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「幸運は一度だけ」~2019.5.5 プレミアリーグ 第37節 アーセナル×ブライトン レビュー

前節のレビューはこちら。

前回のブライトンのレビューはこちら。

スタメンはこちら。

目次

【前半】
ローラインでの圧縮に伴うリスク

 ブライトンのアプローチはおよそ4か月前にアメックス・スタジアムで対戦した時とほぼ同じもの。4-5-1でブロックを組み、MF-DF間にボールを入れさせないように圧縮をかける。一般的に圧縮をかけるというと、DFラインを上げてブロックの重心を維持しながら行うことが多い。しかし、ブライトンはMFのラインを後方に移動しながら、すなわち重心を下げながらMF-DF間の圧縮を行う。

 裏を取られるリスクは減る代わりに、カウンターに向かうには距離があるという欠点があるこのスライド。そしてもう1つの欠点は何か事故が起きた時のリスクが大きいこと。プレーエリアとしては自陣PA内が多くなるので、こぼれ球がアーセナルの選手の前にやってきて決定機!という可能性もあるし、ピンボールのように跳ねたボールが手に当たれば即PK。実際に8分に起きたジャハンバクシュのモンレアルの微妙なチャレンジがPKと判断されたのも、事故の一種ともいえるだろう。2ライン間へ侵入したモンレアルに対して、後方からアプローチする形になったジャハンバクシュのプレーに、アンソニー・テイラーはPKスポットを指す。今季20ゴール目となるPKを決めたオーバメヤンがアーセナルに先制点をもたらした。

 アーセナルは現地の予想フォーメーションとは異なり、ボール保持時は上図のように、ジャカをアンカーっぽく配置。トレイラ、ムヒタリアン、エジルはやや前方に位置する中盤ダイヤモンドの4-4-2のような形のフォーメーションだった。前回の対戦時のレビューでは「ボールがDF-MF間に入る頻度が少なく、前をなかなか向けず、サイドに展開するもSBのクオリティが足りず、そこがボトルネックになり、得点を奪うのに苦労した。」という風にアーセナルのボール保持時の戦いについて書いた。

 そのため、おそらくMF-DF間の受け手を増やすための中盤ダイヤモンド型。しかしながら配置的にサイドの崩しはSBへの負担が大きくなる形。この試合のRSBはリヒトシュタイナー。アメックス・スタジアムでのブライトン戦でもRSBを務めたベテランは、およそ2か月半ぶりのリーグ戦出場。サイドの崩しを一手に引き受けるわけでもないし、かつてと違い上下動を繰り返しまくれるわけでもない。左のモンレアルもPKを奪取したとはいえ、前に空いているスペースをコラシナツほど有効には使えないはず。というわけでこの試合はサイドに頼りすぎず、DF-MF間に位置する選手の人口密度の高さを利用しながら、中央で崩し切りフィニッシュに向かうことが命題となるアーセナルであった。

 体感での話になって申し訳ないが、DF-MF間への侵入がかなり頻度が少なかった前回の対戦に比べれば、今回の方が攻め込む迫力はまだ見られた方だと思う。比較的オープンで持てるジャカがスイッチとなる縦パスを入れる役ができていたし、ムヒタリアンはやや調子を戻した印象。狭いスペースで受けるのがうまいラカゼットとエジルも健在で選択肢が少ないながらも前を向く場面はわずかにはあった。その分不安定だったのは後方のビルドアップ。ややボールを持つのを嫌がっているように見受けられる節もあった最終ライン。その最終ラインの姿勢がレノの強引なパス選択からミスを読んでいるように見えた。25分のレノのミスパスは、ソクラティスの時限爆弾式パスもかなりの責任がある。

 ちなみにこの段階ではアーセナルはいろんな意味で追加点が欲しい状況。勝ちを確実にしておきたいというのもそうだし、次節のターフムーアで最少得点差での勝利で4位を確保するためには3点差が必要。

 というわけでまだまだ攻めたいアーセナル。しかし、ブライトンもボールを保持した時は3センターの脇からSBとSHの縦関係で簡単に前に進める。SBのリヒトシュタイナーは非保持の局面においても厳しい対応を迫られることになった。むしろそこからカウンターで殴り返す。というチャンスの作り方が多くなるアーセナル。アーセナルのボール保持は大外をベースにサイドから最終ライン裏を狙うけど、最後のところでブライトンの壁に跳ね返される場面も目立つように。なかなか定点攻撃からはチャンスが作れないアーセナル。逆に押し返す機会を得るものの、そこから先の精度にかけるブライトン。それぞれの問題を抱えたまま試合は1-0でアーセナルリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
そこにジルーはいないのに

 ブライトンがジャハンバクシュに代えてクノッカールを投入したこと以外は大きな変化のない後半立ち上がりだった。強いて変わったことといえば、若干上下動が増えていく展開くらい。アーセナルはできれば3点が欲しいし、ブライトンはビハインドの上に選手交代を実施している。互いに積極的な攻撃に出る理由はある。カウンターに出るブライトンはもちろん、アーセナルもブロックを組まれる前に攻撃すべく、連携で打開を試みる。

 変わらない展開を変えてしまったのは、前半と同じくペナルティ判定。ただし、今度PKのチャンスを得たのはブライトンの方。ムヒタリアンとリヒトシュタイナーの連係ミスからカウンターを許すと、最後はカバーニ出てきたジャカが手をかけてファウル。つらいパスミスが起点となったシーンだが、ジャカにはなんとかエリア外で食い止めてほしかった。そらPKじゃい。

