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「セーブデータをロード」~2021.12.11 プレミアリーグ 第16節 アーセナル×サウサンプトン レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■駆け引きできていたビルドアップ

 誰がどう見ても前節のアーセナルのダメな点はビルドアップに凝縮されていたといっていいだろう。左サイドに落ちていくジャカ、相手の中盤よりも手前に落ちてくるウーデゴール、ラカゼット。これでは前進できるわけがない。

 エバートンと同じ4-4-2で構えるサウサンプトンが彼らと同じく前からプレスに来ることは何ら不思議ではない。あれだけ自陣側に集結しているのならばプレッシャーはかけるのはむしろ必然といっていいだろう。

 アーセナルが課題として直面しているのはまずは2CBが開いて相手の2トップとの駆け引きを行うこと。そしてGKのラムズデールをビルドアップで行うことである。

 2CBが幅を取れば、2トップはそれについていきたくなる。だが、GKがビルドアップに参加するならば、GK→中盤に直接パスを通されてしまうこともある。結局、CHが前を向いてしまえば守る側としては意味がない。なので、サウサンプトンの2トップはこのCHへの門をどれだけ狭めつつ、CBにプレスをかけていくか?ということがお題目になる。エバートン戦の図を転用するとこんな感じ。

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 もちろん、サウサンプトン側には2CHにそのままプレスをかけるという選択肢もある。この試合のアーセナルはジャカが左に落ちる頻度が前節と比べて著しく少なかったので、サウサンプトンのCHはアーセナルのCHには噛み合わせ的にはプレスをかけやすかった。

 そこにプレスをかけられた場合、狙いとしたいのは前に出て来たサウサンプトンのCHの後方である。ここで登場するのがウーデゴールである。前に出てくるサウサンプトンのCHの背中を取るように立ち、パスコースを引き出す。

 6分のガブリエウのパスミスはそのプレー自体はもちろん褒められたものではないものの、両CHにプレッシャーがかかっている際に、その背後のフリーの選手にパスを送るという選択自体はセオリー通り。ないに越したことはないが、どうせミスをするのならば、こうした意図はよくわかるミスの方が好ましい。

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 ウーデゴールの降りる動きのキーポイントはサウサンプトンの中盤よりも手前のラインまでは下りないこと。あくまで相対的に相手の中盤よりも奥の位置に立つことで、縦パスを受けた時に非常にボールが前進しやすい。

 サウサンプトンのハイプレスに対しての逃がしどころとして機能していたのは冨安。CBが引き付けながら冨安にボールを渡す。対面のテラはワンテンポプレスが遅れることが多く、冨安には一瞬時間が出来ることが多かった。

 CHもトップ下も過度にラインを下げないため、この冨安の位置にボールが入った時には選択肢が数多くある。サイドにフォローに行くトーマスが一番ベーシックな選択肢、逆サイドのCHのジャカは冨安にボールが入った時に左サイドに降りなければ中盤でプレッシャーを受けにくい状況である。

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 トーマスへの対面のディアロのプレスの意識が強ければウーデゴールがライン間で待ち構える。ここにCBが出てくるのならば、サカが裏を狙えば面白い。

 先制点を得たのはこの冨安からの脱出。同サイドのサカにボールを預けるとPA内にそのまま走り込んだ冨安を囮に、ラストパスを受けたラカゼットがゴール。ボール脱出からオフザボールの動きまで冨安の判断が光ったシーンだった。

 このシーンでもやはり無駄に列を落ちないことは効いている。ポジションを下げれば下げるほど、同じレイヤーにパスコースが被ってしまい詰まりやすい。かつ、問題なのは先に挙げたウーデゴールやサカのような縦へのパスの選択肢が少なくなることである。後ろにパスを出すことの繰り返しで、ビルドアップはどんどん後ろに重たくなってしまう。

 ジャカが左サイドに降りるというのは相手の1stプレスラインを越えるということだけを考えれば安定感は増す方向に行くのだけど、やはり先はない。前にパスコースはなくなってしまう。

    ガブリエウ、ホワイト、ラムズデールは少なくとも相手が2,3枚で来るのならばいなせる足元を持っている選手たち。なので、アーセナルの中盤の選手が行うべきは彼らに対していかに2,3手先のパスコースを作るポジションを取るかである。目先の1手目が苦しくなった時に初めてポジションを下げればいい。

 先の場面のウーデゴールも中盤を封鎖されたから空いた位置に下がりパスを引き出している。これはOKである。ターンして前を向く余裕があり、相手の中盤を越えられる可能性が高いからだ。

