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「スタイルを支える地力」~2021.4.7 J1 第8節 川崎フロンターレ×サガン鳥栖 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■大外は使えずとも二の矢はアリ

 鳥栖のメンバー表を見た時は頭が「???」っていう感じになってしまった。あぁ、プレビューでの展望はきっと大外れで飛んだわなと悲しい気持ちになった。

 というわけでまずは鳥栖のフォーメーションから見ていく。ざっくり言えば普段と左右の機能が逆であった。普段であれば、左のCBに入る中野伸哉が保持時には左のSBとして駆け上がり、大外の攻撃を一手に引き受ける。だが、この試合で中野がCBとして駆け上がったのは右サイドだった。したがって普段可変が激しい左サイドは静か。その分、右サイドの可変が激しくなる。いつもとは左右が逆転した格好である。上はプレビューで使った図。普段の鳥栖。

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 左右の逆転の理由についてはこんな仮説があるのでご紹介。とするのならば鳥栖の狙いはスタメンの時点である程度肩透かしされたことになるのだけど。

 だが、それでも自分たちの狙いという部分ではやることは変わらないはず。右から押し込んで川崎を自陣に封じ込めたかったという狙いはあったはずである。しかし、それをピッチに描くことはできなかった。大外を上がる中野はこの日あまり機能せず。その原因はおそらく同サイドでCBとしてプレーしていた田代にあるように思う。

 柏戦では配球面でものびのびやっていたように見えたが、あの日はこの試合と違って非保持側のプレッシャーがなかった。川崎のように速いテンポでプレーすることをプレスで求めてくる相手になるとスキルを発揮するのは難しくなってしまう。逆サイドのWB(余談だけど鳥栖はこのポジションのことをウイングハーフというらしい)の小屋松には山根が高い位置からチェックに行くことで時間を奪いに行く。

 大外を活かせない状況が続いた鳥栖。それでも保持における狙いどころはあった。トップに入った酒井へのロングボールである。そんなことを言ったってシミッチ、谷口、ジェジエウ相手に競り勝てるの?と思ってしまいそうだが、別に競り勝つ必要はない。フィフティーに競り合えれば十分である。

 鳥栖の保持時の並びを強引に数字で表すと2-2-4-2のような形。かなり中央に人をかける形になっている。加えて、川崎のインサイドハーフはこの試合でも前線にプレッシングに行く。そうなると鳥栖が長いボールを蹴った際にシミッチの周りには鳥栖の選手ばかりという状況ができる。

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 つまり、セカンドボールを拾って前進することができる。本田、樋口、松岡、仙頭、島川などこの日は中盤でパス回しができるプレイヤーが勢ぞろい。崩しも中央が基本線。大外の中野伸哉と小屋松はアクセント程度でフォローは最小限。そのかわり、中盤とDFラインの間に人を置けるようになっていた。29分のシーンはうまくいきかけた一例である。しかし、ここが空いていても谷口とジェジエウがつぶしてしまうのだから偉大である。

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 川崎も鳥栖のロングボールへの対策は打っていた。DAZNでは確認しにくいのだが両SBを内側に絞ることでシミッチの脇を閉じてセカンドボールを拾えるようにしていた。

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 SBが絞る分、鳥栖の大外は空いてしまう。したがって、鳥栖はパクまで戻せば大外のWBと酒井という複数のロングボールのターゲットができることになる。だが、これを許さなかったのがレアンドロ・ダミアン。パクへのプレッシングはボールを奪い取るところまではいかなかったが、ピッチのどこへでも飛ばせる彼のフィードをある程度制御できていた部分はあるはずだ。

■プレス外し、横への揺さぶりで主導権

 鳥栖の非保持はオールコートでのマンツーマンという超強気スタートだった。その超強気な手法に対応するように川崎も真っ向勝負。好調だったのはレアンドロ・ダミアン。彼を軸にしたポストからの落としで川崎は続々とマークを外していく。

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 川崎としてはここで出鼻をくじけたことが大きかった。ここで抜けられなければ鳥栖が一方的に押し込む展開になってもおかしくはなかった。だが、むしろプレッシング回避で主導権を握れることになる。

