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「W杯の予習は計画的に」~EURO 2020全チーム総括 part2~

part1はこっち。

目次

ウェールズ

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■手堅さで勝ち抜き、不測の事態で散る

 前回大会はベスト4と躍進したウェールズだが、今回はベスト16どまりだった。基本的な部分は以前のEUROでチラ見した時とは大幅には変わらない。後ろはスペースを埋めながら受けて、攻撃の時はカウンターに打って出て反撃するというのがざっくりとしたサイクルである。

   同じスペースを埋めるというやり方で比較しても、同グループのトルコが大外を空けて受けたのに対して、ウェールズはきっちりサイドのスペースも埋めるという部分に違いがある。あのベイルがサイドの低い位置まで降りて、守備に参加するということを考えれば、ウェールズの面々がいかにこのやり方にコミットしているかということが分かってもらえるかもしれない。両サイドハーフは自陣深くまでの守備が義務付けられている。突破がかかったイタリア戦ではさらに慎重な5-4-1を採用することもあったくらいである。

 攻撃においてはそのベイルが主役。相棒のラムジーと共にスピードを生かしたカウンターは自陣深い位置が起点となっても相手陣に届けることが出来る爆発力がある。トップのムーアも陣地回復の役割が優先。ベイルやラムジーに落とし、少ない手数でボールまで向かうことがチームとしての方針となっている。

 さすがにイタリアには通用しなかったが、GSのライバルだったスイスには終盤に一瞬のスキを突き、同点とするチャンスを逃さず。トルコには90分のゲームメイクで完勝で、終盤まで主導権を握りながら試合を優勢に進めることが出来た。

 難点を上げるとすれば、攻撃の手段が限られていることだろう。堅いブロックと爆発力が保証されたカウンターが揃えば、グループステージの突破は堅いだろうが、トーナメントで上に進むにはもう1つ武器が欲しかった。ベイル、ラムジーのホットラインでも苦しんだ遅攻の部分でなにか光る部分があればもう1,2試合勝ちあがることもできただろう。

    そして残念だったのは不測の事態に陥ってしまったこと。退場者である。GSのイタリア戦だけならば笑い話で済んだが、ノックアウトラウンドでは取り返しのつかない事態になるのは想像に難くないだろう。ジェームズの退場以降、ウェールズはデンマークにいいところを見せつけられるだけの展開になってしまった。たまたまかもしれないが、4試合中2試合に退場者が出ればこの形式では勝ちあがるのが難しくなるのは当然だろう。

 多くの時間はウェールズは地味ながらもソリッドな組織で多くのチームを苦しめたとは思うが、2回の『たまたま』を引き起こしてしまえば、勝ちあがるのがここまでとなっても不思議ではないだろう。

頑張った人⇒ロブ・ペイジ
 サッカー選手としては最高、人間としては最低の呼び声高いギグス監督が捕まってしまったので、代行監督として登場。本当にお疲れ様でした。

今大会まとめ

オーストリア

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■真っ向勝負でイタリアを追い詰める

 意外なことにEUROの本戦ではここまで勝利したことのないオーストリア。北マケドニアやフィンランドと肩を並べるほどの小国とは思えないのだけど、国際大会では歴史的に結果を残せていない。というわけで傍から見ればラウンド16までたどり着いたことは大躍進といえる。

    とはいえ、メンバーの顔触れを見ればなかなかに豪華。力のある選手たちが揃っているチームである。共に初勝利をかけた初戦のフィンランド戦においてはアラバのクロスやザビッツァーのサイドチェンジなどタレントたちのスキルにおいて差を見せた。

 代表において、明らかなエース格の選手が複数のポジションをこなす場合、まずその中心選手をどこに置くのかからチームが決まっていくケースが多い。ネームバリューでいっても実力でいってもオーストリアの中心選手はアラバ。彼をどこに置くかでスタイルが決まる。

