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「方向づけで相手を誘導」~2021.12.18 プレミアリーグ 第18節 リーズ×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■チャンスの定義を体現し続ける

 SBのドラメーは先発デビュー、ベンチには馴染みのない名前がズラリと並び、サマーフィルを除けば誰が出ても今季初出場という若手ばかり。負傷者事情の深刻さ、ここで極まれりという感じのリーズのスカッドは悲鳴を上げている。

 対するアーセナルは連敗からの連勝中。ここ数試合の勝敗はくっきりと自分たちがやるべき内容をできているかに準拠していることが特徴。やることをきっちりやれば勝てる!という状況が続いていた。そして、この試合でもリーズを退けるために必要なことはきっちりできていた。

 まずリーズの守備を攻略するのに最も必要なことはマンマーク基調の守備をどう外すかである。攻略のきっかけになるのは攻撃側のCBの選手。リーズの守備はCFの選手が相手のCB2枚を見ることが特徴であるので、攻撃側はここの保持の枚数の優位を使いながら前進することが求められる。

 この試合ではCFを務めるゲルハルトの両脇からホワイト、ガブリエウがボールを持ちながら2列目を引き出しつつ、中盤の穴を開けることが十分できていた。立ち上がり、リーズに食らったカウンターも形自体は良好。ホワイトが保持から、相手の2列目に穴を開けることはできており、サカと冨安のところで相手との2対1を作ること自体には成功している。連携ミスでボールがリーズに渡ってしまったけども、トライはOKである。

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 中盤を動かしながらのビルドアップで中盤に穴を開けるシーンはこれ以外にもたくさん。『DF-MFのライン間でどれだけ前を向けるか?』は一般的にチャンスをどれだけ作れるかの指標の一つになると思っているのだけど、この試合のアーセナルはライン間で前を向く選手を作ることがかなり高い頻度で達成できていた。

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 このライン間の選手にパスを出すことでアーセナルはチャンスを創出。ここでボールを受けた選手は前の選手が裏抜けするタイミングを探りながらタメを作って待つ感じ。ラカゼットが序盤に迎えた決定機はこの流れ。ライン間で受けるウーデゴールが抜け出しのタイミングを待ってからパスを出した。

 このライン間で受ける役割はウーデゴール以外にもジャカ、トーマス、ラカゼットなど様々。特にリーズの最終ラインのラカゼットの降りる動きについていくか?やめておくか?という判断が遅れることが多く、先に述べた裏抜けのタイミングはこの遅れて出ていく最終ラインのギャップをついたものが多かった。

 ラカゼットのギャップに入り込んでいったのは左サイドの選手たち。前節好連携を見せたマルティネッリはもちろん、ティアニーも23分のシーンのように裏をとることを狙うシーンが多かった。

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 同サイドのドラメーはリーグ初先発だったし、ティアニーのオーバーラップでラフィーニャを押し下げることが出来てしまえばリーズに攻撃の機会が渡っても威力は半減する。リーズのマンマーク志向の強さをうまく使っていたアーセナルの左サイドだった。

■前線のプレスに見られた差

 プレッシングの観点でリーズにとって辛かったのはやはりバンフォードの不在。2人のCBに対して、どこまで追い込むか?そして、後方の選手がどちらにプレスをかければいいかを誘導するようなボールの追い回し方がバンフォードは抜群。この日の先発のゲルハルトはその点では物足りなかった。というかそもそものタスクの難易度が高すぎて。本当にそんなことができるのか自分を信じ切れていないようにみえた。

 この日は不在だったが、トップを務めることが多いジェームズが先発の時もうまく機能しないことの方が多いので、平然とこなしているバンフォードの質が高いとみるのが妥当なように思う。

 リーズのボール回しはショートパスが多く、大きな展開が少なかった。そして、このショートパスに対してアーセナルが厳しくプレスに出たことによりリーズのビルドアップは非常に苦しくなる。

 この日のリーズのビルドアップは左サイド循環になることが多かった。理由としてはGKのメリエが効き足サイドへのキックが得意であり、ボールを持てるCBであるエイリングが左側にいたことが挙げられる。前回対戦でサカがメリエの左足を切るように追い込んだのを覚えている人もいるかもしれない。

 アーセナルは前回のようにメリエの左足を切るのではなく、メリエの蹴る方向に狙いを定めてプレスにいった感じ。リーズとは逆にトップのラカゼットが方向を規定しながら追い込むことで、リーズの左サイドにプレスの的を絞ることが出来るようになっていた。

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 このプレスの副次的な効果として挙げられるのはCHであるトーマスが早い段階でサイドに流れながらプレー出来ること。誘導が出来ていればボールの出る方向を予測しながらあらかじめ高い位置でつぶすことが出来る。

 リーズの降りていく中盤に対して2列目とCH、SBで挟んでいくように囲い込むアーセナル。自陣からのビルドアップ以外のチャンスの源はリーズのショートパスでのビルドアップをとがめてからのショートカウンターである。中盤と2列目で挟んでボールを取り切り、リーズの陣形が乱れているうちに楔を打って、最終ラインを破壊するという形で多くのチャンスをアーセナルは作った。

 先制点もこのショートカウンターから。サカがボールをひっかけると最後にゴールを叩き込んだのはマルティネッリ。ゴールを積み上げる姿勢に入ったWGはきっちりと結果を出して見せる。

 リーズはこのショートカウンターに対応できなかった。元々ショートパスでのプレス打開に長けているチームではないし、ひっかけてしまったときの被カウンター対応も得意ではない。前半からメリエのファインセーブがベラボーに増えてしまったのも仕方ない話といえるだろう。

