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「違う道をたどり、同じ場所へ」~2019.5.17 J1 第12節 川崎フロンターレ×名古屋グランパス レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
属人性高めの下地でリスク回避

 共にボール保持率が高く、風間監督が指揮経験がある両チームの対戦。ということで同じスタイル同士の対戦!という見出しがたくさんのメディアで使われていそう。個人的にはこの試合の両チームのアプローチは似ている部分もそうでない部分もあったという感想である。まぁそれは順を追って。

 立ち上がりの両チームの攻め筋はあまり似ていなかった。ボール保持の時間が多かったのは名古屋の方。名古屋のボール保持時のキーマンはジョー。彼にどれくらい高い位置で起点になってもらうかが名古屋にとって非常に大事なポイントである。川崎のイメージで行くと「ボールは誰が持ってもスイッチはある程度入れられなくちゃ」っていう感じなんだけど、名古屋はそこは限定的というかその役割を任命された人は割と多くはなかった。シミッチと丸山頑張って!っていう。ショートパスで揺さぶって崩す!というよりはパス交換で横に揺さぶりつつ、一気にスイッチを入れる。ジョーへの楔をキーに全体が押し上げて、彼の落としを受けられるように準備。主にその役割はシャビエルやアーリアが担うことが多い。結果的にシャビエルが前を向いてボールを持てたら最高。後方からは米本も援護射撃!みたいな。

 狭い局面でのパス交換とかドリブラーが有効なのはここから先の局面であることが多かった。空いているマテウスでボール運ぼうぜ!もなくはないけど。密集での技術の向上は風間さんにおいてとかく求められる印象はあるけど、川崎においてはそれは土台の部分に使われることが多かった気がする。名古屋は土台の部分はより属人性は強めで、むしろ「最終局面においてその技術使いましょう。その方が仮にミスってもリスク少ないよね?」っていう風にシフトチェンジしているように見えた。うまいをゴールに結びつけること、より意識されてそう。ここまで色々あったんだと思うけど、少なくとも今の風間さんは理想を追い求めつつ、ソリューションはとても現実的だと思う。金でしっかり殴れる!みたいな。

 その名古屋のボール保持に対して、川崎は4-4-2ブロックで対応。シミッチが最終ラインに落ちることが多い名古屋は、川崎の前プレ隊とは3対2で数的優位。

 川崎は4-4-2で組む時は、いつも3枚目の前プレ隊としてSHが出ていくことが多いが、この試合のSHは4-4-2ブロック維持を優先する局面が多かった。ボールを落ち着かせに宮原が降りてくるときには、長谷川竜也が前に出ていくこともあったけど。サイドからボールを運ばれるのはとにかく勘弁!っていう意識が強かったのかもしれない。川崎のSBは名古屋のSHに蓋をする意識は強かった。特に登里は。

 憲剛が長谷川にもっと出てけ!みたいなジェスチャーをしてる場面もあったので、これが狙い通りかはわからない。中村憲剛のプレスをスイッチに、徐々にいい体勢で持てない名古屋の選手を囲い込むようなチェイシングの時は長谷川も前に出ていってたけどね。長谷川の代わりに前に出ていく機会が多かったのは田中碧。中央で起点を作るべく降りてくる相手選手をつぶす役割を担っていたのだろう。いつもと同じように見える4-4-2ブロックでも、若干いつもと違う意識が垣間見えた川崎のボール非保持である。

【前半】-(2)
川崎の攻め筋

 名古屋のボール保持は押し上げた後の勢いそのままに、密集を利用したゲーゲンプレスを敢行することで、相手陣でのプレータイムを増やしていこうという狙いだった。名古屋はボール非保持においてもミドルゾーンで縦をコンパクトにしながらサイドに追い込んで、そこから圧をかけていく。ただ、スペースをケアしたまま突撃できていたか?といわれると微妙なところで、ゾーンの切れ目に入ってくる川崎の選手はケアしきれない!っていうシーンもあった。

