでいたスティーヴンスが下がったのはおそらく理由の1つ。前半のアーセナルには勢いがあったし、奪ってから縦に素早くという意識の強さもあった。単純にコラシナツが攻めあがるタイミングとかも前半に比べれば遅かった。となると相手陣まで行って決定機を作るまでに時間がかかる。陣形ごと押し込めば、崩せてもシュートはブロックにあいやすい。

 もっともそれがアーセナルにとってすんごいダメなことかといわれれば微妙。相手を相手陣に押し込めることはカウンターのリスクを考えれば、悪いことじゃないし、2点リードの最終盤にコラシナツが炎のようにエリア内に突撃する必要もないわけなので。強いて言うなら、アーセナルはダメそうなら後ろからやり直す作戦はもっと取ってよかったかもしれない。ブロックに合いそうなクロスなら戻すとか。後ろから作れば相手はじれて前からボールを奪いに来るかもしれないし、何よりより長い時間試合をコントロールすることが可能になる。何もかもシティのマネをする必要はないと思うが、過密日程の中でボールを握って時間を使えるのは願ってもないこと。低い位置でもボールが持てるエジル(彼も結果が欲しいところだから難しいけども)もいたので、もう少しやり直すことを厭わなければ、ゲームの流れをより引き寄せられた可能性はある。

 質問者さん、こんな感じでいかがでしょうか?少しでも理解のお手伝いにつながれば幸いです。質問ありがとうー!

まとめ

 序盤のミスからの2失点で降格圏脱出がかなわなかったサウサンプトン。よくわからなかったのはやはり前半の対応だろう。前線2枚やMFに高い位置を取らせるならば、少なくともコラシナツサイドはWBが前に出て捕まえに行く方がベターなように見受けられた。結局コラシナツはスペースを得て、前半は水を得たような魚のように攻撃参加をしていたし。前線に前回対戦時の高さがないのがハイプレス作戦の代償ならば、5バックの1枚は前に出てもう少しショートカウンターの機会を増やしたかったはず。WBあげるのやらないのならミドルプレスからの中盤圧縮に切り替えてもよかっただろうし。とはいえ本音を言えば本命はこの試合の次。6ポインターになるフルハム戦がハーゼンヒュットルが狙いを定める一番かもしれない。

 後半はなかなかシュートが出なかったが、クリーンシートでの勝利は常にいいものだ。サウサンプトンは比較的自らスペースを開けてくれる格好になったが、続くボーンマスやトッテナムはより強敵であり、今日のようにスペースを明け渡すことは考えにくい。ファンが気分がよくなる勝利はいいものだが、そろそろ降格圏相手以外にも結果が欲しいところ。守備の課題はこの試合でも見られたし、レノの出番も少なくなかった。「弱い者いじめ」ではない勝利がファンもそろそろ見たいはずだ。

試合結果
プレミアリーグ 第27節
アーセナル 2-0 サウサンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 6′ ラカゼット, 17′ ムヒタリアン
審判: グラハム・スコット

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次