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「散る美学の話」~2019.9.28 J1 第27節 川崎フロンターレ×ヴィッセル神戸 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
人、人、人、時々スペース

 9月18日に行われた天皇杯でも対戦している両チーム。その試合の多くの時間帯において神戸が主導権を握ったこと、そしてその試合から神戸は2枚(小川→イニエスタ, 田中→ビジャ)しか代えておらず、その2枚がVIP級のスペイン人であることなどを考えると、川崎がどう対策を打つか?が気になるところ。

 川崎は天皇杯から6枚を入れ替え。目につくのは車屋のCB起用、守田のSB起用。スピードのある神戸のアタッカー陣に山村→車屋で対抗、酒井にやられた馬渡に代えて守田で対人強化ということだろうか。さらに家長をスタメン起用。対人強化しつつ、ボール保持の時間を増やす意識が強い11人である。

    キックオフするとやはり神戸の保持、川崎の非保持の局面がキーになりそう!という感じだった。川崎は神戸のボール保持に対して二面性のある対応を行う。キックオフと同時に見せたのはハイプレスの側面。主に小林がCB(主に大崎)を捕まえに行くアクションがトリガー。SHがワイドCB、SBがWBを捕まえてハメてしまおう!というもの。人!人!人を捕まえる!中村憲剛はサンペールを監視する機会が多かったが、マークを捨ててCBまでプレッシャーに行くこともあった。サンペールのマークをぶん投げて誰も見ていない!という状況は何回かあったけど、意外とそこまで致命傷にはならなかった。

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 もう1つ、川崎が見せた顔は撤退時の4-4-2ブロック。ハーフライン付近まで神戸の前進を許した時に見られることが多かった布陣である。CBへのプレッシャーは小林がメインで担当。もちろんサンペールは中村が監視。降りてくるイニエスタには田中がついていき、フリーランでかき乱せる山口は下田が見張る!というブロックの中にも人!人!感のある守り方であった。

 そんな川崎の中でスペースを意識していたのはSHの2人。特に慎重なかじ取りを命じられた2人である。彼らは1人でCBとWBの2枚が見れる位置にいることが多かった。ダンクレーやヴェルマーレンというワイドCBにプレスをかけに行くこともあるのだが、WBの状況を確認しつつプレスを実施していた。

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 家長はプレス発動時にはヴェルマーレンに強く当たっていくのに対して、阿部はWBへのコースを消しながら守るシーンが多かった。これは家長の後方の守田が「対酒井高徳兵器」として起用されているからではないだろうか。後方は任せていくときはいくぜ!的な。また、阿部のようなパスコースを蹴りながらプレスをかける守り方は、浮き球でWBに届けてしまえば神戸的にはばっちり解決!なのだが、ダンクレー→西のラインでの浮き球でのプレス回避はあまりなかったので、事前にスカウティング済みだったのかもしれない。

 特にこの日の家長の守備は良かった。絞る動きやプレスバックもサボらずに実施。目の前にいるマークマンにもプレスにいかなかった今季ここまでのあなたは何者?と言いたくなるくらい献身的な動きだった。

 近場はふさがれている神戸。というわけで遠方に蹴りだすのだが、後方では車屋と谷口が裏抜けデュエルに備えて待機。天皇杯でスタメンだった田中順也とは異なり、ビジャは機動力でかき乱すタイプではないので、単純な走りっこでは天皇杯よりやや楽だったかも。同様に天皇杯で目立っていたインサイドハーフのハーフスペースへのフリーラン(下図)も小川→イニエスタの入れ替えで山口1人が担当。そのため、下田が根性でついていくことで川崎は解決していた。神戸としてはフリーランの受け手が少なくなったことで、天皇杯で効いていた遠方へのフィードの効果はやや薄かった。

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 個人的にはこのハーフスペース塞ぎは、もう1枚CHがいないと対応できないかな?と思っていた(下図)ので、ここを4-2-3-1を維持したまま対応できていたのは予想を上回る上出来さといっていい。

