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「先制点で握ったハンドル」~2020.8.15 J1 第10節 北海道コンサドーレ札幌×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
プレスを控えた札幌の優先事項

 ザ・マンマークみたいな試合!ペトロビッチはガンガン来るはずです!みたいなことをのたまっていた当プレビューの展望は見事に大外れ。横浜FM戦や神戸戦、清水戦のような同数受け入れガンガン作戦でいくのかな?と思いきや、意外と構える札幌。

 そのため、川崎のボール保持においてはCBには比較的時間が与えられていた。トップの位置に入ったチャナティップはアンカー付近に、荒野と深井は下田と脇坂を見るような噛み合わせ。

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 ただし、行動範囲が広い川崎の中盤に対して札幌のマンマークは徹底されていたわけではない。札幌の前線の守備の優先事項は中盤中央で前を向く選手を作らせないことであり、彼らを徹底的に追い回していくことではなかった。ダミアンの降りる動きなど川崎はこのエリアへの出入りが多かったため、ついていきすぎずにスペースを空けないことが優先と考えたのだろう。

 川崎のサイドにボールが出た時は、縦に進むようなコースの切り方を促して封鎖。ポイントは中央への折り返しのパスの受け手にチェックをかけること。中央に起点を作らせないことで川崎に前進を許さない。

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 川崎のこの日の前線のメンバーを考えると、右のWGがストライカータイプの宮代。したがってサイド攻撃は左で作りたいところである。ただ、この札幌の内側に起点を作らせない守備に対して川崎は苦戦。札幌のCHは運動量が高く、川崎のサイド攻撃に対しても積極的に顔を出していた。特に荒野はよく走る。川崎は外に外に押し出されてしまい、前に進むことができない。

 川崎が前に進めた場面はカウンターの局面でCHがいなかったシーン、もしくは22分のシーンのように荒野が前にプレスに行ったため、深井が中央のスペースを空けるのをためらって下田を潰しきれなかった。

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 いずれにせよ、札幌のCHがいてほしい位置にいなかったシーンばかりだった。序盤はそういったシーンは限られていたので、川崎の前進の機会も限られる。じりじりとした川崎の攻撃のターンだった。

【前半】-(2)
4-4-2移行と旗手で前進を防ぐ

 札幌のボール保持はCHの荒野が最終ラインに入り4バック化する。まず狙っていたのは川崎のDF-MFのスペースにボールを入れること。そのために札幌はズレを作るための動かし方に工夫を見せていた。例えば最終ラインからの荒野がボールを持ち運ぶ動き。これにより川崎の3センターを引き付けてシャドーに縦に入れる。

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 チャナティップはこの日はCFがスタートポジションだったが、託されているタスクはシャドー起用時と同じ。自由にボールを受けるために低い位置まで降りることを許容されていた。アンカーの守田がこれについていく動きを見せると、川崎はDF-MF間が空く。ここに最終ラインから長いボールを入れる試みを行っていた。札幌は前線に高さはないけどスペースでフリーで受けられていたのであまり関係はなし。小柏と駒井がここで受けられればまずは目的達成である。

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 そこからの展開は前を向いてドリブルをスタートするか、もしくは後方に下げる。後方には絞って受けに来た福森や下がっていたチャナティップなどの展開ができる選手がおり、ここからサイドの菅やルーカスに長いボールを送る。WBで勝負というミシャ式の原点である。

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 札幌の前線の身長の低さがネックになるのはここから。WBからただ高いクロスを上げるだけではまず間違いなく勝てない。コンビネーションを使って完全に抜き切ったり、速く低く正確なクロスをピンポイントで通す以外はチャンスを作るのが難しい。駒井のシュートシーンは惜しかったが、谷口も体を寄せており、完全に崩し切ったとはいいがたい。ボールを前に運んで、得意なWBまでの展開はできたものの、高さがない分のもうひと味が足りない札幌であった。

