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「サッカーは嘘をつかない」~2022.5.29 J1 第16節 京都サンガF.C×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

レビュー

■ハイプレスが刺さり切らなかった要因

 ミッドウィークは湘南相手に4失点という大敗を喫した川崎。迎えた5連戦の最後は灼熱の亀岡で迎える京都とのアウェイゲームだ。

 迎え撃つ京都もリーグでは6試合勝てていないという厳しい状況。代表ウィーク前に苦境をいち早く脱したいチーム同士の対戦となった。

 まず、この試合のポイントとしてあげたいのは連戦の最後(京都は3連戦だが)であり、非常に高い気温で行われているという過酷な環境で行われたこと。自分もサンガスタジアムで試合を観戦していたが、日当たり良好な座席だったため周りのお客さんで90分座席に座って観戦し続けることが出来たのはざっと半分くらいという感覚。日陰になるコンコースに避難して試合を観戦することを選ぶ人も多かった。

 観客でそれなのだから、選手にとってはよりハードな状況で迎えた試合といえるだろう。しかしながら、京都の持ち味はハードワーク。そして、ここ数試合を見る限り、川崎にとっても京都のバックラインに強いプレッシャーをかけることはチャンスのきっかけにもなる。というわけで過酷な環境の中でどこまでプレスで体力を使えるかというチキンレースになるのかなと個人的には思っていた。

 しかしながら、両チームとも立ち上がりから積極的に互いにプレスをかけていく一戦となったし、そこにチキンレース感もあまりなかったといっていい。高い位置から相手を捕まえに行く試合となった。

 川崎のハイプレスはバックラインに一気に詰めていく形。ダミアンはアンカーを消す形でGKにプレッシャーをかけて、両サイドの宮城と小林がCBにプレスをかけに行く。この形が川崎が描いた青写真だったはず。プレスに献身的な小林とよりフレッシュな宮城を活用したのはプレスにおけるタフな役割を貢献してのものといえるだろう。

 川崎のプレスはアンカー、CBに一気にプレッシャーをかけて、出し手に時間を与えないのが大きなポイントである。

 前線に蹴っ飛ばさないのであれば、プレスを受けた側はWGの裏に正確なフィードを送るか、強引に内側にパスを付けるの二択で川崎のプレスに対峙することになる。よく相手が川崎のプレスを回避するためには『IHのタスクをオーバーフローさせることが大事』と書いていたのだけど、これは上記のどちらの選択肢においてもCB+GKから出てくるボールを回収する役割においてIHが拾う役割を担っているからである。

 よって、川崎は自軍のWG裏にボールを正確に速く届けられるGKやCBがいるチームには弱い。ボールを正確に速く動かされると川崎のIHは内と外のどちらも塞げないからである。

 だけども、京都はSBの裏に高速フィードを飛ばしてビルドアップを解決するチームではない。そういう意味では川崎にとってプレスはかけやすい相手ではあった。

 だが、実際川崎のプレスはそこまでかからなかった。理由になるのは川崎のボールの失い方だ。今年の川崎はこの試合に限らず、アバウトな長いボールを前線や裏に蹴って、ボールを失うことが多い。こうなると、ボールと一緒に人を前に届けられないまま、攻撃が終わることになる。

 となると、当然ハイプレスはかけにくい。ハイプレスはボールを失った直後のタイミングが大事である。だが、ボールを失ったとき、川崎の選手はボール周辺にあまりいない。開始直後の京都のプレス回避はアンカーに加えてIHの武田が降りることでビルドアップの出口を2つにして解決するものだった。

 本来であればここを塞ぐのは川崎のIHの役割。しかし、直前のシーンでは川崎のIHはサイドの低い位置まで下がって守備をしている。その流れから縦に速く蹴ったボールで川崎は京都にボールを渡し、ハイプレスがスタートしている。そうなると、IHが高い位置を取る時間がない。ハイプレスに必要なポジションがそもそもプレス開始時に取れていないのである。

つまり、京都がGK→WGにボールを速く遠くに預けることなんてする必要なしに川崎はプレスにおいてIHのタスクがオーバーフローしている状態だった。これが川崎のプレスが刺さらなかった要因だろう。

『いい攻撃はいい守備から』とこないだ山村が試合後に話していたが、この試合では『速い攻撃によりいい守備を作れなかった』という印象を受けた。

■WGに求められた役割は?

