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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~カメルーン代表編~

目次

第1節 スイス戦

■後半早々の先制点で反撃の機運を抑える

 第1節の最終日はスイス×カメルーンからスタート。同じ組にブラジルが同居することもあり、ここは負けられない一戦。仮に敗れてしまえば、GS突破にはブラジル相手に勝ち点をとることが必要になってしまう。

 ボールを持つことになったのはスイス。これに対してカメルーンはミドルブロックで対抗。彼らのライン設定はトップがハーフウェイライン付近で、バックラインがPA手前くらい。低くもないが、高くもないというくらいのラインの高さでスイスを迎え撃つ。全体をコンパクトに維持しようというのがカメルーンのスタンスである。

 スイスはジャカがいたせいかもしれないが、ややアーセナル風味があった。低い位置から高い位置まであらゆる範囲をカバーするジャカのスタンスはアーセナルとほとんど一緒。トップ下のソウがそのジャカの振る舞いに合わせて右サイドに流れることで左右に三角形を作る。この配置のバランスなどはアーセナルと結構似ていた。トーマスと比べるとフロイラーはだいぶ動いていたけども。

 サイドを使いながら慎重に試合を進めていくスイス。サイドアタッカーは動き出しも多くボールをつけるのには困らなかったが、サイドからの打開には苦戦。独力で崩せる選手はおらず、コンビネーションからエリアに入っていく形も未整備。落ち着いたポゼッションから敵陣に入り込むことはできるが、そこからPA内に侵入していくフェーズはまだ未完成ということだろう。

 スイスにボールを持たせることはやぶさかではなかったカメルーンだが、自らがボールを持つフェーズにおいてはゆったりと進めることが多かった。パス交換からフリーの選手を作ると、前方のアタッカーの裏抜けでスピード勝負に挑む。

 アクセントになっていたのはムベウモ。ポストプレーで味方を生かすプレーに徹することで、テンポの調整とフリーの選手を作っての再加速に貢献。スピード勝負一辺倒にならなかったのは彼の貢献が大きいと言えるだろう。

 前線のスピードではスイスのバックラインに対して優位をとっているカメルーン。ややアクシデンタルに前線のアタッカーが独走するチャンスを得ることもできていたが、立ちはだかったのはゾマー。代表の国際大会ではすでにお馴染みのスイスの絶対的な守護神がカメルーンの決定機をことごとく防いでいく。

 スイスの守備もそこまでピンチが多くなるクオリティではなかった。高い位置からプレッシングにはいくけども、深追いはせずカメルーンの進撃に間に合わせる形でリトリートを行う。絶対的なスピードでは劣るものの、セットした守備においてはきっちりを守ることを徹底できていたと言えるだろう。

 スコアレスで迎えた後半。早々にスコアを動かしたのはスイス。ジャカが中央の隙間を見事につく縦パスから逆サイドへの展開の引き金をひく。右サイドに展開されたボールの折り返しをフリーで受けたエンボロが決めてついに先制。スイスは後半の早い時間帯で前に出る。

 後半はやや積極的なプレスに出ていったカメルーンであるが、前線が深めに追った結果のこの失点は彼らに重くのしかかったように思う。失点後はプレッシングも控えめになってしまい、後半頭のプレスの勢いは削がれてしまった。

 勢いを失ったカメルーンに対して、スイスは堅実な試合運びで対抗。リードを手堅く守りきり、見事に白星発進に成功した。

試合結果
2022.11.24
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第1節
スイス 1-0 カメルーン
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
SWI:48′ エンボロ
主審:ファクンド・テージョ

第2節 セルビア戦

■説得力抜群の裏抜け一発で同点に追いつく

 初戦は敗れてしまった両チーム。連敗となったチームはこの後行われるブラジル×スイスの試合結果次第で、最終節を待たずに敗退が決定してしまうというシビアな状況だ。

 どちらかといえばボールを持つ機会が多かったのはセルビアの方。3バックが落ち着いてボールを持つ。しかし、カメルーンは4-1-4-1であり、前のプレス隊に3枚かけることはやぶさかではない。よって、セルビアは時折ミレンンコビッチをSB的に活用する4バックシフトでのボール回しもバリエーションとして持っていた。こうなると噛み合わせきれないカメルーンには迷いが出るようになる。

 中盤を引き出すことができるようになれば、セルビアは中盤を活用しながら前進する。ボールを前に運ぶ原動力になっていたのは両サイドのWBである。コスティッチとジヴコビッチはいずれもボール運ぶことができる攻撃的な人材。4バックのカメルーンは逆サイドの大外のケアが甘くなることが多く、バックラインが中盤を引き出すことができれば、セルビアは中盤を使った素早いサイドチェンジでWBにボールを供給することができる。