 そうなると速い展開に持ち込みたい札幌だがそこを防いでいたのが守田。要所でスピードを遅らせる対応を見せて札幌の攻撃をスローダウンさせていた。

 給水タイムの少し前から川崎は4-4-2のような守備に変形。考えられる理由としては最終ラインからの持ち運びを防ぐためだろう。持ち運べる荒野に積極的にプレッシャーをかけられるように、高い位置からのチェイシングに変更した。給水後には宮代と旗手のサイドを入れ替え。ダミアンと脇坂はそこまで前線からのチェイスが優れているわけではなく、結果的に持ち運ばれてしまうシーンも多い。やや左から前に出てくる荒野に対して、旗手を同サイドに置くことで対応する鬼木監督であった。

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 絞るか外に行くか、前に行くかステイするかの状況判断に優れている旗手の移動により、札幌の第一段階であるDF-MF間にボールを届ける機会を制御した川崎。前進に苦労していた川崎にとってなるべく前で札幌の攻撃を止めてカウンターに出れるようになったことは大きい。前後分断気味になる札幌に対して、相手の人数が少ないうちにサイドの深い位置までたどり着く機会が徐々に増えていく。そんな中でセットプレーから先制点。車屋がフリーでFKを頭で合わせてまずは川崎が一歩前に。札幌は少しDFが被ってしまったかなぁ。

 冷や汗をかいたのは先制点直後の37分。守田と車屋のパスの距離感が合わなかったところからショートカウンター。チャナティップのシュートがバーに阻まれて、川崎はなんとか事なきを得た。給水後には前進に苦しんでいた札幌にとっては千載一遇のチャンスだったのだけど。

 試合は0-1。アウェイの川崎のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
増やしていくリスクの量

 平地戦では前進の手間がかかる上に、フィニッシュに行くまでは最後の一味が足りない。さらに川崎の修正後はやや前進も手詰まりで、しかもスコアはビハインド。そうなれば、札幌がジェイを入れて前線の優位を欲するのも無理はない。しかもこの日はWBを務められそうな控えが不在。WBがガス欠になってからではそもそも有効なクロスが上がってこない。札幌がHTにジェイを投入する要素はかなりそろっていたように思う。対する川崎は田中碧と三笘を投入。下田と宮代がベンチに下がった。

 開始直後は右のハーフスペースを狙った楔が2本。札幌は大まかには前半と同じことを狙っていたように思う。しかしこのパスがカットされるといきなり三笘から危険なカウンター。なんとか防いだけど4対2くらいで川崎の方が人が多かった。

 ジェイの投入はリスクがあるということは承知の上だったように思う。前半と比べてボール保持時に明らかにアンカーの守田に与えられる時間が増えたのは、彼の監視役がチャナティップからジェイに変わったことが主要因だろう。川崎は中盤でボールを落ち着かせるところを作ることができた。

 川崎は押し込んで攻撃を終えるシーンが増えてきたため、徐々にハイプレスを解禁する。札幌は長いボールでリスクを取らない選択も見られるようになるが、肝心のジェイにボールが収まらずに前線でタメを作ることができない。ボールが早く帰ってくるためにさらに押し込まれてハイプレスにという循環にはまってしまった札幌。50分にはハイプレスで預けどころのチャナティップに狙いを定めていた山根がボールをカットするとそのまま三笘に。あっさりと追加点を決めて連続ゴール記録をさらに伸ばす。すげぇなこいつ。

 こうなると試合は川崎ペース。守田という中盤の落ち着けどころを軸にボール保持の安定感が増していく。意を決して札幌が前に出ていけばぽっかり空いたDF前のスペースでダミアンが受ける。もう一列前に起点を作ってしまうイメージである。

 とはいえ札幌も全く前進できなかったわけではないし、ひとたび前進さえできてしまえば破壊力は十分。三笘のドリブルを起点にダミアンが追加点を決めて3点差になると、さらなる戦力を前線に。進藤と福森を下げたことで本職のDFをほぼ一掃。アンデルソン・ロペスと中野を投入した。中野はWB、ロペスはシャドー。3バックは右から駒井、宮澤、菅というインパクトの強い布陣である。