 個人的に京都の攻撃のベンチマークとして位置付けているのはピーター・ウタカのプレーエリアである。彼が組み立てに忙殺されるようであれば京都の得点能力はぐっと下がる。逆にゴール前に集中できれば、得点機会は十分に作ることができる。。

 ここ数試合の京都の不調はウタカがゴール前以外のことに大忙しだったから。それに比べると、この試合のウタカはゴール前での仕事に集中できていたように思う。そこは、先に述べたようにビルドアップにおいて、京都が無理なく深さを作り、IHが前を向くことで地道に前進できていたからである。

京都のバックラインは卓越したスキルはないし、時にはミスから大ピンチを迎えることもあったが、やるべきことを地道にやりながら時間を前に送ることを忠実にやっているのに好感を持つことが出来た。というわけで持ち味であるサイド攻撃から川崎ゴールに迫ることができていた立ち上がりの京都だった。

 では京都側のハイプレスはどうだったか。こちらは成功したかは微妙なところ。京都は高い位置からプレスにいっていたが、川崎がCB→SBにボールを動かした時の橘田が比較的フリーになっていたので、ここを活用することが出来たのが大きかった。

 本来であれば、ここはウタカにプレスバックをお願いしたいところ。だが、ウタカのプレータイムと年齢を考えるとここまで望むのは酷だろう。

 ただ、川﨑もアンカーが空くという状況を利用しきれなかったという難点もあった。アンカーへの導線を確保できたにもかかわらず、川崎はこの日も比較的早い段階でボールを前線に蹴り飛ばすことが多かったからである。

 宮城と小林が起点になり切れない!という声もあるだろうが、ここは個人的にはチーム全体として急ぎすぎなように思う。もっと橘田のところから中盤の数的優位を活用しつつ、ズレを前に送るやり方でよかったのではないか。。

 川崎のビルドアップの中で、この日特徴的な動きをしていたのは山根。とにかくビルドアップで取る位置が深く、時には川崎は3バックのように振る舞うこともしばしばだった。それに合わせて谷口が3バックの中央のような位置を取ることも多かったので、パスミスから退場劇を呼んでしまった谷口に横のパスコースを作るためだったのかもしれない。

 だけども、山根の重心の低さはそのまま右サイドの重たさにつながった感がある。もちろん、時間を作れる家長の不在も大きいだろうが、大外の小林にボールを余りつけようするアクションがそもそも少なかった。山根自身も内側にカットインしながら侵入していく形が多く、大外はうまく使えなかった印象。

 別にSBがカットインする動きが悪いわけではない。逆サイドの佐々木は試合を追うごとにこのドリブルの活用はうまくなってはいる。だけども、この日の右サイドのように大外を使わなければ相手を広げることもできないし、使ったとしてもパス交換で時間を作れなければ、いつものように3人目となる中盤からの飛び出しも誘発することはできない。2人しかいないのであれば、京都もサイドを封鎖するのは難しい話ではない。

 右サイドで気になったのは意志の疎通不足である。山根と小林の関係性もそうだが、ソンリョン→小林のパスが通らなかったときに小林がダミアンの方を示すアクションで不満を示すシーンが多かった。ソンリョンはかなり小林と荻原のマッチアップを使いたがっていたのだけど、そこに関しては前線との齟齬は感じられた。

 左の宮城もこの日は存在感を示せず。陣地回復を伴う役割はもともと得意ではなかったが、自分に相手を引き付けられている時の振る舞いがあまりうまくなかった。1on1は1対1で戦わなければいけないルールはないので、もっと周りと共に打開策を作れれば、この日完敗だった白井にも勝ち筋が合ったように思う。例えば、白井の背後をカバーする意識の強かったアピアタウィアのスペースを狙うとか。

 もしかすると、この日のWGは保持における陣地回復役よりもプレスによって陣地回復をするための人選だった可能性はあるが、川崎はそのサイクルもうまく回らなかった。

 一方の京都もアタッキングサードでの精度不足でチャンスを作れず。特に左SBの荻原はオーバーラップ時のクロスの精度が高ければ!というシーンが何回かあった。前半は裏抜けを狙う小林に苦しめられたこともあり、上々の出来とは言えなかっただろう。

■先制点→5バックで凌ぎきる

 後半、先に動いたのは川崎。宮城に代えてマルシーニョを入れる。マルシーニョを入れたことでアバウトな陣地回復を成功させよう!としたのかなと思ったのだけども、どうもそういうわけではない様子。どちらかといえば、押し込んだ後の細かい動き出しのところで勝負するイメージであった。

 ボールを持ち運ぶことは前半以上に橘田を使うことで改善。川崎の後半の立ち上がりは選手交代というよりはボールの動かし方で主導権を握ったように見えた。

 アタッキングサードで刺さったのは大きな横への展開で京都のDFラインの動きを横に揺さぶること。マルシーニョの決定機における脇坂のパスのように、DFの背中を一気に取るようなボールで京都のバックスを出し抜くシーンが徐々に増えていく。

 ダミアンの決定機も京都を出し抜いたシーン。大外から抜け出して、相手のDFラインが間に合わない対応に追い込む矢印の取り方は前半の川崎にはできなかった部分である。50分のダミアンのポストを受けた脇坂もいい動き。孤立気味だったダミアンのポストにつながる相棒が出来たことでようやくダミアンの背負ってのプレーを有効活用できるようになってきた。