 阿部や憲剛、登里というコンディションに不安がある選手を使ってきたのは、おそらくこの間で受けるスキルがチームの中でも傑出しているからだろう。最近の出来を見ると齋藤や脇坂がスタートからどこまでできていたかは気になるところだけど。

 前者の2人は確かにボールタッチこそままならなかたけど、名古屋のプレスの泣き所である両CHの裏のスペースでボールを受けることが意識できていたし、10分の登里のハーフスペース侵入とか、「これぞ登里を使う意味!」って感じ。名古屋の片側圧縮という困難に対して、川崎はズレたあとのCHの裏を使います!というのが回答だった。

 序盤は名古屋ペースだったこの試合だが、前半の中盤にゲームを取り返してから30分すぎくらいまでは、名古屋のプレスを回避するパスワークで川崎がペースを握っていた。しかし、大島のパスをアーリアがインターセプトしたプレーあたりから、名古屋が再度ボールをひっかけてカウンターに向かうシーンが増える。しかし、こちらもシュートシーンまで行けず。試合としては一進一退の攻防が続く。

 相手のブロックを崩せない両チーム。崩しで詰まったときに頼りになるのはCBがボール保持でどういう仕事ができるかである。川崎は谷口の楔をスイッチに攻撃の活性化を狙う。しかし、CBを起点に得点まで結びつけたのは名古屋の方だ。FKからのリスタートでジョーに直接当てた丸山のフィードが、マテウスのスーパーボレーを呼び込むことになる。ジョーの落としもさすがだが、どちらかというとここまで流れの中ではほぼいい形で絡めなかったマテウスが試合を動かしたのはおもしろい。

 しかし、こういうつばぜり合いの末に膠着した試合を動かすのはセットプレーやスーパープレーであることが多い気がする。根拠はないけどね!

 試合は名古屋のリードで前半を終える。

【後半】
流れに逆らわない川崎

 比較的スーパーなプレーで点を取られたので仕方ない!という見方もあるかもしれないが、川崎は徐々に手詰まりになり一進一退の攻防の中で先手を取られたわけで、そう考えると結構やばめな状況ではある。

 しかし、相手は名古屋。ボール保持時のプレー選択は若干安全な傾向にはなったものの、依然として非保持ではミドルゾーンで奪回を目指すし、カウンターになれば殴り合い上等!である。前線ならこっちのもんだ!みたいな。

 川崎からするとボール保持の局面で自分たちの時間をどれだけ作れるかは怪しい。そして、ポゼッションする相手に対してのブロック守備はそんなに得意な分野ではない。でも相手はオープンな展開には付き合ってくれそう。ということでよりダイレクトに!とするためのレアンドロ・ダミアン投入である。

 下げたのが田中碧というのは、中村憲剛を残してもう少し時間が経ってよりオープンな展開になったときに、必殺のパスを刺したい!とか、ボール保持の局面において、やや田中碧が中央でノッキング気味だったので、ダミアン入れた時にさらにその傾向が強まるのを嫌ったのかどちらかと推測。もちろんカウンター時に攻めあがれる脚力と、非保持時の守備範囲の広さは失われるんだけども。

 1枚目の交代がダミアンだったのは実は結構興味深い。そして2枚目の交代が齋藤学だったのも興味深い。ちなみにマテウス→和泉の交代でボール保持と守備の安定を図った名古屋の交代はすんごく妥当だった。

 オープンな展開を中村、大島の両司令塔で攻略を狙う川崎。オープンな展開はもってこいの名古屋。64分の丸山→シャビエルのラインブレイクからの決定機をソンリョンが防いだのは、この試合の結果を語るうえで大きなターニングポイントだった。

 オープンな展開対決で先に決定機を掴んだのは名古屋だったが、得点を掴んだのは川崎。コースがない中でのダミアンのズドン!はさすが。最終ラインで相手の個人をなんとかしないといけない系サッカーで相手の質的優位にやられてしまった丸山は、谷口に飲みに誘ってもらったらいい。このゴールは最終ラインからの長いフィード、シュートまでの少ないパス回数など名古屋のゴールとダブるところは結構あった。流れに逆らわず、この試合の展開に強みの出しやすいダミアンの投入が当たった形。