 このオーストリアでアラバが務めたのは3バックの中央と左、そして左SBの3つである。3バックの中央に置いた場合は司令塔的な立ち位置。長短のパスを操りながら攻めるサイドを決める役割である。

   スタイルと置き場所の組み合わせで見てみると3バックの左と左SBに置かれた際の指針はあまり大きく変わらないといっていい。左サイドで駆け上がり、クロスを上げる仕上げに近い役割がこちらである。オーストリアがより点をとりたいときはスペシャルスキルであるクロスを解放するためにアラバをサイドから押し上げる。

 ざっくりいえば、アラバの立ち位置を基準としたこの2種類の手法の使い分けでグループステージは突破したといってよさそうである。この大会の傾向でもあるのだが、中堅国はGS第3節を皮切りにグッと完成度を上げてくるチームが多い印象。オーストリアはアラバをサイドに固定したまま、後方の組み立てを整備することで精度を高めていった。

 天下分け目(結局は負けたウクライナもGS突破したが)だったウクライナ戦はウクライナが慣れない受けに回ったところをアラバのクロスを主体とした形で圧力をかけて飲み込んだ要素が強かった。

 真骨頂だったのはイタリア戦だろう。バックスと行動範囲を広めに定めたザビッツァーとシュラーガーのIHコンビでイタリアの中盤のプレス外しに真っ向から挑戦。見事押し返すことに成功していた。アラバを配球役でなく、よりアタッキングサードよりにプレーさせる勇敢な決断に選手たちが応えた試合といっていいだろう。最後の最後は大外⇒大外という4バックの泣きどころをキエーザに破壊されてしまったが、イタリアを十分に苦しめていた。

 歴史の扉を開き、アウトサイダーとして列強にかみついた。爪痕を残すには十分な大会だったといえるだろう。見せた上積みがW杯の予選に還元されるかが今から楽しみなチームである。

頑張った選手⇒ダビド・アラバ
 ベタだけどこの人で。フリーとはいえ鳴り物入りでレアル・マドリーに行く選手というのはこういう人なんだなということを思い知らされた感。イタリア戦ではあわや先制点の場面も演出しておき、起用されたポジションの意味合いをきっちり示して見せた。

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オランダ

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■『たらればサッカー』でエンタメ性は十分

 割り切った現実的な戦い方をするチームが多い昨今の代表シーンの中では異質な存在といえるだろう。『俺たちのやりたいサッカーはこんな感じ!よろしくだ!』みたいなスタンスで予選かららしさ全開。同じく『俺たちのスタイル全開だぜ!』というウクライナ相手との第1戦はそれまでの大会とのお堅さとは一線を画すド派手な撃ち合いとなった。

 基本的には攻撃的な志向が強いチームといっていいだろう。ショートパス主体でポジションチェンジも多い。長身のベグホルストへの長いボールもオプションとしてはあった。だが、ラウンドが進むにつれてベグホルストではなくマレンが代わりに入ったことを考えると、ライン間で受けながら前進していくスタイルを目指したかったのだと思う。

 後方の選手もスルスル前に上がっていくことが特徴。リバプールでもお馴染みのワイナルドゥムは前線へのサポートでの目立ち方が1.5倍くらいで、クラブではバランサーに徹している分、代表では割と派手なことをしている印象だった。

   そんなワイナルドゥムよりもインパクトははるかに上だったのは右のWBのダンフリース。とにかく高い位置を取る。サイドの高い位置を取るだけでは飽き足らず、前線に張ることもしばしば。そして前線に張った挙句、そのまま左サイドまで流れて裏を取ったのには驚いた。さすがにRWBが左サイドから裏を取る姿はあまり見たことがない。得点にも失点にもとにかく絡みまくるド派手なスタイルは今大会のオランダの象徴といっていいだろう。馬力的にはプレミアでもやれるかもしれない。メガクラブは難しいかもだけど、人気はでそう。

