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「『お得意様』にあらず」~2019.4.7 プレミアリーグ 第33節 エバートン×アーセナル レビュー

前回対戦のレビューはこちら。

前節のレビューはこちら。

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
悪い時のエジル

 開始5分で2回も選手が倒れて試合が止まったことに象徴されるように、非常に激しい削り合いで幕を開けたこの試合。アーセナルボール保持時は相手2トップに対して3バック、エバートンボール保持時は相手3トップに対して4バックと、基本的にはどちらのチームがボールを保持していても、ボール保持側に余裕がある最終ラインでのビルドアップとなった。

 まずはエバートンのボール保持。最終ラインは数的優位を確保しながらビルドアップ。サイドと中央で人数を調整しつつ。エバートンが比較的スムーズにビルドアップできていたのは、最終ラインの先の部分に預けどころがたくさんあったから。アーセナルに対して、エバートンが数的優位を確保してるのは最終ラインだけでなくより前の中央のゾーンでも。ニクいのはシグルズソン。アーセナルのCHがエバートンのCHを捕まえようと前に出ていくと、その空いたスペースに進出。豊富な運動量を生かして縦横無尽にピッチをフリーで駆け回っていた。
 この試合のアーセナルは前線のプレスの決まりごとがあいまいだったように見受けられた。もしかすると決まりがあったのかもしれないけど、あまり読み取れなかったぜ。そこが起因となり、エバートンのボール運びはサイドでも優位に。特にアーセナルの右サイドは狙われていた。エジルがCBにプレスをかければ、ディーニュは幅を取ることでボールを受けられる。ベルナルジはCH脇に降りる動きとサイドを駆け上がる動きを組み合わせれば、ナイルズに判断を迫ることができる。

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 厄介なのはこれ以外にも前線に収まりどころがあるところ。カルバート=リューインはムスタフィとソクラティスに「まとめてかかってこい!」くらいの勢いで挑んでいっていたし、確実に勝てるサイドに流れたりもしていた。カルバート=リューインがサイドに流れれば、リシャルリソンが勝負できるスペースも空く。さすがにリシャルリソンとの1対1はモンレアルには分が悪い。フィジカルでも劣るので、ボールを収められつつ1対1を挑まれるシーンもあった。そういうわけで最終ラインの数的優位からのボール保持は出口がたくさんあった状態だった。

 次にアーセナルのボール保持。最終ラインはさっき言ったように数的優位。基本はカルバート=リューインとシグルズソンの2枚で最終ラインをチェック。アーセナルのCHにボールが入ると主にゲイェが前に出ていき撃退。もたもたしてるとシグルズソンも挟みにやってくる。アンドレ・ゴメスはステイして、アーセナルのシャドーへのコースをケア。ゲイェもボールから遠い時はパスコース消し。とにかくシャドーへのパスコースを寸断しながら、CHに前を向かせないというのが最優先のように見受けられた。例えば、アーセナルの両ワイドのCBが持ち上がったりすると誰も阻害できる選手はいないんだけど、そこは潔くパスが出た先をケアすることを優先。出し手が選択肢を迷ってるとシグルズソンが飛んできます。

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 というわけで中央からボールを運ぶのはしんどい。前節のニューカッスル戦はエジルが降りることで解決していたけど、ニューカッスル戦のラムジーのようにエジルと効果的に連動して動けるCHはこの試合にはおらず。エルネニーもゲンドゥージもたまに高い位置を取ったりはしたのだが、ライン間で効果的なプレーはできず。アーセナルファンにはおなじみの「悪い時の降りるエジル」になってしまった。特に久しぶりの先発になったエルネニーは中央でのプレッシャーにかなり悪戦苦闘していた。なので、高い位置では特にサイドでボールを受けるシーンもあった。
 アーセナルの攻撃の主な手段は比較的手薄なサイドからの前進。そして中央でのカウンターだ。特にねらい目だったのはゲイェ。トラップやボールコントロールが流れるシーンが多く、スピーディーな展開の中ではやや粗が目立った。しかし、中盤での非保持のアーセナルは数的不利になりがち。ボール奪取できたのはムヒタリアンやラカゼットの献身的なプレスバックがあってこそだった。

 というわけでカウンターは比較的低い位置からのスタートが多かったアーセナル。たまのポジトラも前の選手が相手を引きちぎって何とかするという苦しい状況だった。特に中盤2枚とシグルズソンの活躍は見事で、ゲイェはボールは取られるけど、その分とる!みたいな感じだった。

 前半はそのままエバートンリードで折り返す。

【後半】
あちらが立てば、こちらが立たず

 後半頭からラムジーとオーバメヤンを投入したアーセナル。ビハインドという状況も手伝って、4バックにシフト+上がりがちなラムジーのスペースを見るのはすでに警告を受けているゲンドゥージという、超ハイリスクな後半の立ち上がりの布陣。ラムジーのプレーは相変わらず半分トップ下、半分CHというような形で縦方向に行ったり来たり。両シャドーをふさいでいればいい前半とは違う対応を迫られたエバートン相手に効果がある選手交代だったように思う。
 アーセナルは非保持時においても布陣変更によりマッチアップが噛み合うようになった。ロスト後のカウンター対応におけるリスクはかなりのものがあったが、ビルドアップ阻害の機能不全は少しは改善されたように思う。