 要は相手の1stプレスラインを越えることは目的ではないということ。相手がハイプレスをかけてきた場合は相手の裏にはスペースがある場合が多いので、目的であるゴールを奪うことと1stプレスラインを越えることの距離が近づくイメージ。そういう場合には人をかける価値があるということである。

 冨安からのパスの選択肢がこれだけ用意できていたということはこの日のアーセナルは2,3手先が見えているビルドアップが出来ていたということである。ホルダーに対して適切なサポートを行うという点でも冨安は非常に優れていて2点目のシーンでは逆サイドからのボールの引き取りや、サイドを変えるファーへのクロスなど気の利いたプレーを披露。1点目同様にウーデゴールの得点の黒子役として輝いた。

 サカとマルティネッリもボールを引き出せたのはポジティブ。スミス・ロウの負傷をきっかけにポジションを得たマルティネッリだが、アバウトな裏へのボールの駆け引きで一気に相手のラインを下げる動きはスミス・ロウのレパートリーにはない部分。アバウトなボールを収めるという点でいえばスミス・ロウよりも優れているといっていいだろう。

 逆サイドのサカも相手を背負いながらボールを受けるシーンがかなりあった。サウサンプトンの守備の弱みはSBとプレビューで指摘したが、サカとマルティネッリはこのSBとの駆け引きで優位に立ったといえる。

 CFのラカゼットは彼らの活躍により、よりゴール前の仕事に集中できていた試合だった。1点目のシーンのように縦へのスイッチが入った時にやはりCFは相手の最終ラインを強襲できる位置にはいてほしいところである。

■サイドには自信ありだが…

 サウサンプトンの目線でいえば、アーセナルのサイドの守備を攻略することには自信を持っていた様子。16分のサカが警告を受けたシーンはその代表例。冨安を引き寄せたレドモンドと入れ替わるように、ウォーカー=ピータースが高い位置に抜け出し、サカの対応を後手にした。

 このサイドの立ち位置の入れ替わりはサウサンプトンの攻撃の肝と言えるシーンである。右サイドでもリヴラメントの推進力を活かしながら、大外からアーセナルのラインを下げるなどサイドからの攻撃面ではある程度は存在感を示せたといえそうだ。

 一方で中央で縦パスを刺すという観点になると、ロメウの不在が顕著に感じられるように。動き回るウォード=プラウズだけを捕まえてしまうと、中央のロメウから進まれてしまうというジレンマがサウサンプトンと対戦するチームにはあるはずなのだけど、この試合では中央からの縦パスの脅威をチラつかせることが出来ず。

 途中でアダム・アームストロングがいなくなってしまい、縦パスを背負いながら受けれる選手がブロヤしかいなくなってしまったというのも痛恨だった。

 この点でいうとアーセナルのこの日の縦パスは優秀。ジャカとトーマスはするどいスピードのパスやライン間のウーデゴールとラカゼットに楔をビシバシ通すことが出来ていた。

 後半に入ると前半よりもCH-CBの間のスペースをサウサンプトンが空けるようになり、ラカゼットやウーデゴールがここで受けることでサイドを変えながらサウサンプトンを押し下げていく形が出てくるようになった。

 セットプレーからのガブリエウの得点で試合は完全に決着したが、その後もアーセナルは猛攻を強めたため、ハーゼンヒュットルは5バックに変更してこれ以上の失点を防ぎに行かなければいけなかった。

 試合はアーセナルの完勝。ホームでの強さをまたしても発揮し、連敗を2で止めることに成功した。

あとがき

■リセットから戻ってきた

 サウサンプトンは負傷者、出場停止者が多くなかなかアーセナル相手から勝ち点をとるイメージはわかなかった。アーセナルとしては大勝に一喜一憂している場合ではないのは確かだが、ひとまず前節はやろうともしなかったことに取り組んだのは純粋に大きい。

   前節ではリセットがかかったように中身が真っ白だったが、今節はちゃんとセーブデータを読み出しながら相手と駆け引きをするビルドアップを思い出したようだった。

 とはいえ今季の8勝中5勝は今の16位から20位の5チーム相手に記録したもの。これを少しずつ上の順位のチームに通用する完成度まで高める必要がある。そういう意味ではウェストハムは年内では最強の相手といっていい。勝てば順位が入れ替わるロンドンダービーにおいてリセットがかからないように、まずはこの試合をしっかりと刻み込み自分たちのスキルが通用するかの腕試しに臨みたいところだ。

試合結果
2021.12.11
プレミアリーグ 第16節
アーセナル 3-0 サウサンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:21′ ラカゼット, 27′ ウーデゴール, 62′ ガブリエウ
主審:ジャレット・ジレット

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