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「無視できないSBの存在」~2023.1.3 プレミアリーグ 第19節 アーセナル×ニューカッスル レビュー

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レビュー

MF背後の加速場所

 年末年始の過密日程の最終戦。アーセナルの対戦相手は3位に位置するニューカッスル。ホームでの試合とはいえ、ブライトンに続き難敵を迎える形での一戦となった。

 まず、立ち上がりに主導権を握ったのはアーセナル。ボールを持ちながら敵陣深くまで攻め上がっていく序盤戦となった。ギャップが出来ていたのは中盤のマークである。アンカーのトーマスの監視役はトップのウィルソンではなく、アンカーのギマランイスだった。ただし、アンカーがアンカーに出て行く形でのマークになるので、常に張り付きっぱなしというわけではない。

 よって、トーマスは深い位置に降りることでフリーになることがそこまで難しくはなかった。DFラインと言わないまでもそれに近い位置まで下がれば、ギマランイスのマークからは離れることが出来た。ウィロック、ロングスタッフというIHコンビも対面の相手に対して出て行く志向が強かった。

 その結果、発生するのはDF-MF間のスペースである。このスペースで前を向く選手が出てくることでアーセナルの攻撃は加速する。特にウィロックが飛び込んでは逃がしてしまうため、アーセナルから見て右のハーフスペースは格好の加速場所になる。ウーデゴール、サカはこのスペースから敵陣に侵入。右サイドの奥から抉るようにニューカッスル人内に攻め込んだり、逆サイドのマルティネッリまで横断するような形でエリア内に迫っていった。

 序盤のチャンスはこのように中盤から手前の加速を生かし、前線の個人能力でニューカッスルのDF陣を上回るという構図が多かった。CF起用のエンケティアもその1人。ターンを生かしながらニューカッスルのDF相手にデュエルを挑み、前進のきっかけを作っていた。

 対するニューカッスルの保持にはアーセナルはどこまでついていくかを思案していた。ニューカッスルはバックラインからの組み立てでアーセナルのプレスを回避。CBに加えてアンカー、SBと人数をかけたビルドアップでまずはアーセナルからのショートカウンターを食わらないことを優先した判断に思えた。

 組み立ての主役となったのは右のCBのシェアとアンカーのギマランイス。この2人がフリーになるように動き回ることでボールを前進させる。10分手前のギマランイスがフリーになるための列上げフリーランや、バックラインからのシェアの持ち上がりなどから、右サイドのMF-DFのライン間に侵入していく。

 アーセナルのバックラインはニューカッスルの前線にピン留めされていたため、こちらも中盤のスペースが間延び。どちらも敵陣への前進の手段は持っている立ち上がりとなった。

 アーセナルに比べるとニューカッスルの前進はややロングボールに傾倒したものだった。ウィルソンなどの前線のターゲットへのハイボールがちらほら。それでも相手の守備網を破れなかったニューカッスル。アーセナルのバックラインに対応をされてしまい、ロングボール作戦もそこまで効果を発揮していない。

 ただ、きっちりとアーセナルの1stプレスラインを安全に越えることは遵守できており、そのためのボール回しを行うスキルはある。効果的な前進が出来ているかは別の話だが、アーセナルのプレスから波状攻撃を防ぐことは出来ていた。

WGだけを見ておけばいいわけではない

 序盤はゴール前まで迫ることができていたアーセナルだが、時間の経過とともに徐々にエリアへの侵入が難しくなっていく。その理由はニューカッスルの守備の重心が後ろに下がったからである。中盤のプレス志向を下げて、後方支援に集中する。具体的にはサカとマルティネッリに2枚のマークが行くような形をつくることである。

 立ち上がりのアーセナルがスムーズにシュートまで行けたのはニューカッスルの中盤と入れ替わる形で両サイドにボールを付けることが出来たから。すなわち、アーセナルのWGにマッチアップするSBへのフォローがままならない状態でニューカッスルが攻撃を受けていたからである。

 特にジョエリントンは秀逸なプレスバックを披露する。同サイドのバーンのカバーを完璧にこなしたといってもいいだろう。ジョエリントンが素晴らしいのはそれだけでなく、高い位置からのボール奪取も合わせて行えるから。ラインを上げた状態からでのカウンターも演出し、アーセナルのゴールに迫るきっかけを2,3回ほど作り出していた。

 ただ、アーセナルからするとWGにダブルチームというやり方はある程度織り込み済みであり、全く手が出ないわけではない。今回のようにWGとSBでアーセナルのWGにダブルチームにつく場合、気にしなければいけないのはSBを放置できるかどうかである。放置することができれば安心してWGのダブルチームに向かうことができる。

 だが、アーセナルのSBは放置しにくい。中でも大外を主戦場にするホワイトはニューカッスルにとって厄介な存在である。彼が外にいるのならば、WG、SB以外にニューカッスルはもう一枚サイドに選手を送り込むことになる。ホワイトがサカを追い越す形であればCBがカバーに入るのが妥当だろうか。手前で止まっているのならばIHが出て行くのが自然なように思える。となれば、どちらにしてもインサイドにスペースが生まれることになる。

 こうして連鎖的に生まれるスペースを最もうまく活用しかけたのが37分。華麗なパスワークから最後はトーマスのミドルで終わったシーンである。この場面はトーマスにはミドルではなく最終ラインの裏にラストパスを出してほしかった。

