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「弱腰と英断は紙一重」~2022.2.10 プレミアリーグ 第24節 ウォルバーハンプトン×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■キーマンを使ったサイドチェンジで大外から攻め立てる

 ビハインドに陥ってから得た勝ち点の数はウルブスが19位、アーセナルが20位。ウルブスの得点数はリーグで下から3番目、かつアーセナルも比較的ロースコア志向。この状況を踏まえれば、おそらくジリジリした展開になるはず。いつも以上に先制点をどちらがとるかが大きな問題になってきそうなカードである。

 プレビューで触れた通り、ウルブスの試合の進め方は決まっている。基本的にはローテンポで進むことが多く、特に自陣からの組み立てにはその傾向が強い。さらにはこの日は負傷明けのファン・ヒチャンがベンチスタート。トリンコンとポデンスというライン間で輝けるアタッカーを起用したことでゆっくりと攻めるためのメンバー構成になっていることも大きかった。

 従って、試合のテンポを決めるのはアーセナルの非保持のプレスである。高い位置からプレスに行くのか、それとも一旦ボールを相手に持たせることにするのかを決める必要があった。

 アーセナルが選んだのは積極策。プレッシングでCBから時間を奪うアプローチをかけて、時間をウルブスから奪い取る選択肢をとり、ショートカウンターを意識したやり方をとった。

 アーセナルの高い位置からのプレッシングに対して、ウルブスは非常に冷静な対応を見せた。大きな展開を使うことができるのはネベスかポデンスのどちらか。前進の手法としてはピッチを広く使い、幅をとりながらアーセナルを攻めること。というわけでサイドに散らせる彼らが前を向いてパスを出すことができた場面においては問題なく前進が可能になる。

 ネベスは小回りは効かずトーマスのように1人で前を向くのが簡単ではない選手である。彼がこの試合1人で前を向くために行っていたのは最終ラインと同じように低い位置まで思いっきり引くこと。アーセナルはネベスに特定のマークマンを付けることはしなかったので、低い位置まで下がってしまえば比較的簡単にフリーになることができた。ここから人のいない方のサイドに対角パスを蹴ることができれば、多少下がっても高い位置にポジションを取り直す時間ができる。結果的に重心を上げられればOKだ。

 一方のポデンスはターンが上手く反転で前を向ける選手。少し下がりつつ相手を背負いながら自分で反転しライン間かアーセナルのMFラインのやや手前で前を向く。ライン間のポデンスへの縦パスをウルブスの最終ラインは結構狙うことが多かったので、ウルブス的にはここは特に自信がある手段だったのだろう。ターンとパワーのある展開力にアーセナルは手を焼いた。

■ジャカとトーマスのタスクの重さ

 もう1つ、ウルブスの前進の手段としてあったのはアーセナルのCHをサイドに誘き寄せる形。アーセナルのSHがウルブスのCBまでプレスをかける意識があるのでそれを利用する。ウルブスのWBの守備にアーセナルのCHを引っ張り出せれば、ウルブスは中盤で数的優位になる。

 例えば13分のホワイトのファウルのシーンはアーセナルの中盤がずれたスペースを使われた形。ホワイトはファウルで止めたが、アーセナルとしてはこれで逆サイドまで展開されると辛い。

 まとめるとウルブスの攻撃については以下の通り

目的→手薄なサイドまで運び、大外&ハーフスペースでクロスを上げる
<手段>
①深い位置のネベスでのサイドチェンジ
②ライン間のポデンスでのサイドチェンジ
③WBでアーセナルの中盤を引き出してのサイドチェンジ

 この形が効くのはクロスに対してウルブスが十分な可能性を見せていたから。CFのヒメネスはもちろん、CHから攻め上がっているデンドンケルが秀逸。クロスが上がる!というタイミングでPA内に突撃していくことでアーセナルの守備陣に混乱をもたらしている。

 ウルブスは右WBのセメドにネベスが近づいていき右サイドの浅い位置からフリーでクロスを放り込む形が多かった。この形はちょうど前の日にセインツがスパーズを逆転勝ちした試合で見られた得点パターン。ネベスにはウォード=プラウズほどの精度はなかったので助かったけど、WBのそばにフリーのクロッサー+突撃する中盤の組み合わせは守る側からすると非常に厄介だった。

