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「溶かすのか、かち割るのか」~2022.4.16 プレミアリーグ 第33節 サウサンプトン×アーセナル レビュー

 スタメンはこちら。

目次

レビュー

■行われた3つの変更

 クリスタル・パレス、ブライトンと続けて敗れてしまい、CL出場権に向けて厳しい戦いが続いているアーセナル。連敗となったブライトン戦からこの試合の振る舞いとしていくつか変更を施した。主な変更としてここでは3つ取り上げたいと思う。

 まずは1つ目。ラカゼット→エンケティアのCFの変更。これは一番シンプルな理由でラカゼットがCovid-19にかかったから。こちらに関してはアルテタの意図した変更というよりも、変えざるを得なかった部分といえるだろう。

 次に手を付けたのはジャカの起用ポジションである。前節はSBとして起用されていたジャカだったが、今節はCHとしてロコンガとの併用という形の起用。前節の2列目に4枚を使う形とは明確に組み方を変えてきた。

 この日のジャカの振る舞いとして特徴的だったのは、特に試合の立ち上がりにロコンガと横並びでポジションを取ることが多かったこと。アーセナルはここまで非保持は4-2-3-1、ボール保持においては4-3-3に変形することが主流。中盤に入ったジャカはボール保持においては高い位置を取ることが求められていた。

 しかしながら、この試合ではそうした高い位置の攻撃よりも、まずは低い位置でどっしりと構えることが求められた。その理由はいくつかあるように思う。

 まずはロコンガの孤立を防ぐことである。スミス・ロウ、ウーデゴールのIHと逆三角形型のトライアングルを組んだブライトン戦ではなかなか連携面で息が合わず、誰かを前に向かせて前進するという関係性の構築がうまくいかなかった。この試合ではジャカがロコンガと平行にポジションを取ることで、真横へのパスコースを確保する。サウサンプトンの5-4-1の中盤はこうした真横のサポートへのチェックは甘かったので、ロコンガにとってジャカへのパスコースは空いていることが多かった。アーセナルとしては低い位置にジャカを置くことで、縦への展開を確保した形である。

 そして、タバレスの起用である。攻撃時に大外だけでなく、インサイドのレーンも取りたがるタバレスとジャカがIH的に振る舞ったときのポジションは被る可能性がある。なので、彼が高い位置を取ることを考慮して、自らは低い位置を取ったという可能性がある。

 また非保持におけるカウンター対応も考慮した部分もあるだろう。タヴァレスやロコンガはティアニーやトーマスに比べて、カウンター対応におけるストッパーとしての機能は落ちてしまう。ジャカを低い位置に置き、タヴァレスに高い位置への攻撃参加を促すことで被カウンター対応の強度も高めたのではないか。

 余談だけど、ロコンガ→ジャカの横パスは左サイドから縦に行く!というトリガーになっていたし、タヴァレスはだいぶオーバーラップのポジションを取りやすそうだった。以前起用されたクリスタル・パレス戦に比べて高い位置に顔を出すタイミングとインサイドでの振る舞いの部分である程度存在感を見せられたのではないか。以上が2つ目のジャカのポジション変更とその理由についての考察である。

 そして、3つ目の変更は順足WGの採用である。結論からはいえばこれは早い攻撃を完結させるための方策だと考える。この試合でアーセナルが早い攻撃を意識したい理由はいくつか考えられる。

 1つは先述のジャカのポジション取りである。ジャカに高い位置を取らせたくないという前提で考えると、これまでのようなIH-WG-SBのトライアングルでサイドを壊すという人数をかけた崩しくを両側で行うのは難しくなる。この試合のサウサンプトンは5-4-1だったが、基本的には彼らは4-4-2のフラットの使い手。彼らのカウンターを警戒する振る舞いでスタートするのは理解できる。

 もう1つは前線の動きの矯正である。ここ数試合、前線はまずは足元で受けてパス交換から前を向くことを狙う節が強かった。だが、絶好調の時ならばいざ知らず、そうでないときは足元でボールを受けるきらいが強すぎると、簡単につぶされてしまう傾向があるし、相手も狙いをつけやすい。

 速い攻撃を行うコンセプトならば、順足WGに求められることはやはり抜け出してのラストパス。そのためには裏への動き出しが必須となる。サカがフォースターのセーブにあってしまった決定機はマルティネッリの抜け出しが起因。こうした順足WGを採用した意味が集約されたチャンスといっていいだろう。CFのエンケティアもこうした高いラインを破るためのフリーランは出来るので、序盤のコンセプトとの相性は比較的良かったように思う。それだけにサカの決定機を決めておきたかったアーセナルであった。

