MENU
カテゴリー

「好循環の初手を得るために」~2021.3.13 J1 第4節 川崎フロンターレ×柏レイソル レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

レビュー

■日立台、再び

 相手によって前線の配置を変えている今季の柏。4-4-2で組んでボールサイドのSH、前線、CHでプレッシャーをかけていく。それに対してこの試合の前半の川崎のコンセプトは昨年の日立台でのモノに非常に近かった。

 中盤を空洞化させて、中盤中央で相手が守るべき人をそもそも作らない。インサイドハーフの2人は最終ラインに落ちるか、前線に張るかの2パターン。攻撃はサイド打開が主体。攻撃は縦に速い分、サイドの高い位置で収まった際に時間を作れなければ全体を押し上げることができないという特徴がある。

画像8

 この戦い方は直近の川崎の取り組みとは異なるものである。というわけで対策の要素が大きいものといえそうである。昨年の日立台でこのやり方が採用された流れは清水、大分、札幌などマンマークで相手を潰してくる相手に対して勝ち点を落とす展開が続いていたことを受けて中盤とのデュエルを避けようというものだろう。柏は札幌に比べれば極端なマンマーク志向ではないが、中盤の対人スキルは強く、カウンターも強力ということで中盤とのデュエルを避けるに越したことはない。

 オルンガがいなくなった分、現状の破壊力は下がったと言わざるを得ないが、それでも今回のやり方を再び採用したということは柏の中盤のボールハント力をとても警戒しているということだろう。

 繰り返しになるが川崎のやり方は高い位置でWGが時間を作れるかどうかが大事。日立台での試合がどのような結末を迎えたかを振り返っておくと、長谷川と齋藤の先発コンビが時間を作れず前半は柏にリズムを与えた。そして、後半から登場した家長と三笘がこの役割を務めることに成功し、柏を逆転で下したという試合である。

 というわけで長谷川と家長がこの役割をこなせるかがキーポイント。この日はダミアンに比べれば個人で背負う力がやや劣る小林がCFということもあり、サイドからどう崩すかは昨年に比べてさらに重要になる。

画像2

 結論から言うと収支はマイナスだったように思う。まず長谷川はそういった役割をチームとして彼に任せようという形になっていなかったか。同サイドにおけるインサイドハーフ(脇坂)が低い位置でのボール関与を求められたことが大きかった。

 というわけで右サイドの家長がこの役割を託された形。田中、山根と共に右サイドを突破して打開し、逆サイドの長谷川はむしろこれに合わせることを狙う。これが川崎が前半で描いた青写真だろう。

画像3

 しかしながらこの形には誤算があった。まず、時間を作る役割を家長が十分にこなすことはできなかった。対面する三丸はボールが入るタイミングで厳しいチェックを家長に行ったことでボールキープを許さない。

 そして、雨上がりという状況。いつもよりも水を含んでいる状態のピッチでは出し手も受け手もコントロールが効かない場面が増える。

 最後はシミッチ。大きく裏に出すパスは前線のタメが効かない時のセーフティネットになる。鋭く縦に刺すパスも武器しているシミッチからの展開はこの試合ではなかなか見られなかった。長谷川や小林は裏を狙う動きを見せていたが、出し手となるシミッチとはなかなか息が合うパターンがなかった。一概にシミッチが悪いとは言えないけども。DAZNでは見切れていて確認できないけど、現地で見た感想で言うと38分のシーンでは長谷川の裏への展開見たかったなと思う。シミッチはキャンセルしちゃったけども。

 家長の不振、雨上がりのピッチ、シミッチというセーフティネットが機能しなかったこと。以上のような理由で川崎の前半のプランはハマらなかった。

■副作用で安定する柏の攻撃構築

 さらにこの日の川崎のプランには副作用があった。1つはインサイドハーフが極端に高い位置や低い位置にいることが多かったこと。これまでも川崎のIHは持ち場を移動することが多かったのだが、前節のレビューでも触れたように旗手など他の選手が埋めることで彼らの移動を正当化していた部分があった。

 しかし、今節のやり方ではそもそも攻撃において中盤中央を経由しないことが目的となっているので、旗手が内側に絞る動き自体が少なかった。これにより何が起きるかと言うと攻撃が終わったときにセカンドボールを拾える可能性が低くなることである。相手のカウンターを加速するための中央を防げないことにより、攻撃時のミスがそのまま柏のカウンターになっていた。今まではここで回収できたことで波状攻撃を仕掛けていたのだけども。45分の小林の裏へのボールが代表的な例といえる。

画像4

 そして、家長の守備の際の戻りが遅れやすいこと。柏のビルドアップ時には家長の裏にいる三丸を使うことによって前進。川崎はIHがここのヘルプに出ていかざるを得ず、陣形が歪む頻度が増えた。

画像5

 攻撃は停滞しビルドアップでは収めどころがあり、カウンターも繰り出せる。苦戦する形になった川崎。ということで柏の中盤中央にいよいよチャレンジすべきと判断したのだろう。脇坂を軸にサイドチェンジをしながら陣形を押し上げていく形を前半の飲水中断後から試すようになった。22分のような横断は非常に理想的なボールの運び方。これならば、柏のラインを下げた後にクロスを上げる形を作れる。