 アーセナル側がなんとか粘れたのは両CHの貢献によるところが大きい。クロスに合わせる役割に多くの人数をかけてくるウルブスに対しては、やはり最終ラインが4枚では心もとない。今のアーセナルにおいて最終ラインにヘルプに入るのは中盤の役割。でも、バイタルが空くのは嫌。エリア内は最優先ではあるが、バイタルの守備をウーデゴールに引き渡してから最終ラインに入りたい。撤退時は5-4-1のような形である。

 バイタルとPAのケアの両立、プレス時にはSHの裏のカバーなど、今のアーセナルのCHは守備においても非常に負荷が高い。ジャカ、トーマスとこの試合は立て続けにカードをもらっていてアーセナルファンを不安がらせたけど、この試合においては彼らの悪癖というよりも難しい加減のところを彼らに託した故のカードと言えそう。特にトーマスの警告はツケを払う類のもので覚悟でファウルをしたと見るのが妥当に思える。

 序盤で負荷の高いタスクをこなすCHが警告を受けたのは非常に痛かったが、DFラインに彼らの奮闘が加わることでウルブスのクロス攻勢を凌げたのもまた事実である。

■ライン間は格好の的に

 アーセナルはボールの保持でも苦しんだ。ウルブスは最終ラインにそこまで強烈なプレスをしてきているわけではないが、スペースを潰すのが抜群に美味い。

 この試合では前を向くことを優先したトーマスが時折最終ラインに降りる動きを見せることもあったが、ここからの縦パスは難しい。出し手というよりは受け手の問題。ウーデゴールがボールを受けるために降りてくるが、相手がついてきてしまいそこから先の展開が見えない状況であry。アーセナルのオフザボールの動きも乏しく、トーマスは無理に前を向いても出しどころに困っている様子だった。

 逆に言えばそれだけウルブスのライン間の管理がはっきりしていたということ。19分のラカゼットへのコーディのファウルからもわかるように、この日のウルブスはやばい位置で前を向かせるくらいならファウルしてでも潰すということが決まっていたかのようだった。

 プレビューではアーセナルはおそらくSBには時間を与えてもらえるのではないかと予想したが、ここは的中と言えそう。3トップの裏で受けてボールを前に進める余裕があったのは両SBであった。6分のシーンは両サイドのSBにだいぶ余裕があった。2枚を引きつけたホワイトの作った時間を生かしてSB→SBで前進が可能になった場面だった。

6分の場面

 特に左サイドの方がSBが受ける形を生かすことができていた。中盤の脇、WBの前でボールを持ち、同サイドのマルティネッリやジャカを使いながら自らも高い位置の攻撃に絡んでいく。57分のようにティアニー自身が裏に抜ける動きもうまく活用していた印象だ。

 左に比べれば右はぎこちなかった。もちろん、冨安とセドリックという属人性の部分も大いにあるけども、それ以上に裏を狙う動きが乏しかったことも気になる。プレビューで指摘したような手前に降りる動きとセットで使いたい裏を狙う動き(下図)はあまり見られず。

引き出してから裏を使う

 ラカゼットもウーデゴールも引いて受ける意識があまりにも強いため、コーディやサイスの裏を狙う動きがほぼ見られず。上の図ではサカが裏抜け役だが、最近のアーセナルにおいては右の大外はサカが固定なので、やはりラカゼットかウーデゴールのどちらかは裏に抜ける動きをもう少ししたかったところ。あくまで低い位置、ライン間にこだわる彼らの動きはこの日のライン間の潰しが鋭いウルブスにとっては格好の的だった。

 困った時に頼りになるのはセットプレーである。アーセナルは25分にガブリエウのゴールで先制。4分にも見られたニアにトーマス(従来はトーマスを使うことが多かった)を置く形を新しく仕込んだのだろうか?長身のCBを中央に残せるこのシステムで少ないチャンスからアーセナルが先制点をものにする。

 その後の前半の展開を見てもアーセナルの明らかなチャンスはここくらい。CKになんとか活路を見出したアーセナルはいつも以上に重要な先制点を持ってハーフタイムを迎えることとなった。

