第1節 カナダ戦
■序盤の猛攻を受けきり強かに勝利したベルギー
4日目の最後はグループFからベルギーが登場。突破の本命である彼らだが、序盤のこの試合の主役はベルギーではなく対戦相手のカナダの方だった。
比較的、初戦は慎重な入りをするチームが多い中、この試合のカナダの立ち上がりは異彩を放っていたと言ってもいいだろう。高い位置からのプレッシングから縦に鋭いカウンターなど、カナダは強度に全振りするかのようなスタート。その強度はベルギーを飲み込んでしまう勢いだった。
特に強烈だったのはワイドの選手のスピード。左のデイビスはお馴染みだろうが、右サイドのラリアもなかなかのインパクト。システム的に右サイドはジョンストンがSBロールをする分、WBのラリアが高い位置で働くことができたのも重要なポイント。ベルギーはこちらのサイドのマッチアップがアザール、デ・ブライネという守備の規律を大事するタイプではなかったため、オーバーラップしたジョンストンに押し出されるようにラリアが抜け出す形でアタッキングサードに入り込むことができていた。スピードだけでなく構造的にも攻め込むことができていた。
両WBの勢いを引き継ぐように、3トップもアタッキングサードで躍動。シュートを放ち、ベルギーのゴールマウスを脅かす。しかし、そこに立ちはだかったのはクルトワ。平時のシュートだけでなく、ハンドから得たPKまでストップ。強力な壁としてカナダの前に立ち塞がる。デイビスにとってはなんとしても決めたいチャンスを逃してしまう形であった。
強度に飲み込まれたベルギー。守備においては対面の選手をシンプルに捕まえられない状況が続き苦しい展開ではあったが、クルトワに助けられてなんとか序盤の苦戦を凌ぐ。
バックラインの3枚+中盤の3枚でのベルギーのビルドアップはカナダのプレス隊に対して、1,2枚多い状況が多かった。攻撃の主役になったのはデ・ブライネ。ベルギーの攻撃の起点のほとんどは彼のドリブルからスタート。攻撃が機能していなかったわけではないが、ここまでのチームの中でもかなり個人への依存が高い状況だったのはやや気になるところである。
それでも先制点をゲットしたのはベルギー。アルデルワイレルドのフィードから抜け出したバチュアイがゴールに押し込む。後方で数的優位を作れていたベルギーとしてはフリーの選手を作れることと、カナダの高いラインをうまく利用した格好。ホルダーをフリーにするハイラインは危ないという定石を活用してしたたかに先手を奪う。カナダはCBのヴィトーリアの対応が少し気になった場面だった。
リードを奪われたカナダは後半強気の立ち上がり。マンマークの成分を高めながらベルギーに高い位置からプレッシャーをかけていく。前半ほど余裕がなくなったベルギーではあったが、その分スペースができた中盤でフラフラするデ・ブライネのボールを受けるスキルの高さはさすが。一度ボールがつながりさえすれば、敵陣深くまで間違いなく運んでくれるという信頼度の高さもリードしているチームにとっては大きなポイントになる。
ベルギーは非保持においてはアザールを明確にワイドにおく5-4-1に変化。噛み合わせを重視し、前半にやられていたサイドのケアを手厚くする。カナダは前半振り切ることができていた1対1でのスピード勝負で徐々に優位に立てないように。この辺りは前半の立ち上がりでエネルギーを使った影響も否めない部分だろう。
加えて、愚直に裏を狙いすぎたのもカナダにとってはあまりいいことではなかった。直線的に急ぎすぎてラインの裏を執拗に狙うチームは、この大会では苦しむ傾向が強い。カナダのこのパターンにハマってしまった格好。2枚選手を交代し、4-1-4-1にしてからはややコンビネーションから一息おきながら攻め込むシーンも増えたが、ベルギーのゴールを再び脅かすには少し時間が足りなかった。
序盤の劣勢を凌ぎきり、先制点を掠め取って強かに試合を運んだベルギーがカナダのフレッシュさをいなして開幕戦に勝利。大舞台での存在を高めてきた経験の賜物なのだろうか。
試合結果
2022.11.23
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第1節
ベルギー 1-0 カナダ
アフメド・ビン・アリー・スタジアム
【得点者】
BEL:44′ バチュアイ
主審:ジャニー・シカズウェ
第2節 モロッコ戦
■後半に機会ごと取り上げたモロッコがベルギーを完全制圧
勝てばフランスに続いて2チーム目のグループステージ突破が決まるベルギー。強豪国が軒並み突破を決めることに苦しんでいることからも、2節目で通過を決めることができれば大きなアドバンテージになる。開幕節でクロアチアが手を焼いたモロッコは難敵ではあるが、なんとか連勝を決めたいところである。
ベルギーのフォーメーションは4バックを採用。2CB+2CHが基本でCHの2人は縦関係に変形したり、最終ラインに入り込んだりもする。2-2も3-1もある形だ。モロッコはこのビルドアップ隊の動きを1トップとIHの2人で対応していく。降りる動きが基本になっているため、深追いしすぎずに受け渡したり放置することも重要。守備ブロックのコンパクトさの維持を優先していた。
