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「期待があれば我慢もできる」~2020.1.1 プレミアリーグ 第21節 アーセナル×マンチェスター・ユナイテッド レビュー

 スタメンはこちら。

図2

目次

【前半】
ジェネリックに打ち破られたサイド

 コラシナツが警告を受けたカウンターとナイルズのパスミスから発動したカウンター。試合が落ち着かないうちに発動した2つのカウンターを見て「正月ボケという言葉は英国にもあるのだろうか。」とか思ったりした。アーセナルのボール保持に対して、ユナイテッドが奇襲をかけた立ち上がりであった。

 アルテタ就任後のアーセナルは「ジェネリック・シティ」っぽいという感想を持った。ちなみに本家のシティは直近のユナイテッド戦では敗戦している。

 レビューを書いた試合でもあるが、なんでシティが負けたか?をざっくりいうと、サイドの突破ができなかったから!である。というわけでアーセナルはサイドで優位を作れるか?そして、サイドで勝負できる局面をどれだけ作れるか?が勝敗のポイントになる。

 ユナイテッドの非保持の陣形は4-2-3-1。トップ下のリンガードはトレイラを監視する役割がメイン。流れの中で前に出ていく場面もあるが、基本はマルシャル1枚が前線のプレス役になる。

図3

 ボール保持が落ち着いたタイミングでアーセナルが取り掛かったのは、ユナイテッドのSHの基準を狂わせることだ。アーセナルのここ数試合のボール保持はCB2枚の前方にナイルズ、トレイラ、ジャカが右から並ぶ形がメジャー。しかし、この試合では絞った立ち位置を取ることが多かったメイトランド=ナイルズはこの日は開いてポジションを取る。これによりアーセナルの右サイド担当のラッシュフォードはソクラティスへのプレス、大外のメイトランド=ナイルズのケア、そして右のハーフスペースに流れるエジルへのパスコース消しを迫られることになる。縦にパスコースを作りつつ、エジルとペペで右サイドで勝負する形をお膳立てしていた。

図4

 左サイドで活発な動きを見せていたのはダビド・ルイス。ジャカが落ちることが多かった左の深い位置はこの日はルイスが上がるスペースになっていた。開き気味なので、マルシャルとジェームズがどこからルイスにプレスに行くか悩ましそうにしていた。

図5

 コラシナツは高い位置をとり、ジェームズの裏で受ける担当。大外が空けばそのままオーバーラップするし、オーバメヤンが外に流れてコラシナツがカットインする場面もあった。先制点はこの流れから。ジェームズの裏でボールを受けたコラシナツが絞るコースで運びつつ、大外のオーバメヤンへ。そのままニアのハーフスペースに入り込むコラシナツにリターンをして、相手のラインを押し下げる。跳ね返ったボールはゴール前のペペのもとに転がり、これが先制点になる。

図6

 サイドを崩せるか?という命題に対して左サイドで一発回答を示したアーセナル。ユナイテッドはマグワイアのラインコントロールに加えて、リンデロフとフレッジのマークの受け渡しもうまくいかず、コラシナツに自由を与えてしまったのが痛恨だった。

【前半】-(2)
幅を狭める機動力の低さ

 頼みのサイドを破られてしまったユナイテッドだが、この日悩ましかったことはそこら中に転がっていた印象である。失点シーンで破られたのは自陣右側だったが、左側も危うい。ペペに対峙するショウはやや重たそうで、1対1もしくはエジルとマティッチを加えた2対2の対応でも危うさを見せていた。

 それ以上に頭が痛かったのはアーセナルのビルドアップに対するプレス。エメリ時代に比べて、深さを取ったときのボール運びに危うさがないアーセナルに手を焼いていた。この日はDF陣もCHも比較的並びはオーソドックス。ただ、選手間の距離が広くユナイテッドの数が足りないプレスはかかり切らない。トレイラ番のリンガードもデートをするわけではなく、失点後は前に出ていく場面が増えるが、自由度が高い分ユナイテッドのプレスはどこで取り切るかが共有できてなかった。

