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「間延びから始まる悪循環」~2021.10.18 プレミアリーグ 第8節 アーセナル×クリスタル・パレス レビュー

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レビュー

落ちすぎないことはできていたが

 ジャカの負傷以降、試行錯誤が続くアーセナル。今回はバーンリー戦でトライした4-3-3の焼き直しに再チャレンジした一戦になった。先に言っておくけども、保持における4-3-3の出来はバーンリー戦よりもはるかによかった。

 アンカーのトーマスを孤立させないように左右に人を置くのが2-3-5。この3のところからサイド攻略のきっかけをつかむのが狙いになる。左はティアニー、ウーデゴール、右には富安がトーマスの脇に入り、相手の中盤の前、もしくは後ろを浮遊していた。

 何をもってバーンリー戦より良かった!といっているかというと、このサポート役の選手たちが下がるばかりではなく、きちんと『いなくなる』ことが出来ていたことである。4-3-3の本来の意義を考えれば、高い位置での選択肢を増やすことが重要。大外にひたすらボールを渡せば突破してくれる選手がいるのならば、それでもいいと思うけど、アーセナルにはそういう選手はいない。

 したがって、後ろからボールを運べるときは、必要以上に降りずに前線でパスを受ける選択肢の一つとなり、相手の狙いを絞らせないことが大事。バーンリー戦ではむやみやたらに降りていた感があったが、その感は薄くなった。特に左サイドはガブリエウへの持ち上がりの重要度が上がっている。彼に持ち運びを任せて他の選手は高い位置を取ることで前進できるシーンは徐々に増えていたように思う。

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 右サイドはややぎこちないが、それでも前半は悪くなかった。スミス・ロウはむやみに自陣深くまで降りてこなかったし、ペペと冨安の連携も前半は及第点だろう。先制点の押し込みながらの流れを作ったのもアーセナルの右だサイド。ペペと冨安の右サイドの前進からこぼれ球を最後はオーバメヤンが押し込んだ。守備も含めて非常に元気がよかったオーバメヤン。彼のパフォーマンスはいい日は守備も含めて全部いいし、だめな日は全部ダメ。はっきりしている。よく言えばわかりやすい。

 こうやってゴールまでの流れを書くと保持で支配しながらアーセナルが一方的にボールをおしこみながら戦っているようにも聞こえるだろう。しかし、アーセナルが繰り出した効く攻撃は相手を敵陣に封じ込めての5レーンアタックではなく、比較的早い展開からの速攻。クリスタルパレスに対しては、プレスラインを越える足の長いパスで前進し、一気にゴールを陥れることを重視。特にラムズデールがこの意識が高く、ゴールに向かうべく縦パスを一気に通していく。

 この指針は善し悪し。中盤がきっちり引き出せたときはこの進み方で最短を狙うのは当然のやり方である。3分のラムズデールの前進のような場面はむしろ早いパスが推奨される。一方で、うまく引き出せなかったときに強引に縦に進もうとするとグエーイとアンデルセンのコンビに絡めとられる。中盤中央がコンパクトだったクリスタルパレスに対して急ぎすぎるとボールロストの原因になる。早い縦の攻撃一辺倒ではだめだった相手にうまく緩急をつけられなかったアーセナルだった。

ベンテケのポストの効果の大きさで主導権がわかる

 この日のパレスの保持の課題は何と言っても陣地回復だった。ザハがいない上に、相手は保持の意識が強いアーセナル。だけども、ザハの不在で本来だったら使える自陣深い位置まで下がるブロック守備+ロングカウンターのコンボが使えない。そうなるとどうやってボールを前に進めるかが課題になる。

 パレスが狙ったのは前線への楔だった。しかし、反転する強さもドリブラーとして時間を作ることもお手の物のザハに預ければ何とかなっていたこれまでとは違い、サポートも含めて楔の先を見据えないと前進できない。