画像6

 一方で脇坂はヒシャルジソンや椎橋に囲まれてボールを取られるシーンもしばしば。この日の柏の両CHのパフォーマンスを見れば、中央を避けようとする指針を組んだ川崎の気持ちは理解できる。特にボール奪取は出色の出来だった。

 柏の攻撃はサイドからクロスを上げることが終着点。カウンター時は中央に縦パスの預けどころを作ってサイドの裏に出す。もしくは直接サイドの裏が手薄な時ならそのままサイドの裏に。ビルドアップするときは先に示した家長の裏のスペースから前進。柏からすると仲間やクリスティアーノにいい形で渡せていた前半に得点まで行きたかったところだろう。

■真っ向勝負するための3枚替え

 得意の前半を完封された川崎は三笘、橘田、塚川を投入する。選手を大幅に変えたことに加えて、やり方も変更を加える。もっとも大きく役割が変わったのはインサイドハーフ。一気に縦に進んだ状況からラインブレイクを行う役割だった前半とは異なり、後半はインサイドハーフが降りる動きで作った相手陣のズレの徐々に使っていく形である。

画像7

 前半よりもはるかに柏に真っ向から向かっていく形を取った川崎。前半には孤立気味だった小林の存在感が徐々に出てきたのは、強引に背負うような形ではなくズレに顔をだすという小林に向いた役割に変わったからである。

 三笘の投入によって左サイドの連携の改善を図った川崎。預けどころとして機能する三笘の起用によって、左サイドでタメが効くようになった川崎。旗手との連携も良好で、川崎は徐々に押し込める機会も増えてくる。

 中央に突撃する機会が増えた分、攻撃を受ける頻度も増えるという算段の下、シミッチ⇒塚川という交代も同時に行ったのだろう。車屋、山村、塚川は特に後半に輝きを放った。柏のシュートをブロックで終わらせることが多かったのは彼らの活躍が大きい。リアルタイムで試合を見ていた際には「ちょっと早いかも?」と思った塚川の投入は蓋を開けてみれば成功だったといえるだろう。

 さらに小林⇒ダミアンの交代でアバウトなボールを収めての前進の頻度もアップ。前半から効いていた車屋のフィードは後半さらにさえわたっており、柏を押し込むのに一役買っていた。84分のシーンはダミアンへの裏へのボールを供給。収まり切らなかったものの、この陣地回復から川崎はラインを一気に押し上げる。川崎は『押し込む⇒攻撃が終わる⇒高い位置からプレス』という循環で今季勝ってきたチームなのだが、前半は初手の押し込むというサイクルの初手がうまくいってなかった。後半の修正でようやくサイクルが動き出したといえる。

 柏はビルドアップに難あり、自陣深くまで攻め込まれるとカウンター時もどう押し上げる?という課題もあったので徐々に厳しい展開に。すると川崎に待望の先制点が生まれる。三笘のカットインでマイナスのスペースを創出すると待ち構えていた家長が先制弾。柏は最後まで川崎ゴールを破る決定機を作ることはできず、川崎はこの1点を守り切り勝利を決めた。

あとがき

■サイクルの初動をどう回すか

 チームの仕組みの初動の部分をうまく回したチームがこの試合の主導権を握ったように感じる試合だった。序盤は家長という起点を封じることで柏が高い位置で攻撃をストップ、カウンターまでのサイクルを作ることに成功する。後半は三笘やダミアンを軸に前線で時間を作ることができるようになった川崎が押し込んでハイプレスを起動できるようになったことでペースを引き込んだ。

 柏は長い時間、川崎相手に主導権を握っていたが、点を取るための最後の崩しの精度は川崎とは差があったように見えた。前節の名古屋戦も含めて、主導権を握る時間を勝ち点に変えられるもう一工夫が欲しくなってしまう。

 川崎は全体としてうまくいかない時間帯はあったが、個々のパフォーマンスは悪くない選手は多かった。後半を見れば手法の変更で主導権を握り返すことができたのはポジティブなことだろう。立ち上がりの策はうまくいかなかったかもしれないが、修正が光るのはさすがである。一部選手には勤続疲労を感じるが、代表ウィークまでの残りのアウェイの2試合の用兵にも注目が集まるところだ。

今週のオススメ 

 この試合はキックオフ直前まで雨に見舞われたものの、試合においてはその影響が最小限に抑えられるほどピッチの状況は良化していた。試合直前まで多くの人数をかけてピッチの水をかきだした川崎スタッフの貢献が大きい。

 もちろん、本文でも述べたように影響が完全になかったわけではないが、ボールが止まり続ける展開にならなかったのは川崎のスタッフの尽力の賜物。自分たちのクラブのスタイルを体現するためにピッチの環境を試合ギリギリまで整備する。クラブ全体で選手たちを勝たせるために奮闘する今の川崎の強さがスタッフまでに浸透していることを感じられるシーンだった。

試合結果
2021.3.13
明治安田生命 J1リーグ
第4節
川崎フロンターレ1-0 柏レイソル
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:80′ 家長昭博
主審:松尾一

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次