■自由度の高い保持とマンマークのかけ合わせ
セミファイナルまで躍進した18-19シーズンと同じく、今季もグループステージから評判がよかったアヤックス。恥ずかしながらまだ今季は未見のアヤックスであったが、面白いチームで話題になる理由はよくわかった。
まず、守備は非常にマンマーク色が強い。自分のレビューの読者にはプレミアファンが多いので、マンマーク!というとビエルサのリーズが思い浮かぶかもしれない。リーズは1トップに2CBの監視をさせつつ、後方では2CBが1トップに対して数的優位を確保するというクッションを用意しているのに対して、アヤックスのプレッシングは前方から同数で受けることが多かった。
1トップのアレのサポートとしてCBにプレスに行ったのは右WGのアントニー。同サイドのベンフィカのSBのグリマルドはSBのマズラウィで迎え撃つ。後方は3バック気味になるがお構いなし。アヤックスの先制点はグリマルドへのフィードをカットする積極的な守備を見せたマズラウィ起点のカウンターからだった。
ただ、同点となったベンフィカの1点目もマズラウィのところから。セットプレーの流れからのクロス対応に足を滑らせておいていかれたところで早いクロスを打たれ、PAにいたアレがオウンゴールに。ベンフィカはあまりいい位置に人を置けていなかったので、ラッキーな同点弾となった。だが、アレはその直後に勝ち越し弾をゲット。オウンゴールの面目躍如となる活躍を見せる。
局面別にみていくと、アヤックスの守備に対してベンフィカはSHを内側に絞らせながら、大外はSBに使わせる形。両SHは絞りながらインサイドに入り込むことが多く、グリマルドとエヴェルトンがコンビを組む左サイドは特にこの傾向が強かった。プレスで捕まりそうなときは無理せずにヌニェスへのロングボールに移行することで、アヤックスのマンマークとお付き合いしていた。
アヤックスの攻撃は結構難解だった。バックラインの2人のCBにアンカーのアルバレスが降りる形で近づき、最終ラインの中央の組み立ては主に3人。CBのリサンドロ・マルティネスは中盤に匹敵する足元を持っているので、アンカーの代わりに彼が持ち上がる形もアリである。
左サイドはSBのブリントは比較的低い位置ではビルドアップに関わらずやや前方にスライド、内側に絞ることもある。同サイドのグラフェンベルフは後方からサポートを行うために下がったり、大外に流れることも。SHのタディッチも含めインサイドでもアウトサイドでもプレーできる選手の集まりなので、左サイドは自由度が高い。
右サイドは左に比べると、大外からのカットインという得意な形を持っているアントニーがいる分、役割が分業されているが、それでも自由。アヤックスはサイドを変えながら勝負していくというよりは、人数をかけたサイドを重点的に前後に動かしながら壊していくというスタンスが強い。ラストパスは同サイドでの横方向のパスやドリブルから縦のラストパスに抜け出す形が多く、逆にサイドでの抜け出しをマイナスに折り返す形はあまり見なかったように思う。このあたりはもう少し多くの試合を見ながら判断したいところではある。
アヤックスはベンフィカの4-4-2を動かしながら前進することにこだわっており、2列目をプレスに引き寄せてから、サイドから進んで攻略するという形がメインのやり方。サイドに人をかけるためにはポジションにこだわらず、逆サイドのIHやアンカーがパス交換に加わったりフィニッシュに向かうことも多かった。
保持の時間を長くするアヤックスに対して、ベンフィカは後半開始早々にだいぶフラストレーションを溜めていた格好だった。ハードなタックルが多く、ちょっとやけっぱり気味だったように思う。
だが、終盤まで試合がもつれると徐々にアヤックスのプレスのホールド力が落ちてベンフィカに押し込まれるように。アヤックスの守備の課題はこのマンマークの遂行が難しくなると、一気に強度が落ちること。特に最終ラインには常時CLクラスのFWを同数で跳ね返すほどの安定感はそこまでないので、さらされる機会が増えると厳しくなる。
試合の主導権を握る握力が落ちたアヤックスに対して、ベンフィカは72分にヤレムチュクがゴールをゲット。CKのカウンターからまさしくバックラインの強度が問われる状況でベンフィカに穴をあけられてしまった。
後半の同点劇で試合は2-2のタイスコアで折り返し。保持で多くの時間を支配したアヤックスに対して、耐えて殴り返すことが出来たベンフィカの粘りは舞台をオランダに移しても発揮されるだろうか。
試合結果
2022.2.23
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 1st leg
ベンフィカ 2-2 アヤックス
エスタジオ・ド・SLベンフィカ
【得点者】
BEN:26′ アレ(OG), 72′ ヤレムチュク
AJA:18′ タディッチ, 29′ アレ
主審:スラブコ・ビンチッチ