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「破壊者の系譜」~2019.12.4 プレミアリーグ 第15節 マンチェスター・ユナイテッド×トッテナム レビュー

スタメンはこちら。

図2

目次

まえがき

 功労者であるポチェッティーノと袂を分かち、新たにモウリーニョが就任したスパーズ。ここ数試合を軽く見た感じ、最大の変更点は攻守において可変フォーメーションをセットしていることだろうか。

図5

 特徴的なのはボール保持においての陣形が5レーンを意識したものになっていることだ。最終ラインは左右対称に。左のSBは最終ラインに入り、右のSBは高い位置を取る。右のSBと左右対称の位置に立つのが左のSH。つまり、幅は左のSHと右のSBの2人でとる。1トップのケインの下にはトップ下のアリと絞った右のSHがシャドーのように位置することになる。

図4

 今のところの起用法はシステムの中で選手の特性に合わせたものになっている。最終ラインに入る役割を担う左のSBはフェルトンゲンとデイビス。より攻撃的なローズは出番を減らしている。幅を取る左のSHの役割はソンかルーカス。ケインとアリの縦関係は固定されている。

 これらの変更の狙いは選手に余裕を持ってプレーをさせるためだろう。スパーズは今季最終ラインからのビルドアップを志向しているが、GK、CBの足元の技術が心もとない部分も多く、2枚のCBではやや安定感にかけるところがあった。それを回避するための3バックへの変化といっていいだろう。ウェストハムやボーンマスなど2トップでプレスに来る相手には、この変更でゆったりとボールを持つことが可能に。動き出しに優れたアタッカーを生かすような裏抜けのボールを余裕をもって送ることができていた。

 まとめると、モウリーニョが施したリーグ戦2試合での修正は、今年取り組んでいる「低い位置からのビルドアップ→前線のダイナミズムを生かした速い攻撃」のコンボをやりやすい方向に持って行くための整理整頓と位置付けることができる。

【前半】
作り出された「余裕」を奪い取る

 試合の話を始める。ポチェッティーノ期のスパーズに足りなかったボール保持における最終ラインの余裕を、モウリーニョがもたらしたのだとすれば、この試合のマンチェスター・ユナイテッドの狙いはその最終ラインから余裕を奪うことである。4-2-3-1のユナイテッドが挑んだのは文字通りのガチンコ勝負。両SHのラッシュフォードとジェームズが最終ラインに制限をかけるのはもちろん、SBのヤングとワン=ビサカが高い位置を取ってWBへのプレスを敢行。中盤ではフレッジとリンガードが広い範囲を動き回りながらボール保持者にプレッシャーをかける。

 モウリーニョによって与えられた余裕を奪うプレスを敢行するユナイテッド。プレスをいなして、スペースが空いているユナイテッドの後方にボールを送り込むスキルはまだトッテナムにはなかった。それならば、トッテナムはCHがビルドアップの手助けをしたいところだが、モウリーニョ就任後も顔ぶれもタスクも定まっていないのがこのCH。この試合ではシソコとウィンクスが先発だったが、エンドンベレやダイアーなど何通りかの組み合わせを試してはいるが、ビルドアップでの存在感はあまりなかった。

 ここまでのトッテナムの対戦相手は中盤にきつめのプレスをかけてこなかったり、中盤を省略してダイレクトに前線に送ることでCHのビルドアップへの寄与の少なさは問題にならなかったが、この試合ではボールの落ちつけどころとしてCHが機能してくれれば幾分か楽になっただろう。

 しかしながら、思い通りにはならなかったトッテナム。テンポを落ち着かせることを許さないユナイテッドのプレスに飲まれてしまい、先制点を献上することに。ラッシュフォードのゴールはものすごいスピードのスーパーシュートだった。ユナイテッドとしては、試合を落ち着かせることを許さずにインテンシティでトッテナムに圧力をかけまくっていた時間帯に先制点を取れたのは非常に大きいだろう。

