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「もっともっと悔しくなる」~2019.12.29 プレミアリーグ 第20節 アーセナル×チェルシー レビュー

スタメンはこちら。

図1

目次

【前半】
攻守にちぐはぐなチェルシー

 悩ましい両チームの対戦である。得意な局面はあるけども、そこにどうやって持っていくかの両チーム。そして勝てていない。得意な局面は言うまでもなくボール保持。その局面をいかに増やすか同士の対戦である。

 しかし、この日のランパードのチェルシーの3バックを見ているとボール保持が得意!といえるかは微妙なところ。サウサンプトン戦から継続した3バックはボール循環の流動性の低さも改善が見られないままだった。チェルシーのビルドアップは3バックがGKの前に並ぶ形。アーセナルはエジル+ラカゼットのプレス隊に加えて、SHも助太刀に来る。チェルシーのワイドのCBにボールが出た時は、アーセナルのSHが捕まえに出てくる。

図6

 アーセナルのSHは常にチェルシーのCBに張り付いているわけではないので、チェルシーとしては後方の数的優位は確保できていた状況である。しかしながらチェルシーはこの優位をボール保持において活用できていたかは怪しいところ。アーセナルのプレスはそこまで勢いのあるものではなかったので、チェルシーのCBには前を向く余裕があった。しかし前にはボールは出せない。アーセナルのSHがでてくるならば、チェルシーのWBは空くはずなのだが、後方から出てくるボールの精度が高くなく、また速度も遅いためアーセナルのSBが出てきてチェックすることが十分可能だった。そして、チェルシーのCHはアーセナルのCHとデート中。ということでボール回しはお世辞にもいいとは言えなかった。

図7

図8

 一方、アーセナルのボール保持はアルテタ就任後、即座に改善が見られた部分である。エジルを軸に間を使うムーブと、ジャカを軸に幅を使うムーブが前節のボーンマス戦で見られたやり方である。

図3

図4

 チェルシーがまず苦しんだのはアーセナルの右サイドの動き。メイトランド=ナイルズは絞る動きも開く動きもしていたが、ウィリアンをうまく引っ張れるシーンが何回かあった。これに合わせて右サイドに流れたのがエジル。彼がエメルソンを引き寄せることで、ネルソンは裏に抜けだすことができる。

図9

 ネルソンが3CBの一角であるトモリと対峙する状況を作り出すことで、アーセナルはチャンスメイク。アーセナルの左サイドでは下りるラカゼットの動きが起点となる。出し手になることが多かったトレイラは前節から間に入れるパスの意識が高まっている。ラカゼットが下りる、サカが大外を使う、オーバメヤンが斜めにPA侵入を狙うのトライアングルの動きも有効であった。

図10

 ボールは支配できるけど、フィニッシュの精度が悪く得点ができなかったのが前節のアーセナル。しかし、今節はセットプレーから速やかに先制。チェルシーはエメルソンがオーバメヤンを離してしまったのが痛恨である。

 チェルシーは悪い循環をなかなか変えられない。おそらく3-4-3は後方の守備の枚数を単純に増やすことが目的なのだろうが、その後方が前に出ていく判断が悪い。例えば17分のアーセナルの決定機の時のトモリ。ハイプレスの時に後方が連動するのは間違いではないだろうが、さすがにコバチッチを追い越してふらふらエジルに向かうのはリスクが大きすぎる。案の定、大外からネルソンに裏を取られて、最終ラインに大穴を空けることになってしまった。ウルブス戦とか、トモリは結構こういった判断をうまくリスクを賭けながらプラス収支でやっていた印象だったのだが、サウサンプトン戦とこの試合ではやや無謀なチャレンジが目立った。

図11

 先述したラカゼットの間を使う動きにもリュディガーがついていくので、アーセナルはオーバメヤンで裏を使うことができる。数はいるチェルシーの最終ラインだが、個々の判断の悪さで後方に穴をあけてしまう形になっていた。

 プレスでは後手、ボール回しではつなげない、そして困って出した長いボールは孤立したエイブラハムにも収まらないし、サイドの裏にもつながらない。前節に続き、攻守にちぐはぐなチェルシーであった。

