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「良化というよりデフォルメ」~2022.7.2 J1 第19節 セレッソ大阪×川崎フロンターレ レビュー

目次

レビュー

■チャナティップに託された役割

 レビュワーにとって欠かせない作業の1ステップ目は両チームの配置の確認である。どの選手がどこの位置にいるのか?鳥栖のようにややこしいチームであれば、メンバー表を見ても誰がどの役割を求められるかがわかりにくい。

 そういう意味ではC大阪と川崎の2チームは非常に初期配置がわかりやすいチーム。メンバーの並びで仕掛けをしてくることが少ないチームである。

 その両チームの中で唯一この試合の配置で予想と異なったのは川崎のチャナティップと遠野の配置である。ここまでの試合を見ると左のWGをチャナティップ、左のIHを遠野が担当する形が多かったが、この試合では逆の役割で配置されることとなった。

 序盤戦のキーになったのはこのIHのチャナティップ起用である。遠野と比べるとチャナティップは降りてくる役割が多かった。アンカーをサポートするのにIHが降りてくるというのは特段珍しいことではない。だが、大島のアンカーを採用した際の川崎においてはアンカーの真横に立つ役割をするのは左のSBである橘田が絞ったり、CBの車屋が1列前に上がる形でサポートをすることが増えている。

 IHは降りて受けることもあるが、高い位置に入りながらゴールに向かう動きを求められている。だが、この日のチャナティップはむしろ降りる動きを積極的にやっていた。

 悪とされがちな降りる動きではあるが、チャナティップの動きはこの試合においてはとてもよかった。降りる目的が正当化されれば降りる動きをすることは何ら問題がない。

 降りる目的が正当化できるかどうかのポイントはいくつかある。1つは相手の陣形を動かせるかどうか。この試合においては対面の鈴木を動かすことが出来た。川崎は右のIHの脇坂やWGの家長も時折左サイドに流れるなど、序盤は特に左サイドに固執した崩しを見せていた。それゆえに川崎の陣形は全体的に左サイドに大きく偏っていた。

 川崎にとって鈴木がチャナティップについていったことで、もっとも大きかったのはCFの小林への縦パスのコースが空くことである。小林の落としからライン間にいた選手たちが前を向いてゴールに向かう動きを見せることができる。序盤にあった脇坂の決定機などは小林への縦パスから攻撃を加速させた好例だろう。

 もう1つのチャナティップの役割はより手前の段階のもの。大島をフリーにするための役割である。この日の川崎は保持におけるコンセプトはC大阪の4-4ブロックの前にフリーでボールを持てる選手を作ることである。それが縦パスの精度がチームで一番高い大島であればなおよい!という感じだろう。そのためにチャナティップの降りる動きはC大阪のCHのマークを自身に引き付ける点で有効だったといえる。

 チャナティップを活用しないパターンにおいてもこの日の川崎はC大阪の2トップをクリーンに越えることが重視されており、その方針は序盤の優勢につながったといえるだろう。チャナティップ自身は20分に前線に飛び出したり、ターンで同サイドをこじ開けたりなど、IHとして本来求められるプレーでもある程度成果があった。少なくとも前半は起用に応えたパフォーマンスを高い水準で発揮したといえるだろう。

 余談だが、昨年のC大阪戦でも4-3-3気味にスタートしながらも中盤を左に偏重させてビルドアップする動きや、C大阪の4-4の手前にフリーマンを作るための動きはなされていた。よってチャナティップの中盤起用は昨年の成功体験を源流としている可能性がある。

 C大阪は右のSHの毎熊が鈴木が釣りだされたスペースを埋めるように絞ったりなど徐々に川崎のスタンスに適応。大島はそれならばとサイドにボールを散らしながら今度はより広く攻めるように試みる。今度は逆サイドに展開するなどサイドを替える動きを織り交ぜることで押し込む機会を増やす。

 この柔軟性のおかげで序盤から相手を押し込むことが出来た川崎。C大阪にとっては苦しい序盤戦となった。個人的には大島を捕まえる選手をはっきりさせた方がよかったように思う。C大阪の4-4-2における2トップの守備の献身性は等々力では大きな武器に感じた。今回はそこが差し引かれた分、立ち上がりは川崎に主導権を譲ったことにつながったように思えた。

 逆に非保持で踏ん張った!と感じたのは家長とマッチアップした舩木。大島からの大きな展開においては後手を踏むこともあったが、右サイドからの川崎のゆっくりの前進に対しては家長に対してチェックを早くすることで起点を作ることを許さなかった。