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【前半】-(2)
イニエスタと飯倉で流れを変える

 というわけで川崎の非保持は比較的うまくいっていた。というわけで次は神戸の対策のターン。もちろんイニエスタの登場である。マンマークで自分についてくる田中に対して、まずは「どこまでついてきます?」といわんばかりにサンペールと並列になる動き。基本的にはついていく田中だったけど、一瞬でも遅れると11分のシーンのように一発回答スルーパスが飛んでくる!というヒリヒリする対応を迫られていた。田中はよくやっていたとは思うけど。

 イニエスタが降りる動きに合わせて低い位置を取る酒井高徳はニクい。守田がついていきづらいポジショニングを取ることで、家長に2択を迫る。結果的にヴェルマーレンがフリーになるシーンは増えていった。高い位置に出た時はイニエスタと酒井がレーンを入れ替えて、酒井がPAにアタックなど。家長、守田、田中も奮闘しており、この日のこのサイドの攻防は見どころがあった。

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 人の力で解決してしまおう!というイニエスタの登場に対して、配置での工夫も見られた神戸。停滞した状況にもう1人登場したのは飯倉である。大崎とサンペールにはマンマーク。ヴェルマーレンとダンクレーからの長いボールもあまり効果的ではない!ということで後方からのビルドアップがあまり効いていない状況だった神戸。そこで飯倉と大崎が並列したポジショニングを取ることで、大崎のマークマンだった小林の基準点を乱しにかかる。

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 これに対してはあまり解決策が見つからなかった川崎。徐々に神戸は後方からボールホルダーがフリーの状況でボールを出すことができるようになってきた。とはいえ受け手のデュエルで川崎が後手を踏まなかったため、流れが一気に神戸に行くことはなかったけど。神戸は個々の選手の重さも目立った。

 それに対して川崎のボール保持。この日は裏を狙う意識が強かった。神戸はロスト後の即時奪回プレスを多く仕掛けてきたが、プレスを脱出した川崎は縦に速いカウンターを発動。小林の裏抜けを軸に阿部や家長、田中が絡んで少人数で攻め落とす!という動きが多かった。正直、齋藤学がいればなぁ!と思ったりした。

 ゆったりポゼッションしながらのボール保持もいわゆる3人目の動きとして裏抜けでサイドを突破する動きは多かった。しかし、PA内に小林しかおらず、突破後の受け手不足に陥っていた。神戸は最終ラインがそろってしまうとPA内に3枚CBがいる形になるので、サイドは突破できてもそのあとは物足りない・・・という形になった。

 となると局地戦で誰がどう打開するか?となってくる。先にそのチャンスを得たのは川崎。守田が酒井との1on1を制してラインブレイク。その流れでハンドから得たFKである。この試合は現地で見ていたのだが、このFKに対してはサポーターが「ここで決めるしかない」と感じていたようにどことなく思えた。気のせいだったらごめんね。

 枠外にそれてしまった中村憲剛のFKの後に、今度はチャンスがきたのは神戸。古橋とビジャのロングカウンターである。こっちは神戸が決めきった。古橋の裏抜けに対して、マークの受け渡しで対応した川崎DF陣。苦言を呈するならば、受け渡した後の車屋のポジショニングが甘かった。古橋の突破は脅威だが、谷口に加えて下田のプレスバックもあったので、ビジャにボールを出される部分をもっと警戒すべきだった。とはいえ、ロングカウンターでビジャと古橋と対峙すればこうなるのも確か。ここまでCBの属人性でカウンターを止めてきたツケが回ってきた感じである。今更「ボール持っているときにネガトラに備えた配置がどうこう・・・」といってもやってこなかったことは急にはできるわけがない。今季の川崎で言えばCBが止めるのが正義である。「止められなかったのが悪い!」ではなく、車屋と谷口には酷だが単にそういう仕様になっているという話。