【前半】-(2)
ランパードの2つの修正

 潮目が変わったのは2つの選手交代である。1つ目はアーセナル側。チェンバースの負傷交代である。代わりに入ったムスタフィのクオリティがどうこうではなく、この場面は長引く治療でランパードに修正の時間を与えたことがキーである。ランパードはこの交代後に、ハイプレスを実施。とりわけ両CHを積極的にカンテとコバチッチに捕まえに行かせた。

 アーセナルは確かにボール回しの仕組みづくりは徐々にうまくいくようにはなってきたが、GKはエデルソンではないし、最終ラインにラポルトはいない。中央が塞がれた時にサイドに素早く正確なボールを届けられないのはアーセナルもまた同じである。チェルシーのCHの行動範囲が広がる分、プレスをかいくぐられたらピンチになるものの、そこは割り切ってファウルで止める。警告の数はかさんでいったけど、決定的な形を作られるまではいかなかった。

図12

 2つ目はジョルジーニョの投入。これにより後方のボール回しは改善。4-3-3へのシフトで、捕まえにくいアンカーが登場する。ジョルジーニョの優れた技術や認知はボール回しの単純な上積みになるし、アーセナルのプレス隊が困ったのは中央に起点ができたことでサイドに出ていきにくくなったこと。とりわけエジルは中央にピン止めされるケースが増加。これにより、チェルシーのサイドへのアーセナルのプレスは圧力が低下。ジョルジーニョが入ることにより、パスのレンジは伸びることはなかったけど、左右に振ることでアーセナルのサイドへの圧力はさらにかかりにくくなる。アーセナルはおとなしく撤退4-4-2を選択する。

 リスクを取ったプレス、ボール循環。2つの交代で相手陣でプレーする時間を増やしたチェルシー。カウンターに出られたときの脆さはなくなったわけではないが、その他の局面を修正することで欠点が現れる頻度を覆い隠した形である。

 ボール保持で上回ったアーセナルに対して、2つの修正でチェルシーが流れを引き戻したところで前半は終了。ホームチームのリードで前半は終わる。

【後半】
支配率は青、デュエルは赤

 前半を経て、どうやらボールを握って相手陣に押し込む方がよさそう!とアルテタもランパードも思ったことだろう。ではどうやって?というのが問題になる。大まかな流れは前半の終盤と同じ。チェルシーがボールを握ってアーセナルは撤退する展開である。

 アーセナルの4-4-2ブロックはSHが非常に低い位置まで戻る形。SBが外に出ていったら、SHがその出ていった場所を埋める。前半の終盤もそうだが、オーバメヤンが非常に低い位置まで戻ってブロック守備に参加する姿は印象的だった。サイドにボールがある時やCHが最終ラインに吸収されるときに、逆サイドのSHがスライドする習慣ができていたので、押し込まれた時のアーセナルあるあるだったバイタルスカスカ状態は以前より頻度が低下。

図13

 チェルシーのサイドからのクロスは中央に高さがないこともあるし、スライドしつつ逆サイドを捨てて中央に絞るアルテタの選択は正しいと思う。中央でのボールはアーセナルのCBが跳ね返し続ける。64分に実況の野村さんが紹介していた「後半のポゼッションはチェルシーが64%だが、デュエルの勝率はアーセナルが67%」というデータは後半のこの試合の展開を端的に表したものに思える。

 アーセナルにとっていやだったのは斜めの動き。これによりチェルシーは中央にスペースを作る。この動きを使うのがうまいのがウィリアン。外から内に入るこむ動きに対しては、アーセナルは後手に回る場面が目立った。交代で入ったランプティーも交代直後にこの動きを見せる。斜めの動きに合わせてエイブラハムが裏抜けてアーセナルの最終ラインを押し下げる。

図5

 このシーンもしかり、74分のシーンもしかりダビド・ルイスはエイブラハム相手に裏をかかれるんだけど気合のプレスバックで対応。この試合のルイスは跳ね返し、跳ね返し、跳ね返していた。先読みはされていたけど、なんとか身体能力で食い止める。過密日程だが、体のキレはよさそうで何より。

 アーセナルの陣地回復を担ったのはネルソン。ロングカウンターの受け手となり、時には2人を相手にドリブルでチェルシーを押し返す。ただし、全体として陣形が押し込まれていること、そしてジャカの不在で長いパスの出し手がルイスしかいないことなどで、ボーンマス戦に比べるとサイドで仕掛ける形を作れる機会は少なかった。

