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「ウルブスとエンケティアの引き立たせ役」~2019.4.24 プレミアリーグ 第31節 ウォルバーハンプトン×アーセナル レビュー

 前節のレビューはこちら。

 前回のウォルバーハンプトンとの対戦のレビューはこちら。

 スタメンはこちら。

目次

【前半】
絞るサイドハーフの功罪

 試合後に待ち受けている悲劇的な結末に比べれば、開始20分の入りは悪くなかったアーセナル。フォーメーションのかみ合わせは4-2-3-1と5-3-2。若干並びは違う部分はあるけど、前節のクリスタルパレス戦と似た構造。しかし、前回と違って今回はアーセナルが4バック。したがって、この日はアーセナルがサイドバックをボールの落ち着けどころとして使う側。

 というわけでウルブスはまず、アーセナルのSBに誰が対応するかを決めなければいけなかった。ウルブスの決断はインサイドハーフのスライド。

 中盤でスライドしながら対応するウルブス。ウルブスのサイドの守備は、若干左右で対応が違った。右サイドはナイルズにボールが入ったときに、トップのジョタがフォローに行くことが多かった。しかし、モンレアルにボールが入ったときはヒメネスがフォローに行くことはあまりなかった。理由はいくつか考えられる。

 例えば
・エジルが落ちやすいサイドが右だから。
・左に入ったときは、ヒメネスはサイドのフォローよりもジャカのカバーを優先したいから。
・モンレアルよりもナイルズ(とソクラティス)を取りどころに設定したいから。
・単にヒメネスを前に置いておきたいだけ。
とかいくつか考えられる。

 いずれにせよ、ボランチを片側に引き寄せられているのは間違いないウルブス。おかげで空いたのは逆サイドのWBの前のスペース。イウォビやムヒタリアンという絞っても働きやすいアーセナルのSHとこの特性はマッチしている。というわけで最終ライン前まではいい形で持って行けるアーセナル。しかしながら、ここからの攻略に若干手を焼いたアーセナル。なぜなら、アーセナルにはワイドに張る選手がいないから。大外をえぐるという意味で最もアーセナルにとって重要なコラシナツはこの日はベンチ。イウォビも外に張ってプレーをすることもあるが、先ほどの図のように逆サイドからフリーでボールを受けた時は、内側に絞るパターンが多い。そのため、ウルブスは簡単に大外を捨てられる。アーセナルはトレイラが攻め上がりで中央を上がったりするが、3センターの戻りが早いことに加えて、最終ラインの中央が締められているため、非常にウルブス後方の中央は狭いことに。なので攻めあがるけど、つっかかるみたいなシーンはかなり多かった。
 最終ライン手前まで攻めあがるまでは、利点につながっていたSHの内側でプレーできるという特性が、最終ライン攻略においてはSHがワイドでプレーできないというボトルネックになっているのは面白かった。いや面白くはないか、攻めれてないんだから。

 そうこうしているうちにウルブスはWBが徐々に前に迎え撃つようになってくる。特にアーセナルの右サイド側に見られた傾向だった。ウルブスの中盤3人は人につくことにこだわるというよりは、スライドしながらスペースを守る意識があったので、エジルとネベスがデート!みたいなこともなかった。ネベス、アンカーでもうまいんだなぁ。

【前半】-(2)
再び課題が顔をのぞかせる

 ウルブスの攻撃の起点もそのネべス。しかしながら全体が押し下がって受けることが多いウルブスが押し返せるシーンは序盤はあまり見られなかった。だからこそのボール奪取を高い位置にしよう!という先ほどのウルブスの修正。それに対してムヒタリアンがワイドに張る機会を増やして、WBをピン止めなどアーセナルの対抗策も面白かった。まぁ決定機にはいけなかったけどね!

