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「綱渡り」~2022.3.6 J1 第3節 ガンバ大阪×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

■やはりバックラインの阻害から

 プレビューでも話した通り、片野坂監督の率いるG大阪はここまでの各試合の取り組みに結構違いがあるチーム。というわけでこの試合においてもどう来るかは読むことができない。だけども、片野坂監督が川崎と対戦する以上は、川崎のビルドアップにおいての時間の阻害を優先課題と考えるはず。浦和戦のようなボールを持たせてOKの5-4-1はやってこないだろう!ただし、手段はわからん!という話をさせてもらった。

  この見立てに関しては大まかに当たっていたと言っていいだろう。G大阪の守備の布陣は4-4-2の中盤がフラットなシステム。2トップが積極的にCBにプレスをかけて、それに呼応して中盤が押し上げるというハイプレスで序盤から川崎の保持を阻害するところから始まった。

 G大阪の守備の特徴は2トップに合わせて、CHの倉田が1列前に動きながらアンカーの橘田にプレッシャーをかけにきたこと。倉田が前にいくのに合わせて、SHの山本は絞ってスペースを埋める。

 同じ4バックをベースに取り組んだ大分戦とのプランの整合性については、G大阪側のレビュアーに任せるとするが、このやり方は川崎にとっては既に経験済み。スーパーカップで対峙した浦和のやり方である。

 ここまでの川崎のリーグ戦の相手は横浜FM、鹿島、浦和と4-4-2ではあるが、トップのプレスに呼応して中盤がアンカーを消しに来るような戦い方を選択するチームではなかった。そのため、後方からのビルドアップで時間を奪われることなく、比較的スムーズに前進ができる時間が多かった。

 CBとアンカーを同時に消してくるプランというのはここまでの川崎にとっては一番苦手なビルドアップの阻害の仕方。前半の川崎はスーパーカップ以来の苦しい前進を強いられることになった。

 スーパーカップではアンカーのポジションについて『シミッチが橘田だったら!』みたいな声も聞こえていたが、スーパーカップの浦和戦やこの試合のように連動した形でCBとアンカーを消し方をしてくるチームに対しては、橘田だろうと後方からボールを受け取って前を向くのは難しい。よって、川崎はアンカー周りのプレスを緩めるアプローチを取らなければいけない。周辺のスペースからプレスの緩いところを探る作業に入る。

 サイドバックから横方向にパスを入れるやり方は案の1つではある。川崎は左サイドから一旦相手を横に広げるアプローチを仕掛けるが、谷口→佐々木にボールを渡した段階で佐々木にはタイトなマークがついており、自由なプレーを選択する余裕はなかった。

 川崎は遠野と佐々木が立ち位置を入れ替わりながら相手のマークを乱しにかかるが、G大阪はこうした時の対応も明確。後方の選手がマンマークできっちりついていく形で手を打ち、川崎にズレを作ることを許さない。

 こういう展開になると川崎が頼るのは単独で背負っている相手を無効化できる選手。家長が不在のこの日のスタメンではダミアンかチャナティップの2択だろう。彼らにボールを集めるが、G大阪はむしろその流れを利用してカウンターに打って出る。

 川崎としてはスーパーカップに続いてCBとアンカーを両方消してくるプレスへの対応は失敗と言っていいだろう。

■中盤にも存在するプレスのスイッチ役

 序盤に流れに乗ることができたG大阪だが、懸念もある。川崎を苦しめたハイプレスだが、2トップの宇佐美とパトリックはタスクを長い時間続けられるタイプではないことである。倉田がアンカーにプレスに行くのは、トップが2CBにプレスに行くところがスイッチになっている。G大阪の2トップが積極的にプレスに行くことができたのは15分ほど。それ以降はG大阪のハイプレスは落ち着くことになる。

