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「打開の後半にも課題の予感」~2020.12.5 J1 第31節 清水エスパルス×川崎フロンターレ レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
ラインブレイクをめぐる攻防

 基本的には川崎のボール保持の時間がベースとなって進んだ試合。まずは相手のプレスを様子見しつつ最終ラインでボールを回す立ち上がりであった。

 この試合を分けるポイントは川崎が清水の中盤のラインをどれだけ突破できるか?にかかっていたと思う。率直に清水のDFラインは晒されてしまうと受け切れるほど強固ではない。

   その一方で4-4-2での前線と中盤の守備は平岡監督就任以降の清水の改善ポイントであり、成績が上昇している一因。このプレスが川崎相手にどれだけハマるのかどうか?というのがまず1つの見どころだった。

 札幌のようにマンマークに執着するのではなく、受け渡しながら出ていく瞬間を伺うのが清水のプレスのミソ。後藤とカルリーニョスのプレス隊の助太刀にはSHの西澤と金子が出ていくのだが、彼らが出ていくと当然裏のSBにはボールを通しやすくなる。プレスに出ていくのならばなるべくパスを通させないタイミングで容赦なく。特に登里と西澤のここの駆け引きは面白かった。

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 この日は守田だけではなく、田中も最終ラインに落ちるような動きを見せてボール保持の安定を優先する川崎。SHの裏に立つSBだけでなく、田中がおりるならば守田が上がるという中盤の縦の入れ替わり。そして、川崎のスリーセンターに合わせて前に出てくる清水の中盤の後方に入り込むSHなどプレスの脱出口になる場所はいくつかあった。

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 しかし、現状の川崎のCBやGKのスキルではピッチの上に瞬間的にできるプレスの脱出口を活かすことはできない。守田や田中の最終ライン落ちは数的優位の確保以外にもそういった飛ばすパスを最終ラインから出したいという意図もあるのだろう。もちろんその分後方は重たくなるので1つ飛ばしのパスは通しやすくはなるけど、通した後の局面の難易度は上がる。

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 ただ、手助けなしでパスが引っかかってしまえば元も子もない。清水の先制点はジェジエウのパスがズレたところから。パスを奪われた時点以降で得点をどう防げたか?の観点で考えれば、おそらく登里と谷口は入れ替わらずに登里がサイドに出ていけばよかったのだろう。竹内へのパスをカットできる可能性のある立ち位置だったのは谷口しかいない。

 とはいえ、これはあくまで得点シーンから逆算した『神の視点』的な指摘に過ぎない。ニアとファーを入れ替わることでマークを外した竹内とカルリーニョスのコンビネーション、竹内のフリック、そしてパスカットからのスピードアップまでの複数の要素において川崎を清水が上回った結果の先制点といえるだろう。

【前半】-(2)
スペースをつないだ田中碧

 先制点以外にも川崎には難しい状況が続く。言うまでもなく登里の負傷だ。出口の1つになっていたオフザボールで違いを見せることができる登里がいなくなることで川崎はさらに苦しいビルドアップになる。

 そんな中でこの日違いを見せることができたのは田中碧。ボールを受けるために前線の選手が動くと、そのスペースに顔をだすことで新しくパスコースを作る。それが連続で出せていたのが同点ゴールのシーンである。

 まずは内側に絞った三笘に合わせて外に流れるところから。内から外に流れる三笘が続けて作ったスペースに守田とパス交換で侵入すると、最後はダミアンとのパス交換で、ダミアンが流れたスペースに入り込んでフィニッシュ。それぞれのパスを引き出す動きを1つにつなぎ合わせた田中碧のスペース感覚で川崎が同点に追いつく。

 前半の終盤は三笘と旗手が組む左ではなく、家長と山根の右サイドでの連携構築にシフト。脇坂がこちらのサイドに入れ替えて、ヘナトから解き放たれたことや連携が良好な家長や山根とプレーできたことは大きい。徐々に存在感が出てくるようになる。

 とはいえ、ビルドアップ面での苦戦は続く。CBからの縦へのパスルートが塞がれた状況下ではGK⇒SBへの速いパスがキーになるのだが、現状では川崎はこのパスの精度が低い。したがって先制点のシーンのように強引に中にチャレンジしては引っ掛けてしまうという流れが継続。清水には徐々にボール保持の時間が与えられることになる。

 清水としてはまず相手SBの裏に起点を作りたいところ。相手がオーバーラップしているときはシンプルにそこにカウンターを入れてしまえばチャンスになる。遅攻の時は1枚剥がせるエウシーニョがボールを運ぶことによって対面SBを引き付ける。

 押し込む機会を増やした清水はセットプレーから加点する。体を張ったスーパーセーブを連発したソンリョンもこのシーンは防ぐことができなかった。

 試合は2-1。ホームの清水のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
三笘と家長から突破口を見出す

