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「時間のない海賊王への道」~2019.8.10 J1 第22節 名古屋グランパス×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
名古屋の土俵に上がった川崎

 プレビューにおいて一番構成を悩ませる部分は、断然展望の項である。この試合はそこは大外れ。名古屋の後方から攻撃を入れるスイッチの1つとして紹介した太田宏介はスタメンを外れる。その上、名古屋は前節までの3バックを棚上げして4バック。ということでプレビューは試合の入り方をうまく予想できたものにはならなかった。

 名古屋の4バックは縦方向のコンパクトさを重視。3バックの前節を少し見た感じだと、なんとなく間延びした陣形だった。4バックだと縦方向にコンパクトさを保てるのは慣れの要素が大きいのだろうか。どちらかといえば、前回等々力で対戦した時と似たようなアプローチを名古屋はやってきたと感じた。

 ただし、プレビューで触れたように名古屋には米本がいない。彼が中盤でのプレスのスイッチになることで、名古屋は川崎の中盤からボールを取り上げていたのが前回の対戦。今回の対戦では特にスイッチはなかったものの、前線の選手がプレスバックを積極的に行っていた。

 プレビューで名古屋対策として提案したのは

【STEP1】 裏を取って相手の陣形を縦に間延びさせること
【STEP2】 広がった陣形の間で受けて前を向くこと

 しかし、川崎としては名古屋の縦にコンパクトな陣形に対して受けて立つ算段だった。つまりは間を通すパスを連続してつなぎ前進するというコンセプト。誤算だったのはそのキーマンである大島の離脱だろう。山村の中盤起用は相手を押し下げた後のもう一押しには非常に有用だと思うが、相手を押し下げる局面では力を発揮しにくい。

 中盤が困ったときの川崎あるあるは「トップ下の中村憲剛が助けに来る」というもの。しかし試合後の中村憲剛のコメントからすると、名古屋の守備ブロックを前にした状況は助けに行くほどではなかったというもの。しかし、実際にはそこから縦につけられる回数は限られていたということで、中村憲剛と山村、田中の目は揃っていなかったという形になるだろうか。

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 それに対する名古屋の攻撃は川崎の守備を横に広げることがポイントが。名古屋のビルドアップは1枚のCHが中央かサイドに落ちて最終ラインに加わり、もう1枚は中盤中央に残る形。昨季の川崎をどことなく思い出させる自由な動き方だった。

 名古屋のスイッチを入れるのは前線への縦パス。この試合ではジョーやシャビエルへの縦パスが多く通った。その遠因は名古屋のワイドプレイヤー。彼らが幅を取っていることで川崎のSHをピン止めしたことだろう。吉田がオーバーラップしたり、前田が下がってきたりとか。川崎をサイドをケアせざるを得ない状況に追い込み、中盤4枚の横の距離感を間延びさせる。ミシャ式とは違うけども、中盤CHにマークさせる相手を失わせるという意味ではちょっぴりミシャ式の理念っぽい感じになってるなと思った。

【前半】-(2)
歪みをゴールにつなげた2点目

 山村のスクランブル起用でもう1つ気になったのは浮き球のパスを多用すること。弾道が高いため、長い距離のパスを通しても相手の陣形のスライドが間に合ってしまうという問題点があった。登里がサイドの低い位置でフリーでボールを持てるチャンスは割とあったが、ここにボールを届ける術は川崎にはなかった。この点は低く鋭い球を蹴れる下田を起用していたら解決していたかもしれない。ベンチにいなかったけど。

 名古屋としては問題なく楔を入れられるので、サイドにはクリーンな形でボールを届けられることも多かった。和泉や前田の個人個人の突破にも手を焼いていたが、それ以上に苦しんでいたのは縦方向の移動。特に和泉は上下動が大きく、車屋を釣りだした後に裏を狙う形が機能していた。

