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「効かない三段構え」~2021.4.18 J1 第10節 川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島 レビュー

スタメンはこちら。

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レビュー

■広島の4-4-2の気になるところ

 スタメンが予想できないわけではないが、どう挑んでくるかがイマイチ読みにくい広島。ここ数試合の対戦相手の順位が極端なこともあり、どれだけのプレスで来るのか、どれくらい保持にこだわるかをまずは見ていきたい。

 この日の広島のフォーメーションは非保持においては4-4-2。浅野とサントスの2トップで川崎のボール保持を迎え撃った。直近のFC東京戦や福岡戦と同様のフォーメーションとの対戦である。

 この日の広島の守備において気になった部分は2つ。

①中盤の数的不利

 4-4-2で迎え撃つとなると川崎のアンカーである田中碧をどう抑えるかという部分をどうするかがまずはポイント。この役割は広島は青山に託すことにした。では青山は田中碧にマンマークでついていったのかといわれるとそういうわけではない。彼はインサイドハーフの脇坂を監視しつつ、田中碧にボールが入った場合は1列前に出ていく。

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 アンカーに対してCHの青山が出ていくこと自体は一般的なやり方のひとつといえる。しかしながら、低い位置ではインサイドハーフを監視しつつ、いざとなればアンカーに出ていくような役割は2人見るようなハードワーカーに託すべき重労働。青山に託すにはやや荷が重たい。たとえば、この日欠場した川辺のような選手には向いているのかもしれないけども。

 青山がカバーしきれないスペースは前線の浅野やSHの森島が走り回ることでなんとかカバーを試みる。しかしながら青山が前に出ていくときに生じるギャップを完全に埋めるのは難しい。川崎はそのギャップを使いながら前進する。川崎は最もクリティカルな中央からの前進のルートを確保することができた。

 もう1人のCHのハイネルも出ていく範囲が広く田中碧や遠野にかわされることがあった。中盤における恒常的な3対2の構図、そしてそれを青山とハイネルに負わせたこと。被カウンター時のフィルターの部分も含めて、広島のこの設計には明らかに無理があったように思う。

②マンマークの基準

 基本的にはプレビューで述べたように広島は中盤とサイドで人基準の守備をすることが多い。広島のCHの青山とハイネルに関してはこの部分でも気になることがあった。まずは自分がマークする選手に走り負けたり入れ替わられたりするなどの部分。

 そしてもう1つはマンマークする選手が裏に抜けたり、サイドに流れたあとエリアに侵入した際にふと追うのをやめてしまうことである。このマンマークをリリースするタイミングが『えっ、そこでやめちゃうの?そこから先が一番やばいんじゃないの?』って思うことが多かった。

 例えば6分のシーン、マンマークが基準ならば脇坂の抜ける動きには青山がついていくべきだろう。一方でボールが出る前の段階でこれだけ青山と脇坂の位置が離れているならば、東は降りていく家長についていくことにはもう少し慎重になるべきだったように思う。いずれにしても青山と東で異なる設計図が描かれていたことは明白である。

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    原則に基づけば青山がついていくべきだが、おそらくこの状況になってしまったら東がカバーするしか裏抜けを防ぐ手段はなかったように思う。

■内に内に

 川崎としてはこの2つのギャップをつきながら前進をしていきたかった。しかしながら十分にこの日の川崎はビルドアップから前を向く準備まではうまくいくものの、そこからの加速がうまくいかない。

 例えば遠野。4分少し手前のシーンのように、反転して相手の2列目を振り切りスピードに乗ったドリブルで前進するところまではパーフェクト。一方で、ドリブルが終わった後のパスは微妙。家長へのパススピードが緩んでしまったために今津のブロックが間に合ってしまった。この日の等々力の芝は球の走りが悪かったので、ゴロのパスは球足が死ぬ。脇坂ならばおそらくバウンドを少なくして球足を延ばすはず。この部分は遠野は向上の余地がある。

