MENU
カテゴリー

「どの物差しで測るのか?」~2022.6.25 J1 第18節 川崎フロンターレ×ジュビロ磐田 レビュー

目次

レビュー

■川崎の新しい基本形?

 前回の札幌戦のレビューで偉そうに『この形は札幌対策!』と述べておきながら、磐田戦の川崎はあっさりとその形をリピートしてきたという印象である。大外れ!という感じではあるのだけど、レビューの恥はかき捨てというのが個人的なモットーなので、読んでいる人の中でもしこれからレビューを書こうとしている人がいれば、心持ちだけでもぜひ参考してほしい。

 さて、札幌戦に続いて同じシステムということで改めて狙いを紐解いていこう。まずは起こっている現象をまとめていきたい。ビルドアップにおいては基本的にはバックライン+大島で解決したいという形になるだろう。

 中央に人は少なく、IHは降りてくるとしたらハーフスペースよりも外に入ることが多い。すなわち、前進はサイドにおいて行われることが多かった。

 アンカーの大島はビルドアップにおいては低い位置では中央に固定されているが、アタッキングサードにおいては中央に縛られる役割から解放。サイドにおけるパス回しに参加することや、前線の空いたスペースに飛び出すなど、ある程度自由な役回りになっていた。

 基本的には中央は立っておく位置というよりは入ったり出たりする位置というニュアンスが強い。自陣における大島とCFの小林はある程度中央から動かないが、それ以外は中央はあまり留まる場所ではない。

 単純に攻撃の形として頻度が大きかったのはサイドにおける崩しからのクロスだった。最も理想的な形は14分の脇坂の抜け出しの形。サイドからの抜け出しで磐田のバックラインは後退しながらの対応を強いられていたし、エリア内には小林と家長の2人が待ち構える形だった。

 撤退守備をサイド攻撃で崩すための要件は『抜け出す選手を作ること』『エリア内に枚数を揃えること』の2つ。この場面はこの2つの要件を満たした形だった。

 もう一つ川崎が狙っていたのは左サイドに人数をかけた状況から、マイナスで待ち受けた大島が対角の裏にキックをすることである。これも上の2つの条件を満たすものである。

 山根の得点シーンは出し手が谷口ではあるが、抜け出す選手を作り、エリア内に人を準備するという形では十分。この場面ではエリア内に合わせる選択肢は小林しかいなかったが、抜け出しがクリーンであり、磐田の守備陣は分かっていても閉じられないコースなので上の要件は満たしていると言えるだろう。

 左サイドはWGのチャナティップを中心に幅を取りながら進めていく意識が高く、フリーダムな家長がいる右よりは形を大事にしていた。遠野、橘田を含めて誰かしら大外に立っていることが多く、誰かが抜け出す形を作るか、対角にパスを出せる大島をフリーにするためのパスワークを行っていた。

■本当に前半はうまくいっていたのか?

 この試合で気になったこととして『前半の川崎はうまくいっていたのか?』ということがある。

 この川崎の攻撃の形を実践するための1stステップはプレス回避である。札幌戦も同じだが、この試合の立ち上がりも強気で人を合わせにきた磐田相手に引っ掛けてカウンターを食らう部分があった。

 ビルドアップの手助け役としてIHが低い位置まで降りてくることないこともないが、おそらく彼らが降りてくるのは本意ではない。なぜならば、WGがエリア内に入ることに勤勉なタイプではなく(かつチャナティップは幅を取ることを強いられている)、遠野や脇坂がPA内に飛び込まないと厚みが出てこないからである。

 前の選手が降りてくるよりも、大島の真横に並んで保持を助けられる位置には車屋や谷口、もしくは橘田のようにバックラインの選手たちが入っていくという形がベストであろう。山根の得点シーンのように谷口がラストパスを射程圏内に入る位置にポジションを上げられることで前に人を送り込んでいくことができるのは、この形の恩恵。プレスが弱まりやすいCBが位置を上げることでラストパスを通したシーンだ。よって、ビルドアップは少ない選手+フリーダムに降りてくる家長でなんとかする意識が強かった。

 この試合の前半のように磐田にそれを諦めさせる展開ができれば、川崎の攻撃は次のフェーズに移る。いわば先に挙げた2つの要素を揃えたサイドの崩す作業を行っていく。

 基本的にはサイドを壊す形を主体にしたいのだろうけども、17:30のように大島→小林のような中央を破る形もあった。回数は少ないのだけども、アンカーで大島を使う意義の一つでもある。サイドを壊す過程の中で隙あらばも中央も!というのが基本線のような気もするが、大島アンカーの「意義」重視で行くのならば、サイドがフリでこちらが本命!ということがないわけではない。