ベルギーはSBがビルドアップに関与することもしばしば。だが、そうした枚数調整に対してもモロッコは柔軟に対応。サイドにはきっちりと枚数を合わせることで自由を許さなかった。
低い位置までデ・ブライネが降りていくことでさらに+1を作ろうとするベルギー。だが、モロッコのブロックに対してデ・ブライネがボールを運ぶスペースを作ることができておらず、フリーで持っても何も行わない状況が続く。ホルダーについていくところと守備ブロックのバランスの匙加減がモロッコはお見事だった。
一方のモロッコはサイドからのカウンターが主体。右サイドのツィエクを先導役として、大外からベルギーのゴールに迫っていく。機会はそこまで多くなかったけども、停滞感のあるベルギーのボール保持に比べれば得点の期待感はあったように見える。
ポゼッションにおいても相手を動かしながらスペースに入り込んでいくことはできていたモロッコ。非保持だけでなくボール保持においてもモロッコは安定した戦い方を見せたと言っていいだろう。
前半終了間際にはセットプレーからネットを揺らしたモロッコ。ツィエクのクロスに見事に合わせたかのように思えたが、これはオフサイドで取り消し。ベルギーはなんとか命拾いする格好である。
巻き返したいベルギーだが、後半はそもそもボール保持の時間がモロッコの方が長かった。モロッコの方がボールを持つことができたからといって、ベルギーがカウンターから勢いを取り戻す!ということも特になく、得点のきっかけを掴めないまま時間だけが経過していくことになる。
後半も優位に進めたモロッコはベルギーに反撃の糸口を与えることはなかった。苦しいベルギーはなんとか得点を決めたいところだが、先制したのはモロッコ。角度のないところからのFKをサビリがゴール方向に蹴り込み、これをサイスがわずかに触って押し込む。クルトワの裏をかくという形での失点はベルギーにとって最後の砦をこじ開けられたガッカリ感が強かったはずだ。
得点後、モロッコは素早く5-4-1に移行。スペースを消して逃げ切り体制に移行する。ローラインで迎え撃つモロッコに対して、ベルギーはガンガンクロスを放り込み、外から力技で叩き壊すやり方で対応。ルカクにとってはなかなかシビアな復帰戦になった。
最後までベルギーの攻撃を跳ね返したモロッコは終盤に追加点をゲットし、ゲームを完全に制圧。手痛い一敗を喫したベルギーは次節のクロアチア戦にプレッシャーがかかる結末となってしまった。
試合結果
2022.11.27
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第2節
ベルギー 0-2 モロッコ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
MOR:73′ サイス, 90+2′ アブカウ
主審:セザール・ラモス
第3節 クロアチア戦
■ルカクの日ではなかった
立ち上がり数十秒のペリシッチのシュートからの幕開けはこの試合の激闘を予感させるものだと言えるだろう。序盤にテンポを握ったのはクロアチア。中盤からの鋭い縦パスと高い位置からのプレスでプレーエリアを高く維持することに成功するスタートとなった。
15分過ぎにはPKを獲得したクロアチア。内容良好!あとはリードを奪うだけ!という状況まで漕ぎ着けることに成功するが、VAR側からのサポートはこれはオフサイド判定に。飛び出し方の際どさを見ればクロアチア側がテクノロジーの存在を恨んでも仕方がないくらい厳密な判定であった。
このPK以降は落ち着きを持って試合を進めることに成功したベルギー。ボール保持においてはムニエを一列前にあげる3バックを採用する。これまでのグループステージにおけるベルギーはどこか前後分断感が否めなかったが、この試合では比較的バックラインとDFラインから全体を押し上げる意識を持ってボールを進める一体感があったと言えるだろう。
特に右サイドの崩しはなかなか。大外をとるムニエにインサイドのサポート役にデ・ブライネ、トロサール、メルテンスが代わる代わる出たり入ったりするローテーションにはクロアチアはやや混乱気味。CBの能力の割に、出足を思い切りよくいけないというクロアチアの今大会のウィークポイントをうまくつくことができていた。
逆サイドではカラスコが躍動。カットインと縦への進撃を使い分けながら1人でエリアまでボールを運んでいく。ただし、この日のベルギーのインサイドには高さがない。よって、入れるクロスの質にはこだわる必要がある。鋭いグラウンダーのクロスを入れることができれば、クロアチアがブロックを組んでいてもベルギーには十分なチャンスがあった。
一方のクロアチアにも保持からの前進のルートは存在していた。ベルギーは非保持では4バック気味だが、4-3-2-1なのか4-4-2なのか判然とし難い。デ・ブライネの守備のタスクが甘い分、やや全体の陣形の維持は甘くなっているようにも見える。
中盤の守備のタスク管理が甘い分、ベルギーはクロアチアの中盤を捕まえきれず。フリーでボールを持つことができれば、大きなサイドの展開ができるクロアチアの中盤。ピッチを綺麗に横切り、WGにボールを届けることができればチャンスになる。
