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「プランに対する実直さ」~2021.11.30 プレミアリーグ 第14節 マンチェスター・ユナイテッド×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■多少強引でも成り立つプレス

 ラングニックの正式な暫定監督就任が発表されての初戦。アルテタはユナイテッドを『どういうプランでくるかわからない』という点で怖さがあると評した。

 だが、マンチェスター・ユナイテッドは特にラングニックの色を強く打ち出すことはなく、ショウとワン=ビサカの2人のレギュラー格を欠くSB以外はスールシャールが選んだと言われても遜色ない11人がスタメンに名前を連ねた。

 アーセナルもユナイテッドも序盤はそれぞれのチームが自分たちのやるべきことに注力している印象を持った試合だった。アーセナルは低い位置からの繋ぎと高い位置からのプレッシング。自分たちが保持して押し込むために必要なことを黙々とこなしていた。高い位置まで押し込めればそのままハイプレスに移行。ビルドアップの得意ではないユナイテッドのバックスにプレッシャーをかけていく。

 一方、ユナイテッドも高い位置からのプレッシングでアーセナルの繋ぎを阻害しようと試みる。特徴的だったのは両WGの守備意識。彼らは中央に絞りながらプレッシングをかける。ボールサイドでないWGはCHにプレッシングをかけることがポイントの1つ。もう1つはユナイテッドのCHが出てこなくともアーセナルのCHにプレスをかけることができること。仮にプレスを交わされて前を向かれたとしても最悪縦パスを止めることができる。

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 アーセナルとしてはサイド(図で言えばタバレス)が手薄になるので、こちらにビルドアップのルートを切り替えたいところ。だが、CHのコンビがこの日は冴えない。エルネニーは自分で前を向けず、トーマスも反転には広めのスペースが必要なタイプ。多少強引でもとりあえずプレッシャーが間に合えばユナイテッドとしてはまずいことにはならない。彼らよりは相手に背中を見せながら反転しつつ受けるロコンガがスターターでいればこの部分はもう少し良かったかもしれないアーセナルであった。

 だが、アーセナルもからっきしダメだったわけではない。CHが自分で前を向けないのならば、前を向かせてもらえばいい。CBは時間をもらえることが多かったアーセナルは2列目がポストをすることでCHが前を向くことができれば前進が可能になる。

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 手はかかるが、一応前進の手段はあるアーセナル。ただ、正面からぶつかるとユナイテッドクラスのプレッシングだと前進が難しいことはよくわかった。できれば、もう少しラムズデール起点のビルドアップを整備したいところ。この試合でもラムズデールのフィードから始まるビルドアップはあったのだが、誰がどこに動く形で受けて、そのサポートに入るのは誰なのか?というパターンが整備されていなかった。

 ラムズデールのフィードがいくら綺麗でも、それ一つで前進ができるパターンは限られている。特に、この試合のように高い位置からのプレッシャーでなかなか後方の選手が前を向けない状況ならば、前線のスペースへのランでラムズデールからのボールをどう生かすかについて考えないといけないだろう。

方針よりも中身の話

 アーセナルが持ちつつ、ユナイテッドがカウンターで時折反撃。そんなパワーバランスが壊れたのはアーセナルに先制点が入ってからである。得意のセットプレーの流れから得た先制点。スミス・ロウが逆足で放ったミドルは味方との接触で痛んでいるデ・ヘアの横をすり抜けていった。

 先制点が入ったことでスタンスを大きく変えたのはリードを奪ったアーセナルの方だった。機能していた高い位置からのプレッシングを取りやめて、撤退を優先するようになった。

 このプラン自体は無しではないだろう。ユナイテッドは撤退したブロック相手に多様な崩しを見せることができるチームではない。得点はカウンター主体のものが多く、じっくり崩す手段よりは手早く攻略してしまう方が得意なチームである。従って、方向性としてはまず撤退を考える姿勢はあってもいい。

 だが、この日のアーセナルのこの方針には問題点があった。まずはラインを下げ過ぎてしまうこと。アーセナルはバックラインにCHを吸収させるなど徹底的に後ろを埋める方針を重視した守り方をしていた。従って、全体を押し上げられるユナイテッドはボールを失ったとしてもフレッジやマクトミネイが高い位置から奪い取ることができる。

