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「最重要課題は終盤の失点にあらず」~2019.6.30 J1 第17節 ジュビロ磐田×川崎フロンターレ レビュー

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目次

【前半】-(1)
あべこべな左、理に適っている右

 ボールを持ちたそうな両チーム。しかし意外や意外、試合は長いボールの蹴りあいでスタート。プレーのつながりがあまり見られない立ち上がりとなった。特に2トップ→1トップに変更した川崎がガンガン前に蹴りこむのが割と不思議だった。SBはプレスの逃がしどころになりそうだし、いつものようにCHが1枚落ちればビルドアップの枚数で優位に立てるような気がするが、ゴールキックすらロングボールを蹴りこむ徹底ぶりだった。磐田のインサイドハーフのプレッシングの出足が良く、一度プレスにつかまりかけたからだろうか。

 磐田のビルドアップは3バックとアンカーを軸に。川崎のプレス隊は小林+脇坂の2トップ気味。数的には追いにくい感じである。プレビューにも書いた通り、磐田は最後の局面においてポジションを変えながら攻めに来る傾向がある。ポジションチェンジによる前進は、組み立ての低い位置で行いつつ、前の選手たちに得意な位置で強みが出るように設計されているパターンが多いのだが、磐田はイメージで言うと逆。後ろは定点、前は可変という感じ。そのため、ポジションチェンジで川崎を惑わすことはできる。しかし、9分のシーンのように肝心のロドリゲスが外に流れてしまって、PA付近で仕事ができないぜ!という場面もあった。

 図のシーンで言うと、松本があの位置のつなぎに顔を出すのは川崎としては対応しづらくとても有効だとは思うのだが、結果としてロドリゲスが外で仕掛ける!という状況が効果てきめんかと言われるととても微妙な感じであった。磐田の強みを考えると、ロドリゲスにはエリア付近の仕事に集中させたいはず。それを導くためのポジションチェンジが設計されていればいいのだろうが、ポジションチェンジをした結果がロドリゲスが外に張るというのはそれでいいの!?という感じだった。FWがサイドに流れた時にPA内の枚数はそろっているけど、迫力は・・・みたいな。

 そのため、左サイドの攻撃は相手を押し込めるものの、エリアから遠い位置の強引なシュートが目立っていく磐田。そのため、シュート本数は増えるけど・・・チャンスはスタッツほど構築できていない印象だった。

 その代わり、右サイドの磐田の攻撃は川崎に対して非常に効果があった。WB、RCB、インサイドハーフの3枚がポジションチェンジを繰り返しながら、川崎の守備陣に狙いを絞らせない。攻守に好調だった長谷川と登里だったが、この試合では非保持において後手に回り、マークする人や位置を見失って右往左往していた。磐田の右サイドの攻撃をけん引していたのは久しぶりの先発出場となった荒木。アダイウトンやロドリゲスが中央での仕事に集中できるだけでなく、突破力や斜めの楔をFWに打ち込むことで右サイドから中央への攻撃を援護射撃していた。

 川崎サイドの人間として一番脅威に感じたのは、川崎のCHをポジションチェンジで移動させてからのミドルシュート。FW2人が中央に鎮座すると川崎のCB2枚はピン止めされるため、ヘルプには出ていきにくい。パンチ力のあるミドルを放てる磐田の中盤の強みを活かせた定点攻撃だったと思う。というわけで磐田の右サイド攻撃はかなりうまくいっていたと思う。点は決まらなかったけどね!

【前半】-(2)
川崎の右が機能した理由

 10分を過ぎたころからボールを落ち着いて持てる時間が増えてきた川崎。磐田のブロックは5-3-1-1というべきか、5-4-1というべきか微妙なところ。なんとなく中盤のブロックは右寄りになっているように思うが、ロドリゲスに左サイドの撤退守備を命じているかは微妙。時間が経つと割と5-4-1っぽくなっていっていた。磐田は人に食いつく守備は悪くなかったが、ブロックは間がスカスカ。川崎はこの日トップ下に脇坂を起用して、2トップ採用時よりも列移動多めだったのだが、あまりその動きについていくこともなかった。どこを締めるかの共通認識がそろっておらず、川崎はうまく間を使えるようになっていた。

 磐田はボールホルダーにあまりプレッシャーをかけないのも特徴。そのため、ボールロストの危険性が低い川崎は強気の配置を行うことが可能。車屋が普段より高い位置を取れたのも、ロストの危険性が低いことが関連しているのではないだろうか。そのため、最近機能不全だった川崎の右サイドはこの試合では機能していた。大外から裏に抜けた車屋のクロスがアシストにつながる。磐田としては中の枚数はそろっていたものの、高橋が滑ってしまったことが痛恨。

 ただ、大外からの突破自体は直前にも逆側から長谷川に裏を取られてネットを揺らされているので、再現性はあった感じ。オフサイドで取り消されたが、実際にはオフサイドはなく完璧に破られてしまった。5バックなのに大外を両側から破られてしまっているのは磐田側の大いなる反省内容である。大外が釣りだされた後にニアサイドのハーフスペースががら空きなのも問題である。

 失点後はロドリゲスがやや低い位置まで守備に戻るようになっていた。サイドの守備の手当てだろうか。

 試合は1-0で川崎リードで前半折り返しを迎える。

【後半】
決着は早々に

 後半も前半の終盤とほぼ同じ流れでスタートする。ボールを持っている方はそれなりに攻め手を見いだせる仕組みになっていた。先にチャンスを掴んだのは磐田。しかし、荒木のところで川崎がカット。返す刀で発動したカウンター。長谷川の裏抜けをスイッチに最後は脇坂が決めて2点目である。裏抜けした長谷川のカットイン。磐田は空いているハーフスペースを誰が塞ごうか決まっていないため、わらわらと周りの人が集まってきた結果、より重要なバイタルを空けてしまうのは切ない。磐田の前半からの懸念ポイントが得点に結びついた印象だ。そして、そこを見逃さずに入っていた脇坂はさすがである。

