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「5回目に持ち越された課題」~2021.11.3 J1 第34節 川崎フロンターレ×浦和レッズ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■失わないけど進めない

 プレビューで触れた浦和の戦い方のポイントはユンカーをスタメンで使うか、それともベンチからスタートするか。この選択で大きく浦和のスタンスは変わるよ!ということを述べた。

 蓋を開けてみればユンカーはベンチ外という斜め上の采配をかましてきたリカロド。試合前コメントでは『来日以来、最高のユンカー』といっていたので、おそらくアクシデントとは思うけども、これによって浦和のこの試合のメンバーと方針は決まってしまっている。

 というわけでこの試合の構図はハイプレス主体となる浦和に対して、川崎がどう立ち向かうか!という形になる。浦和のハイプレスはルヴァンカップではキレキレだった一方で、あの試合の川崎のバックラインは負傷者と代表招集によってヘロヘロだったことも付け加えておかなければならない。改めてこの試合で完全決着ということになるだろう。

 フルメンバーを集めたこの試合においても川崎は浦和のハイプレスには手を焼いた。浦和のプレス隊である江坂と小泉は人をはっきりと捕まえるというよりも、選択肢を奪い取り、パスの先を限定して誘導し、後方にパスを奪わせる形がうまい。

 寄せるのはむしろパスが出た先である。特に浦和が狙い目にしていたのは川崎のSB。SBならば、寄せてしまえば角度がある分GKへのバックパスはリスクがあるし、何より真横にタッチラインがあるので180°しか使うことができない。登里のところで関根に追い詰められて引っ掛けるという形が多かった。

 川崎としてはユンカーが出て来れば、SHを引き出しての前進も視野に入れることができたが、江坂と小泉で十分に賄える谷口とジェジエウだけでは、サイドでズレを作ることができなかった。

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 浦和は非常に縦方向にコンパクトなブロックを敷いていた。川崎はサイドでズレを作れないとなると、中央で踏ん張る必要がある。鹿島戦のように中央のデュエルで相手を背負いながら反転ができれば問題がないのだけども、浦和はFWとMFで挟めるくらいライン間が狭いため、ここでの反転ができない。

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 というわけでこういう困った時には家長の登場である。相手に捕まってもものともしない家長が中盤に登場すると川崎は彼のポストで前を向く選手を作ることができる。浦和のライン間を閉じるアプローチに対して、川崎は狭いライン間を広げようとするアプローチよりも、狭いスペースの中で背負える人を中盤に下ろす手段を優先する。10分のシーンのようにこれにより前進する場面もしばしばだった。

 だけども、この試合はなかなか同サイドだけで攻略を完結することが難しい。かつ、酒井宏樹が待ち構える浦和の右サイドは真っ向勝負で崩すのは難しい。となれば、逆サイドの攻略が軸になるはず。家長が頻繁に中盤中央に出張すれば、浦和の左サイドを狙った攻略ができなくなってしまう。

 なので、家長の登場だけではなんとかならず、中盤の課題を中盤で解決しないといけない!という状況は依然として川崎に残っている。川崎は前回対戦で中央でのプレスで捕まったこともあり、中央にボールを入れるのは慎重。ポジショニングに優れる橘田がアンカーに採用されたこともあり、中盤で捕まりピンチに陥る機会は少なかった。

 その一方で中盤で背負いながらスムーズに逆サイドに流せる展開は作れず。最終ラインまで戻しての逆サイドへのロブ性のフィードしか出せないとなると、浦和の中盤のスライドが間に合ってしまう。1分半のシーンはその象徴。中盤の旗手、脇坂と繋ぐことでサイドチェンジを試みようとした川崎だったが、浦和のプレスによりパスワークが乱れ、逆サイドに届くのに時間がkかかり汰木のチェックでボールを失うという状況だった。川崎はサイドを変えたとて列を進むことができず、逆サイドで再びSH、SBと対峙しなければならない。

 川崎としてはここは鹿島戦とは勝手が違ったところである。中盤でスペースがあり、背負うことでスムーズに逆サイドへ展開することで、スライドする2列目を置いていき、薄くなったサイドを攻略するという形は浦和相手には見ることができなかった。

