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「EURO 2020 チーム別まとめ」~イングランド代表編~

目次

チーム情報

監督:ギャレス・サウスゲート
FIFAランキング:4位
EURO2016⇒ベスト16
W杯2018⇒ベスト4

招集メンバー

GK
1 ジョーダン・ピックフォード(エヴァートン)
13 ディーン・ヘンダーソン(マンチェスター・ユナイテッド)
23 サム・ジョンストン(ウェスト・ブロムウィッチ)

DF
トレント・アレクサンダー・アーノルド(リヴァプール) ※6/3負傷のため離脱
22 ベン・ホワイト(ブライトン)※6/7アーノルドに代わって追加招集
21 ベン・チルウェル(チェルシー)
16 コナー・コーディ(ウォルヴァーハンプトン)
24 リース・ジェームズ(チェルシー)
6 ハリー・マグワイア(マンチェスター・ユナイテッド)
15 タイロン・ミングス(アストン・ヴィラ)
3 ルーク・ショー(マンチェスター・ユナイテッド)
5 ジョン・ストーンズ(マンチェスター・シティ)
2 カイル・ウォーカー(マンチェスター・シティ)
12 キーラン・トリッピアー(アトレティコ・マドリー/スペイン)

MF
8 ジョーダン・ヘンダーソン(リヴァプール)
19 メイソン・マウント(チェルシー)
14 カルヴィン・フィリップス(リーズ・ユナイテッド)
4 デクラン・ライス(ウェスト・ハム)
26 ジュード・ベリンガム(ドルトムント/ドイツ)

FW
9 ハリー・ケイン(トッテナム)
18 ドミニク・カルヴァート・ルーウィン(エヴァートン)
20 フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)
7 ジャック・グリーリッシュ(アストン・ヴィラ)
11 マーカス・ラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)
25 ブカヨ・サカ(アーセナル)
10 ラヒーム・スターリング(マンチェスター・シティ)
17 ジェイドン・サンチョ(ドルトムント/ドイツ)

各試合振り返り

GS第1節 クロアチア戦

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しょっぱくて盤石な逃げ切りとここでも苦労人のモドリッチ

 ここまでのEUROは比較的強度的には大人しい試合が続いていた。そんな中、3日目の初戦に登場したイングランドの立ち上がりはなかなかに勢いがあるものだった。高い位置からのプレッシングとシュートまで畳みかけるような攻撃で立ち上がりにクロアチアを圧倒する。

 特に効果的だったのは5分に見かけたスローインからの一連の流れ。ケインとスターリングが入れ替わるように横移動を見せて、縦への進路を確保。スターリングとフォーデンのスピードを活かした縦への早いプレーが見えたシーン。スローインからの緻密な設計も垣間見えた場面であった。

 だが、立ち上がりこそ攻め込んでいたものの、徐々にちぐはぐなところも目立ってくるイングランド。遅攻の際は左サイドのスターリングとマウントを軸に切り崩しを狙う。だが、本職が右のトリッピアーが左に起用されているせいで3人目としての機能を果たすことができない。そのため、左サイドで奥行きを取ることができず。ショーやサカのようなレフティを起用しても良かったような気がするのだが。

 加えて、もう1つ気になるのは最終ラインの連携。それぞれのビルドアップ思考がバラバラ。無駄にリスクを取った体勢からフィードを狙うミングス、つなぎたがるストーンズ、とにかくけっ飛ばしたいピックフォードとしっちゃかめっちゃか。アンカーでゲームメイカー役だったライスを消されてからは、攻守に連携で怪しい場面が目立つ最終ラインだった。

 一方のクロアチアも順風満帆とはいいがたい。モドリッチが前にサイドに守備で奔走する姿はまさしくレアル・マドリーでの彼の姿と瓜二つ。このキャリア、この年齢でもこの役割を果たさなくてはいけないとなるとなかなかな苦労が絶えない。

 クロアチアは立ち上がりはイングランドのプレスに苦戦。だが、イングランドの前線と中盤が間延びするようになると、徐々に豪華なクロアチアの中盤が火を噴き始める。モドリッチ、コバチッチを中心に支配し、敵陣に進撃する場面が目につくように。ただ、サイド攻撃は左サイドのペリシッチとグバルディオルの縦関係に依存。右はヴルサリコに丸投げしており、こちらは機能しているとは言えず。また、左も一本鎗としてはやや威力不足。ゴールエリアに迫る動きは少なかった。前半はスターリングとフォーデンの裏抜けという明確な武器があったイングランドが優勢と見ていいだろう。