 アーセナルのプレスはそれを見越してか、受け手にしっかりとチェックをかけてミスを誘発していた。特にこの日、出足の良さが見えたのはティアニー。背中で背負おうとするアイェウに自由を利かせなかった。

 パレスの保持に対するアーセナルのプレスのトリガーはIHである。敵陣においてはIHが高い位置から相手の中盤にちょっかいをかけ、ミスを誘発しようとする。逆にアーセナル陣内まで運ばれてしまったときは片方(ウーデゴールが多かった)、もしくは両方のIHがアンカーのトーマスと並び4-4-2or4-5-1のような形で撤退する。

 今季の自分のアーセナルのレビューを読んている人にはわかるかもしれないが、この守り方は大きな方針でいうと今季のアーセナルの守り方に沿っている。敵陣ではハイプレス、自陣では人海戦術寄りのリトリート。そして、前に出るか後ろに引くかのキーを握っているのは中盤というところまでそっくりである。

 自陣ではミス待ちのスタンスを獲るため、ベンテケへのチェックが時折甘くなることもあった。だけど、それに合わせて前を向ける相手の選手を作らせなければOKだし、中盤のラインをその楔に合わせて下げられればOK!というのが1つの指針だった。

 方向性としてはよくわかる話。ショートカウンターが一番点をとる近道だろうし、パレスは敵陣奥深くに進んでからの仕上げに難を抱えている。この後紐解いていくが、この試合のアーセナルはボールを持たれる時間がここから増えていくが、撤退守備を攻略されて最後のシュートまで持って行かれるシーンはそこまで多くはなかった。カウンター気味の攻撃の方がこの日のパレスは効いていた。

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 しかし、この押し引き重視のアーセナルのプレスは今季の他の試合と同じように似たメカニズムで狂っていくことになる。前は追いたい、でも後ろは引きたい。そうやって陣形が縦に引き伸ばされている状況に苦しんだ中盤が徐々に判断が遅れだすというサイクルである。

 そうなるとアーセナルの守備の前提であるコンパクトな状態で自陣に撤退するということが出来ない。例えば27分。ベンテケへの楔に対してガブリエウがチェックにいけずリトリートを選択する。これはすぐそばにギャラガーが受ける準備が出来ていたからだろう。自分が出ていって入れ替わられる形でギャラガーを使われてしまったら最悪である。それを避けるためにラインを下げたのだと思う。

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 こうなると、もう自らラインを下げているのではなく、ただ下げられているだけである。コンパクトさを維持できず、楔を受けたベンテケのサポートに入った選手に前を向くスペースを与えられると、かなりパレスはアーセナルのゴールに直線的に向かうことが出来るように。

 パレスの保持においてはベンテケのサポートに入ったギャラガーだけでなく、左の大外のミッチェルも効いていた。ベンテケへの楔に合わせて高い位置を取ることが出来ていたので、パレスは大外の選択肢を準備することができていた。かつ、ミッチェルは25分のようにCBからの浮き球を受けることでプレスの脱出口を務める役割もできる。高い位置から追いかけようとするアーセナルのWGの背中を取るプレーで前進の手助けをしていた。

 大外が取れればここからパレスはハーフスペース攻略に移行する。アーセナルは課題の右サイドの連携問題の怪しさが露呈。冨安が大外に引っ張り出された時のハーフスペースの管理はまだまだ怪しい。ホワイトの早めのスライドやペペのリトリートなどいくつかのやり方でカバーしてはいたが、トーマスがカバーに向かったせいで中央ががら空きになった形はあまりいいとは言えない。

 プレスもかからずリトリートも間に合わないアーセナルは完全にこの時間はパレスに主導権を受け渡す。アーセナルがまずかったのはこの時間帯に焦って、ボールをゆっくり保持する選択肢を選べなかったこと。おそらくこの部分はピッチの選手の責任が大きい部分であるはずだ。

