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「60分越えのためには」~2021.5.30 J1 第17節 川崎フロンターレ×鹿島アントラーズ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■IHに見るプレーの優先度

 プレビューで触れた通り、この試合の展開を決めるのは川崎側のメンバーセレクション。主力に疲労の色が濃い直近の試合のパフォーマンスから、90分の一部をテンションを抑えながらプレーする判断があってもおかしくはなかった。

 一方の鹿島は相馬監督が就任以降、テンポの速いボール奪取から縦に素早く奥行きを取るアタックで復調。おそらく川崎戦も大枠はこのスタイルから変えることはできないはずである。

 というわけでこの試合の展開は川崎次第。キックオフどころかスタメン発表の時点でネタバレになってたけどね。主力を頭からということはガンガンモード確定であります。勢いを持ったトランジッション合戦でございます。

 川崎側の保持のポイントはレオ・シルバという関所を越えられるかどうかである。本当は三竿健斗もだったんだけどベンチ外だからレオとピトゥカ。鹿島としてはここで跳ね返せるか否かである。

 川崎としては縦へのスピーディな展開でこの部分を越えることを狙う。カウンター時は当然縦に素早く。ただし、保持においては横に揺さぶるサイドチェンジを挟み、深い位置まで攻撃を目指していく。

 サイドチェンジの優先度の高さがうかがえたのは両IHの位置である。ボールサイドに集結することもなくはなかったが、基本的にはサイドチェンジの案内人としての役割が色濃かった。

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 ちなみに家長はフリーダムなので、普通にこっちに寄ってきたときもあったけど。中央で前に向かせる人づくりにおいては、IHとシミッチが縦関係になり、片方を前に向かせる。鹿島のプレス隊はトップの小泉と上田が2枚で川崎のCBとアンカーの3枚を見る役割だったけど、自らのラインを越えられた後にボールサイドのFWがアンカーを消すことをしなかったので、川崎は比較的楽にシミッチを左右の展開の起点にすることができた。

 サイドでの崩しはやはり左の方が完成度が高いだろうか。方向転換を頻繁に行う上に相互理解が深い三笘、旗手、登里の3人は現状ではベストの左サイドユニットだろう。だからこそ、無理に逆サイドのIHがこのサイドに顔を出す必要はなかった。

 同サイドの崩しにおいては三笘がいつもよりも奥側で受けたがる様子を示していた。できれば22分の手前のシーンのように登里に手前で受けてもらって常本をおびき寄せてもらい、自分は同サイドの犬飼を引き付けてほしいという考えだったのだろう。たとえ、常本を外せなかったとしても、なるべく奥で受けてラインを下げることが鹿島攻略の優先事項となっていた可能性はある。

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 上の図の土居のように鹿島のSHは比較的内に絞る傾向が強く、大外のSBに裏を取られた際の対応が怪しくなるところがある。そこのギャップを意識的に三笘でつこうという話である。

 先制点はこの形から。ただし、奥行きをもたらしたのは左ではなく右サイド。荒木の裏のスペースで受けた山根が先制点の起点になった。家長を飛ばして送った先は裏のダミアン。プレビューで触れた通り、鹿島は左SHの方が内に絞って外を空ける傾向は顕著。その分、バックスでカバーしなければならない横幅は広く、このシーンのようにスルーパスを通されるシーンは少なくなかった。鹿島の非保持での難点が露呈した先制点の場面といえるだろう。川崎にとってはこのように関所を通らずに同サイドで完結させられれば楽である。

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■初手と加速で後手

 川崎の狙いは中盤をどう越すかだが、鹿島の狙いも相手の中盤をどう越えるかである。仮に越すことができれば、一気に加速することができて前線でいい形の状態で届けることができる。

 だが、はっきり言ってこの部分では非常に鹿島は苦戦した。まずは初手のスムーズさ。川崎のプレッシングは比較的早く、ボールを持った鹿島の選手が攻めはじめとなるスイッチを入れることができない。

 ゆっくりとした攻めにおいて家長の裏を使えなかったのは痛いところだっただろう。例えば28:30のシーン。永戸に家長の裏でつないでもらえれば荒木と永戸の2人でジェジエウ攻略まで移れたのでないだろうか。確かに大外高い位置へのSBへのCBやGKの浮き球というのはこの数試合の鹿島の崩しで見られなかったところではあるのだけど。

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 速い展開においてネックになったのは小泉。彼が悪いというよりは現状の鹿島においてはパスを引き出してトリガーを引く選手が前線にいなければ加速することができない。小泉ではその役割を担うのは難しい。途中から小泉をサイドに置いたのは攻撃面での機能改善だろう。土居を中央に据えることでボールが流れるようになった。

 攻撃の初動の部分では川崎のプレスに苦しみ、加速の部分ではトップ下の人選の部分で苦しんだ鹿島。やはり、長短問わずパスの精度、スピード、あるいは展開した先のサポートとかも両チームには差があったように思う。例えば15分手前の家長のサイドチェンジを起点としたプレスの脱出は鹿島には難しいし、30分のピトゥカのサイドチェンジは川崎が前半重用した形と似てはいるが、逆サイドで三笘の戻りが間に合っている。パススピードもそうだけど、常本のサポートのスピードもやや物足りない。機会の部分も精度の部分でも後手を踏んだ鹿島。前半は我慢の展開となった。