【前半】-(2)
上手じゃなくてもやりようはある

 ひとまずは落ち着きたいスパーズだが、それを許したくないユナイテッド。先制点直後もプレスの圧を緩める気配は見られなかった。とはいえ、試合はどこかで落ち着くものである。この試合で落ち着いた展開になったのは、意外にもユナイテッドのボール保持からだった。

 ユナイテッドのボール保持はCBが開いて深い位置からスタート。これに対して、トッテナムのプレス隊が出ていく。正直言えばマグワイアもリンデロフもそこまでボール出しに優れているわけではなく、低い位置から何か特殊技能を披露できるわけではないのだが、ふらふらボールを持って上がっていくことはせずに、トッテナムの2トップを引き寄せることができたのがよかったと思う。

 このCBコンビの組み立てを手伝ったのがフレッジ。幅広いスペースを動き回り、最終ラインからボールを引き出す役割を担った。トッテナムの中盤が前線とうまく連動していないことや、危険を感じたらCBコンビが速やかに裏に蹴るという安全策を取ったため、トッテナムのプレスはうまくハマっていかなかった。

図6

 プレスで先手を取り、ポゼッションで相手をいなすユナイテッド。完璧な試合運びかと思いきや、わずかなほころびから同点弾を浴びてしまう。きっかけとなったのはマクトミネイ。直前にも同様にロストをしていたので、トッテナムのプレスはマクトミネイをボールの取りどころとして定めていたのかもしれない。高い位置で押し上げると、最後はアリがフレッジをアクロバティックにかわしてゴールを決める。

 同点弾からトッテナムは徐々にペースを引き戻す。この時間帯あたりからボール保持において移動を開始したのはアリ。中盤左サイドに開く動きをすることで、ワン=ビサカの基準点を乱しにかかる。ジェームズの背後にボールのおさめどころを作ったトッテナム。ボール保持側が徐々に時間を作れるようになったところで前半は終了。試合は1-1のタイスコアでハーフタイムを迎える。

図9

【後半】
出鼻をくじくラッシュフォード

 タイスコアながら後半開始から圧をかけたのはスパーズ。ボールサイドに陣形を大きく寄せるようにして、プレスをかける。プレスかけられたらお前らだって遠くに蹴れないんじゃね?みたいな。確かに前半に比べれば、ユナイテッドのビルドアップ隊は幾分か窮屈そうに見えた。

図7

 理には適っているやり方のように見えるけど、それを台無しにしたのが理不尽さである。またしてもトッテナムに立ちはだかったラッシュフォード。独力で2人を剥がしてPK獲得である。これを決めてリードをゲット。

 この後半の左ワイドのラッシュフォードを使った攻撃は結構デザインされていたように思う。大外のラッシュフォードをハーフスペースでリンガードが手助け。中央にはフレッジが攻め上がり、右に流すとフリーのジェームズがシュートを打つ!みたいな。CHの脇でジェームズがフリーになるシーンは何回か見たので、同サイドのソンは前残りを命じられていたのかもしれない。それでもユナイテッドはカウンターをうまく処理していたけど。フレッジが攻めあがった分、ワン=ビサカが中央に絞りながら積極的に人を捕まえに行っていた。

図8

 組み立てを円滑にしたいスパーズはエリクセンを投入。確かに、前半の終わりにアリがやっていた仕事とかはエリクセンにぴったりだと思ったので、この交代は見てみたかったところである。エリクセンはやっぱりいろいろ難しいんだろうか。

 しかしながら、内に絞ってポジショニングすることが多かったエリクセンが十分に起点になれていたかというと微妙なところ。ボール保持の時間こそ増えたものの、ユナイテッドのリトリートを先回りして攻撃を完結させるのに手を焼いていた。ソンは基本的に加速する前に潰されることが多く、ユナイテッドは早め早めに捕まえることで得意なスピードに乗ったドリブルを封じていた印象である。

 飛ばして入った印象のあるユナイテッドだが、終盤でもペースはそこまで落ちず。両チームともペレイラ、エンドンベレなどアスレチック要素強めの交代で、最後まで中盤の潰しあいに受けて立つ両チームだった。