 「アーセナルはサイドで幅を使いたいならサイドバックを上げればいいのでは?」ってそれはそうなんだけど、そんなにガンガン一方的に人数をかけて攻められるようならば、ウルブスはそもそもこの順位にいないし、トップ6相手に勝ち点も取れていないのです。レビューを書くという観点だけに立てば、ここからの前半のレビュー書きはとても楽ちん。なぜなら失点シーンを追っかけていれば十分な量になるからね!!!!
 高い位置でボールを奪えればカウンターに転じれるのがウルブスである。片側圧縮はできていたこの日のウルブス。ボールロストの際にオーバーラップしていたナイルズの裏を走り抜けたWBのジョニーが獲得したFKが先制点になる。奪取後のジョタのドリブル、サイドに流れるヒメネスの連携も見事。もちろん、決めたネベスも見事である。

 ここからの前半がひどかったアーセナル。まず、WBへの守備が定まらない。失点したことで守備の意識が前に向いたアーセナル。そのため、前線のプレスを交わされると、ボール奪取と共に前線まで駆け上がるウルブスのWBに対応しなければいけないアーセナルの最終ライン。脚力のあるWBに加えて、2トップがサイドにひっきりなしに流れてくるのでモンレアルやナイルズが「あーじゃあWB抑えておけばいいんですね。」で済む話ではない。この日のアーセナルのあるあるはムヒタリアンのボールロスト、トレイラの無謀なプレスが空振り、ジャカがキャパオーバーの広大なスペースをカバーする羽目にという流れでオーバーフローすることが多かった。

 そんな中で押し込まれる中の2点目。アーセナルのセットプレーの守備の質の低さは前回のレビューで散々指摘した。ショートコーナーからゾーン気味になったアーセナルの守備陣の中で唯一マンマークを続けていたのはソクラティス。前節はムスタフィやジェンキンソンのような個人レベルの拙いミスもあったが、チーム全体として用意されたセットプレーの攻撃に対する守備の対応のクオリティが低いことからは、目を背けられないだろう。というか、前節も普通にこんな感じの場面あったし。あれだけフリーの選手がいれば、レノの無謀な飛び出しも致し方ないところだろう。

 立ち上がりが微妙でも、徐々に盛り返して2-0というリードで前半を折り返すとなれば超上出来だったウルブス。前半はこのままおわらせようぜ!というプレーも目立つようになったところで、最後におまけがついてくることになる。おまけとはいっても失点は非常にロジカルなもの。密集にいるジャカに処理が難しいボールを託すムヒタリアン、よりによって後方にパスミスをするジャカ、一発で抜けられるソクラティス、そして普段の出来ならば止められていたかもしれないレノ。これだけミスが重なれば失点をしない方が難しいというものだ。いやまぁジョタうまかったけどね。大きな「おまけ」をウルブスに与えたアーセナル。非常に重たいビハインドを背負って前半を折り返すことになる。

【後半】
目立ったのはエンケティアと歌声だけ

 「3点ビハインドで迎えたハーフタイムならば、少なくとも1人は選手を代えるのが普通」
 こう考えるあなたは立派なエメリ通である。しかし、この日のハーフタイムに交代がなかったことは、そんなエメリのことをよくわかっているアーセナルファンでも納得せざるを得ないだろう。ラムジー、オーバメヤン、そしてバルセロナに頼み込んで何とかレンタルにこぎつけたはずのスアレスまでもがこの日は不在。攻撃のオプション自体、ベンチにあまり存在していなかったアーセナル。
 ひとまずそのままボール保持から相手を押し込むアーセナル。しかし、相変わらず中央は密集しているし、大外で効く選手がいないことでサイドでも活路を見出すことはできない。前半は前に張ることが多かったジョタももう積極的に上がる必要がなくなったため、ウルブスは非保持は5-4-1にシフトして、サイドも締める作戦に。試合が進むにつれていら立ちを隠さなくなるエジルをよそに、スタンドでは高らかなウルブスファンの歌声が響くばかりだ。

 状況が変わらないことを悟ったエメリが交代を決めたのは後半15分のこと。この日明らかにおかしな出来だったトレイラとムヒタリアンに代えて、コラシナツとゲンドゥージを投入。3バックにシフト。ひとまず、コラシナツ、イウォビ、モンレアルをそろえて左から攻略しよう。というのがこの交代とシステム変更の意図だろう。
 両ワイドのCBであるモンレアルやソクラティス、そしてゲンドゥージが積極的な持ち上がりで相手の2列目につっかけるのだが、ボールを引き出す動きを見せるのはエジル程度のもの。ラカゼットもラムジーとオーバメヤンがいない中で自分が降りてしまってはフィニッシャーがいないことを自覚していたのか、降りてくる動きはあまりなかった。アーセナルのボールの動かし方、そしてオフザボールのポジションの取り方がいずれもスローで人は動いても、相手を動かせずにパスミスで攻撃終了。いたずらに時間が過ぎるばかりで、むしろ決定機はウルブスのカウンターによるものがほとんど。最後の交代カードとして入ったエンケティアが無理をするプレーで存在感を出すことになるほど、この日のアーセナルは全員鈍重だった。