■盤面変われど、ミッション変わらず

 確かに前半は川崎のペースだった。ワンサイドといってもいいくらいの展開だった。先制点も取った。だが、川崎にとってはパーフェクトだとは言えないだろう。何しろ点差は最小である。幅を使い、展開が速いという頭も体も疲れるやり方であれば、川崎は60分前後を目途にペースが落ちてしまうという難点がある。少なくとも落ちる前に2点はとっておきたかったはずだ。

 それに合わせるように鹿島は後半頭からレオ・シルバのプレスの強度をアップ。アンカーや降りていくインサイドハーフに積極的についていくことで、川崎の攻撃を高い位置から阻害していく方針に舵を切る。とはいえレオ・シルバが出ていった先を完璧に鹿島が埋めていたわけではなく、その分中盤に穴が開いていた感は否めない。実際中盤は3枚で受ける形になっていたし。

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 川崎としては超えるべき防波堤が前に出てきただけである。ビルドアップ隊への圧力は変われど、やるべきミッションはそこまで変わっていない。変わったのは得失点の可能性である。鹿島にとっての取りどころ、川崎にとっての超えどころを前半よりも川崎ゴール側に寄せたことで、両軍に得点が入る可能性が高まった形だ。鹿島はリスクもリターンも高い方に舵を切った。

 したがまま一概に手を打った鹿島に流れが傾いたとは言えない。実際、後半開始直後は川崎が強度を増したプレッシングを回避し、ゴールチャンスを迎えることができた。特に外に開く三笘には独走のチャンスが訪れる。だが、この日の三笘はどこか精彩を欠いている。特にプレー判断の部分。52分のシーンでは広いスペースでの1対1という得意の土俵で町田にあっさりとられているし、58分のシーンでは真横にいる旗手を使う方がベターだったなどかなりらしくないプレーが続いていた。長谷川への早い交代は理解できる。

 川崎ペースだった流れが変わったのは55分。レオ⇒荒木へのパスでシミッチを越えることに成功した攻撃からである。ここからは鹿島のペースに流れるのは早かった。鹿島の狙いは明確に中央のバイタルエリア。シミッチの脇周辺だ。ショートパスやドリブルだけでなく、この時間帯はロングボールも多用。川崎のIHの前への意識を利用してセカンドボール回収からもチャンスを作った。

 川崎はこの時間帯は押し上げが効かず、前線と中盤が間延びしてしまっているので4-3で受けてしまう形が多かった。逆に鹿島は前にプレスに来るブロック前のピトゥカがフリーでボールを持ち、ライン間のどこにボールを入れるかの駆け引きである。

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 間受けの荒木、裏抜けの上田、どちらもごされの土居などライン間受け⇒奥行きでの武器は十分。というか、手段がそれとわかっていても止められないのだから職人である。特に上田綺世の裏抜けは川崎を翻弄していた。山根は特に駆け引きで後手をふんでおり、ゴールシーンにおいてもややラインを下げる動きが早かった。

 鹿島のつなぎ⇒裏抜けの流れは確かに早かったが、山根にはラインが見えていたこと、他のDFライン3人は意志が統一できていたこと、追うとしても外から遅れる形で追いかけることになることなどを踏まえれば、なんとかオフサイドを取りに行ってほしかったところだった。

 70分過ぎに行われた家長を中央に据えた4-2-3-1への移行は、ここから始まる鬼木監督の素晴らしい采配のハナを切るもの。SHに戻る体力のある長谷川と旗手を置くことで中盤を4-4で受けることにより、ライン間を通される回数は明確に少なくなった。

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 15分余りでペースをフラットに戻した川崎。決勝点を狙うべく、ダミアンに代えて知念を投入したのはこの日のコンセプトをよく表しているといいだろう。前がかりになる鹿島に対してDFラインで踏ん張れる知念を入れることで押し上げを阻止。決勝点は彼の落としを家長が拾ったところを端に発する。

 クロスの受け手としては右に小林を入れたのも絶妙な一手。もはやこの時間帯の川崎の得点パターンは左からのクロスしか残っていなかったように思うので、長谷川も知念も小林もよくその糸を手繰り寄せて得点にしたなと思う。勝ててよかった。それが全てである。

■60→90のために

 あとがき前にもう少しだけ。こういう試合の川崎のペースは決まって60分過ぎに落ちる。そのことについて鬼木監督は試合後のコメントで以下のように話している。

── 前半は本当にスーパーなプレーだった。後半に落ちることは織り込み済みなのか。それともトータルで考えているのでしょうか。その辺のチームマネジメントについては?
『一番の理想は、ああいう強度の高いサッカーをスタートから最後までしたいと思っています。そういう中で、一番は、前半で得点を重ねられれば、そこで点を取り切ることが一番の目標ではあります。取りきらなければ、苦しい時間があるのもわかっています。またそこで失点すれば、もっと苦しいのもわかっています。そこのゲームコントロールもありますが、強度を伸ばしていけるようにしていきたい。当然、ゲームマネジメントはこちらでしますが、いけるところまではいく。交代やフォーメーションも含めて、できるだけ強度を落とさずにやりたい。今日は強度が落ちた中でやりましたが、もっともっと面白いことが起こせるんじゃないかと思っています。』