 とりわけ悩ましかったのはフレッジ。引いて受けるジャカを潰すのは彼の役割だが、あまり前に出ていきすぎると後方のスペースを空けることに。後方に残るマティッチに行動範囲の広さは期待できない。コラシナツの絞ってボールを運ぶ動きや、ラカゼットの列を降りてのポストプレーなど空いたスペースを突かれるリスクを考えると、ビハインドとはいえあまり前に出ていきまくることができないというジレンマに陥っていた。

図7

 困ったのはボール運びでも一緒。アーセナルの非保持は4-4-2。ラカゼットとエジルは背後のCHを気にしつつ、ボール保持のCBには寄せていく形。プレスに出て行ったところには後方からCHが出ていく。

図8

   したがってCHの裏や逆サイドのSBなどは開いているユナイテッド。しかし、ここにボールを正確に届けるスキルはなく、アーセナルのプレスの重心を傾かせる事ができない。

図9

   それでもマークをすり抜けてボールを持ってマティッチがボールを運びつつ、ハーフスペースに絞ったラッシュフォードにあずけて前を向くシーンはちらほらあった。

図10

   しかし、ここで前を向いた後の設計図がなかったユナイテッド。単騎でのデュエルを挑みアーセナルのDFに阻まれる場面が続く。

   加えて言えば、そもそもマティッチがフリーで受けられる場面も限られていた。ここもCHとしての機動力が気になったところだ。マクトミネイはライン間を動き回りながら、ボールを引き出せていたが、マティッチにはあまりその動きはなかった。シティ戦では目立ったCHの攻守における行動範囲の広さはこの試合では人が入れ替わったことであまり見られなかった。

    CHに限らず、間でボールを引き出そうとする動きがほぼ見られなかったユナイテッド。ボール回しに合わせてパスコースを作る動きをようやく覚えたアーセナルとは対照的。アーセナルはロストをしても、素早い出足で奪い返す。とりわけ目立ったのはトレイラ。今季ここまではアンカー起用時には無理なプレスで穴を開けまくっていたが、アルテタ就任で狙いどころが再び定まったのだろう。カウンターの出所になるところにチェックをかけて、反撃を許さない。

    ボールが前に進まないユナイテッド。デヘアがラカゼットにフィードを当ててしまい、ペペにシュートチャンスを与えたシーンではポストに救われたが、セットプレーから追加で失点してしまう。いいぞ、ソクラティス。

   リードを2点に広げたアーセナル。ホームチームの2点リードで試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
機能低下は改善の証拠

   前半に比べればボールを握って前に進めるようになったユナイテッド。原因はいくつかあるだろうが、大きいのはアーセナルのプレス隊の運動量が落ちてきたことだろう。元々、アーセナルのプレスはすべての穴を埋めるような人の掛け方をしていない。むしろ、無理な場面は人をかけすぎずにプレスバック。4-4-2ブロックに移行する場面が多い。2点リードすればプレスに人をかけない傾向はさらに強まる。ユナイテッドとしてはパスコースを作る動きを後方で続ければ、ボールは持てるようになっていた。

   チェルシー戦でも見られたが、アーセナルが後半にボールを相手に明け渡す原因はこのプレス隊の機能低下が原因だろう。エジルとラカゼットは攻撃においてもあらゆるところに顔を出して動き回ることを求められている。90分持たないのは当然だろう。言い換えれば、チェルシー戦もこの試合も前半に主導権を握れたのは、前線からの守備がうまく行っていた証拠と言っていいだろう。今までは前半すら主導権を握れなかったのだから。前線からの規律ある守備はヴェンゲル時代からほとんど見られなかった光景だ。