 例として挙げられるのはサカが警告を受けたシーンにおけるラムズデールのロングキック。この場面は特に苦しかったし、前半終了も視野に入る時間帯。ラムズデールはショートパスを選択し、試合のテンポを落ち着かせたかったところ。長いキックを蹴らずに近くのガブリエウに預けて、ゆっくり前進を試みたかった。

 確かにこの日の前半アーセナルで一番効いていたのは足の長い縦へのボールだった。でも、この時間帯は闇雲にそれを狙うのではなく、もう少しゆっくりしてもよかったはず。この試合では致命傷にはならなかったが、そういうまずい時間帯において保持でテンポをコントロールできなければこのチームには先がない。若いバックスメンバーなので、徐々にこういう老獪な部分は身に付けていってほしい。

■交代策に感じるチグハグさ

 前半のプレーでファウルを受けて負傷したサカはハーフタイムに交代。これにより、ロコンガを投入したアーセナルは4-2-3-1に舵を切る。だが、後半も大きな試合の流れは変わらず、ペースを握ったのはクリスタル・パレスのほうだった。

 理由としてはアーセナルの交代が流れを変えられなかったこと。負傷交代とはいえ、4-2-3-1に変更したことで修正を試みたかったはずである。だけどもアーセナルはこの交代でそこまで明確に4-2-3-1にシフトしなかった。ロコンガはスミス・ロウほどではないにせよ、比較的前目でプレスをかける素振りを見せていた。したがって、4-2-3-1色は強まったものの、依然CHは高い位置からのプレスを諦めていないという状況だった。

 攻撃においても2CHへのシフトは効果的とは言えなかった。中央の起点増における保持の安定化、サイドの選手の押し上げ、サイドチェンジの先導役など2CHへの変更で期待されたことは多岐にわたる。しかし、プレスの意識が増したクリスタル・パレスに苦戦。2CHになってパレスのIHと数があってしまったことでプレスの狙い目が逆に絞りやすくなってしまったのかもしれない。

 1失点目は完全にハメられた形。冨安→トーマスへのパス自体がミスだったとは言えないと思うが、小回りが利くタイプではない上にリスクのある(もちろんリターンもある)プレーを狙いがちなトーマスの特性をよく理解したパレスのプレッシングにしてやられた。

 2失点目はラカゼットの投入でチーム全体がうまくいっていただけにもったいなかった。両サイドを上げるというリスクを取りながら全体を押し上げつつある時間帯。トーマスとロコンガにとっては特にボールの失い方に細心の注意を払わなくてはいけない局面だった。しかしながら、今度はロコンガがプレスに屈してカウンターから失点。先ほどのトーマスとは異なり、視野が確保しやすく、叩く余裕もある局面だっただけに大きなミスとなってしまった。

 2CHとなり自軍の布陣だけ見れば保持の安定化を図ったつもりが、逆にその保持を狙われて2失点するのだからつくづくサッカーはシステム論だけでは語れないことを痛感する。

 少し時間を巻き戻すとラカゼット投入以降の左サイドのアーセナルの攻撃はかなり効いていたように思う。特に左のハーフスペースに侵入したオーバメヤンorラカゼットのポスト→ポストしなかった方の裏抜けというパスワークはこの日の崩しの中で最もクリティカルにパレスのDF陣にダメージを与えていたといっていいだろう。

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 4-2-3-1になり、5レーン的な要素は前半に比べて減ったけどもその方がうまくハーフスペースが使えるというのもなかなか興味深い。左のワイドに求めたい内側に旋回してくる動きの効果の大きさと、受けたいところにはあえて初めは人を置かないことの有効性を示している時間帯だったように思う。パレスもトムキンスを入れて5バック化。ハーフスペースの封鎖に取り掛かって対応したのはさすがだけども。

 逆にアーセナルの右サイドはあまり整理が出来ていなかった。どうしても点が必要な場面で前に人をかけるとなると真っ先にスミス・ロウがSBの位置まで下がってしまうのはなんだかな感がある。あまり低い位置でのプレーは得意じゃないと思うんだけども。本人の癖なのだろうか。