 思ったよりも早く針が振れてしまった後半。2枚替えで流れを変えようとする名波監督。ちなみに、流れを変えるほど内容は悪かったかは微妙なところ。川崎の定点攻撃が磐田のブロックを上回っていたのと同様に、磐田の定点攻撃も川崎のブロックを上回るパターンは多かった。高い位置で絞ったWBや、ハーフスペースに降りてくるFWに対しては川崎はあまり策を持っている感じはしなかったので、放っておいても点が入りそうだった気もしないでもない。大外からのカットインで、ポストにぶち当たるミドルを放った後に交代を命じられた荒木の姿はちょっと切なかった。

    試合が終盤に差し掛かっても展開は同じ。押し込めるけど、決め手に欠く磐田。ボール保持と時々カウンターで許される川崎。時間が経つにつれ、2トップを封殺した谷口とジェジエウコンビは今日も強力だった。磐田は交代で入ったエレンがプレースキックの機会を多く得ていたので、ここがもっとズバズバ刺さればなぁという感じ。

    試合はその後、1点ずつとって終わる。知念のポストを起点に一瞬の切れ味でビューティフルなゴールを決める川崎。終了間際に上原が意地の一発を叩き込んだ磐田。死なば諸共でかかってきていたので、エリア内の人数が多かったのは仕方ないけど、川崎の左サイドを磐田に破られるくだりはこの試合で再現性を持ってガンガンやられていたところなので、要改善事項である。

まとめ

できていたところ、できてなかったところ

    磐田は監督交代である。フロントとしては望んでいない人事だろう。というわけでほぼ体制は継続である。試合に関しては、ここでこの川崎を引いてしまうのね!という感はあった。ここ数試合、もう1点を決めておく決定力不足に嘆いていた川崎が、この日は少ないチャンスを冷静に決めていた。この試合の川崎の勝因を1つ挙げろと言われたら、決定力だ。磐田の攻撃に関しても、一部理にかなっている部分はあった。95分まで点は入らなかったけど。

    しかしながら、失点シーンは磐田の守備の懸念点を突かれたものであり、特に魔法の杖が振られたようなものではない。この日の磐田には川崎に勝つチャンスはあったとは思うが、負けたことにも確固たる理由があるのもまた事実である。監督が代わってこの弱点を立て直せるのかは気になるところ。一方で、ピッチ内がこの内容でもチームが目標を持って前を向いていたのは、ひとえに名波さんの人心掌握術があったことが大きいと思うので、その点は名波後の磐田の気になるところ。早々に結果を出さないと、大脱走を招く危険性も否定できないはずだ。ひとまず、名波さんお疲れ様でした。

非保持の後手が気になる

    川崎側として一言でこの試合の感想を言うと「今まで勝てなかった試合で見られた、決定機を逸するシーンがなかったから勝てた試合」となるだろうか。キャリアハイのゴール数を記録している知念も、今季は波がある小林もなんだかんだゴールを積み重ねている感があり、FW陣が点を取れば勝てる!という今季お馴染みのフロンターレだった。

    一方でファンの多くが望んでいた2トップ→1トップへの変更と、脇坂の起用はどうだったか。本人自身は結果を出したし、ボール回しもいくらかはスムーズになった感はあったが、決定機の増加に特別な効果があったか?と書かれると微妙なところ。脇坂自身は好調を維持している感じはあったので、中央の前2枚は2トップと1トップ+トップ下を相手を見ながら併用する形がベターではないかと感じた。主にズレが必要な試合で脇坂は重宝しそう。例えば、次の多摩川クラシコとか。

     ただ、この試合で一番気になったのは磐田のボール保持に対する川崎の対応。うちに絞るWBをはじめとして4-4ブロックの間を磐田にとられ続けた。リーグ最少失点なので、あんまり気にする必要はないのかもしれないが、ポジションチェンジ→ハーフスペース侵入から先の攻撃がより設計されているチーム相手なら、より多くの失点を喫していた可能性は否めない。磐田のこのポジションの変え方はこの試合特有のものではなく、今季頭から取り組まれていたもの。すなわちもっと対策が準備できた部分だということだ。それに対してこれだけ後手に回るのは大きな不安と言っていい。

    ボール保持においては車屋が高い位置を取ったことで、右サイドの攻撃性能が高まった感じはあったが、よりボールホルダーにプレッシャーがかけてくる相手でも同じようなことができるかどうか。右サイドの課題解決を喜ぶのはまだ早い印象を受けた。

    それでもシーズン折り返しは2位ターン。16試合で勝ち点は31と去年とほぼ同じペース。ACLで敗退したことの悔しさは底知れないが、なんとか国内ではタイトルへの挑戦権を維持したまま。課題はたくさんあるけども、勝ったことを喜ばないのはまた別の話。勝ちながら課題改善に取り組める状況はとても幸せ。特にこの試合はそのことを強く噛みしめる試合だった。

試合結果
2019/6/30
J1 第17節
ジュビロ磐田 1-3 川崎フロンターレ
【得点者】
磐田: 95′ 上原力也
川崎: 29′ 小林悠, 50′ 脇坂泰斗, 90′ 知念慶
ヤマハスタジアム
主審:松尾一

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