 この形でサイドからアタッキングサードに侵入。ミトロビッチやミリンコビッチ=サビッチなどのターゲットに積極的にクロスを上げていく。特にミトロビッチは前半の内に決定機を手にしていたが、フィニッシュがはまらず。先制点のヒーローになりそこねた。

 一方のカメルーンは前進に苦戦。WBの背後に流れるムベウモのボールキープなど単発では光るところはあったが、セルビアほど前進のルートを確立はできず。時折、セルビアのビルドアップミスを引っ掛けてのカウンターがメインとなっていた。

 しかし、試合の流れに逆らうように先制したのはカメルーン。セットプレーからファーに詰めたカステレットが抜け出してゴールに叩き込む。ベンチメンバー総出で喜びまくったカメルーンはこのゴールから一気に勢いに乗る。プレスからテンポを掴み、セルビアを追い立てるようになる。光っていたのは中盤のボールハント能力である。

 先制直後のカメルーンのラッシュを凌いだセルビアはWB主体のボール保持からテンポを取り戻して反撃に移行。こちらもセットプレーからパヴロビッチが脅威の背筋力を生かしたヘディングで前半追加タイムに追いついてみせる。

 すると、この勢いで畳み掛けるセルビア。自陣深い位置でのアンギサの処理ミスを掻っ攫うと、これをミリンコビッチ=サビッチが決めて一気に逆転まで持っていく。直後にミトロビッチが3点目を決めていれば前半のうちにさらにリードを広げられた可能性も。乗り切れないこの男は気がかりなものの、前半をリードした状況でセルビアは折り返しに成功する。

 しかし、ミトロビッチは後半早々に結果を出す。激しい中盤の攻防でスタートした後半は、背後のスペースが空きやすい展開に。左サイドのコスティッチを起点とした攻撃が冴えていたセルビアは彼のボール奪取からミトロビッチが左右のWBと連携しながらゴールに迫りようやくゴール。リードを広げてみせる。

 2点差というセーフティリードを得たと思われたセルビアだが、ハイラインの割にはボールホルダーを捕まえきれない状況をカメルーンにやたらと突かれると雲行きが怪しくなっていく。リードが広がってもセルビアはプランを変える様子はなし。追いかけるカメルーンは一発の裏抜けを連発し、セルビア陣内に侵入する。

 この形から一気に追いついてみせたカメルーン。中盤から飛び出したアブバカルがループシュートを決めて反撃の狼煙を上げると、逆サイドに残ったミレンコビッチを置き去りにした右サイドの裏抜けからチュポ=モティングが同点ゴールを決める。「繋ぐな!蹴れ!」という命令に背いたGKのオナナを追放しての一発裏抜けのゴールはやたらと説得力がある。

 以降はグロッキーな撃ち合いとなった。最終節の戦いを見越すと勝っておきたいのはブラジルとの試合を控えているカメルーンだが、コスティッチにサイドから押し込まれるなど苦戦。5バックへのシフトを余儀なくされる。

 終盤にもミトロビッチには決定機があったが、いずれも決めることができず。後半頭に得点を決めたもののおそらくコンディションが悪いのだろう。もらったチャンスの数に比べれば、1得点という結果は物足りない。

 試合は痛み分けで終了。自力突破の可能性が最終節まで残るかどうかは裏のカードの結果次第という形となった。

試合結果
2022.11.28
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第2節
カメルーン 3-3 セルビア
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
CAM:29′ カステレット, 63′ アブバカル, 66′ チュポ=モティング
SER:45+1′ パヴロビッチ, 45+3′ ミリンコビッチ=サビッチ, 53′ ミトロビッチ
主審:モハメド・アブドゥラ

第3節 ブラジル戦

■記録と記憶両面に残る金星

 グループステージの大トリで登場するのはすでに突破を決めているブラジル。首位通過がかかっているのはもちろん、勝てば32カ国の中で唯一の3連勝を達成することができる。

 だが、ブラジルはそうしたことはどこ吹く風。メンバーをほとんどそう入れ替えする形でギリギリ突破の可能性を残すカメルーンを迎え撃つ。いや、それでも普通に強そうだけども。

 勝利が最低条件のカメルーンは非常にはっきりしていた。高い位置から相手を噛み合わせる形を見せるプレスを行うカメルーン。2トップは中盤を受け渡しつつ、交互にファビーニョをケアしていく。サイドはSBがSHを追い回す形である。カメルーンはサイドでも枚数を嵌める形でプレスを行なっていく。

 しかし、徐々にペースはブラジルに。マンマーク気味の相手に対しては動きながらどこまでついてくるかを探るという王道パターンで解決を図る。動き回る前線をカメルーンが捕まえられるかどうか?はこのプランの肝である。結論としてはギリギリだろう。カメルーンの中盤から後ろは1on1の対応が後手になってしまい、警告を受けること必須のファウルを連発。30分までに3枚のイエローカードが提示されることとなった。