 そうなった時に中盤でプレスの舵取り役になったのが齊藤未月。ミドルゾーンでスピードアップを図る川崎の中盤にプレッシャーをかけ、前進を許さない。他の中盤の選手やバックラインも齊藤のプレスに呼応して、ラインアップ。2トップのハイプレスが効かなくなった後も、川崎の前進を苦しめることができたのは中盤に齊藤がいたことが非常に大きい。

 ただ、ミドルゾーンまで運ばれてしまうことが多い分、G大阪としてはどうしても自陣付近まで押し込まれてしまう機会が出てきてしまうのは仕方のないところである。ハイプレスが止んだ後、川崎は敵陣まで運ぶ機会は増えた。

 ローラインでのG大阪の守備ブロックの狙いは片側圧縮である。CB、CHはボールサイドまでグイッと圧縮し、川崎をサイドから出させることをしない。

 川崎は同様のシチュエーションは鹿島で経験済みだが、G大阪の方がタイトだったのと、アンカーの橘田を使ってのやり直しが鹿島戦ほどできなかったので、川崎は手薄なサイドを作ることができなかった。

 G大阪がサイド封鎖に人数をかけてきたことも非常に重要なファクター。宇佐美やパトリックもボールサイドにおける守備参加は求められており、ハイプレスに出ていけなくなった後も守備のタスクを免除されていたわけではなかった。

 2トップというカウンターの核のプレス位置を下げてまで、川崎のサイド封鎖が優先だったということだろう。ちなみにCBを思いっきりサイドにスライドさせて守ったのは昨年の大分×川崎で見た光景でもある。

 川崎の前進は38分の遠野や佐々木のようにニアのハーフスペースに立つ選手が素早いサイドチェンジを決めて、G大阪のスライドを間に合わせなかった時か、観客を湧き立たせたチャナティップのドリブルのように人数をかけてプレスにきた局面を強引に裏返してフィニッシュまで向かうシーンのどちらか。アクセントになっていたのはバックラインからの対角パスか。特に谷口は今季序盤からパスのバリエーションに関しては意識しているようには見える。

 だが、川崎はG大阪の守備に苦しんだ場面がほとんど。チャンスといえる場面を数多く作ることはできなかった。

■選択肢がある分、苦しくなったクリア

 一方のG大阪のボール保持は4-4-2から結構変形する趣。バックラインは3枚が基本。構成は2CBはマストでそこにCHかSBの1人が流動的に入っていく形である。大外を担当するのは基本的に1人。SBが基本だが、SHが大外に流れることもある。

 川崎のプレスは右サイドに家長に代えて知念を使ったこともあり、今節は左右対称。WGはCBとSBの中間ポジションに位置取ることが多く、外から内側に誘導するようにプレスをかける。家長が先発時と異なり、脇坂がWGの裏のカバーに出ていかなくてはいけない頻度が少ない分、中盤3枚は中央のプロテクトに注力することができる。

 ならば、G大阪の狙いは外を回すこと。16分のシーンのように黒川と山本が大外とハーフスペースを使い分けながら川崎のバックラインを外から押し下げる形が彼らのこの日の狙いと言っていいだろう。降りてくる宇佐美は配球役も担える。右サイドにおいてはサイドに流れてくるパトリックが更なる乱数として川崎を邪魔する。対応にわざわざ谷口が出ていかなくてはいけないのもめんどくさい状況だった。

 G大阪的に狙い目になったのはやはりパトリックが流れてくる右側。特にプレスへの色気が強いIHの背後が狙われることが多かった。出ていったIHの裏を使われると川崎はなかなかカバーが難しい。普段なら谷口が潰すことが多いスペースなのだけど、パトリックが邪魔をする。川崎は左のIHがチャナティップだったこともあり、特にこのサイドの後方はマネジメントが甘くなる。

 G大阪が先制点を奪ったのもこのサイドから。PAの中で受けた齊藤から大外の髙尾まで展開し、クロスを上げるとこのクリアをバイタル付近で拾った山本がミドルを決めて先制する。