 プレビューでも触れたが、『SHの出足の良さにSBがついていけない場面がある』ことをC大阪の守備の綻びとして指摘したが、この試合の舩木にはそうした遅れはあまり見られず、川崎はプレビューのようなサイドのズレを使えるシーンは少なかった。

■先制点以降に見られた課題

 C大阪はなかなか保持においてまとまった時間が作れなかった。ロングボールを2トップが収められる場面も少なく、少ない手数での陣地回復は無理。押し返せないこともあり、深い位置からのクリアを川崎に回収される場面ばかりで波状攻撃を食らう。ビルドアップにおいても低い位置から川崎のプレスにひっかけてしまうことが多く、頼みのジンヒョンのフィードも刺さらなかった。

 だが、攻撃の機会が全くないわけではない。ボールを奪ってからのロングカウンターで好機がないこともなかった。28分におけるブルーノ・メンデスの抜け出しのシーンはオフサイドにはなったが、C大阪にとっては好機であった。

 この場面でメンデスの抜け出しについていった川崎の選手は大島。タイミングさえ合えばオフサイドはなく、個人的にはオフサイドを取れたことは幸運と思える場面。少しタイミングが異なれば、決定的なピンチになっていたように思う。

 川崎は確かに前半は支配的にプレーをしている時間が長かったが、こうした非保持におけるカウンター対応の危うさはこれまで以上に増えている。ボールが回るようになったからそれでOK!とならないのが今の川崎で、その分決定的なピンチの機会が増えるという代償もきっちり発生している。

 大島をアンカーに据えたという属人的なアスリート能力の低下における問題に加えて、近距離でのパス交換や中央を割るための難しいパス選択によるロストの誘発、人員を局所的に集中させることによるカウンター耐性を弱めてしまうことで脆弱さは明らかに増えている。

 よって川崎が支配的な展開ながらC大阪には立ち上がりから得点の機会も少ないながらあるというのがこの試合の流れだった。そうした中で先制点を決めたのは川崎。押し込むことで機会を得たセットプレーから。脇坂の右足から放たされた軌道は谷口の頭に合い、見事に先制点につながった。

 しかし、川崎の先制点以降はペースはC大阪に。相手に深くまで攻め入られてしまうと、川崎には陣地回復の手段がない。谷口を除けば、競り合いには明確なアドバンテージはないし、クリアの距離を出すことも難しい。さらには前線にはボールを収められる選手もいない。川崎はサンドバック状態から脱せる手段がないのである。

 押し込まれながらも何とか前半をしのぎ切った川崎。先制点は確保したものの、被カウンター耐性の脆さとサンドバック状態からのソリューションのなさというこのフォーメーションの難点も垣間見えた展開だったといっていいだろう。

■前プレ機能不全で押し込まれる機会を阻害できず

 後半、立ち上がりにペースを握ったのは川崎。右サイドの家長を軸にボールを動かしながら攻略に挑む。序盤に見られた大外から真横へのドリブルはラストパスに向けての準備としてはとてもいい持ち出しではある。その一方でファーサイドのクロス以外にもサイドの崩しのパターンは欲しい!というのが正直なところだ。

 特にボールホルダーを追い越して深さを作る同サイドへの裏抜けを最も作りたいところ。出し手も使いたいし、動く方も量を増やしたい。この方がより確実にゴールに迫ることができるし、外への警戒が強まればインサイドも空いてくるはずである。

 しかし、C大阪は徐々にこの川崎の攻撃に対応。奥埜がスライド早めたことが一定の効果が表れた要因だろう。川崎は中央の奥埜をサイドに引っ張り出したとも取れる場面ではあったが、彼が空けたスペースを使うところまではいかなかったため、C大阪の思惑が上回ったといえるだろう。

 ということで徐々にC大阪が試合のペースを引き戻す。時間の経過とともに体力がなくなった川崎は前プレが機能不全に。今の川崎が押し込まれると陣地回復が効かないのは前半にすでに述べた通りだが、プレスが効かなくなると相手の自陣からのビルドアップを阻害できなくなるので、押し込まれるきっかけを増やしてしまうことになる。

 後半は奥埜、鈴木の両CHにプレッシャーがかからない場面が増えるように。これをみたC大阪は前線の裏抜けを強化。C大阪のSHは大外から1枚剥がす動きはあまりしない一方で、オフザボールの動きには長けているので、後方からのロングボールを使いながら能動的に川崎のバックラインに優位を作る。

