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「条件付きの合格点」~2022.1.1 プレミアリーグ 第21節 アーセナル×マンチェスター・シティ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■いつもと違うシティ戦

 プレビューでも触れたようにまずこの試合で着目すべきポイントは両チームのコンディションの差である。唯一の懸念であった冨安が間に合い、中5日という間隔で現状のベストメンバーを揃えることができたアーセナル。その一方で中2日の2セット目で、6-7人が3日前のリピートという決断を下したマンチェスター・シティ。

 順位で言えばシティが上だけど、日程の間隔込みのコンディションで言えばアーセナルの方が優位。加えて、第3節の前回対戦時にはいなかったラムズデール、ホワイト、冨安などの新戦力でバックラインの陣容が大幅に強化。足元の精度含めて上積みがある状態である。シティがここ数試合のパフォーマンスにおいて、過密日程を最も感じさせる部分はハイプレスの頻度と強度の低下。いつもは歯が立たないシティのハイプレスとアーセナルのビルドアップの差が埋まる要素がたくさんある状態で迎えた一戦となる。

 というわけでまず焦点が当たるのはいつもだったら許されないアーセナルの保持の時間は生まれるのか?そして、保持の時間を作ることができるとしたらアーセナルはどのように振る舞うのか?という部分である。

 結論から言えば、アーセナルはこの試合においてシティのハイプレスに屈する場面はほとんどなかったと言っていいだろう。シティのこの試合の非保持はデ・ブライネを前線に上げる形の4-4-2への変形。ウェストハム、サウサンプトン、ノリッジと対4-4-2との対戦が多かったアーセナルにとっては馴染みのある形でシティは臨んできたことになる。

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シティのプレス時の基本布陣

 毎試合レビューを読んでくれる方には耳にタコができている話だとは思うけど、2トップがプレスに来た場合はまずはGK+2CBの3枚で2トップのプレスをどのように広げるかが重要である。めっちゃ何度も使っている図。

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対2トッププレスへの駆け引き(エバートン戦より)

 アーセナルは2CHであるが、ここ数試合は明らかにトーマスに2トップの背後の中央で受けさせるというアンカームーブをさせている。ジャカはビルドアップへの関与がグッと少なくなり、IHのような振る舞いをすることがグッと増えた。

 守る側の2トップとしては幅を開き過ぎてしまうとトーマスへの縦パスのコースが開いてしまう。かといって、外に開くアーセナルのCBを放置すればドリブルで1stプレスラインを簡単に通過されてしまうというジレンマになる。アーセナルのビルドアップはまずはトーマスへの縦パスとCBのキャリーの2択を相手に突きつけることから始まっている。

 強度の低い相手ならば、簡単に縦にパスを入れてトーマスに前を向かせることができるのだが、シティは当然そういう相手ではない。トーマスに縦パスを入れるとベルナルドが出てきて撃退。いくら疲れているとはいえ、中央の攻撃のスイッチ役に簡単に主導権を渡してしまっては首位は走れない。

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間のトーマスへのシティの対応

 だが、トーマスを捕まえられたとしてもGKと2人のCBのボール回しを4-4-2だけで全て塞ぐのは困難。シティはプレッシングの強度が低く、極端に人員を前に傾けてのプレスもやってこなかったので、アーセナルのバックラインはいつものようにシティのプレスに窒息させられることはなく、いつもと違うアーセナル×シティとなった。

■先制点が示す意義

 アーセナルのビルドアップが成功したもう一つの理由は脱出口が用意されていたこと。具体的には両WGのサカとマルティネッリである。左のマルティネッリは裏に競るようなボールで相手のラインを下げることができるし、右のサカは相手を背負ってのポストというここ数試合での新境地で前線のボールの納めどころになっている。この試合の対面はこれまでの相手よりも対人が数段上のアケだったが、サカは難なくこの役割をやって見せた。