 ちなみに車屋が谷口に古橋を受け渡したのはなんでだろうか。前半途中から神戸の2トップのベースポジションが入れ替わっていて、古橋が谷口側、ビジャが車屋側に移動したことも影響してたりするのかな。誰かが車屋に理由を聞いたって言っていた気がするけど、有料コンテンツでしか見れないだろうか。

 思い通りに進めながらももう一押しが足りなかった川崎と大事なところで質で押し切れた神戸。前半は0-1で折り返し。

【後半】
トレードオフの収支

 日本がアイルランドに勝ったので、どことなく勝っている気分で眺めていたが、実際はビハインドである。せっかくいい気分なのにビハインドである。

 ひとまず神戸はリードしているぜ!で、ボールを握れることを示す立ち上がりとなった。奪回の起点となったアバウトなロングボールはやや減少。その分、スペースに抜けるボールとか短いパスが増えていく。特に左サイドのボールの動かし方は見事。後半開始直後に守田と田中のスイッチの隙をついて、スルスル抜けていった酒井のプレーはうまかった。

 自陣右からボールを進められてしまうし、山口に根性で下田をつけても、結局ボール握られてしまうやんけ!というわけで鬼木監督は後半早々に交代を決断。「どうせならボール握ったときの質に全振りしてしまえ!」ということだろう。脇坂→下田の交代を実施。インサイドハーフの裏走りとバイタルケア引き換えに、ボールスキルを取った交代だ。

 押し込まれている中で先に阿部→長谷川の交代を実施してもいいのかな?と思ったけど、おそらくロスト後に即時奪回に来る神戸の特性を考えると、プレス回避に優れた脇坂を先に投入する方が、攻撃機会を得られると考えたのだろう。というわけで中盤中央の守備を犠牲にしつつ、徐々に打ち合いの準備を始める川崎。

 その結果、脇坂が攻めあがってチャンスになった67分のようなシーンも生まれれば、持ち上がった大崎に間に入りこんだ古橋への楔を許してしまう62分のシーンも生まれるようになった。完全にボール保持と非保持でトレードオフになっていた。

 その後、幅取り+陣地回復の役割で長谷川を投入した川崎。しかし、その直後に神戸が2点目を決める。大外→折り返しでフリーになるクロスの王道のような動き。大崎のエリア内の動きはストライカーのように見事だった。

 勝利のためにはもう後がなくなった川崎。レアンドロ・ダミアンの投入は必然なのだが、交代したのは中盤の守備で奮闘していた田中碧。中村憲剛をCHに下げて攻撃!攻撃!攻撃!という展開を望んだのだろうが、目の前の相手もケアできないくらい疲れている中村憲剛をCHに置いてしまうと、ボール奪回の手段がないのは当然である。脇坂1人に彼のお守りをさせるというのは運動量的にもスペース感覚的も辛い。

 ボールスキルが高い脇坂を投入するのはよくわかるし、長谷川の幅取りはスペース感覚に優れる登里のインサイドへの攻め上がりを活かすのにも重要。点を取るにはダミアンも大事というのはわかるのだが、肝心の守備において一番使われたくないエリアのケアを中村と脇坂に丸投げしてしまうのはいただけなかったと思う。その上で2トップをはじめとしたボール保持における連携があまり見られないまま。エリア内の迫力はあったけどね。投入したカードの意味はわかるものの、最終的にはトレードオフで失ったものの大きさに飲まれてしまう形になった。

 長谷川のワンマン速攻で1点を返すも反撃はそこまで。天皇杯に続き、等々力でも勝利の凱歌をあげたのは神戸になった。

あとがき

■アジアNo.1クラブに向けた志すクラブの強さと課題

 前半は特に重さを感じた神戸。負傷明けの選手の起用、平均年齢の高さや固定メンバーで連戦を戦っていたことなど、要因はいくつか考えられる。しかしながら、持ち味であるロングカウンターとセットプレーで展開を引き寄せて、川崎が全てをなげうって攻めに出てくるまでは主導権を握り続けた。

