レビュー
ビルドアップに問題はないが・・・
リーグ戦からのスタメンの入れ替えは7人。3トップとガブリエウの4枚はリーグ戦の連戦から継続で先発を務めることとなった。メンバーは入れ替わろうと、原則となるフォーメーションに手を入れないのが今季のアーセナル。特に保持においてはいつもと変わりないバランスで攻撃を進めるプランに見えた。
オックスフォード・ユナイテッドのフォーメーションは4-3-3がベース。ここからもう一枚が高い位置に出て行く形で4-4-2に変更する形はあるものの、中盤の枚数を合わせることがまず第一にあるフォーメーションだった。オックスフォード・ユナイテッドのプレッシングは比較的積極的で、高い位置から捕まえに行く機会が多い。ただし、枚数を合わせてのハイプレスは行わないという部分は明確に守られていた。
オックスフォード・ユナイテッドの4-3-3から4-4-2への変形もアーセナルの保持に対しては後追いになることが多く、変形が遅れがちであった。加えて、プレスで枚数を合わせない方針ということはバックラインからの支援もない。後方がプレスに動かず、前方の選手だけ後追いでプレスに仕掛けるという状況はアーセナルにとっては好都合。相手のプレスを引き込みつつバックラインからの前進のルートが確保出来ている状況だった。
オックスフォード・ユナイテッドにとって厄介なのは、アーセナルの中盤の選手が上がっていく動きである。アーセナルの前線によってDFはピン留めされている状況で、アーセナルの中盤が前に出てくれば、オックスフォード・ユナイテッドの守備陣は対応に困るだろう。
この日の前半のアーセナルがチャンスを迎えた場面の多くは列をあげたIHが前向きでDFライン手前の高い位置でボールを持てた時である。ファビオ・ヴィエイラから逆サイドのサカにボールが渡った場面や、左のハーフスペース付近でロコンガがボールを持った時などはかなりアーセナルにチャンスが出来ていた。
だが、この日のアーセナルの序盤の問題点はこうした動きがあまり多く見られなかったことにある。理由の1つは高い位置でのポジションの取り直しが遅く、静的であることだ。この難点は主にロコンガにみられるもの。アーセナルのパスは縦に大きく進むものが多いが、そうした場合にWGのサポートに入る動きがこの日はとても遅かった。
ジャカが高い位置をスムーズに取っているというのは今季のアーセナルの躍進の要件の1つである。この部分でロコンガの動きが遅くなることでマルティネッリのサポートに入れずにパスの出しどころがないケースがこの試合では多々あった。
また、ロコンガが高い位置を取れた時も並行サポートの位置で止まることが多かったのも難点だ。そのまま同サイドに抜けるなど、動きを付けることでマルティネッリの仕掛けの選択肢も瞬間的に増える。ロコンガに相手の中盤がついていけば、自らがカットインすればいいし、ロコンガを無視すればそのまま裏にパスを出せばいい。
こうした動きを付けるにはオフザボールの動きの活性化はマストである。この日のオックスフォード・ユナイテッドはライン間の守備をコンパクトに保つことが出来ていなかったため、ロコンガとしては突っ立っている位置でも受けられるよ!という発想なのかもしれない。だが、WGが仕掛けるというタイミングを図るという意味では周りがサポートに回った方がいい。1対1のように見えて1対1ではないのがサッカーなので。
一方のファビオ・ヴィエイラはシンプルに降りてきてのプレーの精度が低かった。つなぎの局面でのミスが多く、低い位置でのミスを引き起こし、オックスフォード・ユナイテッドのチャンスを引き起こしていた。前から述べているが、ファビオ・ヴィエイラは精度勝負のキャラクターなので、こうした細かいミスは他の選手よりも見逃せない部分である。
まとめると、アーセナルはハイプレスを食らったときの配置は問題がなかったが、その配置を取るためのタイミングや正確なパス等のプレーの精度に問題があり、IHが高い位置で前を向いて触るというこの試合のチャンスメイクの源が実現できなかったということだろう。
守備からリズムを作れない
もう1つ、違う要素で気になったのは両SBである。彼らは敵陣でボールを持ってからのフェーズにおいて気になる部分があった。前を向いてからのプレーの精度の高さはティアニー、冨安の双方に求めたい。
冨安は15分のように右サイドを器用に裏に流れるシーンは合ったものの、そこから先のクロスが合わない。ティアニーに関しては冨安に比べても抜け出す場面を作るのに苦労していたが、クロスが流れてしまうのは冨安と同じである。
現状の両SBの1stチョイスがやたらとオープンの時のキックの精度が高い選手なので、多少見劣りしてしまうのは仕方がない。だが、SBが放っておけない存在であることが相手にとってめんどくさいことはここ数試合のアーセナルが実証している部分。特にクロスの精度に関してはこの日のオックスフォード・ユナイテッドのプレッシャーの強さであればもう一段階要求したい部分ではある。
オックスフォード・ユナイテッドのボール保持は非常にゆったりしたものだった。前線へのロングボールも活用しないこともないが、バックラインからのゆったりとしたショートパスでの前進が基軸になっていた。
