■ベンゼマは許してくれない
部分的にスタメン選びに色が出ているところは両チームともにあるものの、基本的には今季一番使ってきたフォーメーションに近い両チーム。そんな中で少し工夫を施してきたのはチェルシーの非保持の局面だった。
アンカーのカゼミーロをマウントが、クロースをカンテが、そして後方ではクリステンセンがヴィニシウスについていく形が特徴的。カンテとマウントの位置関係からナチュラルな3-4-3の配置とは異なる形になっていたので、この試合に向けて準備してきたものなのだろう。
だけども、このハイプレスは発動条件が曖昧。常に追いかけ回すというよりはあるタイミングでこの形に収まるようになる。そのギャップにマドリーは上手くつけ込んでいた印象だ。
例えば、中盤ではクロースをカンテが捕まえるのが遅れるパターンがちらほら。キャラクターを考えればデートのようについて行ってもいいと思うのだが、なんらかの決まりがあったのだろう。
ヴィニシウスを使ったワンツーからの抜け出しは物理的にクリステンセンには太刀打ちできない相手だったように思う。広大なスペースでのスピード勝負は前のラウンドでハキミとダニーロの二段重ねに苦しんだヴィニシウスにとっては放し飼いに等しいような扱い。だいぶ伸び伸びとできたはずである。
マドリーのゴールはこのチェルシーのマンマークの発動におけるギャップを活かしたものだった。カンテのマークが遅れたクロースから、左に流すとヴィニシウスがスピードで振り切り、最後はベンゼマ。ピンポイントのクロスをピンポイントで合わせて先制する。
続く、2点目も一度押し込んでからマイナスで空いたカゼミーロを使い逆サイドに展開。さらにマイナスで空いたモドリッチから2人に挟まれたベンゼマに点で合わせるクロスを決めて追加点である。
チェルシーのハイプレスに対してもマドリーは徐々に慣れてきた感じ。マンマークの対象外だったCBがボールを持ちつつ、チェルシーの中盤が釣ることができたら、そこの対象のマーカーはフリーになっているのでそこから前進。ベンゼマやカルバハルなどが続々と中央に流れてきてフリーマンとなりながらボールを持ち上がるのもチェルシーにとってはストレスだっただろう。
2点を奪ってからはマドリーのこのプレス回避のメカニズムはかなりわかりやすくできていたように思う。チェルシーのプレッシングはこの試合の早い段階で明らかに見切られていた。
一方、ボール保持ではチェルシーも十分やれる感じ。マドリーはリュディガーの持ち上がりに苦慮。初めはモドリッチが高い位置までリュディガーについて行ったのだが、リードを考慮したのか撤退形に切り替え。右WGのバルベルデもバランスを見ながら時には5バックに入ることもあった。
ただ、これによってマドリーは後ろ重心になり過ぎた感がある。特にマウント、カンテ、ハフェルツが流れる右サイドには対応に苦しむ。
そして、追撃弾も右サイドから。プレミアをよく見ている人ならば、マイナスにジョルジーニョが受けた瞬間にその先に生まれる決定機が予見できた人もいたのではないだろう。2点目のモドリッチに比肩する少ないタッチでの超絶クロスでハフェルツの同点弾を呼び込んだ。
後半のチェルシーは2枚を代えて、4-3-3に変更。更なる反撃に打って出ようとするのだが、ここでメンディに痛恨のミス。ブレントフォード戦に続くバックパス処理のところでエラーが発生してしまう。ブレントフォード戦ではなんとか助かったが、ベンゼマにこれを見逃してくれというのは無理筋だろう。史上4人目のCL2試合連続のハットトリックは思わぬ形でもたらされることとなった。
撤退色を強めつつ、カウンターに専念するマドリーに対してチェルシーは攻め筋がないわけではなかった。むしろ、2点差がついたことで積極的に攻めてくるチェルシーのバックラインにはかなり手を焼いていた印象。
両サイドのハーフスペース付近に陣取る左のリュディガーと右のジェームズにはある程度自由を許したマドリー。特に高精度のクロスを入れられるジェームズはマドリーの脅威に。チェルシーのアタッカー陣に決定力があれば、最終スコアは違うものになったはず。クルトワが最後の壁として立ちはだかったのもチェルシーにとっては苦しいところだった。
マドリーは押し込まれる状況には苦しんだが、ボール保持では時間を使うことが可能に。アンカーに入ったロフタス=チークを狙い撃ちにして、アンカー脇に選手を集結させて無限ポゼッションするムーブはCLの経験値差で相手を殴ってきたレアル・マドリーらしい振る舞いと言えるだろう。
後半は押し込まれながらも時間を溶かしたマドリー。2点リードをベルナベウに持ち帰ることに成功した。
試合結果
2022.4.6
UEFAチャンピオンズリーグ
Quarter-final 1st leg
チェルシー 1-3 レアル・マドリー
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:40′ ハフェルツ
RMA:21′ 24′ 46′ ベンゼマ
主審:クレマン・トゥルパン