 谷口のクリアの方向について指摘する声もあったが、個人的にはちょっと厳しいように思う。この場面においては髙尾への佐々木の寄せが甘く、髙尾にはニアにグラウンダーを入れる選択肢もあった。谷口は髙尾の選択肢の分、対応が後手になるのは仕方がないように思える。髙尾が入れてきたボールも厳しいものであり、谷口にはクリアの方向まで制御する余裕はなかったようにみえる。ここのあたりは経験者の方がよくわかる部分だろうから、ご意見を聞いてみたいところである。

 個人的に気になるのは髙尾がクロスを上げる段階でニアのマイナス方向にやたら川崎の選手がいること。遠野、脇坂、橘田の3人はニアサイドにいるにもかかわらず、髙尾のプレーを制限できていない。佐々木と遠野のどちらかが髙尾に寄せるタイミングが早ければ、谷口が対応するクロスはもっと山なりの弾道だったように思ってしまう。そうなれば、クリアはもう少しイージーだったはず。

 クロスの上げられ方が厳しかった故に苦しいプレーになってしまったのではないかというのがこの場面における所感である。内側を見せながら外側に捌いた齊藤未月のファインプレーだ。

■こじ開ける川崎×システム変更で応じるG大阪

 G大阪リードで迎えた後半。試合の流れは徐々に川崎ペースに向いていく。大きなポイントは川崎が橘田を経由したサイドの入れ替えを多用したことにより、G大阪のスライドが間に合わなくなってしまったこと。これにより、G大阪は前半よりも苦しい対応になった。

 また、IHが同サイドにオーバーロード気味に集結する機会も増加。特にチャナティップが右に出ていくことにより、G大阪の左サイドを狙うような形でのボール回しが増えた。

 ただし、IHが同サイドに集結するということは仮にボールを奪うことができればG大阪にとっては大きなチャンスとなる。実際に後半の開始直後には少なくとも2回はゴールの可能性が高いシュートを放つことが出来るシチェーションがあった。このどちらかを決めていれば、かなり楽な後半になっていたはずである。

 さらに攻勢を強めたい川崎は家長、小塚、小林を投入。IHに小塚と家長という非常に攻撃的な布陣でG大阪を攻め立てる。ここからは川崎怒涛の右サイドからの攻め。前節の浦和戦でも見せたように山村のサイドでの攻撃参加を容認した川崎は右サイドで数的優位を享受しながら圧力を強めていく。

 投入直後から流石のプレーを見せていたのは家長。相手と相手の間の中間に立ち、誰が対応するかによってズレたところに小林や山根がフリーランで走り込むというやり方で、右サイドに穴を開けていた。

 G大阪は攻勢を強める川崎に対して、素早く対応。SHの山本をトップ下に置き、サイドに自由に配球していた橘田を抑える。さらには5-3-2にシフトすることで、5レーンを封鎖。大外→ニアゾーン抜けという川崎伝統の形を封じに行く。

 こうしたゲームクローズに向かうブロック構築に対して、この日の川崎で最も心得があったのは小塚だった。先制点のアシストの場面は圧巻。横のドリブルで相手の守備陣の足を止めると、逆サイドへの浮き玉でDF陣の視野をリセット。このG大阪DF陣の視野リセットはシュート前の宮城のフェイクが決まる下地となっている。小野瀬からするとボールと相手を一遍に収められない上に背走させられており、タフな対応を強いられている。

 宮城のトラップとシュートは素晴らしいが、この場面ではブロックを組むつもりに傾いていたG大阪のブロックを壊すガイドを務めた小塚を誉めたいところ。そういえば、去年の大分戦もアシストを決めていた。対片野坂監督相手に2試合連続得点に絡んでいることになる。

 だが、直後にG大阪は逆転。チュ・セジョンの縦パスで川崎のブロックを内に固めた後に、外の小野瀬に散らして、川崎の対応が遅れるというのは仕組みとしては1失点目と同じ。川崎は自陣左側のハーフスペースがこの日は鬼門だった。