 試合を分けたのは前半に機能しなかった中盤の仕事。本職ではないIH気味に起用されたフィリップスの1列前でのボールの引き出し+ラストパスでスターリングの先制点をお膳立て。もっぱら出し手としてリーズの中軸を担っているフィリップスが異なる才能を開花。膠着を打開した。

 その後の試合はイングランドペース。しょっぱい試合とはいえ前線が守備をサボらないメンツなのは大きい。前半よりも撤退した守備網をクロアチアは打開できず。前半は周囲と動きが合わなかったケインも徐々にテンポを掴み始める。終盤は堅くクローズに走ったイングランド。『結局はつまらない』と揶揄されつつも、一瞬の閃きで生まれた得点を守ったイングランドが第1戦を勝利で飾った。

試合結果
イングランド 1-0 クロアチア
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ENG:57′ スターリング
主審:ダニエレ・オルサト

GS第2節 スコットランド戦

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■達成されたただ一つの目標

 フランス×ドイツとは別視点でのグループステージの目玉カード。英国ダービーがEUROで実現。しかもウェンブリーという舞台装置まで完璧な状況。特にボリスタの名鑑に『イングランドから勝ち点を取ることが唯一の目標』と書いてあったスコットランドにとってはここにすべてを置いていく!という一戦になったはずだ。

 ほぼ全員の期待通り、戦術的な応酬が見られるような試合ではなかった。スコットランドは保持において最終ラインにプレスをかけられるとドギマギ。立ち上がりから前線にプレスをかけられる元気が持ち味であるイングランドにあっさり捕まり冷や汗をかく場面もあった。

 一方のイングランドも保持では苦戦。クロアチアが第1節で見せた『とりあえずライスについていく』というやり方をマッギンとダイクスで挟みながら忠実に実行したスコットランド。特にこれに対してイングランドは対策を講じることはなし。第1節に引き続きシンプルにこれが効いてしまったのが切ない。

 もっとも、共に上積みがあったのは確か。ただしそれは選手変更によってもたらされたものである。スコットランドはティアニーの復帰が朗報。ロバートソンからの左サイドクロスが唯一にして強力なスコットランドのエリアへの攻撃手段。この武器は後方にティアニーが入ることでより強化される。持ち運び、裏へのパスもできるティアニーの登場でロバートソンの威力が増加。自らもクロスを上げることができるティアニーが入ったことで左サイドから入るクロスのバリエーションは増えた。

 イングランドで効いていたのはルーク・ショウ。前節にも攻撃の主体になっていた左サイドのトライアングルに左利きであるショウが入ったことによる上積みはあった。さらに利き足だけでなくオフザボールのポジションに長けているショウの存在で左サイドの崩しには磨きがかかった。

 スコットランドは左サイドのクロスのパターンが増えた。イングランドは左サイドの崩しに磨きがかかった。だが、目を閉じてよく考えてみてほしい。両チームはそこさえクリアできればいい攻撃ができるチームだったでしょうか。はい。いいでしょう。目を開けてください。

 1つしかない武器に+αが増えたスコットランドと結局左で崩すよりもスターリングとフォーデンにガンガン走らせた方が早いイングランド。共に構造的に第1節より大きな進歩があったかというと難しいところ。

 それでもワーワー感を楽しむことはできた。後半は右に移されたスターリングがずーっと1人でなんとかしようとしているところとか、あるいは試合終了間際のイングランドのゴール前でのスクラムの組み合いとか、全体的にラグビー要素が強いのは面白かった。

 結局スコアレスで終わった英国ダービー。試合終了後の表情は対照的。選手の多くがクラブから3割引程度の出来になってしまうイングランドに対して、ゴール前でDF陣で体を張ることで魂を示したスコットランドが充実感を示すのは当然だろう。

開幕前に掲げた『イングランドから勝ち点を取る』という目標を達成したスコットランド。攻守のダイナモとして中盤を支えたギルモアがMOMを獲得したことも相まって、選手もファンたちもさぞ意気揚々とウェンブリーを後にしたことだろう。