 右の大外にはホワイトのオーバーラップに対応する形でバーンがラインを下げて余っている。よって、CBに立っているエンケティアかボットマンとバーンの間にいたウーデゴールのどちらかを選んで欲しかった。ウーデゴールは動き出しはなかったが、エンケティアはパスを要求している。このパスが通れば大きな得点機会になっていたはず。いずれにせよ、トーマスがこの時立ったエリア付近でフリーでボールを持ち、ニューカッスルのラインが乱れた状態であれば、ブロックを攻略するチャンスはあったといえるだろう。

 左サイドで堅かったニューカッスルのバックラインを攻略するためのキーになっていたのはジンチェンコである。ニューカッスルの中盤は5枚がフラットに並びながらそれぞれのラインを背中で消しながら守っていることが特徴だったが、ジンチェンコはロングスタッフが背中で消していたと思っているコースにわずかなスキを作り通していく。図解では埋まっている場所でも彼にとってはそうではないのである。

 これまでのアーセナルの攻めについての記述で述べた通り、アーセナルの攻撃が完結するかどうかはニューカッスルの中盤のヘルプが間に合うかどうかが大きく関係している。そのための手段として中盤の5枚を縦パスでクリーンに越えることは有効である。ジンチェンコは個人でそうした縦パスを生み出せる稀有な存在としてアーセナルの保持に貢献していた。

 チャンスの種はあるものの、アーセナルはそのチャンスを開花させることがなかなかできず。右サイドではパスワークからフリーマンを作るのに苦労したし、左サイドでは大外のマルティネッリをフォローすることが出来なかった。対するニューカッスルも後ろを重くした分、前進ができなくなり沈黙。両チームのチャンスはセットプレーによる限られた機会によるものとなっていった。

サリバ→サカのパスが増えた理由

 後半、先にペースを握ったのはニューカッスル。右サイドからパス交換から大外の奥を取る形でアーセナルのラインを押し下げていく。右サイドの連携は見事で前半のアーセナルのように背後を取っていくニューカッスル。

 アーセナルもこの対応は悪くなく、エリア内でフリーの選手にシュートチャンスを与えないことで抵抗する。ショートパスからのロストでピンチを迎えたシーンはあったが、ローブロックの対応は軒並み問題がなかったといえるだろう。前半もそうだったのだが、アルミロンの得意な大外からバイタル方向へのドライブのコースをジャカがきちんと消せていたのが大きい。

 65分くらいになるとアーセナルは再び巻き返すように。きっかけはニューカッスルの守備の守り方が微妙に変わったことである。やはり、ニューカッスルとしては左のハーフレーン付近でうろちょろするジンチェンコが気になるのだろう。後半の途中からニューカッスルはCFがジンチェンコをケアするようになった。ウィルソン→ウッドの交代以降もこの傾向は継続したため、おそらくこれはベンチからの指示ということで間違いないように思う。

 左サイドからスムーズな前進は難しくなったアーセナルだが、その分CBへのプレッシャーはなくなる。特にジンチェンコのいない右サイドのCBであるサリバはニューカッスルのプレス隊から全く影響のない位置でボールを受けられるようになった。

 こうなるとニューカッスルはこちらのサイドでは不利に。アーセナルはサリバ→サカのパスが通るようになり、前半のようにニューカッスルの中盤がヘルプに来る前に攻勢に出ることができるようになった。右サイドは大外のサカとライン間のウーデゴールを軸に逆サイドへの展開とゴールへの侵入ができるようになっていく。

 しかしながら、この日のアーセナルには決め手が足りない。強固なニューカッスルのブロックを壊すには非常に難しいパスをつながなければいけない。体感としてはダイレクトパスが2回続けてつながれば、アーセナルはエリア内で前を向いて受けられる選手を作れていた。

 だが、この2回目のダイレクトパスの受け手がジャカになってしまうことがままあった。今季エリア内への飛び出しは向上したとはいえ、狭いスペースでのコントロールやフィニッシュはより前の選手に比べると劣る。

 チャンスの数が多ければ、そうしたこだわりもある程度我慢できるのだが、この試合くらいチャンスの数がシビアだと、誰がエリア内で受けるかにもこだわる必要がある。左サイドはジンチェンコが後方支援、マルティネッリが大外の構造が多かったため、ジャカがPA内に侵入する役割が増えるのは仕組みの上での話として自然である。このエリアにエリア内での前を向いてのコンパクトなフィニッシュワークとマルティネッリのサイド攻撃のフォローができるタレントがいれば、投入したかったところ。もちろん、非保持のリスクはあるが、アルミロンが下がって以降のニューカッスルの右サイドであれば、そのリスクを飲み込む価値はあるように思う。

 ただ、この日のアーセナルのようにそうした人材がベンチにいないのであれば、交代に踏み切れないのも理解ができる。サン=マクシマンが左サイドに入ったことを踏まえれば、終盤に右サイドからのアーセナルの攻勢が強まるのも納得。左サイドのテコ入れをせずとも、得点が入る可能性も否定できない展開だった。

 だが、終盤のポープのセーブなどに阻まれてしまい、アーセナルは結局無得点で終了。終盤の猛攻が実らず試合はスコアレスドローで終わった。

あとがき

補強も大事だけど

 ニューカッスルは非常に粘り強く強固な相手であった。ホームであれば勝ち点3は欲しかったが、今の陣容であれば打てる手がなかったというのも納得は出来てしまう。ただ、今後のカップ戦との並行での日程を考えると、さすがにこの試合のような押し切り方を繰り返すわけにはいかない。補強も大事だが、現有戦力の突き上げも必要。年間通しての強さを維持できるチームなのかを問われる後半戦になるだろう。

試合結果

2023.1.3
プレミアリーグ 第19節
アーセナル 0-0 ニューカッスル
エミレーツ・スタジアム
主審:アンディ・マドレー

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