■数的不利に対する即断

 後半のアーセナルはリードを得たこともあり、比較的後ろ重心になることが多かった。従って、4-2-3-1というよりも5-4-1で受ける形が増えた。前線は無理にウルブスのプレスには行かず。ウーデゴールが気にするのはプレス隊の追従ではなく、後方のスペースのカバーである。

 アーセナルがもう一つ気にするようになったのは動き回るポデンス。後半は彼に対して、ホワイトがかなり深い位置まで追い回すようになった。少し目を離せば反転できるスキルの持ち主を自由にさせないように厳しくマークを行う。

 リードしているアーセナルにとって撤退守備から入ることはアーセナルにとっては悪くない話。クロスの上げ方次第では怖いチームではあるが、ウルブスの得点数の少なさから言ってゴール前に近づかせることが即失点につながるかは微妙なところである。中央をプロテクトする自信があるのならば持たせる判断に至るのは理解できる。

 ポイントになるのは自分達の時間を作れるかであろう。ボールを取り返した際に、敵陣に相手を押し込んで相手の攻撃を敵陣からきっちりスタートさせることができるのかどうかである。引き込むのはOKだが、ウルブスの守備に対して、自陣からのショートパスで相手の隙を作りながら前進できるかが大事。そうでなければ守備一辺倒の専制守備になってしまう。

 だが、その検証は志半ばに終わってしまうことに。もちろん、退場である。続け様に2回の警告で一気に退場まで追い込まれたマルティネッリ。『CHが2人ともカードをもらっている状況で、自分のロストから不意にピンチを迎えてしまってはまずい!せめてカード覚悟で止めよう!』と思ったのだろう。だが、それを2回繰り返してしまえば当然退場である。何してんねーん。

 というわけで保持で時間を作れるかの検証どころではなくなってしまったアーセナル。ここからは専制守備でウルブスのクロス攻勢を迎え撃つことになる。この試合のアルテタが良かったのは即時に割り切ってホールディングを投入した5バックへの変更を決断したこと。時には弱腰すぎるという批判を受けるアルテタの采配だが、この試合においては奏功した形。断言してもいいが、4バックのままだったら間違いなく失点していたと思う。

 ホールディングも大役を無事に果たし切った。ミスは許されないけども、ボールはたくさん飛んでくる!という途中から入るのが難しい状況でほぼパーフェクトで空中戦を制圧。ファビオ・シルバを投入したパワープレーに踏み切ったウルブスをシャットアウトする。

 いつも通りの退場、そして苦戦。いつもと違ったのは勝利という結果である。負ければ順位が入れ替わるシックスポインターを制したのはアーセナル。昨季のダブルという屈辱をなんとか晴らす辛勝を掴み取ってみせた。

あとがき

■守備の奮闘と一抹の不安

 グーナー各位、2022年の初勝利おめでとうございました。展開としてはがっぷり四つかやや劣勢の中で先制点をもぎ取り、更なる苦しい展開の中で勝利を手にしたのは非常に大きい。チームとしても前を向ける。

 守備陣は集中を切らさずに10人の時間帯をよく凌いだ。いつもは5バックにシフトすると弱腰と批判されがちなアルテタ采配だが、今日に関しては英断。結果が出れば官軍である。退場者はどうやったら減るのか?という部分はさっぱりわからないけども。

 内容面で言えば、右サイドの攻撃の構築は少し気になる部分だった。ラカゼットとウーデゴールの連携、裏を狙う動きが減ってしまうとどうしても大外のサカに全てを託す形になってしまう。現状だとサカの崩しの負荷が高いため、ここはなんとか軽減したいところ。ラカゼットやウーデゴールとトーマスやジャカとのつながりがいつもより希薄だったのは中央のコンパクトなウルブス相手だからという事情なのか、それとも自軍側の連携のせいなのかは今後も気にしていきたいところだ。

 攻撃の連携にはやや不満は残したものの、まずは選手監督はようやく結果を出して胸を撫で下ろしていることだろう。見ている側も一安心。ここからさらに内容を深めて上位を狙っていきたい。

試合結果
2022.2.10
プレミアリーグ 第24節
ウォルバーハンプトン 0-1 アーセナル
モリニュー・スタジアム
【得点者】
ARS:25′ ガブリエウ
主審:マイケル・オリバー

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