 ボールの出し手となれるラムズデールとホワイトの加入で出し手も整ったアーセナル。ポゼッションチームにとっては必要不可欠と言っていいロングボールでの脱出口が整っているのは非常に多い。今までのアーセナルはロングボールでの逃げ道はなかった。ボールの非保持側からすれば、逃げ道がない相手だからこそ強気にプレスに出ることができる。そうなると、もっとショートパスでの繋ぎはシビアになる。で、ミスって失点という悪循環に陥りやすい。

 ロングボールという手段があるからこそ、守備側にプレスに行くことの恐怖が生まれる。そうなれば、プレスにも迷いが生じ、ショートパスだって通りやすくなる。今のアーセナルはサカとマルティネッリという脱出口を用意することでようやく相手をビビらせるボールの保持ができている状況と言っていいだろう。

 アーセナルにとってはWG+ラカゼットの3人への長いボールを駆使しながら、シティのラインを下げる試みを行う。彼らでシティの陣形を縦に引き伸ばすとポストでトーマスやウーデゴールを前に向かせに動く。中央の2人の司令塔にフリーで前を向いてボールを持たせるのがアーセナルの攻撃の目的の一つとなる。

ロングボールでトーマスを前向きに

 ここからの攻撃の加速には左サイドが使われることが多い。ビルドアップの関与が少なくなったため高い位置を取りやすくなったジャカ、そしてティアニー、マルティネッリと相手の最終ラインに裏抜けを仕掛けられる選手がこちらのサイドの方が多いからである。

 途中投入で結果を残しているスミス・ロウがなかなかスタメン復帰できないのはマルティネッリの今のチームにおける役割がハマっているからだろう。サイドのプレスの脱出口と、裏にアタックをかけられるフリーランを繰り返せる。この2つに関してはマルティネッリはスミス・ロウよりも上である。

 特に、この試合のアーセナルのキーポイントはシティのプレスにビルドアップでどう対抗する?だっただけに、脱出口をなるべく多く用意しておくことは重要。当然、スミス・ロウにもスタメンの資質は十分にあるが、現状のマルティネッリの役割がチームにフィットしているため、スタメンを入れ替えにくいのだろう。

 ラカゼットやサカのポストを元に中央で前を向いた選手が逆サイドに振って、最終ラインを押し下げてPA内に迫る。ここ数試合、お馴染みとなっていたアーセナルの攻撃はシティ相手にも十分通用していたし、この形から先制点も生まれることになる。

 中央でのパス交換で半身で左に展開したウーデゴール。ティアニーから中央へのパスを受けたサカが左足を振り抜き先制点をゲットする。得点シーンで良かったのはウーデゴールの動きだろう。サカにはシュートだけでなく、ウーデゴールにラストパスを落とすという選択肢もあった。

先制点と2つ目の選択肢の話

 実際に使ったか使っていないかは問題ではなく、アタッカーの深い位置での局面において複数選択肢があること自体が好ましいのである。こうなれば相手の出方を見ながらより良い選択肢を選べばいい。今までのアーセナルにはそもそもアタッカーに選択肢などなく、むしろ苦しい局面をアタッカーの個の力でなんとかして選択肢を生み出さなければいけない状況だった。

 ウーデゴールのエリアへのフリーランの巧さはこのアタッカーの選択肢を増やす役割に非常に大きな貢献を果たしている。このシーン以外だと例えばマルティネッリのドリブルの仕掛けの際にもエリアに入り込むことで選択肢を与えていた。マルティネッリには使われなかったけど。これができればあとはこの巧さを相手を見ながらどのように活かすかを磨いていけばいいのである。

 というわけでスコアラーのサカに余裕のある状態で選択肢がある形を作らせたこと自体が成長。アーセナルにとってこの先制点は試合の主導権を握ることだけでなく、ここまで成長したことをシティ相手に示すことができたという点で大きいのである。

■プレスの連動を示したボールの刈り取り

 シティのビルドアップに対するアーセナルのプレスは積極的。トップのラカゼットから追い込むように方向を誘導し、後方の選手が追従したプレスでボールを取り切る。この追従におけるプレスで特に効いていたのはティアニー、トーマス、そして冨安の3人。シティはアーセナルの前線のプレスを交わして縦にパスを入れることはできていたが、そこから前を向くのに苦労。