 ボールは握り、押し込み続けた川崎だったが、サイドを崩すための2つの要素を揃えられたシーンは少なかったように思う。そういう意味ではボールを支配することができていたが、シュートを増やせる手応えはあまりなかったと言えるだろう。

 川崎のコンセプトを実行するにあたり、重要なことは被カウンターを受ける頻度を減らすことである。ポジションレスでの移動は増えているし、配置をサイドに局在化させることや、アンカーの大島がアタッキングサードで前線やサイドに入る形も多い。

 よって、川崎の仕組みはこれまで以上に被カウンターにおける脆弱性は増すことになる。正直、前半の磐田はカウンターの精度が低く、ゴールに至るまでにミスをしてくれたので大事には至らなかったが、このモデルが成功しているか否かの1つの指標はこうした大きいピンチのカウンターになるリスクを受け入れてでもゴールに迫ることができているかになる。

 そういう意味ではこれまで以上に不用意なパスミスは減らさないといけない。山根、チャナティップのように中央にパスやドリブルを差し込みながら自身もリターンを受けようと中央に入り込んでロストしたり、大島、家長など中央でのパス交換からのロストはたった1回であっても、気にしなければいけない部分になる。

 この試合の前半は個人的には欠点がはっきりしている尖ったモデルを採用するメリットが前面に出た展開とは言えない。サイドを崩して先の2つの要件を満たせる場面は少なかった。チャンス創出頻度から言っても『2点目を取れていなければおかしい』と言えるほどの数でもない。その上でピンチの種となるミスは蒔いてしまっていた。

 もう1つ付け加えておきたいのは、このモデルにおいては撤退守備におけるリスクが高いことである。撤退守備に強いメンバーではなく、相手をサイドに圧縮する動きはこれまでよりもぎこちない。特に左サイドはその傾向が強いと言えるだろう。さらに上背がないメンバーなのでセットプレーを避けるという意味合いでも、押し込まれること自体を避けないといけない。

 そのためには敵陣で守備を終わらせることが肝要。よって即時奪回のプレッシングが重要である。前半はその動きを高い頻度でできたようには思うけども、後半までコンセプトを維持する体力が持つかは怪しい。磐田がもっと遠藤か大森をパス交換で解放出来るあれば、川崎のプレスは脱出できそうだったので、ビルドアップがより優れているチームにはプレスがそもそも通用するかも怪しい。

 コンセプトを維持することに限界があるのであれば、より維持できている時間帯における質はまだ高める必要がある。そのためには複数得点を取れる!というチャンスの質と量が必要で、この試合の前半はそれをどちらも満たしていたとは自分には言えない。よって、前半のこの試合の川崎はカウンターの精度が物足りなかった磐田を押し込んではいたものの、うまくいったとは言い切れないと思っている。

■オープンになりきらない選択の結末

 後半、動いたのは磐田。伊藤監督のコメントにあるように『川崎のCBとアンカーを抑える』という理由で大森を2トップに入れて、上原をCHに下げる5-3-2を採用する。

 前半の項にも述べた通り、この試合の川崎の保持の出発点はプレス回避。ハイプレスにくる相手に対しては今季継続的に苦しんでいるし、ダミアンとマルシーニョというボール保持の逃げ場がこの試合にはない。

 だが、こうした磐田の修正に対しては思ったよりも早く順応したように思う。確かに何度か引っ掛けてパスミスをしてしまってはいたが、バックラインへの磐田のプレスはそこまでタイトではなく、川崎のCBにはまだ楔をさす余裕は残っていたように思う。

 大島は幽閉されてはいたが、背中で背負う家長に近づいて前向きでボールを拾う選手を作ってしまえば問題はないし、もちろん自身がターンしてもOKである。ある程度プレスをいなせる部分が出てきた川崎は60分にマルシーニョを投入する。狙ったのは札幌戦の再現だろう。相手が前方にプレスに出てくるところで、ひっくり返すためのシーンを作る。チャナティップが惜しくも決められなかった決定機のようなシーンを物理的に足が速いマルシーニョで作り続けよう!ということだろう。

 しかしながら、この試合においては終盤で勝ち越し点を決めた札幌戦と異なる部分がある。川崎がすでにリードを有していることである。磐田は札幌ほどイケイケなチームではない。前半のように握り倒して敵陣に押し込むことができるならば、それも悪くない!というところもある。

 川崎が強引にテンポアップをしなかったこともあり、磐田との展開は札幌戦に比べるとオープンにはなりきらなかった。速い展開でゴールに迫る場面はあまり多くなかったし、そもそも無理に作ろうとしていたかもわからない。