 まぁ、ただこういったスタイルを支える後方は大変である。中盤3枚は受けに徹するタイプではなく、被カウンターの際には間を突かれまくり。さらにはバックスにもカウンターを受け止める力はなし。今大会のオランダは『ファン・ダイクがいれば成り立つサッカーをファン・ダイク抜きでやってみた』がコンセプトなので、ファン・ダイク抜きだとこうなるだろうなという印象。チェコ戦では過負荷気味だったデ・リフトが退場してしまったのはさもありなんという感じ。

 ワンマッチでいえばどこ相手でも一噛みできる強さはある反面、トーナメントで勝ち抜いていく図太さは感じない。展開が転がらなければチェコ戦のようになってしまうのは仕方ない。仕方ないといえるのは俺がそういうオランダが好きだから割り切れるだけなんだろうけども。ひとまずはワールドカップでは元気なファン・ダイクと共に『ファン・ダイクがいれば成り立つサッカーをファン・ダイクありでやってみた』がみたいところである。

頑張った選手⇒フレンキー・デ・ヨング
    デ・ヨングとかペドリとかバルサの若者が代表でも報われない苦労ばかりさせられているの、涙ぐましいですよね。

今大会まとめ

ポルトガル

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改善を浸透させる遊びがなかった

 死の組爆死三銃士の一角。大舞台であればあるほど輝く大スターであるC・ロナウドにベルナルド・シウバやブルーノ・フェルナンデス、ジョタなどプレミアメガクラブで存在感を出すタレントが加わったことで優勝候補の呼び声が大会前にはちらほら。ちなみに竹内さんの優勝予想はポルトガルでした。

 初戦のハンガリー戦は3-0と快勝はしたものの、80分過ぎまではスコアレスで進むなどスコアとは裏腹に快勝というわけにはいかなかった。2戦目のドイツ戦では5レーンを守り切れないことを早々に見抜かれた。ゴセンスに散々同じ形でチャンスメイクを許すなどマウントからタコ殴りされたような4失点を喫する。かなりダメージの大きい敗戦だったが、最終節のフランス戦という名のロナウド・ベンゼマ大同窓会で友好的な引き分けを演出し、何とかノックアウトラウンド進出を決めた。

 こう書くとどうしようもないチームみたいに見えてしまうのだが、チームとしての見どころは個人的にはあった方のチームだと思う。なぜなら反省はちゃんと生かすタイプのチームだから。保持でも存在感を出せず、非保持ではスペースを埋めることが出来ないウィリアム・カルバーリョとダニーロのコンビをドイツ戦であきらめる決断はチームをいい循環に乗せたと思う。

 代わりに登用したレナト・サンチェスとジョアン・モウチーニョは保持の局面でアクセントになる。特にミスターEUROみたいなキャラになってきたサンチェスは持ち上がりの部分で躍動。保持の局面ではそれまでさっぱりだったポルトガルが息を吹き返した。それにともなったシステム変更でブルーノ・フェルナンデスをベンチに座らせたりなど、痛みのある判断をしたのも好感が持てる。

 大外⇒大外アタックで困らされたドイツ戦の教訓はSHに根性で自陣に戻ってスペースを埋めてもらうことで改善。ベルナルド・シウバとジョタの過負荷になれているプレミアのアタッカー陣にこの役割を託した。自陣深くからのカウンターの精度も高く、限られたチャンスで得点を生み出せるチームというのもトーナメント向きといえるだろう。ちなみに、このチームでカンセロをどう使う気だったのかが永遠の謎になってしまったのが自分は悲しい。

 ただ、いかんせんくじ運が悪すぎる。死の組での3戦を勝ち抜いた後にベルギーというのはさすがにチームを再構築する中では遊びがなさすぎる。しかも、勝ってもイタリアとかもうどうしようもない。そうなると、大会前の完成度の話が問題になる。大会中にチームを仕上げられなかった日程面での不運と、大会までにチームが仕上がらなかった部分のクロスオーバーがポルトガル敗退の要因といえるだろう。

頑張った選手⇒ペペ
 何歳になってもいい意味でも悪い意味でもペペはペペ。どのリーグに所属が変わっても国際大会で見るたびに普通に高いクオリティを見せているのは素直にすごい。