 アーセナルは時折、CFのジェズスの降りる動きを離してしまい、反転させて前を向くことが多かったが、それ以外は上にあげた3人を中心に相手に強めのプレスをかけて反転を許さない。

 左に起用されたデ・ブライネは大きく開くことでフリーになろうとトライしていたが、これに対してもアーセナルは厳しくチェックをかけていく。43分のプレスは理想的で、デ・ブライネとスターリングでハイラインを突破しようとしたシティに対して、アーセナルはトーマスと冨安でぶっ潰して跳ね返すということができていた。

前線のプレスの方向づけ+後方のプレスの連動

 シティの面々は非常に動きが重かった。リピート起用されたメンバーは軒並みコンディションの悪さが目についたが、特に重たかったのはデ・ブライネ。たまに前を向いてボールを運ぶ機会があったのだが、簡単にアーセナルの守備陣に追いつかれて囲まれていた。外に開いても潰される機会が多く、なかなか前を向いて仕事ができない。

 アーセナルの先制点のきっかけもデ・ブライネのロストをホワイトが潰したところから。ウーデゴールがノープレッシャーでサイドに展開できたのは、潰されたデ・ブライネが守備に参加できず、中盤が数的不利だったからである。

 とはいえ、シティのチャンスはデ・ブライネがいる左サイドから。自らがボールを運べなくても、空いた穴にパスを通すスキルは一級品。左サイドのスターリングはこの日のシティの中で唯一元気な選手だったので、彼のフリーランでアーセナルのバックスをサイドに引っ張りつつ、空きやすくなるホワイトの周りを壊すという流れはできていた。

流れるデ・ブライネからホワイト周りを狙う

 ストロングであるシティの右サイドはかなりアーセナルがCHのスライドやトップの守備参加で人数をかけて圧迫していたので呼吸はできず。逆サイドに展開してスペースのあるホワイトの周りにアタックをかけることでアーセナルを中央からかち割ろうとする。アーセナルはガブリエウの素早い危機察知能力で逆サイドに早い段階でなんとか守っていた。

 とはいえ、シティのチャンスは数えるほどのこの形とセットプレーのみ。ボールを悠々と運び、前線にチャンスを供給できていたアーセナルの方が前半は優勢だったのは明らかだったと言っていいだろう。

■それでもデ・ブライネ

 後半の立ち上がりを見る限り、シティの戦い方に変更はなく、アーセナルが優位の盤面は変わらなかった。保持でもカウンターでもチャンスを生み続けるアーセナルが快調に追加点を狙う展開となった。

 流れが変わったのはいうまでもなくPK判定だろう。アーセナルは確かにポケットという危険なエリアに侵入されはしたが、明らかなエラーと言うべきかは難しいところ。ポケット深い位置でジャカはこれまでも敵のアタッカーを潰していたし、正直にいえばこの場面も問題なく対応できたように見えた。

 まぁ、ただハーフスペース深い位置に入ってくるという動きはシティの十八番。特にベルナルドはこの動きを頻発する選手である。この場面では入って仕掛けたことでベルナルドに得をさせてしまったというのもまた事実。VARの判定の一貫性が妥当だったかについてはここでは特に触れないが、アーセナルにとっては非常に厳しい判定となった。

 ここからアーセナルは負の連鎖が続く。シティの連携ミスで得たチャンスをマルティネッリが逃すと、直後のプレーでガブリエウが2枚目の警告で退場となる。

 アーセナルにとってはPK判定から悪い流れを断ち切れなかった。ガブリエウは1枚目の警告の妥当性がわからないという言い分もわからないではないが、どんな警告であろうと退場までリーチになっている状況を理解してプレーしなくてはならない。少なくとも、ジェズスへのファウルは2枚目の警告としては妥当。前半から降りる動きでボールを引き出していたジェズスには割り切って放置をしていたアーセナルだったが、この場面では直前の場面の出来事で冷静に判断できなかったガブリエウは遅れて相手を引っ掛けてしまった。この部分は素直にガブリエウに向上を促したいところである。