 仕組みというよりは個人の質の入れ替えでゲームの流れを引き寄せよう!というのは、この両チームの対戦らしい。名古屋はそもそもベンチがドリブラー祭りだったので、相馬と前田の投入自体になにかこれだ!という狙いを見出すのは難しいけど、残り10分以上ある中で宮原を下げたのはすごいトーナメントっぽかった。この試合風間さんはどうしても勝ちたいんだなと思えるような采配だった。セットプレーの流れでもないのにエリア内に突っ込んでくる中谷とか見てもそう思った。

 両チームとも知念、ジョーにヘディングでのシュートチャンスはあったものの、共に得点には結びつけられず。

 残念なのは最終盤でダミアンがケガした川崎が再び攻めに打って出れなかったこと。もっと残念なのは彼の続行を監督とメディカルが決めてしまったこと。この試合は大事な一戦だが、優勝を決める試合ではない。試合はまだまだ続くどころか、直後にはACLの突破がかかる大一番が待っているのだ。結果的に豪州遠征には帯同しているようだが、はたから見ても続行の選択には疑問を抱かざるを得ない。

 両チームとも、数少ない決定機から追加点を奪い取ることはできず。試合はそのまま1-1で終了。スタジアムに行った人には特別な夜になったであろう風間監督の二度目の等々力凱旋となった。いけなかったけどね!!

まとめ

新戦力で上乗せ+既存戦力ベースアップ

 攻撃の構築における属人性は否めないものの、組織としての成熟度は昨年と比較して高まっているように見受けられた名古屋。シミッチの加入で個の強化を図ったのもあるし、アーリアの登用で攻撃の最終局面での厚みをもたらしたり、吉田や米本のようなスペースを圧縮した中での対人兵器の獲得は効果が高かった。

 既存の戦力で言うと、丸山のラインコントロールと宮原の対人守備の向上は目についた。守備の安定はいくつか要因がありそう。センターラインは人の入れ替えで質が下がる可能性は否定はできないが、基本的にはこの11人はリーグトップクラスの質であるように見受けられた。

同じ場所に向かう川崎

 いつになく早い采配で同点弾を導いた鬼木監督。交代枠がなくなって負傷選手を代えられなくなってしまったのは仕方ないとして、1枚目に下げる選手が田中でよかったのか?とかいくつか論点はあるものの、手をこまねいて流れを持ってこれなかった直近のACLを考えると、積極采配で勝ち点を引き寄せたのはとてもポジティブ。

 興味深いのは投入選手。名古屋がリードし、ボール保持の時間を増やしていく中で、相手のプレスをもう一度かわすための脇坂という選択肢もあったはず。そんな中でオープンな展開にそぐったダミアンや齋藤を先に入れたというのは面白かった。

 もともと川崎は後ろの質的優位を生かして作った時間を少しずつ前に運んでいくサッカーを志向しているチーム。その時間を運ぶシステムの再構築よりも、後方から一気に前線で相手のDFラインと勝負!という方策を取ったり、そもそもそういう選手がベンチにいるような強化をしているというのは川崎がこれから進む道を示しているのだろうか。

 点が必要になったときのこの試合の川崎のアプローチは、名古屋に似通っている。風間監督の手を離れて3年がたった川崎。一般的には、川崎を追いかける名古屋!みたいな構図だが、この試合に関してはどっちかというと名古屋に川崎が寄っていっているように見受けられた。

 ただ、風間監督も川崎の経験をもって名古屋でこういうサッカーをしている部分もあるはず。風間監督が率いた新旧チームが、違う道筋をたどりながら最終的に同じ場所にたどり着いた。そう感じた試合だった。当然楽しみなのは、ここから先の両チームの進む道である。

試合結果
2019/5/17
J1 第12節
川崎フロンターレ 1-1 名古屋グランパス
【得点者】
川崎: 69′ レアンドロ・ダミアン
名古屋: 45′ マテウス
等々力陸上競技場
主審:西村雄一

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