今大会まとめ

クロアチア

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■おんぶに抱っこに肩車に炊事洗濯掃除

 スペインをあと一歩のところまで追いつめたといえばだいぶ聞こえはいいが、はっきりいってかなり出来は厳しいチームだったように思う。自分の感想でいえば、ノックアウトラウンドに進出した16チームの中では一番完成度が低かったかなと思う。

 その理由として挙げられるのは全体的な重たさだ。もっとも、バックラインになんでもどんとこい!というようなタイプのCBがいないのはこれまでのクロアチアと同じ。そして、ゴールマウスに絶対的なワールドクラスの守護神がいるわけではないのもこれまでと同じである。

 異なったのは前線のアタッカー陣である。とにかく動かない。そこに根っこが生えているのか?と思うくらい足元でパスを受けたがるにも関わらず、そこからは何もできないという体たらく。いかにマンジュキッチが今まで頑張っていたかが間接的にわかるような仕組みになっていた。

 となると負荷がかかるのは当然モドリッチとコバチッチ 。特にモドリッチ。今までのクロアチアもモドリッチにおんぶにだっこだったけど、今大会はおんぶにだっこに肩車、掃除と洗濯に消化にやさしいおかゆを作って口元まで運んであげるくらいの勢いで大忙し。なにせ縦パスを入れるだけでは前線は動かないので、次のアクションを促すようなスペースにキーとなるパスを送り続けなければ攻撃は死んでしまうのである。

 その上、守備の部分でも前は人が足りなければプレスに行くし、自陣まで運ばれたらすかさずスペースを埋める。なんというかもう泣けてくる。もう35歳なのだから、クロアチア代表もマドリーももう少し守備免除してあげるとか甘やかしてあげるべきではないだろうか。その上、鬼嫁からは家庭優先のために代表引退の圧力をかけられているので、もうなんというかモドリッチには全サッカーファンが優しくしてあげるべきである。

 というわけでチームとしては低調だったけど、モドリッチの万能性とあとはゲームメイクにおけるスペシャルな能力は大会随一。特に縦方向のレーン移動のうまさは今大会ではデ・ブライネと双璧だったというのが個人的な感想である。決勝トーナメントでは大舞台に強いお国柄とモドリッチのかけ合わせでスペインを苦しめたが、ワールドカップに向けた明るい展望は正直描きにくいチームといえる。

頑張った選手⇒ルカ・モドリッチ
 それしかない。

今大会まとめ

フランス

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■届かない懐刀と不可解な5バック

    死の組爆死三銃士の2人目。ご愛敬レベルではない本当になにやってんだよみたいな話が大会後に出てくるのはもう相変わらずなので放っておいていいと思う。多分、ワールドカップも優勝したから表に出てこないだけで、クソみたいな内紛を起こしながら勝っていると思うので、今大会のそういう話はうまくいかなかった原因とかにはあんまり関係ないんじゃないかな。ただ、ラビオの母ちゃんだけはマジでどうにかした方がよさげである。

 グループステージはそんなに悪くはなかったと思う。1戦目となったドイツ戦では攻め切ることに苦心するドイツに対して、カウンターからの反撃で応戦。機動力にかけるドイツのバックス相手にミスマッチを作り、ドイツの攻め手である右サイドを裏返すことで主導権を握っていた。

 続くハンガリー戦での引き分けは確かに想定外だっただろうが、ベンゼマとグリーズマンの斜め方向のランからハンガリーのブロックを崩す場面は作れていた。ハンガリーに追いつかれる要因となったSBの裏は確かにフランスの弱みではあるが、正直代表チームならこれくらいの穴はどこかしらにはあるだろうなという感想である。

 やはり決定的におかしかったのはスイス戦だろう。5バックで守ったのは100歩譲ってハンガリー戦で脆さを見せた右サイドのケアと踏まえれば理解はできる。ハンガリー戦ではLCBのキンペンベが右まで出てきていたから中央にラングレをおいてそのカバー役をさせたかったのだろう。