 同点となり10人となり一気に厳しくなったアーセナル。シティ相手ならば当然まずは4-4-1で引くことになる。マルティネッリ、サカが元気ならばまだシティ相手に穴を開ける可能性は十分に残されていた。

 だが、こうなるとシティの王道であるハーフスペースアタックに対応が遅れやすくなる。シティは右サイドからPKを得たシーンのようにハーフスペースアタックから深さを作り徐々にアーセナルのPA内に迫っていく。

 少しやってみて守りきれないと判断したのだろう。結局4-4-1でもハーフスペースはジャカが中盤から降りてスペースを埋めて守っていたので、受ける時間が増えるならば初めから5バックを並べるのがいいと思ったのかもしれない。アーセナルは5-3-1にシステムを変更。より割り切ってアーセナルが自陣に引いたことで、カンセロ、デ・ブライネがブロックの外からラストパスやミドルを放てる位置まで押し込んでくるようになった。プレビューで言うとこの図の状態である。

外からでも壊せるシティ

 アーセナルはサカとマルティネッリのガソリンが徐々に切れてきた事、ボールを奪っても人数をかけられなくなってきたことから、エルネニーを投入して5-3-1のシステムにおける割り切り感を強めに。引き分けやむなしにシフトする。

 だが、最後の最後にシティはアーセナルのブロックを打ち破る。仕事をしたのはここまでからっきしだったデ・ブライネ。アーセナルのバックスに対応の難しい軌道のクロスを入れると、最後はエリアに詰めたロドリが決勝点を得た。

 健闘したアーセナルだったが、PKと退場をきっかけに流れを引き戻したシティがアーセナル相手の連勝を伸ばすこととなった。

あとがき

■向上には胸を張れるが手放しでは誉めるのは先

 10分以内にミスから失点してゲームプランを台無しにし、省エネされながらボールを回されながら不用意な失点を重ねるというこれまでの凄惨なシティ戦に比べれば、アーセナルに内容面で向上があったのは火を見るよりも明らかだろう。

 とはいえ、当然懸念はある。まずは一つのジャッジで流れを完全に持っていかれたゲーム運びの拙さ。いい展開を退場者で台無しにするというのはアルテタになってからのアーセナルの課題。審判に恵まれていない!と言いたい気持ちはわからなくはないが、そういう環境に身を置いてプレーしている以上はできることは対応しなければならない。今回で言えばガブリエウの警告は2枚ともやや勿体無いような質のものだったように思う。

 もちろん、シティのコンディション面も懸念の一つ。彼らが万全でもアーセナルの保持に上積みがあったことは自信を持って強調できるが、ここまで優勢に試合を終始進められたかは微妙なところである。

 もう一つは戦前に挙げたシティの試合中のプランの変更に対応できるか?というアーセナルの課題について。劣勢ならばシティはプランを変えながら襲ってくるという想定だったのだけど、この試合のシティはそうした余裕すらなかった。より万全なシティならば、プランを変えながらアーセナルのプレス回避とビルドアップ阻害のやり方を模索してきたはず。その部分はクリアしたと言うよりもそもそも問われなかったことは覚えておかねばならない。

 もちろん、内容面では満足。このパフォーマンスを続ければ勝ち点を積める自信はある。試合運びの拙さはあったとはいえ、このアーセナルは明らかに前に進んでいる。だが、この試合では問われなかった部分もあることは忘れてはいけない。90分、プランを完遂できなかったことも含めて、条件付きで合格といえるパフォーマンスだったとするのが妥当のように思う。何より負けているのだから、当然改善点はある。このチームの完成はまだ先だ。

試合結果
2022.1.1
プレミアリーグ 第21節
アーセナル 1-2 マンチェスター・シティ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:31′ サカ
Man City:57′(PK) マフレズ, 90+3′ ロドリ
主審:スチュアート・アットウェル

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