 「あわよくば3点!」という目標はあくまで勝利という前提に基づいた2次的な目標である。というわけで非常に焦りだすアーセナル。失点後もロストの温床になっていたリヒトシュタイナーに代わる選手はおらず、サイドのクオリティの問題は解決できず。ブライトンに対して相手を引き出すようなアプローチもできないので、相手を押し込みながら再び幸運を待つ!という形になったアーセナル。ブライトンは重心が低いので、完璧にデザインされた崩しはなかなかやりづらいところ。73分のオーバメヤンのシュートもリフレクションの賜物。間に入っていったムヒタリアンは悪くなかったけど。こういう展開で頼りになるはずだったジルーはもういない。ジルー1試合でいいから貸してくれって思った試合である。

 前半のPKと違って幸運を手繰り寄せられないアーセナル。イウォビをRSB、ゲンドゥージをCH、コラシナツをLSHに配置する気合の3枚替えを敢行するけど、ちょっとこの交代はなんとも。同じメンバーでも普通にイウォビとコラシナツを左サイドでユニットで使ったほうが効果的だと思ったけど。どこかの試合でイウォビをLSBで使って勝ち越した試合があったから、その成功体験だろうか。それでもRSBはちょっと突拍子だなと思った。84分の決定機もクロスのマーク外すなよ!ってちょっとさすがにイウォビに言いにくいでしょ。

 どうせイウォビをSBで使うなら、サイドの攻略に厚みは持たせてほしかった。基本サイドは人数をかけないで単騎突破からのクロス勝負!っていうのはブライトンの攻略法としてマッチしないと思う。俺の知らない間にジルーが投入されているのかと思った。高さのないアーセナルにとってちょっとアクシデント待ちな戦い方かなと。せめて交代カードを左に集結させて、左サイドからガンガン崩してほしかったかなぁ。それでも無理だったかもしれないけど。

 試合はそのまま1-1で終了。アーセナルはCL出場権獲得の望みを絶たれるドローとなった。

まとめ

 アーセナルに2戦連続で勝利を許さなかったブライトン。トップ6相手のアウェイゲームは12回目で初めての勝ち点獲得となった。
 すでに残留を決めているので、来季をどう戦うか?の部分を考えた場合、やはりDF-MF間の圧縮を後方にズルズル下がるというアプローチは改善した方がよさそう。エリア内でダンクとダフィーという強靭なCBがいるので、それでも守れてはいるものの、懸念なのは得点面。カウンター時に前線までの距離が長くなってしまうのはいただけない。カウンターの破壊力は残念ながらプレミア内ではあまりない方なので、なるべく高い位置で食い止めつつ相手のミスを誘い、手早く仕留めていくスタイルを身に着けたいところ。この試合のPKみたいにSHが相手のSBをエリア内で迎え撃つ!っていうやりかただと、事故が起きた時の代償はかなり大きいので。ミドルゾーンの5人が絶対止めるんだぜ!って気合でライン維持を頑張る方がよかったかもしれない。バックスのスピードがないのかもしれないけど。もう少しライン下げるのは我慢したい。降格圏のチームとほぼ変わらない得点数の改善が来季は必須なはず。12ゴールを挙げてチームを牽引しているマレー以外のストライカーの奮起もほしいところだ。

 これでリーグ戦4位以内からのCL出場はほぼ不可能になったアーセナル。直近のリーグ戦での成績を見ればそれも受け入れざるを得ないだろう。ナポリとのELを制して以降のパフォーマンスは低調の一途。個人連携頼みの攻撃の改善を今季中に期待するのはどだい無理な話で、前線のタレントの能力の高さにすがりながら、なんとかEL制覇を狙うしか道はなくなってしまった。
 今回のブライトンは自陣を固めてくる相手。前方の高さがなく、サイド攻撃の仕上げとなるSBに久しぶりのリヒトシュタイナーが入ったり、ビルドアップに定評があるコシエルニーが不在だったりなど、特にこの日は後方から相手を引き出す動きは期待できない陣容だったといえる。あと、交代カードもイマイチだったというのが個人的な感想。今季中に復帰する負傷者はもう不在。新たに起用できるのは出場停止が明けるナイルズとだましだましプレーを続けるコシエルニーの2人だけ。17位のブライトンを相手に流れの中から得点をとれなかったことは不安材料ではあるが、それでも前線の選手のフィーリングが輝きを放つことを祈るしかもう方策はない。石にかじりついて結果を残せるか、ほかの話はそれからだ。

 最後に一つ。ウェルベック退団のアナウンスの仕方はちょっと。退団する選手を大事にするはずのアーセナルらしくない振る舞いではっきり言って失望した。本人から特別にそういう要望があるなら別だけど・・・。ラムジーとチェフのセレモニーのおまけのように直前に退団がアナウンスされて、あっさり去っていくウェルベックの姿は、不甲斐ないピッチの中よりもさらにアーセナルらしくない淡白なものに私には映った。

試合結果
プレミアリーグ 第37節
アーセナル 1-1 ブライトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 9′ オーバメヤン(PK)
BRY: 61′ マレー(PK)
主審: アンソニー・テイラー 

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