試合結果
イングランド 0-0 スコットランド
ウェンブリー・スタジアム
主審:アントニオ・マテウ・ラオス

GS第3節 チェコ戦

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■宿題は据え置き

 第2節が終わった時点では突破をかけたガチンコの直接対決のはずだった。だが、他グループの結果で一変。共に突破を決めている両者にとってはただの通過順位決定戦ということになった。

 それでもイングランドはキッカケが欲しいところだろう。特にこの試合ではマウントが不在。前と後ろのつなぎ役として代替が難しい彼の欠場でイングランドがどう動くのかは注目ポイントであった。

 その答えは前線をひたすら下ろしまくること。ケインもスターリングもサカもグリーリッシュもとにかくボールを受けに来る。全員がボールを運べるタイプではあるから問題ないっちゃないのかもしれないけど、バランスとしてはあんまりよくないし、即興性も否めない。

 そんな中でクラブでやったことが活きていた場面も散見された。例えば、開始直後のスターリングをお膳立てしたケインの前線へのパス、マグワイアの持ちあがりからの楔など。個人の良さすら見られなかった第1節、第2節よりはよかったかもしれない。

 途中交代の選手の中で際立っていたのはヘンダーソン。攻守のバランスのとり方とサイドの顔の出し方が絶妙で、周りの人と調和したプレーが見られていた。個人的には彼がいるイングランドの方が好き。

 イングランドがバリバリよかったわけでもないが、チェコもチャンス創出に苦しんだ。序盤から右サイド偏重でサイド攻略に挑む。中心となっているのはダリダで、トップ下の彼が自在に両サイドを使うことで相手を押し下げたいのだろう。

 気になるのはソーチェクのエリア内での攻め上がりのチームの武器としてあまり共有できていないこと。この日のようにシック1人でなんとかするのが難しいCBが相手の時は彼がエリア内に入って、シックを助けたいところ。ただ、チームとしてあんまりソーチェクを押し上げる仕組みができていない気がする。それさえできれば、より強固な守備ブロックが待ち受けているノックアウトラウンドでのサイド攻撃がより武器として磨きがかかるだろう。次の相手のオランダとかすごく効きそうだけど。

 イングランドは人の組み合わせのケミストリーが、チェコはレギュラー選手を活かす仕組みが物足りない一戦。ノックアウトラウンドに持ち越した宿題を抱えた両チームはトーナメントでインパクトを残すことができるだろうか。

試合結果
チェコ 0-1 イングランド
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ENG:12′ スターリング
主審:アルトゥール・ディアス

Round 16 ドイツ戦

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■活性化した左サイドが試合を決める

 ラウンド16で因縁の対戦がウェンブリーで実現。ウェンブリーでの対戦権獲得マッチとなった最終節のチェコ戦を制し、グループDの首位通過を決めたイングランドが薄氷を踏みながら死の組を突破したドイツを迎える一戦である。

 前の日の試合が非常に盛り上がったこと、ネームバリュー抜群なカードであること、そして両チームのスタメンから塩試合の予感は賢明なサッカーファンの皆様なら予想できていたことかと思うが、その予想に違わない塩試合となった。

 どちらのチームも3-4-3でのミラー的な噛み合わせ。保持においては外は使わずに縦に進む。というわけでライン間へのパス通し選手権と化していた。ドイツの狙いはミュラーに当てながらその後方から抜け出す形でイングランドの最終ラインを一気に破る形。もちろんその役割を課されたであろうヴェルナーに加えて、中盤から飛び出せるゴレツカの存在は厄介。仮にゴレツカの抜け出しに対するウォーカーのカバーが遅れていたら、ライスに出たカードの色は異なっていたかもしれない。

 対するイングランドはライン間に降りるスターリングが前を向けるかが全て。なぜかわからないけど、代表では味方に前を向かせる事業をケインが放棄してしまっているのでシャドーは自力で前を向くしかないのである。ただ、ドイツはイングランドと比べると前線の守備の姿勢が甘いので、それでもライン間にパスを入れることはできていた。

 基本的にはライン間のスターリングか、ミュラーを追い越すラインブレイクが刺さるかという勝負なので見やすいは見やすい。あと、試合内容とは全然関係ないけど、ハーフタイムに内藤さんが『この試合は面白い』って言っているツイートが噛みつかれまくってて笑いました。褒めているのに噛みつかれるという構図が面白い。