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 逆サイドに展開した後も、苦戦の続く川崎。正直、山中が先発ならばたとえ3対3になってもSB裏から簡単に攻略できると思っていた。のだけども、浦和はこの左サイドの守備もタイト。特にニアサイドに抜ける脇坂を柴戸や汰木が離さない。いざとなればショルツが飛んでくるし、甘いクロスはニアで彼に跳ね返されてしまう。川崎の攻撃の仕上げがこの右サイドからPA内に飛んでくるという形を読んでいたのだろう。人をかけてでもこのサイドから有効打となるクロスを上げさせまい!という気持ちが伝わってきた。

 とはいえ、裏を返せば逆サイドへの展開からPA付近まで浦和を押し下げることができている川崎。そういう状況を作ることができれば増えてくるのはセットプレー。そして、最近川崎が点を取ることができているのもセットプレー。さらにルヴァンで浦和相手に点を取ったのもセットプレーである。

 この試合でもその流れは継続。セットプレーから残ったジェジエウが押し込んで先制に成功する。そういう意味ではプレスに苦しみながらも捕まることなく押し込めるところまでいった前半の川崎はある意味成功とも言える。

■SBからの押し上げは欲しいところ

 川崎がルヴァンカップで苦しんだのはプレスだけではなく、相手のビルドアップに対してもである。川崎は前回対戦で4-3-3で構えてCBにプレスをかけられなくて失敗したので、4-3-3をやるということで前線からプレスをかけるぜ!という意志の現れでもある。

 このやり方がうまくいったかというと微妙なところ。WG裏のスペースに陣取るSBにボールを届けさせるのを完全に阻害することができていなかったし、平野や小泉などに中盤で前を向かせることができれば、浦和はほぼクリーンにボールを進めることができていた。

 浦和の難点は中盤中央でフリーマンを作ることができても、直線的にゴールに向かう攻撃を目指すと、点でパスを繋げなければゴールチャンスを迎えられないところ。スペースには走り出せるけど、ちょっとラストパスのストライクゾーンが狭すぎる。2分半のシーンはその一例と言えるだろう。一瞬、ここしかない!というところを通さなければ決定機にならない。この辺りはストライカー不在の悲哀を感じるところ。

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 というわけで厚みを出すにはSBを上げてPA内になるべく人を送り込まないといけない。彼らが高い位置を取れば、25分の酒井のオーバーラップをきっかけに迎えたチャンスのシーンのように波状攻撃を行うことができる。関根、汰木あたりのPA内侵入への意識が高まっているのは彼らにとってはいいことである。

 もう1人、SB活用に役立っていたのがショルツ。左利きではなく、左足もバリバリ!という感じではないけど、ボールを持ち運びながらパスコースをつく動きと、止まりながらパスコースができるのを待てる球持ちの良さがある。ショルツの配球で家長の裏を取るコースを見出し、山中を押し上げる役割に大きく貢献したと言えるだろう。

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 クリーンに進むことはできていた浦和。ただし、それは条件が整った時のみ。仕組みの面では優位に立ってはいたが、トランジッション局面での川崎のボール奪取には劣勢に立たされる。ボールを動かす仕組み自体は整っていても、川崎に押し込まれる機会が多かったのは、川崎がボールロストした直後の中盤の即時奪回が効いていたから。浦和が正しいポジションを取る前にカタをつけることで、試合を優位に進める。

■見えにくかった交代のプラン

 リカロドは前回対戦の試合後のコメントで、ハイプレス主体のやり方を90分続けるのは難しいと述べていた。というわけで早い時間に先制点が欲しかったのは浦和だったはず。しかしながら、先制点は川崎に入り、後半頭からもペースは川崎のものだった。

 大きかったのはマルシーニョ×酒井のマッチアップのところである。前半はなかなかここを有利に使えなかった川崎だったが、45+2分に刺さった橘田のスルーパスのように、徐々にチャンスが出てきたマッチアップ。

 川崎としては一気に酒井を置き去りにして挑みたいところ。後半はより、酒井を置いて行ける場面もあった。ヨーイドン!での競争は酒井よりもマルシーニョに軍配があがる。

 川崎側は前半はなかなか使えなかった縦に早いアプローチで徐々に浦和を縦に引き伸ばすように。岩波がフォローに行きずらかったのは中盤のカバーがなかなか間に合っていないからだろう。前半の左サイドの守り方でも見るように、浦和はCBが横スライドして守る優先度はそこまで高くない。したがって、平野か関根がカバーしないといけないが、縦に早いパスをマルシーニョが引き出してしまえば、中盤のプレスバックは間に合わない。