 懸念は終盤の失点とブロック守備の強度。最終ラインの人数を増やしたものの、ブロック守備はまだ練度は足りないまま。今季通しての悪癖となっている終盤の失点は天皇杯に続いてみられている。メンバー固定による疲労低下があるのなら、選手の層にもまだ課題がありそう。ACLを戦うならば、今日出場したスタメンでは2人は起用できない。悪いなりに勝利できたことは強い証だが、アジアNo.1クラブへの道のりはまだ半ば。豊富で質が高い外国人選手とプレーすることでいかに自国産選手の質を高めていけるかが、悲願のリーグ制覇とアジア進出におけるカギになる。小川や山口を見ていれば、すでに種がまかれていることは明らか。必要なのは時間である。

誰と共に散りたいか

 まず、勝ち点の話をする。暫定ではあるものの、勝利して首位との勝ち点差を5に詰められれば、目標である連覇への望みはつなぐことができた。そういう意味ではこの試合において、川崎は勝利以外は何の意味もない。

 次に内容である。天皇杯を見ると修正が必要なのは明らか。個人的には中盤のトランジッションとロングカウンターで勝負するやり方はどうか?とプレビューで提案したのだが、鬼木監督はよりボールを握れる構成で臨んだ。このやり方は比較的うまくいったと思う。4-4-2ブロック守備を維持しながら、神戸の前進を阻害することはできていた。家長の守備における動きは非常に貢献度が高かったし、対人能力を買われていつもと違うポジションで使われた守田も、歴戦の猛者である酒井相手に互角の勝負を演じていた。もちろん、ボール保持におけるネガトラの備えがなかったのはよろしくないが、連覇をした2年間においてもそもそもこの部分がどこまでできていたかは疑問が残るところである。

 神戸の選手の質はリーグでもトップクラス。彼らに通用しなかったからといって、ほかのチームにも通用しないか?というとわからない部分はある。そういう意味では今の選手、スタッフでできることは最大限にやったともいえる。今できないことは、シーズン中に急にできるようにはならないし、ここから先の試合でもそうはならない。「来季を見据えて若手を使え!」という声もあるかもしれないが、ルヴァンカップとACL出場権争いという残された目標がある以上は少なくとも今年における最適解を見つける作業をあきらめる必要はないと思う。

 最後に交代枠の話。交代の役割と疑問点は本文中で述べた通りである。その中で中村憲剛を残したことについてもう少し深堀りしたい。今季ここまでの川崎について考えた時に、クラブ全体としてを代えなきゃいけないタイミングであることは個人的にはゆるぎない。それはこの試合で勝とうと負けようとあまり変わらない部分だった。

 この日負けた時点でリーグ優勝はかなり苦しくなる。今の川崎がどう散ってほしいか?という部分を考えると、「豊富な戦力を活かしながら最後まで泥臭く神戸が嫌がる戦い方をしてほしかった。」というのが、リーグを追いかけながら毎試合レビューを書いてきた自分の意見である。

 チームが機能しなくなった時にどう散りたいか?というのは、個人的にはとても重要だと思う。端的に言うと、鬼木監督は中村憲剛と心中したかったのではないだろうか。外から見ている自分とは違うけれども、そこはチームを内部から見ている人だからこそ思うところがたくさんあるだろう。

 フロンターレのこの3年間の1つの区切りとして、鬼木監督は中村憲剛と散ることを選んだ。外から見ている自分には少なくともそう見えた。それが彼なりの美学なのだろう。史上初のリーグ優勝、そして連覇を達成した指揮官の美学。1-2というスコア、そしてフルタイム出場でクタクタになった中村憲剛を見て、鬼木監督は何を思ったのだろう。

試合結果
2019/9/28
J1 第27節
川崎フロンターレ 1-2 ヴィッセル神戸
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎: 90+1′ 長谷川竜也
神戸:  44′ ダビド・ビジャ, 70′ 大崎玲央
主審: 佐藤隆治

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