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「ギャップが気になる再出発」~2019.12.1 プレミアリーグ 第14節 ノリッジ×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

図2

目次

【前半】
ゆったりブロック攻略の隙に

    リュングベリの初陣となったリーグ戦の相手はノリッジ。4-4-1-1をベースにブロック守備を敷く。プレスの意識としてはトップ下のマクリーンがジャカを監視する意識が強め。よってアーセナルの最終ラインにはボールを持つ時間が与えられた。

   ただ、ノリッジのブロックは少々問題が。アマドゥを中心にボールが入れば強めにチェックをかけるものの、空けたスペースを埋める意識が低いため、1人が釣れるとどんどん後方が空いてしまうという状況が発生する。

図3

   さらに加えれば元々のブロックもコンパクトさに欠けており、ノリッジはボールをどこで取りたいのかという部分がわかりにくかった。荒い網目に連動しないプレス。そのため、アーセナルはラカゼットが開始早々迎えた決定機のように、間に降りる動きと裏をとる動きがセットになるとチャンスメイクが可能に。すでに述べたとおり、アーセナルは後方にボールをフリーで持てる選手はいる。間で相手を引き寄せて裏をとる形を組み合わせることで、今度は徐々に間が空いていく。

図4

    という流れで攻めだるまにしたかったアーセナルだが、間に降りる動きと裏に抜ける動きをセットにする頻度はあまり多くなかった。間に受ける動きと裏に抜ける動きのメカニズムを仕込む時間はまだなかったかなと。

    この日のアーセナルはエジルとオーバメヤンをワイドに起用。どちらの選手も中央でプレーさせたいこともあり、やや絞り目でのポジションを取ることが多い。そうなると、大外のレーンはSBが担当することになる。エジルやオーバメヤンが内に絞ったスペースをSBの彼らが使うことに。

    両サイドバックを上げた分、カウンターで守る枚数は減るというデメリットはある。まぁそこは後方が守るしかないんだろうな!と思っていたところで後方が止められなくて失点するのが今のアーセナルである。確かにチェンバースの裏から押し下げられるシーンはそれまでもあったけども、このゴールシーンにおいてはノリッジの攻め手はプッキ1枚。まぁこれくらいはね!と思っていたところでのムスタフィとルイスのゆるふわ対応である。すごくゆるふわなので未見の方はぜひ。

   しかし、アーセナルは直後に追いつくことに。なんでもないFKだと思ったのだが、ツィマーマンが唐突なバンザイハンドをかます。オーバメヤンのPKを一度はクルルが止めるものの、ノリッジはキック前に4,5人仲良くエリア内に侵入。甘いコースに蹴ってしまったオーバメヤンにやり直しのチャンスを与える。ノリッジ、お前らもゆるふわなのか!

 かなりすっとこどっこい色が強い展開になってしまったが、前半はまだ終わらない。ノリッジのボール保持の話を少しすると、落ち着いてボールを持てるときは、SBが内に絞ったり、キャントウェルが逆サイドに顔を出してサイドでオーバーロードを作ったりなど、ボール周りに人をかける傾向が強い。サイドに人をかけられて最終ラインを下げられると、ボール非保持におけるアーセナルのさらなる欠点が露わになる。それはCHが最終ラインに吸収されて、マイナスのバイタルエリアがケアできないこと。

図5

 アーセナルにもともと見られた欠点ではあるが、この試合では先述の通り、SBが高い位置にいた状態でアーセナルがカウンターを食らう状況が多かったので、その欠点がわかりやすく表に出てきてしまっていた。その状況を使われてしまったのが2点目のシーン。カウンターから空いたバイタルエリアに走りこんだキャントウェルにゴールを奪われる。

 確かに選手が上がった形でボールは奪われてしまったのだが、相手の陣地深い位置からスタートするロングカウンターであり、攻撃の完結までにかなり時間はかかっているんだけどね。プレスにも行けず、リトリートもできずにボールを通過させてしまうジャカとチェンバースが切ないぜ。

 追加タイムにノリッジが点を取ったところで前半は終了。ノリッジのリードで試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
手当てが必要なのは攻撃ではなく・・・・

 悪い時間帯に勝ち越しゴールを決められてしまったアーセナル。追いかける展開になるが、なかなか流れを引き戻せない。左サイドはエジルが内側でつぶされて、開いた大外でコラシナツは突破まではいくものの、ラストパスの精度が伴わない。右サイドは前半よりもオーバメヤンが開く機会が増える。前半に明らかに裏を狙われていたチェンバースに攻め上がりを自重させるためかもしれないが、やはりオーバメヤンが右の大外から淡々とクロスを上げているのはもったいなさすぎる感じがする。

 そのオーバメヤンが中央にいるタイミングで同点ゴールが生まれるのは何というか。CKからこぼれ球を押し込んで同点に。喜びとともにやっぱり中にいてほしいという思いは禁じえなかった。

 同点に追いついたアーセナルだが、試合の流れを手繰り寄せることができない。ビルドアップはルイスやレノが低い位置からゲームを作ろうと試みるものの、中盤から先にショートパスをつなぎながら進撃できる機会はごくわずか。簡単にオーバメヤンに向かって競り合うタイプのロングボールを蹴って、セカンドボールを拾われる状況が続く。