 もう1つ、気になったのは三笘のやたら内側に絞るプレー選択だ。確かに、41分のような青山が空けたスペースに入り込み一気に加速できるならば問題はない。

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 だが、そうでない時でも三笘は崩しの際に内側に入り、外に開くパターンは非常に少なかった。例えば12分の脇坂のシュートシーン。トランジッションの流れから三笘と脇坂が近い立ち位置を取る。もちろん近い距離で崩そうとする意図はわかるが、このシーンでは今津が脇坂と三笘を両にらみしつつ、脇坂のシュートブロックに体を投げ出す。三笘、ダミアン、家長の3トップのナロー気味の戦い方が成立しなかったのは、今津と荒木のCBコンビがこの狭い崩しに対応することができたからである。

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 それだけに山根がフリーランでアクセントをつけた先制点は非常にロジカル。彼のフリーランは前半の川崎に足りないものをもたらしてくれた。

 広島の保持は4-3-3。あるいは左のSBの東は右のSBの野上に比べてやや高い位置を取っていたので3-4-3という見方もできるかもしれない。基本的には右の浅野と柏がストロングポイントだが、柏は割とピッチを自由に動く。サイドにおける多角形を軸に崩しを行うので、柏が顔を出すサイドから崩していこうという意志は見えた。

 一方でクロスでフィニッシュまで行く形までは持っていくことができなかった広島。保持の連携面においては難がある。ロングカウンターにおいても、パスを数本噛ませる必要が出てくると、加速がうまくいかなくなったり、ミスが出てボールロストしたりなど詰まるシーンは出てくる。

 逆に言えばだからこそ青山に無理な役割を背負わせながら前からのプレッシングに行ったのだろう。ショートカウンターならば少ない手数でフィニッシュまで行ける。もっともそれが出来なかったから広島は前半はシュート0本に終わったのだけど。

■3つ目の策は不発

 後半の川崎は幅取り役としてSBが上がる頻度を上げたように思う。基本的には追加点を取って決着をつける。それが川崎の算段なのだろう。実際に広島は撤退しながらそれを受けるハメになっていたので川崎の狙いはある程度は機能していたとは言えそうである。

 広島の方で変わったのはジュニオール・サントスの立ち位置。カウンターの際に川崎の右サイドの裏に当たる位置でボールを受ける準備をするようになった。単純に中央からでは背負った状態から反転をしなければいけないが、サイドの低い位置ならば前はひとまず向ける。対ジェジエウならば、正対したスピード勝負に持ち込めば何とかなるという算段だろう。

 あるいは前半よりも高い位置を取る山根の裏を突こうとしたのだろうか。いずれにしても前半と比べてジェジエウとサントスが正対する場面は増えたのは確か。森島が最後に押し込んだ65分の同点弾もサントスがジェジエウを振り切ったとこから繋がっている。ここから試合は徐々にオープンな展開になっていく。

 今季の川崎の勝ちパターンは大きく分けて3つあると思う。1つ目はいい時間を作って集中的に得点を重ねるパターン、2つ目は少ない得点でも後ろが何としてでも塞ぐというパターン、そして3つ目は最終的にオープンな展開を引き寄せることができる終盤の選手交代である。

 1つ目の『いい時間』はこの試合では前半に当たると思う。加速する装置までは広島が用意してくれた感はあったのだが、それをシュート機会に結び付つける部分で不発。そして2つ目は最終ラインが粘ること。これもサントスと森島によって破壊されてしまった。

 したがってここからの川崎は3つ目の策にかけることになる。交代で入った小塚は今季初出場。小塚は大きな展開や狭い隙間を通すパスでは貢献したが、一方で橘田や遠野のようにプレッシングからリズムを取り戻せるタイプではないことが再確認された。今季の3つ目の策の目玉はインサイドハーフのプレッシング強化により、オープンな展開をこちらに引き寄せることである。

