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「SBで描く『静』と『動』のコントラスト」~2019.5.26 J1 第13節 大分トリニータ×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
背伸びじゃないビルドアップ

 同じボールを保持するチームでも、前節の相手である名古屋とは異なり、ピッチを広く使う大分のビルドアップ。この日はCBの庄司と鈴木が大きく開く。右は岩田が前方に押しあがり、松本はさらに高い位置へ。2人でハーフスペースと大外のすみわけの縦関係である。左は幅取りはWBの高畑が担当。

 立ち上がりは両CHが縦関係になりつつ、片方が庄司と鈴木の間に落ちる。高木は高い位置を取り菱形を形成する。

 少し時間が経つとCHが横並びになり五角形になる形も。脇坂とダミアンが前から追いかけまわしてる以上は出ていかなくてはいけない川崎のCH。守田が出ていくことが多くなると思いきや、この日は大島も前に出て追いかけることが多かった。とりあえず出て行くのはどちらか1人だけ。というわけで川崎の中盤中央から人を引っ張りだすことに成功した大分。こうなれば藤本がロングボールでジェジエウに競り勝てなくても、それに備えてセカンドボールを狙うことができる。

 ワイドのCBに脇坂とダミアンのチェックが間に合わないときは、家長が出ていったりするのだが、そうなると今度はWBの高畑が空く。家長はあけたマークに対して、マギーニョが上げきれず、対応が遅れることは結構あった。家長が勝手に出ていってるのか、マギーニョが遅れているのかはわからないけど、鬼木さんのコメントを見ると出ていくのはリスクをかける行為っていうのは承知だったっぽい。

 プレビューでも触れたけど、大分が本来ボールを進めたいのはよりビルドアップで安定感のある右から。鈴木で長谷川竜也をピン止めして、登里は松本と岩田をどうしたらいいねん!状態にしたかったのかもしれないが、長谷川は結構出ていくのを我慢。登里も内に絞ったり迎え撃ったり我慢したり各方面に気を遣いながらプレーして、何とか大分のストロングサイドに対抗していた。清水戦での大分は松本から前線裏に蹴りこむことが多かったけど、川崎戦では松本自体が裏抜けの受け手となって押し下げたスペースを岩田が使う!みたいなパターンが多かった。

 まとめると川崎のプレス隊を自陣に引き込みつつ、高木を中心に空いているところからビルドアップを進めればいいやん!っていう感じの大分。川崎は前からのプレスでお付き合いをするものの、登里と長谷川が粘りつつ大分のストロングサイドは封じとくよ!って感じだった。

 大分のビルドアップは「ボール保持を絶対やるんだ!そのためにはミスも仕方ない!」っていう無理している感もなく、「ああこれならゆったり後ろでボール持っていいよね。」って思えて好感度は高かった。ほかのポゼッション型のチームのチャレンジのフェーズがだめって言ってるんじゃないですよ。大分はすでにそのフェーズは抜けたのかなっていう。ここまでJ1でも問題なくやれているし。

【前半】-(2)
「動かない登里」は自信の表れ

 川崎のボール保持も大分と同じく安定していた。ボールの取りどころを定めるのが難しかったのは両チームとも同じ。川崎のビルドアップは最終ラインにCB2人+落ちたCHの3枚。この日はCBの間だけでなくサイドにも落ちていた。2列目からビルドアップの手伝いにやってきたのは脇坂。落ちないCHとFWの背後にポジションを取り、3-2のような形で前進を狙う。

 右サイドバックのマギーニョは高い位置をとってビルドアップには不参加パターンが多かった。左の登里は普段からビルドアップの貢献度は高いが、大分はこの試合では松本に登里を前から抑える役割を与えていた。おそらく奪い取った後にカウンターに出やすい位置にいてほしい部分もあったはず。そのため4-4-2っぽいミドルプレスで構えるシーンが多かった。登里は無理にマークを振り払うために動き回ったりは特にせず。中盤は数的優位だし、自分が松本とのマッチアップを受け入れても、味方が中央で攻略してくれる自信があったのかもしれない。ビルドアップ隊のうちの1人がパス交換からCHの背後に抜け出してボールを受ければチャンスになる。