 山村を高い位置に攻撃参加させるというのは被カウンターを考えると非常にリスクが高いことである。できればバランス的には本来は避けたいくらい。そのため、攻撃をいかに完結させるかが重要。

 家長、小塚、小林、山村など右に偏在する選手たちは山村を高い位置に上げるリスクを受け入れてもいいような攻撃の成功率だったのだが、左サイドは同じようにはいかないのが後半の川崎の悩み。遠野やチャナティップがいた時間帯に比べると、オフザボールの動きも少なく、互いの連携もイマイチ。攻撃も詰まることも多く、右サイドほどの完成度ではなかった。

 宮城は試合後のコメントで守備においての反省を口にしていたが、流れの中の攻撃でももう少し貢献を求めたいところ。撤退守備に対して、ファーサイドでクロスに飛び込めるスキルは重要なので、ボールサイドにおける攻撃にもう少し磨きをかけないとレギュラーとしては難しいように思う。

 小塚の横断以外に5バックをズラす意識が見られるプレーは少ない上、左で詰まる頻度も増えてきてしまう川崎。5-4-1でクローズにかかるG大阪はスローインの度に押し上げる意識も欠かさず、ほとんど完璧なゲームクローズに見えた。だが、ラストワンプレーで小林が石川の隙をついた忍者ムーブでダミアンが土壇場で同点に追いつくゴールを挙げることに。

 最後までドラマチックだったシーソーゲームは痛み分けで決着。G大阪としては勝利目前で手痛い授業料を払うことになったしまった。

あとがき

■高パフォーマンスも対策寄り感も

 相変わらず片野坂さんらしさ全開の試合運びである。最終ラインを強襲するプレスで時間を稼ぎつつ、最後は撤退守備で時間帯ごとに異なる顔でなんとかリードを守り切ろうと奮闘。実際勝利を掴みかけるところまでは行った。バテ気味の倉田とフレッシュな奥野の左右を変えるとか、そうした細かい芸当は彼ながらという感じである。

 多くのチームにとってはやりにくい相手であることは間違いないだろう。だが、ここから先の道筋についてはまだなんともわからないところ。浦和戦と毛色は違うが、川崎戦でも比較的対症療法の嫌いが強いプランであり、勝ち点を奪うための細かいマネジメントが光った。

 よって、自分達のスタイルでサッカーを塗り上げて試合の主導権を握れる未来が待っているか?はこの試合だけではなんともいえないところ。スタイルを確立し、主導権を握りながら勝ち点を積み重ねることが出来るかどうかはまた別の話のように思える。

■綱渡りの10ポイント

 一番の懸念はスーパーカップでの課題に解決の兆しが見えなかったこと。機能しなくなった理由が向こうのプレス隊がバテる!というのではあまりにも情けない。かつ、2トップのプレスが緩んだ後も前進がろくにできなかったことも反省すべきである。

 5試合で勝ち点10というのはおそらく今季の相手関係からすると悪くない結果ではある。プレスを裏返されたり、被カウンターにおけるリスクを承知で前傾姿勢になるなど、これだけ危ない橋を渡ればこれくらいの勝ち点の取りこぼしは起きてしまうように思う。

 いわば現状は綱渡り。綱渡りでの勝ち点10は3年前の3連覇チャレンジに比べれば好スタートではあるが、内容的な厳しさはあの年と同じ。そして、多くのチームもそれぞれに苦しんでいるのもあの年と同じ。選手の多くはすでに例年以上に内容に危機感を覚えているように思う。

 ようやく連戦を終えて一息をつくことができた川崎はここから脱綱渡りのきっかけを掴むことが出来るだろうか。

試合結果
2022.2.26
J1 第3節
ガンバ大阪 2-2 川崎フロンターレ
パナソニックスタジアム吹田
【得点者】
G大阪:34′ 山本悠樹, 77′ 小野瀬康介
川崎:75′ 宮城天, 90+5′ レアンドロ・ダミアン
主審:山本雄大

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