   図以外にも川崎のSBが高い位置をとっている!と思ったら2トップがサイドに流れながら起点になっており、前半とはロングボールの効果が段違いだった。

 C大阪の同点弾のきっかけとなるドリブルする奥埜へのファウルを犯したのはチャナティップだが、奥埜をアレだけスピードに乗らせている時点で川崎としては明らかにアウト。チームのプレスがうまくいっていないことが露呈した失点シーンだった。

車屋のハンドをOFRでチェックしたシーンもエリア内の対応が後手になっていることを感じさせる場面。フリーの選手に後から競りかけるように飛んでいるので、無理な体勢でチャレンジをせざるを得なくなってしまうだろう。体の限界に近いジャンプになれば、意図せずとも腕は体から離れてしまうだろう。

 それ以降も前プレが死んでしまった川崎は反抗する術はなし。前プレ役として手綱を握る小林や前半の存在感が消えたチャナティップあたりは前プレが効かなくなった時点で代えても良かったように思う。いずれにしてもボールを運べる機会はグッと減った川崎。ボールが行き来するグロッキー状態で中盤の競り合いを受け入れてC大阪に応戦する流れに。

 ダミアンを入れた終盤はロングターゲットを得ることが出来たこともあり、エリア内には迫ることが出来ていた。しかし、左の宮城はタッチライン側に切り込む動きをうまく活用できなかったし、宮城の投入で右に移行したマルシーニョはそもそも張ることをしなかった。ダミアンがひたすら中央の選手に落とすポストをやっていたことを踏まえると真ん中を攻略するためにあえて張らせなかったのかもしれないが。

 いずれにしても難易度の高い中央から無理に崩そうとすると、C大阪からカウンターというしっぺ返しが来るのは自明。そしてそのしっぺ返しは後半追加タイム。ニアに飛び込んだパトリッキが決めて勝ち越すことに。

 試合はそのまま終了。後半追加タイムに勝ち越し点を決めた小菊セレッソが日本人監督としては初めての鬼木フロンターレのシーズンダブルを達成した。

あとがき

■結果以外もトピックの多いシーズンダブル

 C大阪にとっては序盤は難しい状況ではあったが、最終ラインとジンヒョンが踏ん張ったからこそ何とかなったという印象が強い。この試合は展開が行ったり来たりする試合だったが、C大阪が自分たちのペースに引き込もうとした!というよりは川崎が前半のペースを維持できなくなった結果、不確定要素が増えた後半の展開にC大阪がより適応したという試合だろう。

 鈴木がセットプレーから2得点をアシスト、リーグ初先発の舩木が初得点、等々力で得点までもう少しで届かなかったパトリッキの決勝弾と2つのゴールはトピックが盛りだくさん。ファンにとってはとても展開だけでなく内容まで嬉しい逆転勝ちになったはずだ。

■改善は半分だけ

 まぁ、これでは勝てないだろう。すでにレビューで繰り返し指摘はしているが、大島アンカーシステムは保持の面での引き出しが増えた分、カウンター対応の脆弱性が増す諸刃の剣といえるシステム。このシステムを実現して勝つには、自分たちが保持で押し込んで波状攻撃を仕掛ける時間を伸ばすことと、押し込んでいる時間のクオリティを上げることの2つが課題になると述べて来た。

 この試合においては押し込んだ時間のプランには向上は見られたといっていい。大島を解放しつつ、アタッキングサードの加速まで狙いをもって行うことはできていたように思う。

 一方で握る時間の長さには残念ながらほとんど改善は見られない。C大阪は特に保持からの波状攻撃で支配的に攻撃を進めたいチームではないように思うが、ハイプレスがかからない時間において川崎を押し込むことはそんなに難しくないだろう。

 仮にこの部分の改善が期待できないのであれば、毎試合の失点は覚悟するべき。そうであれば少なくとも自分たちのペースが握れている時間に3点は取らないと難しい。が、実態はセットプレーでの1点のみだ。これでは勝てない。

 内容は良化しているとする向きはあるが、いい部分も悪い部分もデフォルメされやすく安定感に欠けているチームになったというのが今のチームへの感想だ。その路線で勝負するのならば、まだまだ尖りに鋭さが足りていない。

試合結果
2022.7.2
明治安田生命 J1リーグ 第19節
セレッソ大阪 2-1 川崎フロンターレ
ヨドコウ桜スタジアム
【得点者】
C大阪:59‘ 舩木翔, 90+2’ ジョアン・パトリッキ
川崎:36‘ 谷口彰悟
主審:荒木友輔

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