 仮にそうまでして冨安を高い位置に置きたいのならば、もう少しクロスの数を増やすべきだった。右→左の攻撃の流れはティアニーのシュートなど有効打になっていたが、左→右の攻撃の流れはマルティネッリのクロス自体は悪くないもののイマイチ飛び込み切れない部分が目立ち、ちぐはぐな印象を受けた。

 マルティネッリの使われ方にもちょっと残念な部分があった。ラカゼットとオーバメヤンの関係性でだいぶ混乱してきたパレスに対して、同じように中央でもサイドでもプレーできるマルティネッリを入れれば、より複雑な形でかつエリア内にストライカーを置いたまま左サイドを崩せるように思えた。

 しかし、実際はマルティネッリは大外からのクロス要員。ラカゼットとオーバメヤンは2トップと線を引かれてしまった感。まぁ、パレスはクロス対応に難があるチームではあるし、マルティネッリのクロスの質自体は低くはなかったのでわからなくはない。だけども、こういう使い方をしていると平時のチームで交代出場させにくいし、本人の成長を促す感じもしないし、そうなるとまたチームで使われなくなるしという悪循環な気がしてならない。クロッサー化させるのはもったいないので次はもう少し違う形で見たい選手である。

 それでも終了間際に見せたラカゼットの得点は光になるだろう。途中交代でもチームのパフォーマンスを一段階挙げられることを示したラカゼットが最後の最後に結果でもチームを救い、アーセナルは何とか勝ち点1を確保。クリスタル・パレスはM23ダービーに続いて、悔いが残るラストワンプレーで勝ち点3を逃す結果に終わってしまった。

あとがき

■今季の彼ららしい90分

 これぞ、今季のクリスタル・パレス!という試合だった。相手のプレスを積極的に阻害する姿勢、そして自陣深い位置からでも保持の工夫で相手のプレスラインを下げさせるビルドアップ、そして終盤の軽さで勝ちきれないという流れ。チームの象徴といえるザハが不在でもパレスらしさはよくも悪くも健在だった。

 ザハがいない分、さすがに定点攻撃の破壊力は下がったが、実直さの塊のようなスカッドのポテンシャルは十分に示せていたように思う。とはいえ、セットプレーやクロスへの耐久度の低さを考えると撤退するだけのクローズをこんなに長いことやるのは難しいのだろう。店じまいはもう10分ほど遅くまで粘り、保持とプレスの強気の姿勢を前面に押し出す時間を増やしていくトライを続けていくしかない。

■速度に焦りを感じる部分は否めない

 4-3-3でやる意味ないじゃん!のバーンリー戦よりはマシになったのは前向きにとらえるべきだろうか。CBへのサポートを適度に減らし、運べるスペースを邪魔しないことを意識したシフトはプラス。前半の前半はそこからプレスを裏返す前進も出来ていた。

 ボールを運ぶ際に急ぎすぎてしまう部分は選手個人に責任を問える部分な気はするが、プレスのモード切替を中盤に託すやり方はどうも長い時間ハマらないのは気がかり。ハマらないプレス→間延び→押し込まれ→保持での焦りの悪循環で主導権を逃がすというパターンはもう鉄板なので、ここを改善したいところ。

 進んでいるといえば進んでいる。でも、今夏の就任でクリスタル・パレスというチームで既に目に見える改善を施したヴィエラや、十分に新チームに適応しているギャラガーを見れば、もう少しアルテタとアーセナルは焦らないといけないのかもしれない。

試合結果
2021.10.19
プレミアリーグ 第8節
アーセナル 2-2 クリスタル・パレス
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:8′ オーバメヤン, 90+5′ ラカゼット
CRY:50′ ベンテケ, 73′ エドゥアール
主審:マイク・ディーン

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