 保持においてはペースを握った川崎だったが、プレスでは前半以上に苦しい流れに。特に川﨑を監視するダミアンに疲れが顕著に見え始める。ダミアンからのマークが甘くなることでいわば橘田と似たような状況になった川﨑。フリーになった後半はボールの供給源として前半以上の働きを見せた。というわけでどちらのチームも前半よりは保持局面が安定している展開になったといえるだろう。

 そうした中で先制点を奪ったのは京都。ややスクランブルな流れで山根と小林があっさりと右サイドを破られてしまい、最後は荻原の鋭いクロスが佐々木に当たってオウンゴールに。川崎としてはサイドを破られた時点でだいぶ状況は悪く『あり得る事故』として失点を引き起こしてしまった印象だ。

 失点直後に家長と瀬古を投入した川崎。時間を作れる家長と間に入り込んで受けなおすのがうまい瀬古で、時間を作り出すチャレンジに向かう。

 ボールの受け直しと縦パスで瀬古は一定の存在感を示したといっていいだろう。後半最後のプレーの小林の決定機も彼の縦パスによるもの。サイドからのクロスの質も含めてチャンスメーカーとしての高い資質を示した。

 家長は微妙なところ。球持ちがよく、時間を作れる家長は展開的には欲しい状況ではあったが、得点後にある程度京都が重心を下げることを選択したり、川崎が知念の投入で4-4-2にした後には5バック化を進めるなど、なかなか相手を引き出しにくい流れになったのは確か。自身の動きも重さは感じるが、ズレを突くためには周りの選手の動きも肝要であることは確かなので、彼自身の出来だけを責める対象にしていいのかは難しいところである。個人的には素早い京都の5バックへの手打ちを褒めたい。

 2トップに関しては背負うことで存在感を発揮しきれなかった。相手は3バックにしてきたことで知念と小林に強気で当たるようになっていたし、ラインコントロールでも京都が優位に。オフサイドを取ることも成功していた。

 終盤は攻め立てた川崎だったが、結局最後まで上福元の守るゴールを破ることが出来ず。悔しい連敗で代表ウィークを挟むこととなった。

あとがき

■踏ん張り切ったバックラインと中盤の核が存在感を見せる

 京都はここ数試合ではベストの内容だったと思う。理由は圧力に屈することなく、自分たちの攻撃のスタイルを押し出すことが出来たから。

 川崎目線でいうと京都のDFラインの出来は印象的。麻田は終始落ち着いていたし、アピアタウィアはファウルが多く荒削りな部分は否めないが、出ていった分しっかりとつぶし切る姿勢に成長を感じた。マルシーニョを右に追いやった白井は前後半を通じて対人では完勝していたし、前半は唯一苦しんだといえる荻原も後半はOGの誘発で結果を出した。ひょっとするとここは川崎にとっては想像以上の部分だったのかなと思う。

 後半はフリーになったことでゲームメイクを安定して行った川﨑とチームが苦しくなりそうなところでプレスの存在感を示した松田の2人が好印象。いい流れを引き寄せられれば、どこまでも上がっていける曺監督のチームらしいパフォーマンスを見せられた一戦なのではないか。

■あきらめの悪い王者であれ

 レビューのために見返し終わって真っ先に出て来た感想は『非常に素直な試合だったな』ということ。この試合の川崎はきちんといいパスを通せば、そこがチャンスになっていたし、楽をしようとして簡単に蹴った部分は咎められていたなという感じである。

 終盤の小林の決定機も、ああいったフリーになる動きのうまさは小林の持ち味だと思うし、知念との2トップという配置ならではの崩しだと思う。近頃のこの2トップのプレーは、あまり2トップとしてのセットでの崩しが見られなかったのが気がかりだったので、この場面がチャンスになったこと自体に『あぁ、ちゃんとやればチャンスはついてくるんだな。サッカーって嘘をつかないんだな。』って思ったりもした。まぁ、決めてほしいのは本音ですが。

 確かに今年の川崎は苦しいが、それは今に始まった話ではない。だけども、今のチームではまだできることがたくさんあるし、やるべきことをやれば十分にチャンスになる。

 やるべきことをやる時間を伸ばして、ゴールに迫る頻度を上げて、得点のチャンスをより多く作る。それが川崎の生きる道である。自分たちのスタイルを今年のスカッドなりに示すことは十分に可能だろう。それは京都戦でも垣間見ることが出来た。

 前を向きにくい状況ではあるが、もちろん白旗を上げるのはまだまだ先の話である。サッカーが嘘をつかないのであれば、川崎は自分たちがやるべきことを積み重ねていくだけである。あきらめの悪い王者としてまだまだ上位争いに食らいついてほしい。

試合結果
2022.5.29
J1 第16節
京都サンガF.C. 1-0 川崎フロンターレ
サンガスタジアム by KYOCERA 
【得点者】
京都:60‘ 佐々木旭(OG)
主審:谷本涼

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