 ブラジルの保持において特に活性化したのは右サイド。横のレーン入れ替えだけでなく、奥を取る縦の動きなどバリエーションを見せながらカメルーンの守備ブロックを壊す。しかし、ブラジルはフィニッシャーが不在。マルティネッリ、アントニー、ミリトンなどチャンスをことごとくものにできない。

 とはいえ、カメルーンの積極策も得点に繋がったわけではない。前半の終盤までほとんどチャンスがない状態で推移する。だが、前半終了間際に左サイドからのクロスをフリーのファーの選手に届けた形から決定機を迎えたカメルーン。しかし、そこはエデルソン。世界最強の第2GKが立ちはだかり前半でリードを許さない。

 後半もテンポは同じ。カメルーンは前半以上にDFを交わして早い攻撃をシュートに持っていくことは彼らにとっては朗報と言えるだろう。しかし、ブラジルが高い位置から守備をセットしたこともあり、前半よりもオープンな展開が増えていく両チームだった。

 そうした状況を活かしたいのはカメルーン。左サイドにトコ・エカンビの登場をアクセントに前半以上に攻め込むブラジルに対してサイドから牽制をかけていく。

 ブラジルは後半も決定機でシュートが枠外に飛んでいく機会が目についた。枠内に飛んだシュートはことごとくエパシのファイルセーブに咎められてしまい苦しい戦いが続く。エパシはファインセーブでカメルーンの突破の可能性を繋いでみせた。

 ブラジルは得点を得ることができない焦りからか徐々にプレッシングの位置を高めていく。カメルーンもこれに合わせてテンポをあげることでだんだんと両軍の中盤には間延びが発生するようになる。

 終盤まで攻撃の手を緩めなかったブラジルだったが、得点の歓喜が訪れたのはカメルーン。90分過ぎにゴールを決めたのはアブバカル。抜け出しから決勝点を生み出す。

 興奮のあまりすでに警告を受けている状態でシャツを脱ぐというパフォーマンスで退場するというのはなかなかの名場面。本人、全然気にしてなさそうで笑った。審判も思わず苦笑い。カメルーンはブラジル戦勝利とアブバカルの退場という記録と記憶の両面でインパクトのある試合となった。

試合結果
2022.12.2
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第3節
カメルーン 1-0 ブラジル
ルサイル・スタジアム
【得点者】
CAM:90+1′ アブバカル
主審:イスマイル・エルファス

総括

■ミラクル属性のアフリカンは笑顔でカタールを去る

 不屈のライオンは今大会でもミラクル属性を披露し、存在感を発揮した。今大会のアフリカ勢はチュニジアやモロッコのようにソリッドな組織力と緻密なボール保持を両立するチームが増えた印象だが、カメルーンにとってはそんなトレンドはどこ吹く風。ガーッと言ってバーっとやる!みたいなスタンスは近代化が激しいW杯において逆に目新しい存在と言えるだろう。

 初戦でスイスに抑え込まれて敗れると、ソング監督はGKのオナナに「繋いでないでバッと蹴れ」と命じる。アヤックス産のGKはこれに背き、大会中に帰国。もはやカメルーン代表ではお馴染みとなっている内紛を今回も見られたことはもはや個人的には感慨深い領域である。

 オナナを外して迎えたセルビア戦では終始攻め込まれる苦しい展開が続くが、セルビアが前に出続けたことにつけ入り「つないでいないでバッと蹴る」形から、裏抜けを連発して一気に同点に追いついて見せた。ソング監督、有言実行でございました。

 わずかな突破の望みをかけた最終節のブラジル戦はとりあえずハイプレスで迎撃し、素早いカウンターで裏抜けを狙いまくる。控え中心とはいえ、ブレーメルとミリトンが待ち受けるブラジルのDF陣には苦戦。リスクを賭けたバックラインはイエローカードだらけという厳しい状況に。

 しかしながら、諦めずに実直に裏抜けを続けると、最後はブラジル相手に金星を奪取する。得点を決めたアブバカルは豪快にユニフォームを脱いで2枚目の警告をゲット。主審と笑い合いながら退場するという牧歌的な最後を迎える。

 戦術的にはちっとも整備されていなかったし、得意な局面も限定的だ。それでも、見ている人がどこか楽しくなるサッカーは唯一無二。おそらくだが、グループステージ敗退した国の中で最もハッピーなチームだったはず。ブラジル相手に金星を挙げて、笑顔で大会を去ったカメルーンは今回のW杯における一服の清涼剤とも言える存在だった。

Pick up player:ブライアン・ムベウモ
 ガーッとカウンターで走っていくカメルーンのアタッカー陣の中でポストプレーで味方をフリーにできる汗かき役。ブレントフォードでの活躍を代表でもそのままに持ち込む安定感のある働きだった。

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