 後半も同じ展開が続く中で違いを作ったのはイングランド。グリーリッシュの登場で左サイドにタメができるようになったイングランド。75分にようやくこの試合初めてきれいに横断を成功し、これを得点に結びつける。左サイドから上げたクロスを決めたのはスペースに走りこんだスターリングだった。

 この失点を境にドイツはテンションがガタ落ち。特にネガトラは緩いとかじゃなくてもうやめてしまったといってしまっていいレベルだろう。それだけにスターリングのバックパスでのミュラーの独走アシストはドイツを蘇生しかねなかった余計なプレーである。

 保持の局面の3-2をずっと嵌められている問題を最後まで解決できず、ロストも目立つようになったドイツ。点を取る気になったイングランドに追加点が生まれるのは言うまでもない。2点ともにアシストしたのは左サイドからグリーリッシュとショウの左サイドは攻撃面での好連携が目立ち、これから先のラウンドでの再結成はあるかもしれない。

 最後まで策がちぐはぐで自らのスタイルと共に沈んでいったドイツを尻目に、実にドイツ戦41年ぶりの勝利を決めたイングランドがベスト8に進出を果たした。

試合結果
イングランド 2-0 ドイツ
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ENG:75′ スターリング, 83′ ケイン
主審:ダニー・マッケリー

Quarter-final ウクライナ戦

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■早過ぎたシステム変更の代償

 打ち合い上等、今大会屈指のヒットメーカーのウクライナと日本の欧州サッカーファンの寝落ち製造機と化しているイングランドのほこたて対決である。

 ウクライナのフォーメーションは5-3-2。前線の並びはここまでサイド起用が多かったヤルモレンコが最前線に張り、ヤレムチュクとの2トップを形成する。マリノフスキーが急遽欠場という影響もあったのかもしれないが、少しこれまでとは異なる風情の前線の構成になった。ちなみにジンチェンコはこの日はIHの一角。内側での起用となった。

 これに対してイングランドはWBの手前のスペースを使い、相手をきっちりと押し下げる。安全にボールを運ぶことができる、相手を敵陣に押し込むことができるという部分ではOK。ただ、ギャップを作るところが不十分。そこを早々に補ったのはスターリング。サイドでボールを受けると横移動でパスコースを創出。ザバルニーがずれた分、スターリングはケインへのラストパスをつけることができるように。これが先制点につながる。

 先制点後も自陣に釘付けになり苦しむウクライナ。サイドに流れるヤルモレンコがボールを引き出そうとするも、トップから流れる分、エリア内に人を送り込めずにフィニッシュの圧力が出てこない。

 加えて、最終ラインに負傷者が出てしまったウクライナ。しかし、これをシェフチェンコは逆手に取る。4-3-3気味に移行して、狙いとしたのはイングランドの右サイド。フィリップスのスペース周辺にヤレムチュクが降りるポストの動きやジンチェンコの外への流れをトリガーとした大外とのレーン交換で反撃。同サイドから深さを取り、PA内にマイナスのクロスを送る。

 これをしのいで前半を無失点で終えたイングランド。後半はウクライナの3センターを逆手に取り、左のアンカー脇から入り込む。ハーフスペースに位置どったケインがファウルを得ると、ここからのFKで追加点。

 さらには同サイドの攻略で決定的な3点目。スターリングを追い込すショウという動きでウクライナを完全攻略。ウクライナはWGが戻らないというコンセプトのツケを払う形での失点を喫してしまっている。ここからはヘンダーソンを投入し、試合をきっちり握るイングランドに死角はなかった。

 4-3-3への変更は効いていただけに悔やまれるウクライナ。だが、ハーフタイムを挟めば、当然対策されてしまうだろう。負傷者の関係もあるかもしれないが、イングランド対策として用意されていた4-3-3を引っ張り出すタイミングが早すぎたせいで、イングランドに悠々と試合を隙を与えてしまった印象だ。

試合結果
ウクライナ 0-4 イングランド
スタディオ・オリンピコ
【得点者】
ENG:4′ 50′ ケイン, 46′ マグワイア, 63′ ヘンダーソン
主審:フェリックス・ブリヒ