   問題は前線からのプレスの約束事である。1枚ずつ高い位置から追い回すが、周りがついてこないので出てきた選手が空けたスペースにスイスは縦パスを入れればいいだけ。フランスはこれでスイスに前進を許しゴール前に迫られるということの繰り返しをしていただけのように見えた。まるでスイスに『ここに通せば前に進めますよ』という道しるべを作っていたかのようなプレスのかけ方をしていた。スイスは繋ぐだけで自動でチャンスが作れていた。

    人につくことを大事にするのならばそもそも前の数が合う3-4-3気味にすればいいのに、グリーズマンを後ろ気味にスタートすることで前線からのズレを自ら作る配置も理解に苦しむ。デシャンのスイス戦のスターターの人選と戦術はEURO全体を見てもワーストレベルといっていいだろう。

 ただ、それでも多少の失点の不利は跳ね返せる地力はあるチーム。実際、スイス戦でもそうだったようにベンゼマは自身が招集された価値を見せ続けた大会だった。一方で誤算だったのはムバッペ。不調なのは目に見えて明らかだが、意地でもデシャンは外さなかったので彼のロングカウンターと心中するつもりだったのだろう。スイス戦も引いても何とかしてくれる彼の存在が後ろ重心を正当化してくれると考えたのかもしれない。

 だが、抜け出せど抜け出せどシュートは決まらない。しかし、前線の機動力を落とす基準型のCFであるジルーの起用は今のフランスには箸にも棒にもかからないことはハンガリー戦ですでに分かっていたので、前線はスペースメイクのためにフリーランをし続けるしかなかった。止まったら死ぬのが今大会のフランスである。

    カウンターというのは確かにフランスの武器なのだが、あまりに頼りすぎてしまった感。懐刀を抜くのがうまくいったのはドイツ戦くらいで、懐刀ばかりをなりふり構わず振りかざしても当たらなかったのが今大会のフランスという印象である。

 心中したムバッペの不発と不可解な5バックの採用が招いたよもやの早期敗退だった。

頑張った選手⇒カリム・ベンゼマ
 この人もすごいし、この人なしでワールドカップを取ったフランスもすごい。スイス戦の神トラップは間違いなく大会ベストゴール。意味不明すぎる。

今大会まとめ

ドイツ

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■チェルシーナイズは不完全燃焼

 死の組爆死三銃士のラスト1人。スペインがワールドカップを優勝したり、バイエルンにグアルディオラが行ったりした後から、なんとなく新しい物好きでポゼッション好きなイメージがあるドイツ。蓋を開けてみると今大会のドイツは欧州王者のチェルシー風味だった。大会前はどうだったんだろう。

 3バックがベースでそのうちの1人がSBロールをこなす。ドイツでいえばこれに当たるのはギンター。チェルシーでいえばアスピリクエタの役割である。そうして同サイドのWBを高い位置に押し出す。すなわち、キミッヒがジェームズの役割ということになる。

 サイドにおける数的優位の作り方は非常に機能的だった。再現性の鬼といえるドイツらしさが詰まっていたのは何と言ってもポルトガル戦だろう。先に挙げたメカニズムで敵陣まで押し込んでクロスを上げると、逆サイドからWBのゴセンスが飛びこむ。無論アロンソやチルウェルが飛び込むのが元ネタ。ここもチェルシーナイズされた部分である。

 唯一チェルシーっぽく仕上がらなかったのは前線である。こここそ元ネタのヴェルナーとハフェルツを入れてそのまま移植してしまえばいいのではと思うのだけど、あまりその部分は意識されなかったように見えた。具体的に言えばヴェルナーをあまり使う気がなかった。