 プレスを外した川崎は一気にゴールに向かう。速い攻撃の中で際立ったのは小林悠。鳥栖はこの日は序盤からカウンターで一気に自陣までラインを下げなければいけない展開があった。その際に本来小林をマークするべきエドゥアルドが内側に絞ってダミアンを監視しがちになる。

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 そうなった場合、開いてボールを受けることでフリーになる。左から運んで右の大外が浮く機会が多かったのはエドゥアルドがダミアンを優先する品が多かったからだろう。

 10分を過ぎると徐々にプレスラインが下がってくる鳥栖。そうなった場合も川崎の前進の仕方は同じ。ポストからの落としを受けることで前を向きボールを運ぶ。

 特にこの日際立ったのは脇坂と山根。共に球際に強く、機をみたボール運びやオーバーラップが秀逸。特に山根は32分のような侵入のように前線に効果的に絡んでいくシーンが目立った。

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 給水を経て負傷による選手交代を挟み、再びマンマーク気味のプレスを起動する鳥栖。川崎は今度は早い展開で攻め立てる。狙いとするのは鳥栖の3バックと川崎の3トップが直接勝負できる形である。細かいパスワークとオフザボールで後方でフリーマンを作ると、両サイドのデュエルで川崎が徐々に優位に立つ。

 左の長谷川は40分にオフザボールで中野伸哉を出し抜いて一気にゴールに向かう。ダミアンはゴールネットを揺らすことができなかったが、この日トップクラスの抜け出しのうまさを見せた。

 右の小林はエドゥアルド相手に競り合いで引けを取らず、裏への駆け引きにおいては優位に立った。40分の長谷川の突破に伴い、田代とエドゥアルドが川崎の左を気にするようになると、川崎はそれをフリに42分に山根が抜け出すシーンが出てくる。

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 脇坂を起点に横に揺さぶる動きが縦へのパスが入る前に入ったが、このように3トップを上下左右に揺さぶるような動きを噛ませることで鳥栖は最終ラインの動きの負荷が高まる。

 この日のように鳥栖が積極的なプレッシングで試合を支配しようと思った時の最大の難点はバックスの強度である。前のプレスを抜けられてしまえば、広いスペースで鳥栖の最終ラインがさらされる頻度が増えてしまう。川崎はそこにさらに横への揺さぶりを組み合わせることで、鳥栖に横方向の負荷をかける。つまり、ハイラインにおける鳥栖のネックにさらに付け込んだ形である。

 そういう意味ではこの試合の前半の終盤は得点こそ入らなかったものの川崎ペースだった。非常に効果的に鳥栖のバックスに負荷をかけることができた。同時にガンガン前プレスにいく川崎のバックスは常にこのスペースの管理をしているのだと思うと、彼らの強度はさすがであることを再確認することができる。

■広いスペースも狭いスペースも攻略したダミアン

 後半の頭は川崎は素早い攻撃で相手のゴール迫る頻度を高めた入りになる。丹野が長いボールを蹴ったり、ダミアンへのポストを前半よりも積極的に使ったりなど。おそらく、前半の展開を見て川崎のFW陣と鳥栖のDF陣とのデュエルにおいては自信を持っていいと鬼木監督は判断したのだろう。

 その強みが結びついたといえるのは田代の退場シーン。ダミアンの入れ替わりのところを倒してしまい決定的な得点機会の阻止により一発退場となる。長いボールに対する体の入れ替わりで勝負ありだった。

 長いボールを主体として数的優位を得た川崎。60分を過ぎたところで三笘と遠野を投入し、さらにゴールに迫る。鳥栖が撤退する機会が徐々に増えてきたこともあり、川崎はここから押し込んでのサイドを使った崩しにシフトしていく。

 中盤の枚数が減ったこともあり、シミッチがマークから解放されたことは非常に大きかった。10人の相手に苦しむことは以前の川崎にとっては逆に相手が引きこもってしまい都合が悪くなることもあったが、今はうまく数的優位を活かすことができている印象がある。