 さらに悪いことに、セカンドボールの回収後にノリッジの攻撃陣に手を焼いていた。前半に紹介したサイドでのオーバーロードから押し込まれるシーンもあったし、カウンターからはプッキやキャントウェルにアーセナルのDF陣が簡単に突破を許すシーンがなかなかの頻度で見られた。リードを得ているわけではないにも関わらず「このCHとCBでは守り切れない!」と思ったリュングベリがトレイラを投入するのも無理はないだろう。当然重心は後ろ側に。前線は後ろの選手が上がる時間を作れる状況ではないため、より得点のにおいは感じなくなる。瞬間的には4-3-3っぽくなったアーセナルだが、次の一手はゲンドゥージ→サカ。ウィロックに続いてボールを運べるゲンドゥージがいなくなったことにより、中盤の組み立ての質は徐々に落ちていく。

 ペースを握ったノリッジ。左からはオーバーロード、右はアーロンズのオーバーラップなど手早く攻める形でアーセナルのエリア内に侵入する。押し下げればアーセナルのバイタルは空くので、そこからのミドル攻勢は後半もよく見られた。後半は時間が進むにつれて押し込める展開が増えてきたノリッジ。おそらく自信は増してきたのだろう。試合の終盤はタイスコアの状況でも容赦なくクイックリスタートで始めるノリッジの姿を複雑な状況で見続けることになった。

 試合はそのまま終了。12月になってもアーセナルの未勝利はまだまだ続くこととなった。

あとがき

■勝ち試合だったものの懸念は残る

 アーセナル相手に勝ち点を得たノリッジ。終盤はむしろ彼らのゲームだったし、勝ち点1で喜ぶのではなく、むしろ勝ちを逃したと悔しがる選手も多いのではないだろうか。前に出た時の迫力は相変わらず。プッキはやや不調と聞いていたが、アーセナル相手には独力で得点を決めて見せた。キャントウェルも逆サイドまで頻繁に顔を出す運動量とバイタルを強襲するミドルシュートで存在感を見せた。前半はかなり危険なタックルもあったけど。

 しかしながら、ブロック守備の完成度は気になるところ。アマドゥは潰し役として健闘はしていたが、彼が出ていったときにうまくスペースを埋める形はできていなかった。ブロックとしてもコンパクトさが不十分で、アーセナルのアタッキングサードの精度の低さに助けられた側面は大きい。残留に向けての課題は非保持でのボールの取りどころを定めるところになるのではないだろうか。

■トライが見たい

 リュングベリ新体制を勝利で飾れなかったアーセナル。レジェンドとはいえ内部昇格というわけで、人が変わったように気合が入った選手たちを見れる可能性は低いだろうと覚悟はしていたが、予感は当たってしまった。今季初のリーグ戦先発だったムスタフィはボールホルダーを離す判断を頻発。ジャカもカバーリングで輝く場面はあったものの、逆に大事な場面でのミスで決定機をフイにしたり、ピンチを招いてしまう場面も見られた。

 戦術面で目覚ましい変化がないのは当然。何しろ時間がない。仮にリュングベリにやりたいビジョンがあったとしても、この期間では落とし込みは無理だろう。中2日でチームに最適なメカニズムを浸透させるほどの能力者がアシスタントコーチにいたのならば、そもそもアーセナルはこんなことにはなっていない。

 前線の配置を変えたり、ゲンドゥージを落としてコラシナツに高い位置を取らせたり、何も用意をしていなかったわけではないが、選手たちのミスが目立ったこともあり、どれもノリッジ撃破の有効な手立てとはならなかった印象である。ちょっとこの部分はエメリに似通う部分でもある。

 本文でも触れた通り、ノリッジの中盤ブロックはかなり緩め。特に後半はそこの崩しから逃げるようなロングボールが目立ったのは何とも言えないところ。単にエジルが降りて受けるのが難しいのならば、ラカゼットのポストを有効活用できるボールの動かし方にはトライしたかったところである。ノリッジからすると長いボールで素直に勝負されるよりは嫌なやり方だったのではないか?と思う。やってみてうまくいかないのならばわかるけど、そもそも後半はトライする機会が少なかったのでそこは残念だった。

 仮にオーバメヤンへの長いボールを蹴るならば、CBが低い位置に留まるのではなく、押し上げてセカンドボール回収に挑んだ方がよかった気もする。いずれにせよ、後半はアーセナルの選手が得意ではないやり方を選んだように思える。うまくいかなかっただけでなく、選手の特性とギャップがあるやり方をチョイスした部分には違和感があった。

 リュングベリが就任したのは過密日程の始まりといっていいタイミング。何かを仕込むことができる時間は全くないといっていい。厳しい航海を予感させる船出となったが、この状況をひっくり返せる策をリュングベリは有しているのだろうか。

試合結果
プレミアリーグ 
第14節
ノリッジ 2-2 アーセナル
キャロウ・ロード
【得点者】
NOR: 21′ プッキ, 45+2′ キャントウェル
ARS: 29′(PK), 57′ オーバメヤン
主審: ポール・ティアニー

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