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「視線はアンフィールドへ」~2021.11.7 プレミアリーグ 第11節 アーセナル×ワトフォード レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■手当てありきで制限しきれない

 過去の自分のツイートを振り返ってみるとアストンビラ戦の勝利の段階でこんなツイートをしている。

 先に行われたマンチェスター・ダービーでユナイテッドが敗れたため、ワトフォードに勝てば5位浮上が確定するアーセナル。混戦の中で狙いの3連勝を成し遂げれば、予想通り欧州カップ戦出場権争いに名乗りをあげるところまではたどり着くことになる。

    この試合のスタメンの中で最も気になるのはメイトランド=ナイルズの中盤起用。トーマスの欠場に伴い抜擢されたナイルズがどの程度のパフォーマンスを見せるのか?が最も大きなトピックスになるだろう。

 行動範囲が広く、ピッチのあらゆる場所に顔を出せる長所がある一方で、ボールのコントロールが跳ねやすく、判断が遅かったり、甘かったりしてしまうという課題があるのがメイトランド=ナイルズ。したがって、中盤がタイトな状態で受ける場合にはこうした短所が目につきやすい。

 プレビューで触れた通り、ワトフォードの守備の一番の長所は中盤の寄せの早さである。クツカ、シソコなどがボールを前向きに取りに来た時にメイトランド=ナイルズがどのように対処できるか?がアーセナルの保持の最も気になる点であった。

 そんな中で序盤に見られたのはメイトランド=ナイルズが左の低い位置に落ちる動き。アルテタとしてはまずはプレッシャーのかかりにくい位置でプレーをさせようという部分もあったのかもしれない。いきなり不安要素と真っ向から向き合わないといけない中盤中央よりはまずはサイドから慣れさせる。そんな意図だったのかなと思う。

 その分、割を食った感じがあるのは他の左サイドの選手たち。高い位置でスタートするタバレスは個人的にはまだ被害が少なかった方かなと思う。相手を出し抜ける鋭いオーバーラップが見られないのは少しもったいない感じもするが、止まった状態で高い位置を取ってもどうしようもない!というわけではない。

 立ち位置が変わった時に効率がグンと落ちるのはむしろスミス・ロウの方。低い位置まで一度落ちてしまうと高い位置を取りなおすのにやや時間を要するため、得意のゴールに近い位置でのプレーからは遠ざかってしまう。

    本来の立ち位置ならメイトランド=ナイルズがボールを受けるであろう中盤の低い位置におりる場面が何回があった分、スミス・ロウは高い位置での仕事量が割引だった。安全策の裏にはちょっと不便さがあった感じである。

 アーセナルがこの試合で行った後ろを厚くして左サイドはSBに幅を取らせるために高い位置まで上げる5レーン的なやり方は本来ならば大外を打ち破れてナンボである。だけども、この試合のワトフォードの守備は少し毛色が異なった。

 アーセナルが大外までボールを回すとワトフォードのSHが自陣深い位置まで埋めるというケースが非常に多かった。まぁ、もちろんあり得る話なのだけど、アーセナルがまだその場所に人数を集めた崩しが出来なそうな場面でも下がってする守備が多かった。

 まぁ、気持ちはわからなくはない。とりわけ左のSHを務めたデニスは自身が最終ラインまで戻らなければ、ほぼ間違いなく同サイドのSBのローズが突破を許すか、軽率なファウルを犯すかの2択。ローズにサカとの1対1は託せなかったというのは、どこのチームを応援していようとこの試合を見ていたファンならば共通認識として感じていたはずである。

 とにかくワトフォードの守備は最終ラインに人を多く送り込むことがベース。相手が多角形での崩しに挑んでくるようならばIHも低い位置に下がりスペースを埋めに行く。

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 もちろん、こうなるとアーセナルが縦に進むのは厳しい。一方でワトフォードはアーセナルの横方向に制限をかけていない。彼らの優先順位は常に後ろ。とくにSBを打ち破られないことである。だけども、彼らはボールより速く動くことはできない。アーセナルが横の選択肢を持つ限り、薄いサイドは作られてしまうのである。

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 縦を塞いだならば、アーセナルに縦に進ませるように誘導させなくてはいけない。だけども、この試合のワトフォードには縦は食い止めても、横の選択肢を封じることが出来なかった。

 アーセナルの横移動はスムーズだった。横のプレッシャーは皆無なので28分手前のように逆サイドの冨安まで素早く展開して薄いサイドを作るのも余裕。3分のロコンガが浮き球で裏を取ったシーンのように人数をかけた最終ラインは面ごと裏取りでぶっ壊すというセオリーもこのワトフォードには効く。

    結局、最終ラインへの意識が向きすぎるゆえに、その前のスペースをフリーにしてしまうのが彼らの守備の問題点だ。サイドでホルダーが静止した状態で相手と対峙できれば内側のマイナスのスペースはがら空きになる。このスペースを与えてくれるのならば、跳ねやすいメイトランド=ナイルズのボールコントロールも大した問題にはならない。オフサイドで取り消されたサカのシュートシーンのようなチャンスメイクもできるようになる。

 なので、この試合のメイトランド=ナイルズのハイパフォーマンスは頼もしい反面、中央のスペースを進んで空けてくれる相手に助けられた部分は否めない。それでもカウンターからピンチの芽を摘むネガトラも含めて、この試合の彼のパフォーマンスはポジティブにはとらえるべきではある。