 人をつり出しながらの連携で川崎を崩したのが2点目。中谷が中村憲剛のプレスを交わすところから始まった歪みを、川崎は最後まで修正できなかった。シャビエルがジェジエウを外して、ジョーと和泉という2つの選択肢を与えた時点で川崎としては詰み。ネットが田中碧を引っ張るような動きでホルダーへのチェックを遅らせたのが隠れたファインプレー。田中碧がボールを捕まえられなかったせいで谷口が遅れながら出ていく羽目になった。ボールをつないでいく中で徐々に状況がよくなっていくという意味ではいい時の風間さんのチームらしいゴールだったと思う。フィニッシャーは1点目と同じく和泉だった。

 和泉は守備においても上下動大きめ。彼が引いたために名古屋は時には5バックのように見えるシーンもあった。おそらくこれは川崎の左サイドからクロスが上がる頻度が高いからと推察する。和泉が下がることで、CBの藤井、中谷だけでなく吉田もエリア内の守備に参加することができる。もちろん低い位置から攻撃に出ていく羽目になってしまうけど、リードはあるしそこは和泉の献身性に賭けたという所だろうか。

 というわけで名古屋の土俵に上がっていったもののどの策も川崎の攻撃はうまく通用しないまま前半は終わった。

【後半】
共有の質

 川崎は脇坂→齋藤。よりスペースを広げられる選手を投入した。変更点としてはもう1つ。中村憲剛が名古屋のブロックの手前に降りてくる機会が増えてきた。これによりボール保持は安定するようになる。しかしながら、楔を入れた後の周囲のサポートが十分ではなく、その次のパスがつながらない。

 名古屋も川崎もその日その試合に出場している選手が、同じ崩しの画を共有できているかという側面がチームの出来に非常に大きく影響を与える。この日にこの部分で優れていたのは紛れもなく名古屋だろう。3点目も正しくそれに該当するシーンだった。川崎は早い時間に先手を取られたこともあり、より名古屋がスペースを攻略することは容易だったはず。打ち合いならどこが相手でも自信はあるだろう。

 ダミアン投入以降はここ数試合と大まかには同じ仕掛けだろう。クロスも厭わず、崩しにこだわらない方向に舵を切った川崎。これ以上は特にこの試合のピッチで起きた出来事に書くことがない。広島戦や松本戦の後半のレビューをそのまま読んでもらえばいいと思う。

 川崎は序盤から名古屋のブロックを縦方向に広げる工夫を見せる必要があった。そこにはほとんど手を付けずに先手を取られて終盤まで来てしまったことがすべてだろう。目の前の相手をどう攻略するかよりも、自分たちがどうやりたいかという部分を追求した印象だった。そう聞くと正々堂々戦っているようにも聞こえるけど、サッカーは相手がいるものだから。そういう意味では川崎はチームとして目の前の相手に向き合っていないように感じた。それがうまくいかないまま暗闇に沈んでいってしまう。3点目のゴールの後に起きたいくつかの出来事はそれを象徴していたものが多かった。

あとがき

■サイドの優位でペースを握る

 何よりも欲しかったのは勝利だっただろう。名古屋は長いトンネルからやっと脱出することができた。前回対戦時よりは威力が落ちていた感じは否めなかったものの、4-4-2でコンパクトなブロックを形成し、川崎をシャットアウト。サイドの局面において和泉や前田が優位を保てたのは、試合を通して名古屋がペースを握ることにつながった。

 中央ではジョーとシャビエルが躍動。川崎のDF陣を個の力で振り回した。最後方では中谷を中心に川崎のアタッカー陣を撃退。実にリーグ戦では3か月ぶりのクリーンシートを丸山抜きで達成できたのは、今後の戦いで大きな自信になってもおかしくない。次節の松本は全く色が違う相手になるが、どう立ち向かうだろうか。