 後半も前半とポイントは同様。清水の中盤のラインを川崎が超えられるかどうかという攻防が続くことになる。変化を付けたい川崎が挑んだのは相手のSBを動かすことである。全体的にスペースを守る志向が強かった清水だが、例外としてWGに対してはマンマークの要素強めでついていくことが多かった。特に顕著だったのは三笘とマッチアップしたエウシーニョ。ということで川崎はまずはここを利用することに。

 川崎に入ってからはあまり経験のないLSBに入った旗手の活用法は三笘を追い越す動きをさせること。内側に入った三笘でエウシーニョをおびき寄せて、旗手が上がる大外の道を作る。前半使うスペースを探っていた旗手はようやく生きる道を見つけた感である。

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 逆サイドの家長も三笘ほどではないがSBのソッコからきつめのマークを受けている。内側やや引き気味にスライドしていく家長の外と裏を田中と山根が分担して使う。家長を軸にオフザボールに長けている2人が衛星的に回ることで清水の守備陣の裏をかくことに成功する川崎。徐々に押し込む時間が増えていく。

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 さらにここで川崎は中村憲剛と小林悠を投入。中盤と立ち位置の駆け引きが可能な中村と、内側に絞るWGとの位置交換や最終ラインの裏を突く動きで変化をつける小林の登場で清水はさらに面倒な展開に。

    先ほどの川崎の右サイドの打開の際にもみられる話なのだが、清水の最終ラインは出ていった選手が空けたスペースのカバーが遅く、また選手間の横の立ち位置の間隔が広い。したがって、小林悠には格好の相手。縦パスでダイレクトにCF間を割る裏抜けを見せて決定機を見せるように。

 こうなると清水はサイドを固めるためにSHを低い位置まで下げて守備をせざるを得ない。そうなると、今度は陣地回復が難しくなるという悪循環に。陣地回復の希望の星となったのは前半に続いてエウシーニョ、そして鋭い縦パスを前方に送ることが出来る途中出場の鈴木唯人だ。この2人が時折見せる清水のシュート機会における推進力になっていた。

    清水のボール奪取の狙いどころは徹底して中。川崎のショートパスでの攻略の過程で高い確率で経由する中のスペースを埋める。中でボールを奪い、直線的なカウンターを仕掛けたいということだろう。

 しかし、多くの時間帯は清水は自陣に引きこもり、相手の攻撃を跳ね返すことを強いられてしまう。その上、中央のスペース管理も甘いとくれば、後半の川崎の攻めを完璧に受け切るのは難しかった。川崎は空間把握能力の高い山村が投入されてから、より一層攻勢を強める。

   そんな中で89分、ラインがズレてぽっかり空いた中央のスペースから飛び出したのは虎視眈々と狙っていた山根。三笘のアシストを受けて同点弾につながるゴールを決める。

 その後も齋藤学が決定機を迎えたが、これは弱いシュートのせいで処理が間に合ってしまう。追いつく前の小林にも決定機はあったものの、こちらはバランスを崩してクロスバーどまり。

 結局、試合は2-2のドロー。今季の第3ラウンドは痛み分けという結果に終わった。

あとがき

対策は自分たちのクッションでもある

 川崎封じとして披露した高い位置のビルドアップは、見事に川崎の最終ラインのパスレンジという課題を露見させた。中盤でのフィルターが効いている前半は特にペースを握り、ショートカウンターから川崎に冷や汗をかかせる試合運びを実現。互角以上の戦いを繰り広げた。

 一方で川崎を封じた中盤のフィルターは自分たちの弱みを隠すためのものでもある。中盤以降の守備陣の脆弱性は後半はかなり目についた。ライン統率、スペース管理等これらの守備陣の抱える課題を隠せるからこそ、前半の清水の戦い方は有効なのだろう。

 大好きな鈴木唯人が生き生きと縦パスを通していたのはとてもよかったぜ。

■来季の課題の予感?

 優勝の気の緩みといいたくなる人もいるだろうが、どちらかといえばガッツリ弱みを突かれた敗戦といっていいだろう。ただ、試合の中で急にDF陣のボール回しにおける課題はよくなるわけではない。ビルドアップへの貢献度の高さが光る登里を欠いてしまった中で、後半はよく修正したとも見て取れる。後半は川崎ペースといって差し支えないだろう。

 ただ、戦い方を見てみると割と三笘と家長が人を引き付けてくれるところが起点となっているやり方が今季の中盤から終盤にかけてだいぶ依存度が高まっているように見える。三笘はどこかに行ってしまってもおかしくないし、家長もフル稼働は難しい年齢だ。来季の川崎が直面しそうな課題として最終ラインのパスワークと並んで挙げられるのはこの部分ではないだろうか。

試合結果
2020.12.5
明治安田生命 J1リーグ 第31節
清水エスパルス 2-2 川崎フロンターレ
IAIスタジアム日本平
【得点】
清水:11′ カルリーニョス・ジュニオ, 40′ ヘナト・アウグスト
川崎:21′ 田中碧, 89′ 山根視来
主審:福島孝一郎

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