 本来であれば大きな展開をベースに相手を左右に振りながら、オフザボールで優位を取って相手を強度で上回るというのがリーズの十八番。それが出来るのは中盤で前を向けば左右に自由に展開ができるフィリップスがいるときである。でもそれが出来ないとなると、左右に動かす手段がなくなってしまう。そうなると、何のためにどうボールを動かしていいかがわからなくなる。

 ラフィーニャというフィニッシャーは決まっている。でもどうやって彼まで運ぶか?が見えてこない。そうなるとボールを受け取りにラフィーニャが中央や低い位置まで下りてきてしまうように。すると幅が取れずにさらに苦しくなるという悪循環に。

 属人性による機能低下が著しいリーズにはなかなかできることがなかったように思う。アーセナルのCBの持ち運び、ハイプレス、ショートカウンターはリーズの特色に合わせてきっちり対策がされており、リーズに勝つために正しく向かうことが出来ていた点で評価が出来る。

 リーズの人員を考えるとどれだけ高いレベルでできていたか?という点で話すのは難しいが、冒頭に述べたように勝つのにはまずは必要なことを行わなければいけないのが今のアーセナル。2点目、3点目も自らのやるべき形から見事に得点につなげて見せた。

■冨安の負傷で難が露わになる

 縦にパスを入れれば一気に前進もできるし、チャンスもできる。そういう状況が手伝ったのか後半のアーセナルは少し急ぎすぎているように見えた。簡単にチャンス創出が出来るゆえに前にとりあえず付けたくなってしまう。縦に縦にで雑になりすぎてボール保持で試合を制御するという観点に欠けていたように思えた。

 リーズは後半になりラカゼットへの対応を非常にクリアにした。コッホがどこまでもついていくことによってチェックの遅れを防止。余談だけど、シティがやっていたグリーリッシュやフォーデンの最終ラインに落ちる動きをラカゼットも割と普通にやっていたのには笑った。

 加えて、中盤の守備のソリッドさも増したリーズ。前半よりも敵陣寄りの位置でボールを奪えるようになり、アーセナルを押し込む機会が増えていく。

 3点差がついているとはいえ悪い流れが続いていくアーセナル。さらに冨安が負傷したことで右サイドの守備に不安要素が増えてしまう。

 冨安がいたとしてもCB-SBのスペースが開いてしまうという課題は変わらないが、寄せるときの距離が遠くホルダーの選択肢を制限が出来ていないという点でセドリックと冨安にはだいぶ差を感じてしまう。チームとしてある難を隠すのが冨安の方がうまい。

 保持時のリスク管理もSBが代わったことでピーキーに。この日は逆サイドのティアニーがオーバーラップする機会が多かった分、右の冨安はかなりオーバーラップを自重していたのだが、セドリックが早い段階で攻めあがったままでカウンターを食らうことで、ピンチに陥る機会が増えたように。トランジッション局面でも脆さが増したのは気になった。

 右サイドでリーズにPKを与えてしまったのはホワイトの軽率さもあるが、セドリックのホルダーへのチェックの甘さも起因しているだろう。ここは冨安から代わったことで残念ながら難が露わになってしまった部分だ。

 そういう難しい展開に陥りかける中でトーマスとジャカには頼もしさがあった。特にジャカはゲームを落ち着かせようと攻撃のペースをコントロールしようと試みていた。遅延警告をもらうのはやりすぎではあるが、キャプテンが不在となったチームにおいて現場レベルでこうした引っ張る動きを見せる選手が出てくることは歓迎できる。

 エランド・ロードにただよう怪しい空気を落ち着かせようしたのがジャカならば、断ち切ったのはスミス・ロウである。前半のようにショートカウンターからの得点で試合を完全に決定づける。ウーデゴールからのアシストは真後ろからのロブパス。蹴るタイミングも決まっていたし、GKの位置を確認しながら打つのが難しい状況で、よく決めきって見せた。

 前半は試合を掌握し、後半は怪しい空気から逃げ切ったアーセナル。リーズファンによってタオルが振り回されるエランド・ロードにて完勝で連勝を3にのばした。

あとがき

■プレスの改善はプラス、不安要素は過密日程

 まぁ、ちょっとこのメンバーではリーズは厳しかっただろう。玉砕覚悟で来ようにもそもそも燃料がなかったように見える。尖った戦い方で前プレに迷いが出てしまうとなると、チーム全体がコミットするのが一気に厳しくなるのは明白だった。週末はリバプールという地獄が継続されるが、まずは何人選手が戻ってこれるかだろう。

 あらゆる局面に差があったが、一番差があったのは前からのプレス。アーセナルのショートカウンターは前線からの追い込み方が優秀だったからこそである。相手の保持に対して方向づけすることでボールを奪い取り、優位に立つことが出来た。

 アーセナルは最悪な12月から徐々にリカバリーが効くようになってきた感じ。ここからの過密日程でどのようにスタメンを組んでくるかは気になるところ。特にラカゼットの去就が不安定で、オーバメヤンのカムバックが未定のCFのオプションはどのように考えているか。11人で戦いきれない年末年始はもう目の前だ。

試合結果
2021.12.18
プレミアリーグ 第18節
リーズ 1-4 アーセナル
エランド・ロード
【得点者】
LEE:75’(PK) ラフィーニャ
ARS:16’ 28’ マルティネッリ, 42’ サカ, 84’ スミス・ロウ
主審:アンドレ・マリナー

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