   したがって小塚はそもそも選手としての特徴が今季のインサイドハーフに求められていることとはややズレが生じる。今後は彼がインサイドハーフに入った際は異なるプランでチームを組むのか、それとも彼自身がこの強度に適応するのか。いずれにしても持ち味の片鱗は見られた。おそらく、彼の持ち味を出しながらプレッシングとは違う形で貢献を目指すのがベターだとは思うけど。

    交代選手でいうと知念にとっても難しい展開になってしまった。川崎の終盤の攻撃は広島の中盤のフィルターがかかっていないカウンターか、相手のPA内に押し込む状況のどちらか。体を張って相手のDFラインを押し下げる局面よりかは狭いスペースにおけるボールスキルが問われる展開に。この能力でいえば、現状では他のアタッカーとの連携も含めてダミアンの方が上だろう。

    長谷川もややタフな展開に。大外に張ることで相手を外に広げる動きや斜めに走りこむランなど小塚との相性の良さは感じたが、フィニッシュワークに近づくとシュート以外の優先度が高いため、相手からすると怖さがない。おそらく波に乗れていないのだろう。見ているこっちまでナーバスになっているのが伝わってくる。

   そんなこんなで終盤のブーストという3つ目の武器も不発に終わった川崎。連勝は5でストップしたのは今季2度目。ホームでは今季初の引き分けとなった。

あとがき

■川崎の目論見を挫いたのは

 青山の非保持における過負荷や、SBの人選の攻撃色の強さなど気になる点はあったが、何とか1点でしのげた前半が勝ち点奪取には大きかったといえるだろう。川辺や佐々木の欠場ゆえに苦しいやりくりになった部分を踏まえれば、この人選を許容して前にでなければ90分は持たないという判断だったのかもしれない。

 タスクを完遂して後半は脅威になったジュニオール・サントスはもちろんだが、前半を1点に抑えた部分でいえば今津と荒木のCBコンビの出来が素晴らしかったといえるだろう。川崎としては前半の3トップの部分でより質的優位をとれる算段だったはず。それをくじいたのは彼らのパフォーマンスの高さだ。

■探したい4つ目の勝ち筋

 勝てないときは追いつかれての1-1という決まりでもあるのだろうか。今日に関して言えばここまでは機能していた3つの勝ちパターンがどれも刺さらなかったという印象である。優位を作った前半で3トップが火を噴くこともなかったし、ジェジエウがジュニオール・サントスを完封することもなかったし、交代策がギアを一段上げるほどの活性化になったとは言えなかった。

    今の段階での勝ち筋で言えば、前半の自分たちのペースの時間での得点が足りなかったように思う。開く動きを使いつつCHを釣り出してバイタルを開けたかったが、ちょっと楽をしすぎたか。

   後半のユニットの完成度はもう一つ。長谷川、知念、小塚、塚川あたりはまだまだ持ち味を出す余地はありそうだ。ここでもう一つの勝ち筋を見つけられれば強くなれる。

 とはいえここまで10勝2分、リーグ唯一の無敗チームということで戦績としては文句はつけようがない。特にこの日の前半のように前から来た相手をきっちり外せれば失点の可能性はだいぶ下がる。後半のようにSBが積極的なオーバーラップを見せれば、ジェジエウや谷口への負担が大きいのは変わらない。CBとGKへの守備への負担はACLを見据えれば減らしたいところ。ただ、ビルドアップの変なひっかけ方が少なかったのはポジティブである。首位攻防戦となる名古屋との連戦に向けてまずはゆっくり休んでほしい。

今日のオススメ

 19:30くらいのダミアンの遠くに飛ばしたいヘーッドからのプレス。マイボールにしたい強い気持ち、よーござんした。

試合結果
2021.4.18
明治安田生命 J1リーグ
第10節
川崎フロンターレ 1-1 サンフレッチェ広島
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:38′ 家長昭博
広島:65′ 森島司
主審:笠原寛貴

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