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「ど忘れではなさそう」~2022.4.4 プレミアリーグ 第31節 クリスタル・パレス×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■ハイプレスの成否

 プレビューでこの試合のポイントとしてまず挙げたのはWGを中心とする負傷者の状況である。

 左のWGに入るザハは間に合ったが、右のWGに入ったであろうオリーズは不在。要人2人のうち1人は間に合ったという形になったクリスタル・パレス。

 一方のアーセナルはイングランド代表を病気により離脱したサカはスタメンで起用。入れ替わるようにペペが病欠になる。後方では復帰が噂された冨安のベンチ入りが見送られ、ティアニーはベンチ外。ティアニーは今季絶望クラスの負傷とのこと。アーセナルファンにとっては非常に気がかりな話である。

 この試合の話に戻すと、そうした怪我人の存在をいかに感じさせないかがポイントである。それぞれ怪我人の数、ポジションは違うが普段と一部分レギュラーが不在の状況をどのように乗り切るかという話だ。

 立ち上がり、両チームともバックラインにプレッシャーを積極的にかけていく。クリスタル・パレスがプレッシングに行く時に特徴的だったのは3センターの配置である。いつもならば中盤3枚は逆三角形型なのだが、今回はギャラガーがトップ下に入るような形の4-2-3-1である。

 おそらく、これはトーマスを監視しやすくするためのものだろう。ギャラガーがトーマスとデートというよりはトップのマテタと受け渡しながら、交互にトーマスを監視していた。

 アーセナルが非保持に回る際にはここ数試合でお馴染みのサカがトップのプレスに加わる形でパレスのCBにプレッシャーをかける。右サイドはこの動きに追従するように、セドリックやホワイトがパレスの左サイドにプレスをかける。

 この両チームのハイプレスの出来は明暗がくっきり分かれたと言っていいだろう。うまくいったのはクリスタル・パレスである。同数で受けることと、バックラインにプレッシャーをかけることで確実にアーセナルのビルドアップ隊から時間を奪っていた。

 アーセナルはこうした同数で受ける場合でもトーマスとウーデゴールを中心に細かいパス交換で方向をこまめに変えながらズレを作ることができるのだが、この試合は明らかにそうしたパスワークができるコンディションではなかった。システムで守るというよりも、個人の細かい技術や連携に基づく優位なので、こうした個人の不調はモロに影響が出てしまう。

 ロングボールの受け手として両翼が機能しなかったことも苦しかった。スミス・ロウはそもそもそうした受け方をする選手ではないし、サカも対面がミッチェルだと少し厳しいように思う。

 立ち上がりかららしい突破を見せたスミス・ロウが特別悪かったわけではないが、この試合のアーセナルの全体的なアバウトさでいえば、やはり左にマルティネッリが欲しかった感じはする。彼もブラジル代表で遠征していたので、途中出場という判断は致し方ないと思うけども。

■全員悪い失点

 一方のアーセナルのプレスは失敗だったと言わざるを得ないだろう。一番怪しかったのは右サイドのスライドである。サカが前に行く段階で、パレスは分かりやすくロングボールに逃げていた。

    このロングボールの対応にアーセナルは苦慮。絶大な力を見せたのはマテタである。ガブリエウとのマッチアップでアドバンテージをゲット。背負いながらボールを収めつつ、アーセナル陣内に体をぐいぐい入れてくるポストワークにガブリエウは非常に対処しにくそうだった。

 アーセナルからすると、敵陣に迫る手段はことごとく潰されてしまっている形である。中盤密集でのパス交換からのスピードアップ、WGへのロングボールでのプレス回避、そして相手のFWへの縦パスをカットしてのカウンター。いずれのアーセナルの得意パターンも潰されている状態だった。

 押し込む機会を得ているパレスが順当にセットプレーから先制点をゲット。ギャラガーのFKからファーのアンデルセンが落として、最後はマテタが押し込む。アーセナルからすると被ったガブリエウを気にしたのか、タバレスが競れなかったのは痛かった。

 この場面でうまく対応できなかったタバレスにとっては難しい試合となってしまった感がある。攻撃においても内側に絞って足元で受けたがるので、どうしてもサイド攻略に動きが出ない。この日欲しかったのは左の奥を取る動き。いつもティアニーがしている動きである。

 左WGが放っておいても張ってくれるマルティネッリであれば、もう少しサイドの棲み分けはできたであろうが、ユニットとして左サイドの面々はどうも機能しなかった感が否めない。

 ユニットが機能しなかったという観点で言えば2失点目の守備もそうだ。パレスから見て左サイドからのスローイン。これに対するアーセナルの対応は負の連鎖という感じ。

 まず、同サイドにラカゼットとウーデゴールを集めているのだから、アーセナルとしては同サイドからボールを脱出させた時点で負け。あっさりと中央に展開を許してしまったのはグエイに安易に飛び込んだラカゼットが簡単に交わされてしまったからである。

 中央にできた広大なスペースをケアしようとジャカが前がかりになりアンデルセンに食らいつく。だが、ここでも結局ボールを掴みきれないアーセナル。DFラインはこうなると苦しい対応になる。ガブリエウはガラ空きの前のギャラガーについていくか、裏に入り込もうとするアイェウを捕まえるかの2つの選択肢がある。