■同時に管理されてはいけない

 速い攻撃を念頭に置いたが先手を取れないアーセナル。だが、サウサンプトンは4-4-2ではなく5-4-1を採用したこともあり、そこまでカウンターに手厚い警戒をする必要はなさそうである。実際にサウサンプトンから危険なカウンターを受けた場面は、アーセナルがDFの枚数をどんどん削っていった後半になるまでほとんどなかったといっていいだろう。

 というわけで、アーセナルはサイドで人数をかけて崩すいつも通りのスタンスに切り替えることにする。それがマルティネッリとサカのWGを元に戻したタイミングではないか。これにより、アーセナルは支配的に試合を敵陣に進めるようにアプローチのやり方を変えた。

 個人的にイメージする5バックの壊し方は大きく分けて2つある。1つは相手の最終ラインの人数の多さを逆手にとり、ラインを揺さぶるための働きかけをブロックの外から行うことである。アーセナルが順足WGで行おうとしたことはこの『かち割り型』のイメージに近い。縦への鋭い抜け出しを使い、最終ラインを置いていく動きである。

 種類は違うが、エリアの外の浅いサイドの位置からピンポイントでファーサイドのPAの奥にクロスを上げて、相手の最終ラインに下げる動きと目線を逆サイドに振ることで同時に強いることで負荷をかけ、マイナスにスペースを生む形もこの『かち割る』型の一種だと思っている。カンセロ、アレクサンダー=アーノルド、デ・ブライネのような選手たちはキック一本で相手を5バックをかち割れる存在である。

 もう1つイメージする相手のバックラインの壊し方は『溶かす』ことである。5バックに苦しい守備を強いるには、まずその前をプロテクトする中盤が邪魔である。なので、その彼らを少しずつずらしながら、5バックを守る盾を1枚1枚外していく。そんなイメージである。この場合だと、5バックの手前のスペースで前を向く選手ができれば成功と分類できるように思う。

 アーセナルはマルティネッリとサカを普段通りの配置に戻すことで『かち割る』から『溶かす』へのシフトチェンジを行ったように思う。だが、この溶かす動きははっきり言ってうまくなかった。大きな理由の1つは右サイドのビルドアップの機能不全にある。

 溶かすためのアプローチにおいて、重要なのは上の図でもわかるように2列目の選手をいかに手前に引き出すかである。この試合においてはサウサンプトンはブロヤの1トップを採用していたので、アーセナルはCBがある程度開いた位置から持ち運ぶことができれば、2列目を引き出すチャンスがあった。

 しかしながら、実際は右サイドではこうした動きが出来ていなかった。なぜならば、CBのホワイトの持ち運びに対して、SBのセドリックの立ち位置が近いからである。重要なのはまずホワイトがエルユヌシを引き寄せられているかどうか、そしてホワイトの次の選択肢がエルユヌシをはずせているかどうかである。

 だが、ホワイトとセドリックが低い位置で並んでしまうのならば、エルユヌシが無理なく両選手を視野に入れることができる。

 こうなれば、ホワイト→セドリックのパスが通ったとて局面は前に進まない。『溶かす』観点でいえば、セドリックは自らのマークをエルユヌシ以外の選手にさせることができるような立ち位置を取るべきだ。

 加入当初、冨安がホワイトからパスを受けられない!と話題になったことがあった。パスを受けることが目的ならば、この試合のセドリックのように低い位置を取れば、その目的は好きなだけ達成できる。けど、パスを受けることは手段であって目的ではない。

 この場面でいえば、セドリックはアームストロングの視野から外れることさえできれば、自らがフリーになるかあるいは他の誰かの選手を自分に引き付けることができる。

 フリーになるのならばパスを受ければいいし、引き付けられるのならばその引き付けた選手が空けたスペースを使えばいい。自らがパスを受けるかどうかはさして大きな問題ではないのである。

 管理されながらつぶれるというのはポジションは異なるが、結構ロコンガはうまい。彼は幽閉されていても最終ラインに落ちるなど無理に動いてフリーになろうとせず、相手のマークを自分に引き付けたまま振る舞う我慢ができる。