お守りの影響は攻撃にも

 正直なことをいえば、この試合はアーセナルの保持の巧みさよりもワトフォードの拙さの方が気になる部分が多かった。プレビューでも触れたローズの今季のひどいパフォーマンスは相変わらず。ラカゼットに犯したファウルで与えたPKはいくら何でも注意力が散漫だろう。ゴールにも向かえていない選手にあんなチャレンジをする必要自体皆無である。

    サカとのマッチアップで劣勢になるには仕方ないにしても、止めた!と思ったらデニスだったというパターンがあまりにも多かったのは辛い。SBをフォローするところから設計が始まっている故の不具合であると思う。まずは守備でアタッカーの負担を減らせるSBがほしいところだろう。

 ただ、ワトフォードの前線もプレスバックする献身性以上のものを守備で見せるのは難しかった。アーセナルのバックラインが持つボールをどこに誘導するかがあいまいで、プレス隊としては後方の守備を助けられなかった。人と人の間から運ばれそうになったところを慌てて後ろから止めてファウル!なんてシーンの連続だった。

    ホワイトの持ち上がりがいつも以上に目立っていたのはワトフォードのプレスが3トップ基調であり、中央でプレス隊のラインを越える難易度が低くなかったからである。ちょっと持ち上がりすぎて怖いシーンもあったけども。

 攻撃に目を転じてもなかなかポジティブな面が見えてこないワトフォード。どの選手も局地戦の域を出ず、懐の深さを活かしながら冨安にイエローを出させたサールを除けば存在感は薄かった。

 デニスはサールよりも抜け出したところで勝負したいであろうが、ローズのお守りに大忙しではそんな状況は望むべくもない。逆にいえば、アーセナルは押し込み続けることで局地戦の機会そのものをワトフォードから取り上げたといっていい前半だった。

可能ならばとどまりたい

 後半の試合運びからアーセナルが学ぶべきことは2つである。1つ目はバックラインへのプレッシャーが緩い相手と戦うのならば、CHは左落ちを無理にせずに中央に留まりながらのゲームメイクを行うべきということである。

 後半はメイトランド=ナイルズとロコンガが中央にいることでよりサイドの高い位置にスムーズにボールを供給できるように。ワトフォードのSHとSBの間を通し、サカやタバレスのいる大外にスムーズにボールをつけることができた。

 こうなるとより深い位置まで侵入できるようになるアーセナル。するとようやく待ちに待った先制点が生まれることになる。前半から光っていたホワイトの持ち上がりから引き取ってシュートまで持って行ったのはスミス・ロウ。またしてもゴールをこじ開けた10番の活躍でアーセナルが前に出る。

 スミス・ロウは前半に比べると明らかに後半の方がPAで存在感を見せていた。メイトランド=ナイルズが左サイドに下がった分のバランス取りをする必要がなくなったからだろう。スミス・ロウが前への推進力を見せられる機会が増える点もCHが中央に残ってゲームメイクをするメリットである。前半からの攻め手に後半からの改良をかけ合わせた見事なゴールだった。

 もう1つの教訓はやはり、受けに回ると怖さがあるということである。サイドの縦関係の守備の連係の部分は未解決でこの試合もニアゾーンに走られながら後手を踏むシーンが散見された。SH-SBの連携もそうだけども、CB陣も含めてポケットに入った選手への対応は総じてうまくはない印象。ホワイトとラムズデールがあわや!というシーンがあったように、前向きな守備だとやり切れるホワイトもややケアレスな部分が顔をのぞかせてしまうこともあった。

 大外アタックを軸に攻め込むワトフォードに対して苦戦するアーセナルだったが、終盤にクツカが退場してしまいワトフォードは万事休す。反撃を小さい被害で収め、逃げ切ったアーセナルが見事3連勝を達成した。

あとがき

■方針は見えなくはないが…

 今季のワトフォードに対してはムニョス政権の際に『輪郭がはっきりしない』と評したことがある。それに比べればやることはクリアだったものの、SBのカバーのために最終ラインに守備者を揃えるというコンセプトそのものの歪みがあまりにも大きすぎるだろう。

 まず守備から入るという立ち上がりはわからなくもないが、ラニエリになっても20試合を越えるプレミアでのクリーンシートなし記録はとまらないし、敗れた7敗は全て無得点という苦境である。固め打ちor沈黙と両極端な成績だが、この試合は沈黙。試合後にゴール局面の振る舞いについてはっきりと怒りをあらわにするラニエリとはまさに対照的な内容になってしまった。

■まさしく次節は『チャレンジ』

 盤石とは言い難い試合だっただろう。ラムズデール&ホワイトの連係ミス、ロコンガのターンで捕まった場面は非常に冷や汗をかいた。もちろん、PKをはじめ得点機との相性が悪かったオーバメヤンも例外ではない。

 それでも支配できる時間は徐々に伸びている感もあるし、これだけ得点につながる決定的なシーンでのミスが増えても勝ち切れるというのは強くなってきた証拠なのだと思う。

 勝ち点2差でCL出場権を射程圏内に入れたアーセナル。次節のアンフィールドでの試合は4位を賭けた一戦となる。多くの人が述べている通り、ここは序盤戦の総決算。アーセナルがCL出場権争いに肩を並べられるチームなのか証明するチャレンジとなる。

試合結果
2021.11.7
プレミアリーグ 第11節
アーセナル 1-0 ワトフォード
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:56′ スミス・ロウ
主審:ケビン・フレンド

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