Semi-final デンマーク戦

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■兵糧攻めで120分勝負を制する

 スペインとイタリアという内容も結果も濃密なカードに比べれば、準決勝のもう1つのカードは非常にさっぱりしたカードになった。互いに相手のDF-MF間に突撃して、どこまで前を向けるか?という部分でのシンプルなデュエルの応酬という展開である。

 イングランドの攻撃陣に対してデンマークは非常に警戒を強めていた。サカ、ケイン、スターリングの3人にはデンマークは最終ライン5人でチェックをかける。特にライン間で受ける意識が高いスターリングが前を向こうとすると2人でなるべく囲うように対応。場面によっては1人しかチェックをかけられないシーンもあったけど、その場面での対面のラーセンの対応を見れば確かに1人では危ういなと妙に納得する。

    スターリングは正対し加速されると止められないが、特に正対するためにイングランドの周りの選手が工夫を施すこともないので、デンマークが2人で囲う状況を作ること自体は難しくはなかった。数の論理での対抗のため、イングランドはSBのオーバーラップなど後方から枚数を確保すればチャンスが出来そうなもの。だが、イングランドは前線に起点を作ることが出来ず、後方から援軍が上がってくる時間を確保することが出来ない。

 せいぜい対応策はCHのフィリップスを高い位置に置くことでロスト時の即時奪回を狙っていくくらいである。セカンドボールに備えた人を送り込むというのは確かに対策にはなっているが、逆にこれをデンマークに利用されるパターンもあった。

    デンマークの攻撃も狙いはライン間で受けること。ただ、イングランドよりはより呼吸をしながらライン間でうけることが出来る。なぜならフィリップスが前がかりになって開けた穴が発生することがあるから。この穴を突けるデンマークの方がむしろライン間で時間を得ることが出来る頻度は多かったように思う。

 ジリジリした展開の中で先制したのはデンマーク。ライン間で受けたドルべリへのファウルをきっかけにFKを2連続で得る。すると、これを売り出し中のダムズゴーが直接叩き込む。横方向のコースでいえば少し甘かったかもしれないが、縦方向の軌道が非常にハード。ピックフォードにとっては難しい状況になってしまった感がある。ライン間で受けるしなやかさを見せたドルべリで得た好機をダムスゴーが生かしたデンマークが前に出る。

 しかし、イングランドもわずかな連携の糸から同点に。右サイドに流れることが多かったケインを降りて受けると、ほぼノータイムでサカの走り込みに合わせたスルーパスを披露。後ろに目でもついてのかってくらいの精度。

    サカの走り込みのスピードを考えると、ワンテンポでもケインの出すタイミングが遅れればオフサイドのシーン。即時に裏に出すというケインの判断とそれを信じて裏に加速したサカの連携が点でピタッとあった瞬間だった。この裏抜けでオウンゴールを誘発し、同点に追いつく。

 ここからのイングランドはサウスゲートの底意地の悪さの詰め合わせである。彼の優先事項はとにかく負けないことである。したがって、初手はしっかりと相手を押し込むことを始める。これにより、デンマークのカウンターは深い位置からスタートすることに。デンマークには数本のパスを正確につなぐ精度も、1人の選手が一気に相手陣までボールを運ぶこともできない。したがって、まずは相手のゴールへの道筋を絶つことを最優先とするイングランドだった。

 延長に入る段階でサウスゲートが切った交代カードはサカ⇒グリーリッシュのわずかに1枚だけ。5枚の交代カードが手元に残している。同点後のイングランドは兵糧攻めといった様相だった。まずはライス⇒ヘンダーソンという夢のかけらもない交代でボール回収を強化する。さらには同時にフォーデンを投入し、押し込まれても得点が取れる状況を整備する。

   スターリングが獲得した『ソフト』なPKをケインが沈めた後はより現実的な路線に舵を切るイングランド。なんとトリッピアーと代わったのは先程交代で入ったグリーリッシュ。中継ぎという概念をサウスゲートはサッカーで実践して見せた。

    これで1点取ってから一気に守りを固める体制に舵を切ることに。5バックの前にフィリップスとヘンダーソンを置くなんて、こじ開けられないだろうそんなの。しかもまだ交代カードを2つ残していていざとなれば攻撃的に転換できるのはちょっともう意味がよくわからない。