 ロコンガの課題は一本パスが通って局面が変わった時に、パスを受けるための動き直しの準備が遅いことと、前を向いてフリーで受けた後のボールのクオリティである。正直、フィルター役としての機能はトーマスほどは期待していないので諦められるのだけど、もう少しボール保持の部分では貢献してほしいところである。

 ちなみに、失点シーンではロコンガが抜け出したエルユヌシに対してマイナスを消す動きがないことが責められる意見が見られていたが、個人的にはちょっとその観点は無理筋なのではないかと思う。エルユヌシからあのようなグラウンダーのパスが出てくるという未来がわかっていれば、確かにマイナスのパスを消すべきではあるが、当然抜け出したエルユヌシからどのような質のボールがエリアに送られるかはわからない。

 ましてや、この場面でロコンガがマークについていたのはブロヤ。エリア内で最も警戒すべき選手である。ロコンガが彼を離したことでエルユヌシからロブ性のクロスをフリーで頭で合わせられでもしたら、それはそれで批判は免れないはず。さらにはそれ以外にもエリア内にはサウサンプトンの選手が多い状況であり、その状況を捨ててまでもニアを切ることが必ずしも正解といえるかは微妙である。

 ロコンガからすると、そもそもニアを潰しに出ていったとしてもパスを阻害できる近さかどうかも怪しい。エリア内に穴を空けるだけの可能性もある。個人的にはニアのパスコースを切れるとしたらホワイト一択。だが、そのホワイトもエンドラインから慌てて持ち場に戻ったタイミングであった。

 それを踏まえるとエルユヌシをエンケティアが離した時点でエリア内の状況はかなり悪かったといえるだろう。

■かち割れないなら溶かせる人を増やす

 長くなったので後半はさらっと。失点がどういう理由であろうと、追いかける展開が苦手なアーセナルにとっては重荷であることは確かである。そういう部分を避けて、これまで勝ち点を拾ってきたチームだけにこうした失点の意味合いは重たい。

 後半、当然サウサンプトンは自陣を固めてくる。厳密には高い位置い からアーセナルを捕まえて、少しでもPA内から遠ざけようとして来ていたが、それはうまくいかなかった。アーセナルは高い位置からの攻撃に出ることになる。

 逆足WGを活用したことで相手の守備が大外に引き付けられ、マイナスのスペースからクロスを上げることが容易になったのは大きかった。右ではセドリック、左ではジャカが大外からのフォロー役としてクロスを上げるタイミングを待ち構える。

 だが、ジャカはともかく、セドリックには『かち割る』タイプのピンポイントクロスを上げることはできない。ロスト後の被カウンターのリスクも許容範囲内となれば、セドリックに代えてアタッカーを増員するのは自然な選択肢である。スミス・ロウ、ペペがSBに代わって投入され、目の前の相手を剥がしたり、横のドリブルを活用しながらシュートやラストパスのコースを作る頻度は上がった。

 しかし、立ちはだかったのはフォースター。後半にはある程度の数の決定機を迎えたアーセナルだが、シュート精度とサウサンプトンの守護神に阻まれてしまい無得点。長く勝ちなしが続いていたサウサンプトンに久々の勝利をプレゼントすることとなった。

あとがき

■チャンスは増えたがバランスを壊したからこそ

 ブライトン戦に比べて、それぞれにやることが適正に再分配された感はある試合ではあった。だけども、本文中で述べたセドリックの動きやロコンガの前を向いた時のクオリティ、最終ラインからのフィードや2列目のフィニッシュやオフザボールの動き出しの少なさなど、相手を『溶かす』ための動きは足りていなかった。

 アタッカーはプレミアでの実績が十分とは言えないエンケティアのみであり、チームに2桁得点者はいない。となれば、このチャンスの数では決めきれないということもあり得てしまう話である。溶かすかかち割るかのどちらの手段もこの日のアーセナルは不十分だった。

 しかも、マルティネッリとサカを入れ替えて以降のチャンスの多くはSBを下げて攻守のバランスを崩してからのもの。これ以降の対戦相手に対してあまり現実的な手段とは言い難い。よって、順足WGを活用した速攻を試したことは悪くないように思う。が、今求められることは悪くない改善策よりも勝ち点3だったのは明らか。ここに来ての3連敗は疑いの余地のない失敗であり、大きな痛手である。

試合結果
2022.4.16
プレミアリーグ 第33節
サウサンプトン 1-0 アーセナル
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:44‘ ベドナレク
主審:ピーター・バンクス

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