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 要は今のやり方をペースをコントロールする術を覚えながら支配していくのではなく、60分までのプレーの時間を90分まで伸ばすことを目標としているように聞こえる。

 単純な体力面だけの問題ならばこういう物言いにはならないはずである。シニアの選手たちがこういったやり方を継続するだけで体力が向上すると考えるのは難しい。むしろ、続ければ懸念されるのはパフォーマンスの低下だ。交代選手の強度が上がればというニュアンスもあるだろうが、その前のコメントで『この試合はきっかけを待って交代を我慢していた』という話もしていたので、それだけではないのだろう。

 おそらく、このサッカーは頭もすごく疲れるはずだ。もしかすると体以上に。周りの人もボールも相手もこれまで以上に気にかけながらバランスを取り続けることを90分継続しなければいけない。それはきっと想像以上にタフなことなのだろうと思う。

 鬼木監督が言いたかったのはこの頭の部分ではないだろうか。考えられる時間を少しでも伸ばすことが出来れば、支配力は今以上に高まる余地はある。しかも、こちらは体と違って慣れることで負荷を下げられる。

 例として挙げたいのは65分のプレー。シミッチと田中碧がパス交換を試みてカットされるシーンだ。きっと鹿島の前半までのプレー基準ならば、シミッチが田中碧に落とし、容易にサイドチェンジを完了させた場面である。

 しかし、すでに指摘した通り、後半の鹿島にはレオ・シルバのチェックがある。このシーンもシミッチのマークに入った荒木と共にレオがシミッチを挟んだことでボールロストを誘発している。

 だが、川崎にとってはできることはまだあった。レオと荒木の挟み込みはうまいが、シミッチの2タッチ目は前方、または左の大外側にパスを出すタイミングはあったように思う。レオも荒木も消せていない方向が出現している。

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    気になったのは長谷川のポジショニング。土居のそばに立っていた彼がよりピトゥカと土居の中間の位置に動いたとしたらどうか。土居が長谷川の動きについていけば、大外の登里へのパスコースが空く。土居がついていかなければ長谷川へのパスコースが空く(やや体の角度的に厳しいが、囲まれて取られるくらいならチャレンジする価値はありそう)。長谷川が動くことでパスの可能性が開けた場面だと思う。

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 なので、動き1つで前に進めたシーンかなと。前への圧力を強めた鹿島の狙いを外せた場面。多分、鬼木監督のいう90分落とさすにやり続けるというのはこういう動きを取り続けること、そしてそのために考え続けるということだと思う。

 余談なのだが、長谷川は若干こういうアクションを取り直す頻度が少ないのが気になる。ちょっとスイッチを切りやすいというか。ドリブルで持った時のプレー選択(縦に行く?横に行く?)もだけど、むしろこういう細かいオフザボールのところで受ける準備ができていないシーンが現地で見ていると特に目につく。決定的な裏抜けとかは上手なんだけどね。もっとジャブ寄りのところのオフザボール。

 もちろん、後から映像を見返して指摘することに比べれば修正ははるかに難しい。それは承知している。でも、川崎が60分を90分に伸ばすためにはこういう1つ1つの積み重ねが大事なのではないかなと思う。

あとがき

■強いチームと当たるというチャンス

 苦戦したのは間違いないが、内容が悪かったかといわれればそういうわけでもないように思う。むしろ、よかったかなと。例えば、あっという間に3点取った名古屋戦が1つ間違えればこういう展開に陥っていたとも思うし、逆にこの鹿島戦が立ち上がりからあっさり決着してしまうようなこともあったように思う。まぁ、シュートが入らない日はあるので仕方はない。

それくらい前半は良かったし、後半も明らかにペースを握られていたのは10分強。何とか最小限に抑えたといっていいだろう。ただ、逆に言えば60分支配モードだとこれくらいは受けないといけないし、鹿島のように畳みかける攻撃がうまいチーム相手だと得点に至るのに十分な機会をこの時間でも作れてしまう。ならばもっとその時間を短くしたり、受ける体制を整えたりしなければならない。強いチームと戦うとより強くなるための課題を得られる。だから鹿島戦は楽しい。

今日のオススメ

 58分のソンリョン。そのあとの飛び出しも含めてパーフェクト。最高。

見返しメモ



「川崎×鹿島の見返し。 立ち上がり…」、@seko_gunners さんからのスレッド – まとめbotのすまとめ


せこさんから「川崎×鹿島の見返し。 立ち上がりは割と家長が左に流れているね。あんまり途中からはむしろ流れないことをイメージ


sumatome.com

試合結果
2021.5.30
明治安田生命 J1リーグ
第17節
川崎フロンターレ 2-1 鹿島アントラーズ
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:19’ダミアン, 90+4′ 小林悠
鹿島:61′ 上田綺世
主審:西村雄一

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