   ユナイテッドはプレス隊の後ろでボールが持てるようになった上に、前線がハーフスペースで受けることを意識し始める。これにより徐々に相手陣でのプレータイムを増やすユナイテッド。アーセナルは前線のフォローに行くか行かないかの判断に2列目が悩む場面も出てきて、ギャップも生まれやすくなる。

図11

   両チームが交代選手を入れたところで試合のテンションは上昇。しかしながら、ネルソンは精度を伴ったプレーはできず、グリーンウッドとペレイラも外からの1on1や、ハーフスペースの裏抜けなどボールを受けるところまではうまく行くものの、アーセナルのブロックの内側に入る事ができない。交代選手が試合の流れを動かす決定的な仕事をする場面はあまりなかった。

    ラカゼットのカラータイマーが限界に達したアーセナルはゲンドゥージを入れてゲームクローズに。4-4-2だと、1人が出て行っちゃった時に発生する歪みをケアしきれないかも!ということで、2列目を厚くした4-5-1のスタートである。エジルがCFの位置に入ったのは、オーバメヤンの方がまだプレスバックする力が残っているという判断だろうか。

    ボール周辺の密度が高まってしまったユナイテッドはこの守備ブロックを最後まで崩す事ができず。マタを投入して、フレッジをアンカーにした4-3-3にシフトチェンジをするが、これも焼け石に水だった。

    試合は2-0でアーセナルがアルテタ就任後、初めての勝利を飾った。

あとがき

■ノーエネルギー、ノーユナイテッド

 いいところなく敗れてしまったユナイテッド。ビック6相手には今季軒並み好調。5戦無敗だったが、初めての黒星になった。これまでのビックマッチではどの試合でもエネルギー満タンだった。しかし、過密日程の締めとなったこの試合ではそのエネルギーは残っていなかったようである。

 正直、今季のユナイテッドは戦術や高い練度で勝ってきたチームではなく、身体能力の高さを活かして自分たちのフィールドに引きずり込んでいくことで勝利しているチーム。過密日程で迎えた今回の試合はその引きずり込むべきフィールドがそもそもなかったように見える。身体能力以外に自分たちが輝けるフィールドを作ることができなければ、こういう試合は増えていく。スールシャールが暫定監督に就任してからもう1年。ユナイテッドは新しい扉を開くことはできるだろうか。

■我慢に先立つ期待を見せた

 一方、監督を交代することで新しい扉を開いたアーセナル。できることは少しずつ増えている。例えば、後半の4-5-1への移行。2点差をつけたこともあるが、前節は守り切れなかったリードを危なげなくしのいだ。

 ボール保持においても、プレッシングにおいても間違いなくチームは前に進んでいる。その前提であえて懸念を挙げるとすれば、後半に主導権を与える傾向。それも相手がやり方を変えたからというよりは、自ら選んだやり方が90分持たないというのが一つの要因。押し込まれた時の陣地回復の仕方、カウンターの精度、そして近場を塞がれた時の長いパスなどショートパスでのプレス回避以外の方策も身に着けたいところ。加えて、現状の戦い方でもラカゼット、エジル、トレイラに関しては役割的に代替が難しい。彼らが不在の時の用兵は気になるところである。

 また試合の流れの中での修正に関しては現状未知数。言い換えれば、初手がうまくいっている証拠ではないが、監督経験が浅いアルテタにとって手の打ち合いのような試合の経験値の少なさは気がかりである。

 もっとも、こういうことは織り込み済みでアルテタは招聘されたはず。ここまでは順調な歩みだが、時には勝ちに恵まれず我慢が必要になる場面もやってくるはず。しかし、我慢の原動力になるべき期待はこの3試合で十分見せてもらったことだし、むしろこれからは楽しみなことの方がはるかに多い。2020年は2019年よりもいい年になるかもしれない。アーセナルファンの多くがそんな予感を抱いているだろう。

試合結果
プレミアリーグ 
第21節
アーセナル 2-0 マンチェスター・ユナイテッド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:8′ ペペ, 42′ ソクラティス
主審: クリス・カバナフ

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