 それでも試合は完全にアーセナルペースというわけにはいかず。単純にエバートンのデュエルの質が高く、つぶされる場面はかなり多かったのが1つ。そしてやはりカウンターでエバートンがいちいち前まで運べるのも1つ。陣形回復力高い。高い位置からのショートカウンターも全くないわけではなかったが、シュートに至るまでに跳ね返されるシーンがほとんどだった。

 相手のCH後方での受け手が増えたということは、手前の出し手が減るということ。実質そこはゲンドゥージ専任だった。彼を見るのは主にシグルズソンが担当していた。ゲンドゥージはご存じの通り、左右に上下にかなり行動範囲の広いプレイヤー。というわけで彼が左右に動けばエバートンのCH前のスペースはぽっかり空く。しかしながらここのスペースを使えるプレイヤーはアーセナルの最終ラインにはいない。コシエルニーだったら持ち上がれただろうか。ボールを持って崩したいチームだけど、最終ラインから運べる人材が不足しているのは頭が痛いところだ。

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 もう1つ。エバートンの第3レイヤー(MFとDFの間)の中央に起点ができても、結局最後の崩しはサイド頼みになることが多かったので、そこでサイドの崩しの切り札といってもいいコラシナツがいなかったのは痛かった。とはいえ、4バックにシフトする際によりバランス感覚に優れたモンレアルを選択するのは自然なことであり、致し方ない部分でもある。

 最後のアーセナルの交代カードはエジル→イウォビ。システムも4-4-2に移行。残っているメンバーの中でサイドを崩せるとしたらイウォビやろ!ということで、メンバー的にも布陣的にもサイド攻略にテコ入れという形の交代となった。イウォビのパフォーマンスは悪くはなかったんだけど、彼が入る以前のアーセナルの攻撃において可能性を感じさせたエジル、ムヒタリアン、ラムジーを中心とした第3レイヤーでのパス交換で前を向くようなシーンは、トップ下不在の4-4-2移行することにより2列目の選手同士の距離が広がったために見られなくなってしまった。そこも含めてイウォビに背負わせる形になってしまったので、ちょっと酷な部分はあったのかなと思う。

 試合はそのまま終了。スコアこそ1-0だったが、アーセナルにシュート23本を浴びせたエバートンがホームで完勝を決めた。

まとめ

 チェルシー戦に続き、ビック6相手にホームで連勝を飾ったエバートン。グディソン・パークでのプレミア23戦で2回しか勝てなかったアーセナルが相手でもお構いなし。アーセナルが「お得意様」としていたエバートンの姿はほとんど見られなかった(追加点のシュート精度のところでチラ見せしてました)。シンプルにこの日のエバートンは強かった。コンディションは良好で、この出来ならどこのチームでも彼らと当たるのは嫌がるはず。前線はそれぞれ異なる個性で起点となれる能力を有しているし、シグルズソンとゲイェの行動範囲の広さには脱帽だ。アンドレ・ゴメスも司令塔として十分な働きを見せたし、両SBは運動量を生かした上下動で貢献。最後方からピックフォードが締める。そしてなんといっても大仕事をしたジャギエルカ。この日のエバートンがチームとして、アーセナルを上回っていたのはアーセナルファンですら認めざるを得ないだろう。フルハムとのアウェイゲームを挟み、次にグディソン・パークに迎えるのはマンチェスター・ユナイテッド。本拠地でビック6相手に3連勝となれば、だれもが認める終盤戦の台風の目になるだろう。

 難しい試合になってしまったアーセナル。正直に言えばこのタイミングで試合勘があまりないエルネニーを先発で使うのはエメリは想定外だったはず。負傷明けのラムジーが45分しかプレーが難しいという仮定に基づけば、前半は少なくとも0-0で折り返さなければ勝利は難しかったかもしれない。エメリの采配もこの記事で振り返ったように一つ一つの意図はわかるものの、全体的に課題を解決するのにはショートな部分があった。コラシナツを下げなきゃいけないとか、最終ラインで持ち運び役がいないとか。そこは仕方ない部分でもある。仕方ないってことはエバートンの方が強いってことなんだけどね。

 ナポリ戦も含めて厳しい戦いは続く。リーグの話をすれば次節のワトフォード戦においても、おそらくプレー強度では相手の方が分がある試合になるはず。ビック6の1つを担うチームとしては邪道かもしれないが、早い時間の失点を避けつつ、前線のクオリティを信じながら一発を狙う展開になってもおかしくはない。ソクラティスはここから2試合不在になるが、ジャカ、コシエルニー、トレイラが帰ってくればチームの助けになるはず。CL出場権確保に向けてアーセナルは明らかに山場を迎えている。

試合結果
プレミアリーグ 第33節
エバートン 1-0 アーセナル
グディソン・パーク
【得点者】
EVE: 10′ ジャギエルカ
審判: ケビン・フレンド

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