 歌い続けるウルブスのサポーターが若干静かになったのは80分のソクラティスのコーナーからのゴールシーンくらい。ウルブスはカバレイロとトラオレという走れる選手を前に配置。再度2トップにしたのは、2人いれば相手陣に押し込み返せるという判断だろう。枠内シュートが1本だけというのも、60分で退いたはずのトレイラとムヒタリアンより多くシュートを打った選手がいないことも、ウルブスがうまく時間を使った証拠だろう。試合は3-1でウルブスの勝利。アーセナルはクリスタルパレスに続いて、ウルブス相手にもシーズン未勝利で終えることになった。

まとめ

    上位キラーたる所以を見せたウルブズ。これでミドル4にはいずれも勝利。すっとこどっこい3兄弟(ユナイテッド、アーセナル、チェルシー)には負けなしである。トップ6との対戦で得た勝ち点は実に16。アンフィールドでの激突になるとは言え、対戦を控えるリバプールは嫌なものだろう。連携のとれた中盤と対人の強さを見せるバックスもさることながら、この試合で際立ったのは、ボール奪取後のカウンターの際の連携。それぞれの走るコースがアーセナルのDFの判断を迷わせるもので質が高かった。メンデスの影響力がやたら強いチームづくりはやや不安要素ではあるが、補強で選手層に厚みをもたらせられれば、下位相手にも勝ち点を積み重ねてCL争いに参戦する力はあるはず。
    プレミア7位確保でのEL行きはマンチェスター・シティのFAカップ優勝が条件。アンフィールドでリバプールに一泡吹かせて、シティに貸しを作ることができるだろうか。

    ボコボコにされた側としては恐縮なのだが、立ち上がりがアーセナルがサイドに違うソリューションを持っていたら、展開はもう少し変わっていた可能性はある。しかしまぁ、無い袖は振れないのです。

    どの選手もコンディションはとても悪く、負傷明けのジャカはもちろん、特に不可解だったのは早々に退いたトレイラとムヒタリアン。出場停止やベンチスタートが増えたりしてるので、そこまで近々のプレータイムはかさんでる感じはしないのだけど。まぁトレイラはW杯とかプレミア1年目を加味しないといけないかもしれないが。どこか負傷してたりするのだろうか。エルネニーとゲンドゥージでもうまくいかなかったCHコンビが、メンバーを入れ替えたこの日もアレだったのは結構ハードモードである。

    気になるのはJsportsで川勝さんと野村さんが話していた「ナポリ戦でイタリアから帰ってきた後、ほとんど休みなしでチーム練習を再開した」というエピソード。本当なら、チームのコンディションに大いに影響を与えている可能性もある。試合が詰まってるから致し方ないのかもしれないけど。。

    いずれにせよ、2試合連続でボロボロだったセットプレーとドン底のコンディションでチームはなかなか上向きにならない。この日のチームは棒立ちの時間がほとんど。最後に入ったエンケティアはいいプレーを見せていたのは希望だが、アーセナルの他の選手のパフォーマンスが彼を際立たせていたのは見逃すべきではない。いわばこの日のアーセナルは彼とウルブスの引き立て役に過ぎなかった。このパフォーマンスの低調さをこの日ベンチに座っていたムスタフィに押し付けるのはさすがに無理がある。
    結果的に見たら大失敗に終わった短期的なチームマネジメントだが、まだ4位の可能性もEL制覇の可能性も残している。巻き返しを期待したいところだ。

試合結果
プレミアリーグ 第31節
ウォルバーハンプトン 3-1 アーセナル
モリニュー・スタジアム
【得点者】
WOL: 28′ ネベス, 37′ ドハーティ,47′ ジョタ
ARS: 80′ ソクラティス
主審:スチュワート・アットウェル

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