     押し込まれるアーセナルはエジル→ウィロックの交代を合図に再びハイプレスを敢行。しかし、4-2-3-1にシステム変更したチェルシーはエイブラハムへのロングボールを徐々に拾えるようになる。左にはハドソン=オドイ、右にはランプティーという翼を得たことでサイドから有効なクロスを上げる場面も増加。アーセナルは決定機こそ許さなかったものの、ウィロックというカンフル剤でのハイプレスはすぐに鎮められてしまった。

    そういった中でのチェルシーの逆転劇。1つはセットプレー、2つ目はアーセナルのセットプレーからのカウンターによるもの。2つ目は結果論で言えば、カードをもらっていなかったムスタフィがエイブラハムを止めに行くことが有効だったかもしれないが、ワイドに走っている選手がいる状態ではむしろディレイさせる判断の方がスマートと言っていいのではないか。エイブラハムのシュートコースを作る動きは見事だった。レノは残念無念である。

    試合はそのまま終了。ビックロンドンダービーはチェルシーが逆転での勝利を挙げて幕を閉じた。

あとがき

復調は据え置き

   勝利はしたもののチェルシーの課題は多い。引いた相手を崩す手段は乏しく、人数をかけたボール回しも前線の連携もクオリティは怪しい。高さはないチームなので、理詰めで行きたいところだが、間を埋めたアーセナルの守備には手を焼いた。

   一方でランパードの采配は光った。スタートのシステムは攻守共にチグハグだったが、その後の修正は非常に良好。1枚1枚に意味を持たせてアーセナルを押し込む時間を増やして事故を引き起こした。

   基本的には理詰めのチーム。アーセナルをその理詰めで追い込めたかは怪しいところである。勝利は収めたが、復調したかはどうかはもう数試合推移を見守りたいところである。

■負けて悔しいアーセナル 

   敗れたものの確実な前進が見えているアーセナル。この日は前節にはすでに改善の兆しが見えるビルドアップに加えて、ブロック守備でも規律が見られた。驚くべきことかもしれないが、SHが規律に沿って守備をしていることはアーセナルにとっては非常に珍しい光景なのである。

   課題としてはコントロールができていた時間が短かったことか。引きこもる時間が増えれば当然失点に直結するエラーの可能性は高くなる。この日はその可能性をもろに引き当ててしまった。長い距離のパスを使えるジャカがいれば、前半から幅を使えていたことだろう。ネルソンが生きる場面も増えたはずだ。

    この試合ではベンチの層は薄かったが、メンバーが戻ってくれば試合の中での駆け引きに関してもアルテタには期待したいところである。

    レノのミスで勝ち点を落としてしまったことは事実だが、失点時にもう少し彼を励ます選手は欲しかったところ。これまで苦しい時にチームを支えていた彼だからこそ、このシーンではフィールドプレイヤーが試合中に彼を元気付けて欲しかった。

   エミレーツの観客も同様である。アルテタのアーセナルはまだ始まったばかり。5分前には勝っていたチームを応援することをやめて帰路につくサポーターにはもう少し我慢を求めたくなってしまうのは自分だけであろうか。

   勝てそうだった試合を落とすのは悔しい。将棋漫画の「三月のライオン」では天才将棋少年の主人公が将棋を教えるときにこの言葉をいうシーンがある。

「強く」なればなる程 負けた時くやしくなります
  ——むしろかけた時間の分だけ 負けるとくやしいので
    進めば進む程くやしくなります

   近頃のアーセナルの試合後はアーセナルファンの「負けても悔しくなくなった」という声のオンパレードだった。この試合は間違いなく今季最も「悔しい!」というアーセナルファンの声が聞こえた。それひとつでアルテタ後のアーセナルが前に進んでいる証拠と言えるのではないだろうか。

   完成度は高まっている。ただし時間は必要。この負けは悔しいが、完成度が高まれば負けは一層悔しくなるはず。2020年のアーセナルには負けて超悔しくなる完成度を期待したいところである。

試合結果
プレミアリーグ 
第20節
アーセナル 1-2 チェルシー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:13′ オーバメヤン
CHE: 83′ ジョルジーニョ, 87′ エイブラハム
主審: クレイグ・ポーソン

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