 決勝点を生んだのはフリーになったシミッチから。ダミアンがシミッチから受けた楔をヒールで流すと、飛び込んだ遠野が泥臭く飛び込んで先制点を得る。先ほどは広いスペースを活かして相手を10人にするのに成功したダミアンだが、この場面ではナローなスペースを突くための素晴らしいテクニックを披露。ミクロでもマクロでもプレッシングでも効果的だった。調子、いいんだろうなぁ。

 追加点を狙いたい川崎だが、押し込んだ後の攻撃のクオリティはもう一押し足りなかった印象。特に左サイドの押し込んだ後の動きはスターターのセットの方がスムーズだったように思える。三笘という武器はあった分、威力はあったが、遠野はオフザボールでどこに動くか探っているように見えた。彼が入る前の脇坂がスムーズだったのもあるだろうが。

 逆サイドは最後までオーバーラップをサボらなかった山根のフォローで押し込んでからフリーの選手を作る状況は作ることができていた。なかなかフィニッシュまでは決まらなかったけど。この両翼をフリーのシミッチが自在に操ることで川崎は鳥栖を押し込むことに成功していた。

 だが、最少失点差ということやFWを続々と投入する鳥栖も虎視眈々と逆転の機会を狙っていた。特に恐ろしかったのはパク・イルギュ。終了間際に家長の追加点のチャンスを防ぐと、キャッチしたボールを素早くリスタートし、敵陣深くまで侵入する機会を創出した。こういうGKがいると、フィールドプレイヤーが先にあきらめるわけにはいかなくなる。

 しかし、90分を通して見れば試合をコントロールしたのは川崎だろう。遠野の1点で試合を終盤までコントロール。ホーム4試合連続のクリーンシートを達成し、連勝を伸ばすことに成功した。

あとがき

■ハイレベルな試合を分けた部分は

 プレビューではボールの失い方も含めてリスクを回避する戦い方をしていると鳥栖のことを紹介した。だが、それだとCBにFW陣の裏抜けで優位を取れない相手にはなかなか好機を創出することができないというジレンマを抱えたのがC大阪戦。そして、おそらくこの川崎戦でも同じ課題にぶつかると踏んだのだろう。

 そのため、ハイプレスをかけることで川崎からボールを奪いつつ、自分たちがボールをつなぐべきメンバーをこの日は選んでいた。したがって、初めのプレスに川崎が対応した段階で鳥栖の狙いは部分的に頓挫する。プレスを交わされて川崎に素早くゴールに迫られる頻度が高くなるため、鳥栖はこの試合においてリスクを多くかけなければいけない展開になってしまった。具体的にはCBが広いスペースを管理する機会が増えてしまうということである。特にこの日は川崎の攻撃を遅らせながら自分たちのペースでラインを下げることができなかった。

 その結果が2試合連続のCBの退場である。田代の対応はエラーといえるが、この3トップ相手にDFラインがさらされる状況が続けばいつかは起こってしまったことともとれる。

 川崎も形は違えど鳥栖と同じように重心を高めたプレスでで最終ラインをリスクにさらすことが多い。しかし、谷口とジェジエウはここ数年この高いリスクを跳ね返し続けている。川崎のアグレッシブなプレッシングを実現できているのは彼らがボールを跳ね返してくれるという安心感から。特に今季は苦しい展開においても最終ラインが対応をミスらずに踏ん張ることで最終的には勝利を得た試合もある。

 もちろん狭いスペースでのコントロールや判断においても両チームには差が見られた。だが、最も大きな差はスタイルが生み出すリスクを処理することができる最終ラインの地力。鳥栖は強かった。10人になってもなおビルドアップにおいてはスキルの高さをうかがわせた。パク・イルギュには凄味すらあった。しかし、2試合連続CBに退場者を出した鳥栖と4試合連続のホームクリーンシートを達成した川崎では魅力的なスタイルを支える最終ラインに差を感じた試合だったともいえるだろう。

今日のオススメ

 32分の田中碧。ボール奪取、寄ってくる相手を交わすボールタッチ、からの逆サイドまでの展開は神。この試合は出来に不満があるのか修羅モードだったが、このプレーはワールドクラスであった。

試合結果
2021.4.7
明治安田生命 J1リーグ
第8節
川崎フロンターレ 1-0 サガン鳥栖
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:65′ 遠野大弥
主審:山本雄大

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