 最後はルーク・ショーを入れてクローズをしたユナイテッド。ヤングと縦に並べるのかと思ったら、普通にヤングが3バックのCBやってて面白かった。

 試合はユナイテッドの勝利で終了。またしてもトップ6相手に結果を出した。

あとがき

■タスクと見合うCHコンビの選定が課題

 全体的に非常に強度が高く見ごたえがある試合だったと思う。

 モウリーニョ就任後、初めて敗れたトッテナム。比較的プレスが緩かったウェストハム、裏への抜け出しで勝負できたボーンマスと異なり、この日は課題が出てきやすい戦い方を強いられた印象だ。まえがきで紹介した通り、モウリーニョはまずは後ろに余裕を持たせつつ5レーンを意識させることで、ボール保持を改善することに軸足を置いてきた印象。そこをユナイテッドに邪魔された格好である。

 やりたいことを邪魔された時の前線のオプションはやや少ないかもしれない。ソンのドリブルが早めに潰されて、ケインが収まらないという状況はあまりないかもしれないが、ガンガン潰された時の解決方法がないのは困るかもと思った。相手をうまくいなす選択肢がないというか。

 ここからのトッテナムで注目したいのはCHの人選だろう。今までの試合と異なり低い位置でCBが起点になれなかった以上、中盤でビルドアップに関われる人材を使いたいところ。ただ、前線には縦の速さもあるため、広い範囲のカバーも求められる状態。現状では組み立ても前線への攻守のフォローも機能しているか微妙なところ。前と後ろのタスクが明確なだけに、中盤でバランスのいい配置を早く見つけたいところだ。

■筋肉で解決していきましょう

 トップ6キラーとなってきたユナイテッド。この試合は細かい配置の話よりもフィジカルで大いに圧倒したという側面が大きい。おそらくアスリート能力の高さはリバプールと並んでトップ6の中では最強の部類のはず。試合展開が早ければ早いほど、チームのカラーにあっているのだろう。同じくリーグ戦で苦しむアーセナルと異なり、上位相手に結果が出ているのはこの辺りが理由かもしれない。筋肉で解決できることは意外と少なくない。ダービーも筋肉で解決できるだろうか。

   ただ、この試合はボール保持の局面のように落ち着きもあったユナイテッド。前後半の早い時間にスコアで先手をとったことで、先回りして試合のペースを握った感もあった。

 しかし、前に出てこない相手との対戦では手を焼きそうだ。ブロックから出てこない対戦相手には、ラッシュフォードがアザールになる以外の解決策が思いつかない。この日はカオスの序盤に先制点を挙げ、スパーズがプレスに出てこなくてはいけない状況を作り出すことで、中盤でスペースを得ていた。現状ではCBコンビに質の高いフィードは求められない状況で、相手が先にバランスを崩してスペースを明け渡してくれたことでビルドアップが安定した印象だった。そう考えるとやはりポグバの復帰は待たれる。アクセント以上の破壊力を持つ一撃必殺パスがあるポグバはスピード豊かなユナイテッドの前線との相性もいい。この日の出来のフレッジならお守りもできそうである。

 この試合はモウリーニョが監督就任後に作り出した「余裕」を奪うことでユナイテッドが勝利を挙げた。まさしく、相手のプランの破壊。それも近年の破壊者のパイオニアであるモウリーニョを向こうに回してである。スールシャールは破壊者の系譜に名を連ねることになるだろうか。破壊者の代名詞であったモウリーニョがトッテナムで仕組み作りに奔走し、ユナイテッドで彼の後任を務めるスールシャールが破壊者として立ちはだかるというこの試合の構図は結構面白い。そういう意味でも非常に興味深いモウリーニョのオールド・トラフォード帰還となった。

試合結果
プレミアリーグ 
第15節
マンチェスター・ユナイテッド 2-1 トッテナム
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd: 6′ 49′(PK) ラッシュフォード
TOT: 39′ アリ
主審: ポール・ティアニー

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