 アーセナルは先ほども述べたようにCHがプレッシャーがかかっているところでのターンが得意ではなく、ビルドアップの出口にはなれない。2列目がCHに前を向かせるために下がってしまうとなると、全体の重心が低くなりさらにユナイテッドの圧力をモロに食らってしまう。前線にも独力でボールをキープできる選手がいない。長いボールも収める形がパターン化しておらず、ボールを捨てているようなものである。

 もう一つ、アーセナルがよくなかったのは撤退時の守備のクオリティである。述べたように最終ラインにCHが吸収される形が多かった。一般的に中盤が最終ラインに吸収される形で多いのは5レーンを埋めるためである。例えばシティ戦のウェストハムのソーチェクとかはこの動きをしていた。

 だが、この日のアーセナルは最終ラインに落ちるCHにニアのハーフスペースを埋める意識がなかった。そのため、サイドに人は流れるけども悪戯に人数がいるだけでどこも封鎖されていないという状況に。

 そもそも、この試合のアーセナルの2列目の守備のスタンスが総じて後ろ向きなせいでボールホルダーにプレッシャーをかける優先度が非常に低かった。ホルダーの選択肢を制限できていないのがまず大きな問題点である。前を向かせた時のチャンスメイクで言えば、最も警戒しなくてはいけないブルーノ・フェルナンデスにすらプレッシャーをかけず、前を向かせて自由にプレーをさせる。かつ、CHがサイドに流れるためバイタルは空き放題。撤退守備そのものがダメというよりも、この質の撤退守備では守れるものも守れない。

 ユナイテッドが追いついた場面もアーセナルの対応の拙さが目立つ場面だった。フレッジの走り込みに対して、トーマスはカバーに入れる位置に立っておらず、マルティネッリはとりあえず戻っているだけでパスコースを切れていない。彼がサンチョの右足の方向を切れれば、冨安がフレッジへのパスは切れたかもしれない。

 エルネニーがフレッジが入ってくるタイミングで捕まえられないのは仕方ないとしても、その後はエンドラインに方向にプレーを強要させるようにマイナスを切りながらフレッジに寄せるべき。距離的にももう一歩詰めるのが甘く、結局寄って行ってマイナスに通されるならばそもそもサイドに出ていく意味がない。

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 外は5対3、PA内は3対2といずれもアーセナルが数で言えば優位に立っている場面ゆえにアーセナルのローラインでの守備がいかに上手く行ってないかがよくわかる。特にこの試合では2列目の出来が悪かった。自陣に下がることをサボっているわけではないのだが、バイタルを開けたりホルダーを放置する割にはサイドには流れていくという風に優先順位がめちゃくちゃ。サイドに流れたら流れたでまずはニアのフリーの選手を使われることだけは避けて欲しいのだが、それもできない。

 何もこの基準で動いているのはこの場面だけではない。前半終了間際という時間帯的にもきつい失点だったが、この日の守備の精度でいえば失点は時間の問題だった。ブルーノ・フェルナンデスの得点はアーセナルのローラインの守備ブロックの問題点が凝縮された失点場面だったと言えるだろう。

■2回やれば勝てない

 後半頭、プレッシングに出るアーセナル。だが、右サイドの裏にアバウトに蹴り飛ばすことでユナイテッドはプレス回避。無理に繋ぐことなく、ユナイテッドはアーセナルのプレスに向き合わない。

 ペースを握れないアーセナル。陣地回復のために左サイドの攻め上がりでタバレスが積極的なポジトラを見せる。しかし、このポジトラの早さが命取りに。攻め上がりの早さには定評があるタバレスだが、前を向いた後のパスを引っ掛けがちなこの日のアーセナルにとってはその開けたスペースが穴になることも多い。

 ユナイテッドの逆転弾はその一例。ガブリエウがサイドに釣り出されて一つずつ外されていく。ロナウドにとってはおそらく何万本も決めてきたシュートだろう。ああいうボールを受けたらファーのネットを揺らすと体が覚えているかのようなゴールだった。

 アーセナルもワンチャンスで追いつく。IHの落としを受けてトーマスに前を向かせる形は前半から狙っていた形。ようやく狙い通りのゲームメイクから右の大外へトーマスから大きな展開を見せることができた。マルティネッリのマイナスへのクロスとウーデゴールのファーへのシュートはどちらも技あり。前進がうまくいくようになった途端、アーセナルは同点に追いつく。