どちらもエリアに迫る手段はあったが、プレスがうまくハマらなかったり、そもそも控えめだったりなどで機会の差が生まれず。このあとどちらに試合が転ぶかが読みにくい前半だった。
後半、ベルギーはルカクを投入。ターゲットマンを入れることで、前半は許容することができなかったハイクロスを入れることができるようになった。メルテンスがいなくなった分、右サイドの流動性の減少が気になるところではあったが、早々にクロスを上げて見せたことでその部分も問題ないことはすぐにわかった。
だが、後半のクロアチアの左サイドの守備ブロックは強力。グバルディオルはクロスをニアで跳ね返しまくるマシーンとなっていたし、ソサも粘り強い対応を見せていた。
この両者は保持面でも素晴らしいパフォーマンス。特にグバルディオルは最終ラインからのボールの運び出しでも別格な出来を見せていた。クロアチアの後半の攻め手は左サイドに集約。左のハーフスペース付近でフリーでもった選手がエリア内のクロスと大外のソサの2択で揺さぶりながらベルギーの陣内に迫っていく。サイドチェンジも自由自在。大きな展開に振り回されるベルギーにとってはヴィツェルのカバーリングとクルトワの安定したキャッチングが命綱になっていた。
しかし、ベルギーも攻撃的なタレントを投入し総攻撃を仕掛ける。ドク、アザール兄弟、ティーレマンスなど中盤よりも前の選手を入れて決勝進出に必要な1点を取りに行く。
だが、ことごとく訪れるチャンスをルカクが決めることができない。明らかにフリーな決定機が2,3回ほどあったが、いずれのシュートもミートできず。明らかに彼の日ではなかった。
ビックチャンスを作りつつ、最後まで仕留めることができなかったベルギー。前回3位に入ったグループFの本命は最終節で勝利をあげることができず、早すぎる敗退を喫することとなった。
試合結果
2022.12.1
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第3節
クロアチア 0-0 ベルギー
アフメド・ビン=アリー・スタジアム
主審:アンソニー・テイラー
総括
■トレンド逆行型スタイルの代償
やっちまった!!!!!その2!!!!!!思えば初戦から雲行きは怪しかった。高い位置からボールを追い回し、機動力で振り回してくるカナダには強度で圧倒されてしまい、攻守に完成度の高いモロッコの前では沈黙。クロアチア相手には勝利まで肉薄したが、ルカクが絶対にシュートが決まらない呪いにかかってしまい、にっちもさっちも行かなくなってしまった。
システムとしては前後分断型の攻守分業制というEUROからの流れを継続。バックラインからのフィードとデ・ブライネのドリブルで前線に「行ってこい!」と託すサッカーはタレント力に依存するところが多い。そういう意味ではルカクの合流遅れやエデン・アザールの不振などでタレントがうまく自分の仕事ができなかったことの要素が敗退の一因となるだろう。
だが、そもそも前後分断的なサッカーしか設計できなかったことが間違いであるとする向きもできる。コンパクトさや慎重さ、勝負どころを集約するチームが躍進している今大会をみれば、ルーズな陣形を許容し、90分間抑揚なく前にただただ進んでいくベルギーのスタイルは大会のトレンドに逆行しているといっていい。
「年寄りばっかり」とデ・ブライネが疑心暗鬼ならば尚更戦いは厳しいものになる。なお、そのデ・ブライネに噛みついたクルトワの発言は普段の彼基準なら通常運転と言える程度な気もしないでもない。まぁ、この2人はそれがなくたって女関係で元々仲悪いだろうけども!ちなみに、内紛系の話で言えば今大会ではボリュームはダントツ。敗退でメディアのおもちゃになりまくっている感がある。
いずれにしても広大なスペースなできる自陣のカバーが数年間変わり映えしないメンバーであるのだから、EUROと比べて守備の改善を期待するのには無理がある。獅子奮迅のヴィツェルがいなければ、守備はさらにひどいことになっていただろう。
それでも第3節のクロアチア戦では全体を押し上げるようなボール保持を披露。チームの状況は徐々に上向きになっていたのも確か。第3節ではそれまで感じられた前後分断感は薄れていた。ルカクが1つでもゴールを決めていればまた違った姿をノックアウトラウンドで見せられた未来もなかったわけではない。
すでにロベルト・マルティネスが辞任を表明しており、新体制の発足は確実。新監督には派手でなくともコレクティブでソリッドな組織を作りに取り組むことになる。このチームは普通にやれれば強い。
ただし、監督にはバラバラな代表チームを統率できるカリスマ性が第一を求めたい。トレンドの戦術を取り入れることは監督自身が乗り出さなくてもできるはずなので、まずは話を聞いて同じ方向をチームに向かせる指揮官の招聘が必要となるだろう。
Pick up player:アクセル・ヴィツェル
クロスの対応もバイタルの穴埋めも自陣からのボールのキャリーも全部やった。だって誰もやらないんだもん。