 どうやらプレスをかけ続けても、ボールをとるのは難しいと感じた大分は1stプレスラインを下げることに。それを見た鬼木監督は9分に脇坂にビルドアップで列を降りないように指示を出している。狙いは大分のCHの背後の受け手を増やすこと。そうなると、今度は川崎のSHが絞りながら受け手としての役割を果たすことに。

 ハーフスペースに移動する長谷川にはついていく選手はあまりおらず。ここでも無理に動かない登里が松本をホールドしていたことが地味に効いていた。自分が動かなくても、長谷川が前向ければ運べるからいいでしょ的な。逆サイドの家長がハーフスペースに移動する動きに小塚が絞って対応すれば、今度はマギーニョがフリーになるので、ここから前進すればよい!という感じで、川崎もいくつかの選択肢の中から空いてるところを選びつつ、ボールを前に進めていった。

 両チームともボールは前に進められる。そこから、まずはともにリスクの少ない裏へのボールを選択する傾向が強かったが、なかなか精度が足りない。どうやらブロック崩しという問題に取り組まなきゃいけないようである。両チームともこの問題の答えをサイドに求めたようだ。

 序盤は共にノッキング気味だったサイド攻撃。飲水タイムを挟んで先にチャンスを掴んだのは大分だった。長谷川のサイドチェンジを受けた左サイドの高畑が対面するマギーニョを尻目に巧みなクロスから決定機。流れで波状攻撃を見せるが、これは得点にはつながらず。直後にはオーバーロード気味の右サイドを岩田が抜け出してボールを受けるシーンもあった。

 しかし、得点を決めたのは川崎。狙い通りCHの背後で受けた脇坂からの展開。このシーンではそのまま前線に駆け上がったのもポイントが高い。長谷川の山なりのクロスをゴールに叩きこんだのは走りこんできたマギーニョ。直前に決定機を作られてしまった高畑を出し抜いてのゴールなので、してやったりだろう。正直、マギーニョはこの試合では危うい部分もあったけど、結果が出てよかった。

 ボールをまったり持っても良くなった川崎。大分もなんとかサイドをこじ開けたいところだが、中央には谷口とジェジエウの壁。得点はままならず、試合は川崎のリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
サイド交換の狙い、サイドの手当ての狙い

 高畑に代えて川崎キラーと名高い高山薫を投入した大分。高山は川崎相手に6ゴールを決めており、2番目に多い富山の3ゴールにダブルスコアをつけるほどぶっちぎりのカモである。苗字は素敵なんだけどね。

 素直にWBを手当てをしてきたかと思いきや、松本を左に移動させた片野坂監督。松本と岩田のストロングコンビを解消してまで狙うのは、ちぐはぐな対応が散見された川崎の右サイドだろう。松本の移動に伴い結成された小塚とのコンビも良好。絞る小塚に、張る松本。マギーニョはどっちに付けばいいか迷ったことだろう。スピードはあるけど、出ていく出ていかないの判断に怪しさはあったマギーニョであった。ちなみに右に入った高山は特に登里に前からフタをする素振りはなかったので、大分は非保持時には素直な5-2-3のような陣形になっていた。

 大分の攻撃時の狙いは右サイドの裏を狙った先にあったのかもしれない。大分が苦戦したのはサイドをこじ開けかけた後に立ちはだかるCBコンビ。とりわけ、ジェジエウは厄介だったはず。ビルドアップでは大分の狙い目だったジェジエウも、大分の攻撃時においてはまさに壁と化していた。なので、ひとまずジェジエウをサイドに引っ張り出したい思いはあったはず。

 ジェジエウを引っ張りだせる場面はたびたび作れていたものの、出ていったら出ていったで何とかしてしまうジェジエウ。この試合のマンオブザマッチを俺が選んでいいのなら、彼で決まりである。マギーニョものカバーリングもばっちり。大島も徐々に絞る小塚に気を遣い始めて、マギーニョを松本に専念できるように誘導。サイドはこじ開けかけるけど、そこから先には進めない大分である。中央に高さがないのも痛い。