 とはいえ、それが出来る選手層も武器。そして、PK判定は怪しくとも延長戦の段階で仕掛けて突破が出来るスターリングの力は本物。最前線で体を張り続けたケインと、最後尾で無限にボールを跳ね返し続けたマグワイアも素晴らしいパフォーマンスだった。120分のパフォーマンスで言えばイングランドが次のラウンドに進むのは妥当だろう。

 大人げなかろうとダイブと揶揄されようと勝利したのはイングランド。外野の雑音など我関せずとチームと盛り上がるサポーターを見ると、これはこれで強さだと強く感じさせられる。

試合結果
イングランド 2-1(EX) デンマーク
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
ENG:39’ ケアー(OG), 104‘(PK) ケイン
DEN:30‘ ダムスゴー
主審:ダニー・マッケリー

Final イタリア戦

マッチレビュー

大会総括

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■持久戦最強の負けない集団

 ドイツ×フランスには及ばないものの、第1節のイングランド×クロアチアはなかなかにネームバリュー的にも豪華なカード。そんなGSの初戦でイングランドについて思ったことは2つ。1つはエンタメ性を有しているサッカーを行うことが難しそうということ、そしてもう1つは前線からバックスまでサボる選手が少なくこのチームには勝つのはめんどくさそうだと思ったことである。

 ざっくりとした初戦でのこの感想は終わってみれば今大会のイングランド代表をよく表しているものといえるだろう。イングランドは退屈でつまらないけど負けないチームだった。今回大会も多くの候補選手を抱える中で中盤CHの1stチョイスに選んだのはライスとフィリップス。それぞれの所属チームの中でも非常に守備的な役割を務める選手である。一番サウスゲートのカラーが強く出ているポジションといってもいいだろう。

 攻撃においてはビルドアップで工夫しながら押し上げるよりは、鋭い縦のパス1つや裏抜けで一気に局面を動かす。その中核を担うのがケインとスターリング。特にケインは圧巻。序盤戦こそやや不調が目立ったものの、徐々に調子を取り戻していくと間受け、サイド流れ、裏抜けを織り交ぜながらボールを引き出す。

    多少精度が悪くても、最悪ファウルを取るくらいはやってのけるのが今のケイン。そもそも前と後ろがつながらずにFWが孤立しそうだから自分がつなげてしまおうというのもなかなかすごい。本人はスパーズで慣れているのかもしれないけど。

 守備面ではマグワイア、ピックフォードを中心に大崩れする試合は皆無。複数失点がないチームとして大会を終えた。豊富な戦力を活かした兵糧攻めが采配のお決まりパターンで、交代カードを切るのは軒並み遅い。その上に現実的な交代をすることが多く、まずは失点しないことを優先するように思えた用兵だった。献身的な守備が出来る前線がいればまず守りからというのはわからなくはない。実際、デンマーク戦は延長戦ではヘロヘロのデンマークに前に進ませることを全く許容しなかった。

 逆に点を獲りに行くための采配はあまりうまくはない。グリーリッシュを投入すればチームのスタイルはガラッと変わるのだが、ドイツ戦を除けば彼が伸び伸びプレーできる環境や仕掛けを与えていたとはいいがたい。兵糧で活きるはずの延長戦で勝ち切る一手が見いだせないことが最後の最後で高くつくことに。決勝のイタリア戦では120分で試合を制せず、ドンナルンマにみすみす目前で優勝を阻まれてしまった。

 健闘はしている。なにせ2大会連続ビックトーナメントでベスト4である。育成の成功もこの負け1つで霞むものではない。サウスゲートもチームをまとめる役割は果たしており、敗戦後のコメントを見てもチーム内の雰囲気もかなりいい様子が窺い知れる。それでもタイトルは欲しい。実質代替不可能なケインが今の多岐にわたるタスクを90分全試合高い質で通せるのはおそらく来年のW杯がラストチャンスである。新世代の集大成となるカタールを照準に再起動する彼らを楽しみに待ちたい。

頑張った人⇒ハリー・ケイン
 正直、宗教上の理由であんまりほめたくない選手なのだけど、これだけやられてしまっては仕方がない。大エースとして彼にボールを集めるのは当然だし、一つ一つのプレーで責任を取ろうという意識が非常に強い。スパーズという浮き沈みがあるクラブの中で背負ってきたものが違うんだろうなという覚悟が見えた大会だった。

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