オックスフォード・ユナイテッドが保持で急がなかった理由の1つとしてはアーセナル側のプレスの意識の低さが挙げられる。トップにエンケティア、ウィングは左右差があり、より前に出て行くサカが外切りでプレスをかけるという部分はいつもと同じだが、中盤のプレッシングの強度はいつもより低い。
普段であればファビオ・ヴィエイラのポジションの選手はもっとバックラインに積極的にプレスをかけに行くはずだ。この部分はおそらくこの日のプランなのだろう。リーグ戦に比べれば明らかに4-5-1のような形で中盤をプロテクトする形が多かったし、ハイプレスに出て行く形は少なかった。前半からエンジンを無理にかけずに後半勝負というところなのだろう。
ただ、非保持に関しても注文がつかなかったわけではない。中盤が相手を捕まえるとなれば、増えるのはバックラインの長いボールへの対応である。バックラインとオックスフォード・ユナイテッドの前線とのデュエルでは特にティアニーとホールディングの対応が怪しい場面が目立った。
とりわけホールディングはパワーとラインコントロールの部分で後手を踏んでおり、出来としてはいつでもレギュラーに代われるという太鼓判を押しにくいものになってしまった。特に後半に見られた抜け出しを許したシーンはハイラインを信条とするアーセナルからすると見逃せない部分である。
また、即時奪回については攻撃につながるという部分を加味してももう少し力を入れたいところ。例えば、37分のようにロコンガがボールを寄せたシーンはしっかりと取り切りたい。攻撃に関してはビルドアップ→大きな前進のフェーズで前に人数をかけられないことが前半の不振の原因と指摘したが、守備からいい攻撃のリズムが生まれなかったこともまた攻撃が停滞した一因といえるだろう。
押し上げる動きについていけないオックスフォード・ユナイテッド
後半になるとアーセナルのギアは一段階上がったように思える。特に動きに違いが見えたのは保持におけるオフザボールの動き出し。この部分が圧倒的に増えたことである。
前半は指摘した通り、アーセナルは中盤が押し上げるタイミングが遅いせいで縦パスの後の攻撃の構築がままならなかった。しかし、後半はそうした側面は取り除かれた。前線が低い位置に降りる動きも活性化したが、ロコンガが高い位置を取るタイミングはかなり整理されたように思う。54分のシーンのように、CFと入れ替わるように前線に飛び出す場面を作ることができればアーセナルのチャンスはかなり広がる。予想通り、アーセナルの前線のケアに注力したオックスフォード・ユナイテッドのバックラインはロコンガの動き出しについていけなかった。
ジャカ、ジンチェンコが入ると左サイドを中心にさらにビルドアップが勢いがつくように。相手のプレスをいなす動きという前半にすでにできていた部分に、ポジションを取り直して前進を促せる2人が加わったことで敵陣への人数をかけた侵入がスムーズにできるようになった。
そんな中で先制点はセットプレーから。左サイドで獲得したFKをファビオ・ヴィエイラがエルネニーに合わせて先制。時間はかかったが、順当にアーセナルが均衡を破ることに成功する。
これ以降、オックスフォード・ユナイテッドはさらに積極的に前からのプレスを行っていく。しかしながら、彼らのプレスは後方の更なる間延びを呼ぶだけである。後半にアーセナルの前進の契機となったのは右サイドのハーフスペース。DF-MF間に侵入したアーセナルの選手が前を向くと、エンケティアにラストパスを出す形でさらに2点アーセナルが加点する。
特に、2点目は中盤でボールをカットしたジャカと囮として外に逃げて見せたサカの動きが秀逸。スコアに絡むスタッツがついたヴィエイラとエンケティア以外の選手たちも褒められるべき出来だった。
3点目もエンケティアの身体を張った競り合いと落としを拾ったマルティネッリの見事なコンビネーションが光った。後半は力量差を見せてきっちり競り勝ったアーセナル。スミス・ロウの試運転も済ませ、強豪とのリーグ連戦の準備を整えた一戦といえるだろう。
あとがき
現有戦力の突き上げは欠かせない
控え選手とスタメンの差というのは今季のアーセナルを表現するための頻出ワードであるが、この試合もそこについて触れる必要はあるだろう。冨安、ティアニーを含めた比較的信頼できるバックラインのバックアップ―も含め、リーグ戦から入れ替わったメンバーは手放しで賞賛できる内容ではなかった。
結果を最も出したのはファビオ・ヴィエイラだろうが、つなぎの局面でのパスミスがあまりに多く、消える時間も短くはない。勝負のパスを出すことでは繋ぎの局面でのマイナスのパスのミスは帳消しにではできない。組み立ての部分でもスムーズさを付けてレギュラー争いに殴り込みをかけたいところだ。
基本的には冬の補強は多くとも2人。現実的になれば1人かなという気もしている。となれば、リーグ戦優勝には現有戦力の巻き返しが不可欠。ベンチメンバーがどこまで役割を担えるかが後半のアーセナルのポイントになるだろう。
試合結果
2023.1.9
FA Cup 3回戦
オックスフォード・ユナイテッド 0-3 アーセナル
カサム・スタジアム
【得点者】
ARS:63‘ エルネニー, 70’ 76‘ エンケティア
主審:デビッド・クーテ