 さらにリスクの高い賭けに出て試合を眠らせることをしなかったペトロビッチ。前がかりに出たことで最終ラインの負荷はかなり高く、川崎はダミアンにボールを預けてしまえば、ほぼ間違いなく1対1でキープできる状況に。60分に旗手にやすやすと侵入を許したシーンを見れば、札幌がここから決定機を作られ続けてしまうのは明らかであった。

 顕在化したリスクは札幌の交代が効果を発揮する前に失点として表れてしまう。63分に中野、菅を交わして宮澤を引き付けた旗手がファーに余った三笘にアシスト。このゴールは旗手がパーフェストだった。2人を引きはがし、1人を引き付けるドリブルと引き付けた分ファーに余っているという判断力のコンボ。スキルをいかんなく発揮して三笘に完璧なお膳立てをしてみせた。

 札幌の意地を見せた反撃は79分。持ち上がる宮澤を田中と守田が捕まえられずに縦パスを許す。DF-MF間で受けたチャナティップがワンタッチで前を向いて裏のジェイへ。独走から1点を返す。

 しかし、最後は小林悠が牙をむいてとどめの2得点。札幌が交代のたびに増やしたリスクは「本職じゃない選手たちに最終ラインで川崎のアタッカーとの同数を受け入れる」という形で重くのしかかり、30分間で3失点という結果につながってしまった。

 試合は1-6で川崎の勝利。同一シーズンでの連勝のリーグタイ記録に並ぶ9連勝を達成した。

あとがき

■火力とリスクのバランス

 前半の狙いは面白かった札幌。スペース管理にやや難のある川崎の3センターを引き出しながらのボール運びは、攻撃において相手の狙いどころを変える今季の札幌らしい試み。前線にクロスに合わせる高さがなかった分、もう一歩決定機を作り出すのに足りなかったがアプローチとしては良かったと思う。それだけに先制点を献上したこととチャナティップのシュートがバーを叩いたのは痛恨だった。

 そこから先は交代でリスクと火力を増加していく。時間が経っていくにつれ火力もリスクも大きくなって最後は6失点。いいか悪いかは別としてペトロビッチらしく勝ちに行った結果だろう。

 先の話をすると特徴がハッキリしている前線の組み合わせの最適解をどれだけ早く見つけられるかどうか。引き受けるリスクと攻撃の出力のバランスをどこに見出すかが今後の順位のカギになりそうだ。

■車屋の大仕事で主導権を握る

 結果を見れば前半のリードで札幌にリスクを取る交代を敷いたことが大きかった。札幌が勝つには先制点を20分までに取り、HTをリードで迎えたかったはず。したがってルーカス封じに先制点奪取と車屋紳太郎は大きな仕事したといえる。先制点を取ってからは握ったハンドルを離さずに試合終了まで突っ走る。相手の穴を見つけて得点という結果を出し、さらに穴を広げるという見事な試合運びで90分を制覇した。

 中盤で防波堤の役割を果たした旗手と守田の非保持での働きとそれを引き出した鬼木監督の動きはお見事。3センターの時の背後のスペース管理はやや課題だったが、連戦で結果を出し続けているし修正後は良さも出た。上々の雰囲気で10連勝をかけた天敵との一線に臨めそうだ。

今日のおすすめ

 32分。ロスト後にチャナティップのドリブルを咎めた守田のタックル。前進に苦しんでいた川崎が高い位置から再度攻撃をはじめられること、そして札幌の速い攻撃をとめることと守備において大きな貢献をもたらした守田の象徴的なプレーが今日のおすすめ。

試合結果
2020.8.15
明治安田生命 J1リーグ 第10節
北海道コンサドーレ札幌 1-6 川崎フロンターレ
札幌ドーム
【得点】
札幌:79′ ジェイ
川崎:35’ 車屋紳太郎, 50′ 63′ 三笘薫, 55′ レアンドロ・ダミアン, 87′ 90+5′ 小林悠
主審:木村博之

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