    その代わりに起用されたミュラーの使い方がイマイチみんなピンと来てなかったように見えた。周りとリンクしてナンボという選手なだけあって、決勝ラウンドに向けてここが伸びしろだという感じだったのだが、うまくいかなかった。そもそもギリギリのところで突破を決めたハンガリー戦も解決したのはゴレツカの筋肉だったので、ポルトガル戦を除けばこの大会のドイツの仕組みはあまり機能していなかったともいえる。

 個で見ても攻撃的なタレントの不発が目立つところが多い。サネはハフェルツの引き立て役にしかならず、フォラントはなぜか外からクロスを上げる役割を命じられ、ヴェルナーは抜擢されたイングランド戦で止め方を知っている守り方をしてくるストーンズに完敗を喫した。

 結局はうまくいかないなりに成り立たせるのがうまいイングランドに寝技に持ち込まれていいところなく敗北。栄光を手にし続けてきたレーブのドイツにしてはあまりにも寂しい幕切れといわざるを得ない。

頑張った選手⇒カイ・ハフェルツ
 広いスペースへの動き出しがレバークーゼンでチラ見した時の持ち味だったが、スモールスペースでのボールの扱いはシーズン後半からめきめきよくなっているように見える。プレミアでの来季が楽しみな選手。

今大会まとめ

スウェーデン

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■変わり身を見せたノックアウトラウンド

 今や、どこでも保持はできて当たり前。今大会でいえば北マケドニアやハンガリーのようなチームも、保持に力を入れていかに自陣での撤退の時間を減らすかという部分にスポットを当ててチーム作りに挑んでいた。

 そんなチームと一線を画していたのがスウェーデンである。4-4-2で仕掛ける塹壕戦は今大会における唯一無二のスウェーデンのトレードマークだった。自陣深くに相手を引き込み、ひたすら跳ね返し続ける。

    このご時世にそういう戦い方を選べるのは跳ね返しにそれなりに自信があるから。高さにモノを言わせて試合を殺すやり方は相手からしても厄介だし、極東の地で早朝から眠い目をこすりながらEUROを見ている日本人サッカーファンにとっても睡眠導入的な部分で非常に厄介だった。

 そんな低い位置での構えで攻撃を成り立たせているのがイサク。先日、ソシエダとの契約を更新したばかりのアタッカーは低い位置からでも相手をぶち抜ける馬力がある。それでいて、馬力系アタッカーにありがちなパスワークの拙さなどもない。非常に滑らかであり、エゴも少なくで球離れも悪くないタイプ。ロングカウンターには間違いなく有用だが、専用機ではないことが非常に好感が持てる選手である。

 4-4-2+イサクという武器でグループステージを突破したスウェーデンだが、変わり身を見せたのはラウンド16のウクライナ戦。確かに保持においてはグループステージでも3-2-5変形は見せていた。だが、ウクライナ戦では3センターの脇をひたすらポゼッションでつつきまくるスタイルでウクライナ相手に優位に戦いを見せたのだから驚きである。

 中心になったのはフォルスべリ。この大会では絶好調でハーフスペースで前を向けばミドルシュートかラストパスが刺さりまくる状態に突入していた。ウクライナにとって厄介だったのはイサクが常に裏を狙う素振りを見せていたため、簡単にフォルスベリの使うライン間を圧縮できなかったこと。この試合のスウェーデンの完成度はグループステージとは段違いだった。

 残念だったのはフォルスベリとイサクがバテたりいなくなったりしてしまうと同じように攻めるのがむずかしくなってしまう点。それだけに飛ばして入ったウクライナ戦では前半か後半の早い時間で勝負を決めたかった。70分以降にグッと機能性が落ちてしまい、延長後半に仕留められてしまった。

 イブラヒモビッチの欠場で苦戦が予想されていたスウェーデンだったが、グループステージ突破のノルマは達成。4-4-2でのアイデンティティとそこに上乗せする保持のクオリティを兼ね備えたスウェーデンはラウンド16敗退組の中では最も次のラウンドでのサッカーが見たかったチームである。

頑張った選手⇒アレクサンドル・イサク
 できればアーセナルでも見たかったです。

今大会まとめ

続きはこっち。

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