■分水嶺に立たされた川崎一味

 日曜日の朝にレビューを書いている。テレビでは『ONE PIECE』をやっている。麦わら帽子がトレードマークの海賊であるルフィが海賊王になるために、ひたすら強さを求めながらひとつなぎの大秘宝であるONE PIECEを探すという話である。

 私は『ONE PIECE』の愛読者である。『ONE PIECE』の中でターニングポイントの1つといえる巻が53巻である。海軍が送り込んできた戦力に対して、ルフィ率いる「麦わらの一味」は完全敗北を喫する。そこから2年間、彼らは各々で修業をして自らのスキルを高める。その後再集結した「麦わらの一味」は以前より格段に強さを増した状態で再び海賊王への道を歩み始めるというのが大まかな流れである。

 川崎の立ち位置は53巻の「麦わらの一味」と似ているように思う。ショートパスを用いた崩しならば誰にも負けない!という志を掲げた風間時代を経て、ボール保持による崩しをさらに輝かせるプレッシングを鬼木時代に上積みに悲願の優勝を達成した川崎。しかし、この名古屋戦の川崎は「誰にも負けない!」としたショートパスを用いた崩しは全く通用しなかった。この試合に関してだけではない。名古屋とは全く異なる戦いをしてきた松本、広島にも通用せず、最後は2トップ相手にクロスを上げるための方策に終始した。「誰にも負けない」武器はいつの間にかそうではなくなっていたのである。

 私はシーズン初めに「武器を増やして研ぎ澄まし選び取るような戦い方」が川崎に向いているのではないかと思っていた。しかしACLの敗退を経て、武器を増やす意味は薄いと判断したのだろうか。試行錯誤を続けながら、チェルシー戦からはもう一度ショートパスを軸とした4-2-3-1を1つの大きな武器として後半戦を戦う意思を固めたように見えた。それが手を変え品を変え通用しない。

 この試合では確かに大島の不在は大きなエクスキューズだ。メディカルスタッフの判断の是非はあるものの、起用できると思った選手が起用できなかったという点で情状酌量の余地はある。しかしながら、大島が不在であることが分かっていたここ数試合も同じ流れは続いている。昨今の移籍市場のスピード感を見れば、1人の選手の資質に頼ったゲームモデルを組んでいるならばすぐに通用しなくなること明らかである。というわけで大島不在はこの試合を左右するファクターではあったものの、大局として見ればそれとは違った大きな問題があると思う。

 「麦わらの一味」と川崎フロンターレの立場において異なる部分は時間である。麦わらの一味は2年間の修行を経て、各々のスキルを磨いて帰ってきた。カタール代表ならばそのような強化の仕方もあるだろう。彼らは2年後のW杯までは試合の結果など気にしないでいいからだ。しかし、川崎フロンターレは4日後にはファジアーノ岡山との天皇杯、1週間後にベガルタ仙台とのリーグ戦がある。止めて蹴るのスキルが上がるならば、一番いいのは間違いないだろうが、1週間で大きな改善は難しい。

 そして川崎には異なる戦い方をできる選手たちもいる。例えば、レアンドロ・ダミアンはどのチームにとってもめんどくさい存在である。連携面ではほかの選手よりも劣る部分はあるだろうが、今季何度も見せてきた一瞬の輝きはチームの中心として据えられても違和感は少ないはずだ。自分たちの強みとは少し違うかもしれないが、相手が嫌がることをするという点では立派な戦い方の1つである。それが相手に向き合うことでもある。今の川崎は「これをやっていれば勝てる」というショートパス主体の無敵のチームではないのだ。

 この名古屋戦で川崎は分水嶺に立たされた。公式戦という場を借りて修行を続けていくのか、それとも異なる方法を取るのか。ここからの鬼木監督の舵取りには注目したい。

試合結果
2019/8/10
J1 第22節
名古屋グランパス 3-0 川崎フロンターレ
豊田スタジアム
【得点者】
名古屋: 11′ 18′ 和泉竜司, 64′ 前田直輝
主審:笠原寛貴

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