 しかし、アーセナルは再度フレッジが侵入する形から攻略されてしまう。もちろん、ウーデゴールがタックルに行く必要があったのか?という議論は必要である。だけども、それ以前に最終ラインにCHが吸収されているにも関わらず、ニアのハーフスペースを埋めるのがトップ下のウーデゴールとシチュエーションがハッキリいって意味不明。

 本来であればおそらく最終ラインに吸収されたCH(=トーマス)がこの位置にいるのが普通なはず。ウーデゴールがカバーに入ること自体がイレギュラーである。加えて、この場面は攻撃の流れの後からユナイテッドが大外で陣形を整え直している比較的静的といっていい状況。陣形を立て直す時間はあった。それでいて、これだけイレギュラーな対応になっていることがおかしい。

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 1点目もそうだけど、まずはニアの選択肢を消してファーのフリーに正確に届けさせるか?というのを保持側に強いるのが撤退守備の基本。デ・ブライネやアーノルドのような一瞬の隙でファーにピンポイントのクロスを合わせられる選手が世界的に希少なのは、多くのチームが守っているこの基本を壊すことができる。ニアで壊し切れるならわざわざファーに振る必要もない。この試合のアーセナルはその多くのチームが守っている基本ができていなかったように思う。

 試合終盤に冨安が決定機を防いだ場面があったが、あの場面は鉄則に従った場面。まずニアの選択肢に対してタイトに寄せてファーは諦める。仮に出されたらスライドする。それがセオリーである。冨安がきちんと守ったセオリーをこの試合のアーセナルの中盤の選手たちは実践できなかった。

 このレベルの試合なのだから、2回同じミスを繰り返してしまえば勝てないのは当然である。保持で終盤主導権を握り返したのもトーマスにプレッシャーをかけるのをユナイテッドがやめて、撤退しながら中央を固めることを優先したという要素が大きく、アーセナルの保持に光が見えたわけではない。むしろ保持の局面では、パスが弱まりユナイテッドのプレスを振り切ることができなかった印象の方が強い。

 試合はそのまま終了。ラングニックが見守る中、ユナイテッドは未勝利ロードを脱出。試合後に退団を発表したキャリックのラストゲームを飾ることができたユナイテッドであった。

あとがき

■当たり前を当たり前に

 ラングニックらしさという部分が出るのはまだ先だろう。前線のサイドアタッカーの守備基準はやや目新しかったが、それ以外の強みだったり弱みだったりはスールシャールが率いていた時と大きく違わない。モチベーションの違いはあったかもしれないけども。色がつくのはここからの話である。

 この試合の差を分けたのはプランに対して出場した選手たちがどれほどコミットできたかだろう。ユナイテッドの選手たちは今までの試合で強みになっていた部分を愚直にやり続けた。降りる中盤に対してプレスをかけつつ、保持ではニアに走り込むフレッジもそうだし、アーセナルのバックラインのズレにしっかり走り込んだロナウドもそう。終盤、ファウルがなければあわや独走!という場面とかは運動の絶対量がなくとも力の配分の仕方をわかっているロナウドらしい場面だった。

 アーセナルに関してはそれができていない選手が多かった。例えばエルネニー(彼1人が頭抜けて出来が悪かったということではない)は前を向けないのは仕方ないとしても、守備での体の寄せ方とかどこから寄せていくか?とかの優先度が整理されている部分を期待されての起用だと思うのだが、この試合で言うとその出来に答えられなかった(彼だけのせいではないが)という意味で出来に疑問符をつけられるのは仕方ないと思う。

 ほぼ、固定メンバー制の11人で戦っていることが懸念となりえた12月のアーセナル。変わったなりに実直に戦うことができれば、オールド・トラフォードだろうと勝ち点は持ち帰れたはず。完成度の差というよりもプランに対してコミットできなかったという理由で失点を重ねて敗れてしまったことが非常に歯痒い。

試合結果
2021.12.2
プレミアリーグ 第14節
マンチェスター・ユナイテッド 3-2 アーセナル
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:44′ ブルーノ・フェルナンデス, 52′ 70′(PK) ロナウド
ARS:13′ スミス・ロウ, 54′ ウーデゴール
主審:マーティン・アトキンソン

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