 川崎は逆にダミアンという中央のわかりやすい強みを生かしながらゴールに迫る場面を増やす。とはいえ、なんとなく大分にサイドを突っつかれている感じはあるので、対応はしたほうがいいかな?という感じ。ダミアン→知念の交代の直後にマギーニョ→車屋という交代を実施した。

 さらっと右サイドに入る車屋。特に右用に魔改造されている感じもなく、左サイドバックの選手が右サイドバックをやっているという当たり前の感想しか持てなかったのだが、個人的には悪くない交代だと思った。

 今季右サイドバックとしてプレーしていた鈴木ではなく車屋を起用した理由としては、考えられることがいくつかある。1つは大分がWBの高さのミスマッチを突いたアプローチをしてなかったこと。もう1つは、あくまでジェジエウを引っ張り出さないための交代であるということ。前に強いが、ポジションを飛び出しがちな鈴木よりも、ポジションを守れる車屋でジェジエウを中央に専念できるようプロテクトしようと考えたのではないか。

 ボール保持においても、逆サイドということでぎこちなさはあるものの、選ぶプレーのリスクは低め。果敢な飛び出しを見せて先制点を奪ったマギーニョから、セーフティに終わらせるための車屋ということではないか。動き回るSBで得点を奪い、カギをかけることができるSBへ。前半から黒子として輝いた登里と共に、静かながらも黙々と仕事をこなした車屋で川崎はゲームクローズに。

 ティティパン、後藤と続々と攻撃的な色を強める交代を見せる大分だったが、試合を落ち着かせた川崎を最後までこじ開けることはできず。逃げ切り成功した川崎が上位対決を制して2位浮上だ。

まとめ

 快進撃のベースになっている攻守の骨格の強さは垣間見えた大分。ボール保持の局面における落ち着きは昇格組っぽくなく、むしろふてぶてしさを感じるくらいだ。この試合での物足りない部分は理不尽さだろうか。優れたゴールゲッターである藤本にしても、理に適ったゴールが多い印象。終点が決まっている攻撃を逆算して抑えられると少し厳しいなと。サイドか中央、せめてどちらかに戦術兵器はほしいかもと思った。昇格組にそこまで求めるのか!っていうととても難しいところだけど。ただ、片野坂監督のキャラクターも選手もピッチの上でのサッカーも個人的にはとても好感が持てた。今後も追いかけたくなるチームだった。ここから上位対決が続く。真価が問われそうだ。

 まず、この試合の勝利を手繰り寄せたのは鬼木監督の手腕であることには触れておきたい。脇坂に高い位置で受けるよう指示したことが先制点につながっているし、どうかな?と思ったマギーニョの先発も当たり。「動」のマギーニョを下げて「静」の車屋でクローズするのも、本文中で述べたように優れた判断だったと思う。相手の狙いどころを定めてそこを突き、こちらの狙われポイントに対処して修正を施す。当たり前のことだが、この試合ではその流れがとても的確だったように思える。

 この采配を下支えするのは春先からプレータイムを増やしている選手たち。ダミアン、長谷川、登里、脇坂、ジェジエウ等はチームの中でそれぞれの個性を発揮するようになってきた。ジェジエウはMOM級の活躍だし、ダミアンは中央で起点として流れの中の攻撃でも機能、脇坂は得点に絡める動きを繰り返しながら狭いスペースでも前を向くスキルを見せた。長谷川と登里は攻撃もさることながら、守備でも大分のストロングサイドを抑えた。彼らが重用されるようになってきたのがよくわかる試合だった。ここに遅れてやってきたマギーニョのような新戦力、そしてコンディションがここまで整わなかったベテランたちがどう絡むのか。この日は大人の顔を見せて勝利をつかんだ川崎。次に彼らが見せるのはどんな顔だろうか。

試合結果
2019/5/26
J1 第13節
大分トリニータ 0-1 川崎フロンターレ
【得点者】
川崎: 28′ マギーニョ
昭和電工ドーム大分
主審: 笠原寛貴

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