 この駆け引きにガブリエウは負けてしまった。前に出ていった結果、裏のアンデルセンへのロングボールを通されてしまったガブリエウ。仮にタバレスがラインを瞬時に上げることでガブリエウのラインアップに呼応していればギリギリ助かったのかもしれないが、彼は裏のアイェウを優先し、かつ体を入れられてフリーでのシュートを許してしまった。

 結局CBが前に出て、SBが後ろに残っているせいでギャップを使われた形なので、最終ラインの連携に難があったのは間違いない。だが、この歪みは明らかにラカゼットのスローイン対応から発生している負の連鎖ゆえ。『全員悪い』というのは、いかにもこの日のアーセナルの出来らしいと言える失点であった。

■中央から人を釣り出す

 前半の残り時間、アーセナルはボールを持つ機会があったが、なかなかスムーズな前進ができない。パレスは2点リードしてもなお、ハイプレスを緩めなかった。そのため、やたらトラップが跳ねて、パスがズレるこの日のアーセナルにとっては打開策が見つからない状況。特にトーマスはパスカットであっさりと相手にボールを渡してしまい、自らチームを苦しい状況にしてしまった。

 タバレスに代えてマルティネッリを投入したアーセナル。後半はある程度スムーズに前進ができるようになった。大前提として述べておかなくてはいけないのが、明らかにクリスタル・パレスのプレッシングがトーンダウンしたということ。そこは念頭に置いておきたい。

 その上でアーセナルのビルドアップにおいて改良が見られたのは左サイド。ジャカが2トップの脇に立つことでまずは安全に後方からボールを持つ。大外にマルティネッリ、ハーフスペースにスミス・ロウが立つことでジャカには複数の選択肢を用意することができるようになった。

 CBの2人も横パスを頻繁に使うことで、パレスの2トップを外す前進ができるようになった。押し込んだ状況で徐々に決定機を作っていくアーセナル。ただ、マルティネッリがカットインまでしてしまうと、スミス・ロウ、ラカゼットとのパス交換が中央に密集してしまって引っかかりがちになる。

 なので、個人的には62分のスミス・ロウの決定機のようにマルティネッリが少し内側にドライブしつつ、CHのクヤテを自分の方に食いつかせて中央のスペースを開けることでスミス・ロウ、ラカゼットのパス交換のスペースを作るのが一番スマートのように思う。シュートを打ちたいであろうマルティネッリにとってはもどかしい役割かもしれないが。

 だが、後半に作り上げたアーセナルの優位も徐々に薄れていく。まずはアイェウがジャカを捕まえるタイミングを徐々に掴んできたこと。パレスの前線は軒並みプレスに出ていく勘所を掴むのが非常にうまい。バテてしまった感のあるマテタは少し苦労していたが、ギャラガーは平気で90分この役割をこなせる稀有な存在である。

 クヤテを釣り出すパターンもマテタに代えてマッカーサーを投入することで4-3-3にすることで解決。中央から1人釣り出されても、バイタルをケアできる状態をキープする変更だった。

 アーセナルはエンケティアをセドリックに代えて投入する『ウルブス戦の奇跡よ再び!!』フォーメーションを採用するが、奇跡はそんなに簡単に起こらないから奇跡なのである。直後にパレスが決定的な3点目を得る。

 トーマス(このプレーで負傷してしまった)のロストを起点にザハのカウンターからウーデゴールがPK献上で勝負あり。アーセナルからするとトーマスのパスミス、食い止められないせいでPAまでの進撃を許してしまったガブリエウ、そして3人いたのにザハに一杯食わされて引っかけちゃうウーデゴール。今日のアーセナルを象徴するようなPK献上だった。

 プレスの強度が落ちたパレスの陣内に最後まで襲い掛かるアーセナルだったが、結局得点を奪うことはできず。PA内でひたすら跳ね返す両CBの牙城を崩すことはできないまま試合は終了。アウェイでのリーグ戦の連勝は5で止まることとなった。

あとがき

■ド忘れじゃない分、修正は難しい

 負傷者の穴を埋めることができるか?をポイントに挙げてはいたが、これだけレギュラー格に不出来な選手が多いとあんまり関係なかった。タバレスは苦しんだけど、ティアニー1人でなんとかできるものでもなかったように思う。それだけ悪かった。

 救いは近年のこうした大敗は仕組みごとすっぽり忘れて意味不明な戦い方をする『ど忘れ』スタイルが多かったが、今回は明らかにスタイルを体現する水準にチームのレベルがなかったことが原因だったこと。地図自体はまぁちゃんと持っている分マシではあった。だけど、それだけこの日のうちの修正は難しいのだけども。アルテタにとってはこの試合はほとんどできることはなかった。

 選手の離脱は痛いが、そういう選手層のまま突っ込んでしまったので今更嘆いている暇はない。次に水準を戻すしかやるべきことはない。ど忘れと違って思い出す作業は省いていいのだから、強度と精度を上げるだけである。

試合結果
2022.4.4
プレミアリーグ 第31節
クリスタル・パレス 3-0 アーセナル
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:16′ マテタ, 24′ アイェウ, 74′(PK) ザハ
主審:ポール・ティアニー

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