 川崎が左サイドで奥行きを使える選択肢を得たことで、試合は前半よりもさらに川崎ペースに傾く。浦和も前半よりもプレスが息切れしており、川崎はプレッシャーが薄い状態で前進することができた。

 しかし、時間が経つと徐々にプレスが掛からなくなるのは川崎も同じ。4-3-3でプレスにいけない局面では先述した通り、浦和のビルドアップにやられたのが前回の対戦である。高い位置をとる山中にボールが通るようになり、浦和も押し込む時間が作れるようになる。

 難しいのは川崎の交代策を読み解くことである。SBに入った車屋はともかく小林、大島の投入はより繋いでいく意識をもう少し増やしていくのかなと思った。だけども、この試合では小林投入後に積極的にCFへのロングボールを活用した川崎。試合をコントロールしようという意思がそこまで見えなかった。

 前の試合でもそうだったが、こうなるとどうも大島の投入の意味合いがぼやけやすい。鹿島が相手ならば、相手が意図的にオープン側に引き込んでくるので、さらに得点を狙うという意味でも悪くはないのかもしれないけども、この試合では浦和はオープンに攻めようとすると、前線の火力で明らかに分が悪いため、丁寧に前進してくる。クリーンに前進させなくてはいけない相手に対して、アバウトさで勝負するのはちょっとらしくはないなと思った。機会が欲しい相手にプレゼントをしている格好になるので、

 とはいえ、浦和の同点ゴールのシーンは繋ごうとしたところを失敗しているのでなんともいえないところ。ただ、逃げ切りのプランが見えなかったのは率直に残念。浦和が困っている押し込む機会を与える手助けをややしてしまったのかなと思う。

 終盤に追いつかれた川崎だが、他会場の結果によりホームでの優勝が決定。直近5年で4回目のリーグ優勝を決めた。

あとがき

■仕組みはOK、強度は?

 浦和は前回対戦よりも強くなっているように思えた。尖っている山中の個性もうまく包み込めていたりとか、プレビューで紹介した江坂のフリーマンロールとかはだいぶ楽な呼吸で行うことができていた。チームとしての仕組みがうまくいっている証拠だろう。

 この試合で後手に回ったのは、むしろ制御ができていないデュエルの部分。特にハイプレス志向の強いメンバー構成では攻守の切り替えの頻発がつきもの。この部分への対応で川崎相手に後手を踏んだことは否めない。ここからはいくつか顔を持ちながら試合を進めることも重要である。

■5回目の対戦に持ち越し

 川崎は交代策のぐぬぬ感は正直拭えないところ。入れたメンバーが悪いというよりはどう試合を進めていくか?のところが見えてこなかったのが残念だった。交代選手を入れる前までは深さを作ることで丁寧に前進ができた時間帯。追加点を狙える展開でもあったので、この流れをうまく交代メンバーで引き継げなかったのは残念である。

 ワンマッチでの試合においてはより柔軟に相手に立ち向かう必要が出てくる。スターターは固まったのが現状だろうが、交代で幅を持たせる手法が効いていないのはやや気になる。試合間隔が空くようになってから、デュエルで優位な状況で臨めるコンディションではあるので、一時期よりは序盤からは安定した戦いができるようにはなっている。あとは後半の試合運びのところで一工夫。これを残りの4試合で整理して天皇杯に臨みたい。

 できれば今季5回目の対戦となる天皇杯決勝の浦和戦でその成果を披露し、2冠!が理想である。こうした修正のサイクルが5回目のリーグ優勝にもきっと繋がるはずである。

 というわけで優勝だーーーーー!!!!!!おめでとうーーーー!!!!!!

今日のオススメ

 16分の脇坂のボール奪取。福田さんも褒めていたけど、先のプレーを予測し、通したくないところに立つスキルの高さを感じたところ。トランジッション勝負ならどこ相手にも負けないという気概を感じるボール回収だった。

試合結果
2021.11.3
明治安田生命 J1リーグ 第34節
川崎フロンターレ 1-1 浦和レッズ
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:33′ ジェジエウ
浦和:89′ 酒井宏樹
主審:木村博之

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