 そうなれば、前半にうまくいかなかったサイドからの崩しの要件を満たさなければゴールには向かえない。だが、この試合の後半のメンバーには前半のパフォーマンスの改善をすることができなかった。

 おそらく、非保持の面での高さを重視して投入された塚川がSBに入れば、前半ほど保持面でうまくいかないのは明白である。保持で手詰まりな展開に拍車がかかるのは必然である。途中投入された瀬古もどちらかといえばビルドアップからボールを運ぶことに注力する役割であり、バックラインからアタッキングサードまでボールを運ぶ部分に手を入れるための交代の色が強い。

 それでも追いつかれなければ正義である。しかしながら、それを狂わせたのは磐田のアタッカー陣である。身体能力で五分五分のボールを自分に引き寄せることをしたジャーメインとサイドにライン間にボールを引き出すことで敵陣にボールを運ぶ金子が特にピカイチの働きを見せる。ボールを運んでよし、エリア内に進んでよしと大車輪の活躍で前半は湿りがちだった前線に輝きをもたらすようになった。

 終盤にはむしろ磐田から殴り合いを仕掛けてきたくらいである。カウンターが決まるようになれば、バックラインからのオーバーラップも積極的に。思い切りの良い磐田の攻撃の場面がだんだんと出てくるようになる。右の大外を駆け上がりクロスを上げる小川も川崎に脅威を与えた1人だ。

 そしてセットプレーから同点をゲット。ニアに入った伊藤が車屋に競り勝ち、同点ゴールとなるヘディングを決めて見せた。

 終盤にリードを失った川崎はこれでだいぶ混乱したように見えた。最終的にはエリア内に運ぶ部分でもチーム内に齟齬が。エリア内に待ち構えるダミアンに対して、家長と大島は左サイドからひたすらクロスを上げる手段を探し続けた印象。個人的には左のSBにサイドにおける連携と保持スキルに難がある塚川がいる時点でパワープレーに舵を切っても?と思ったが、最後までパワープレーの流れに持っていくことがなかった。

 試合は終了。ヤマハスタジアムでの対戦と同じ1-1での引き分けで試合は幕を閉じた。

あとがき

■ビルドアップで粘れる術があれば…

 正直なことを言えば、磐田にファビアン・ゴンザレスがいれば試合は違うものになっていたと思わざるを得ない。コンディション不良とのことだが、川崎にとっては助かった。前半にも後半くらい川崎が犯したミスをカウンターで咎める術があればヤマハで掴み損ねた勝ち点3が見えた試合のようにも思えた。

 失点シーンは少々お粗末だったが、バックラインの強度は前回の対戦時よりも増している印象。グラサと得点をとった伊藤の方が目立っていたが、マルシーニョ相手に奮闘していた山本義道も奮闘が目立った。保持の起点だけはできる人が限られているので、彼らを解放する手助けをバックラインができればより攻撃がスムーズになるだろう

■あなたの物差しはなんですか?

 今、川崎はモデルチェンジの最中である。そして、最近の90分の戦い方は非常に捉え方が難しい。ざっくりと言えば、前半は試合を保持ベースで制御するが、後半になりこれ以上はハイプレスとポゼッションで難しくなったら!という保険をベンチに忍ばせている状況だ。

 保持で試合を握る時間を増やすことにより拘るべき!と思う人もいるだろうし、割り切ってオープンにするなら2点目を狙うためにより早く攻守のサイクルを回すべきという人もいて当然だと思う。それだけ、今の川崎のメンバー変更はラジカルだし、今採用している戦い方も尖っているものだと思う。どの物差しで測るか次第で今のチームに不満な部分は人によって割れるように思う。

 個人的な意見を言えば、この道を進むならば単純に尖りが足りないと思う。カウンターを受けるシーンをもっと制御しなければいけないし、そもそも保持をしている時に『抜け出す選手を作ること』『エリア内に枚数を揃えてクロスを下げること』を両立できている場面があまりにも少ない。

 川崎はシュート精度よりもチャンス構築で勝ってきているチーム。保持で局面を制御しても、チャンスが少ないのでは意味がない。それではこのやり方で向かい合うべきリスクと割には合わない。

 ただ、そもそも尖った戦い方しかできないチームはリーグでは安定した成績を残しづらいように思う。湘南、京都の連敗や天皇杯の敗退で何かを変える必要性を迫られたのはわかる。だが、現段階の自分には札幌戦と磐田戦での川崎の変化を力強く肯定できるだけの材料がないのも正直なところである。

試合結果
2022.6.25
J1 第18節
川崎フロンターレ 1-1 ジュビロ磐田
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:33′ 山根視来
磐田:85′ 伊藤槙人
主審:松尾一

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次