芸は身を助ける
ウルブス×ウェストハムに続き、こちらも残留争いにおける注目カード。ボトム3に沈む両チームの直接対決である。オーナーとサポーターとの関係が悪化の一途をたどるエバートンと新監督が就任した後にも全くリーグ戦(カップ戦はやたらと絶好調である)での浮上の兆しがないサウサンプトンの一戦。共に順位にきっちり見合った苦しいチーム状況だ。
いきなり試合はゴッドフリーが座り込むところからスタート。エバートンファンは肝を冷やしたことだろう。というか、しれっとスタメンにいるけどイウォビは先週1ヶ月くらいの離脱って言ってませんでしたっけ。
どちらのチームも苦しい内容で試合は進んでいく。バックラインは数的優位を確保しているはずのサウサンプトンだが、3バックは詰められるとあっさり蹴りだしてしまうのは前節と同じ。サウサンプトンのトップであるアダムスは体を張れるタイプではあるが、無造作にバックラインから放たれるボールをビシバシ収めることができるほど体格的に恵まれているわけではない。
後ろに枚数を揃えているのは守備面での色が強いかもしれないが、重心が低いからこそ攻撃に転じた時には全体を前に押し上げることができる前進手段が欲しいところである。右サイドから飛び出すウォード=プラウズのような奮闘をする選手はもう少し増えてほしい。
ロングボールを収めるという意味ではその部分が長所であるキャルバート=ルーウィンがCFに起用されているエバートンの方が一枚上といえるだろう。ちなみにこの両チームの布陣の座組は似ていてCFタイプ(アダムス、キャルバート=ルーウィン)とSHと2トップの一角のハーフ&ハーフ(エドジー、グレイ)のコンビ。非保持においては5-4-1色が強くなるのも共通点である。
中盤でのエバートンの保持に対して、やたらサウサンプトンがナーバスなタックルを繰り返していたのも印象的。セットプレーでの余計なピンチを与えてしまい、不要に攻めの機会を作られることもしばしばだった。オープンプレーではなかなかチャンスができない両チームだっただけに、セットプレーで機会を当ててしまうのは痛恨である。
そして先制点は危惧していた通りにセットプレーから。エバートンのCKをオナナが押し込み、パワーに物を言わせる形でエバートンが先制する。セットプレー自体の守備も怖かったサウサンプトンは前半の内にあっさり決壊をしてしまう。
ただ、前半の終盤あたりから徐々にエバートンの守備陣の跳ね返しの性能が怪しくなってくるように。サウサンプトンは後半の初手で同点に追いつく。起点となったのはウォーカー=ピータース。彼の縦パスを収めたアダムスが抜け出したウォード=プラウズに合わせて同点。前半に似たような抜け出しのチャンスをアダムスから貰いながらも決められなかったウォード=プラウズにとっては何とか同じ形で同点に追いついた形である。エバートンは3人のCBがあっさりと無効化されてしまうという切なさがあふれる失点となった。
共に試合途中に4バックにシフトするなど、この得点以降は散発的に生まれる両チームのチャンスを何とか前線を増やす形で受けよう!という意識は見られた。だが、なかなか効果的で安定した前進から押し込むことができない。
サウサンプトンは中盤のフィルターの薄さ、エバートンは無駄なファウルの多さが際立ってきた後半だったが、決め手になったのはセットプレー。名手・ウォード=プラウズに十分すぎるキックのきっかけをエバートンは与えてしまっていた。ウォード=プラウズのFKはもちろん名人芸の領域だが、これに対してやたらニアを空けてしまっていたピックフォードのポジションには疑問が残るところである。
失点後もエバートンはちまちまとファウル奪取と放り込みで対抗。失点シーンではファウルを犯してしまったゴードンも保持面ではいいアクセントになっていた。だが、試合はサウサンプトンが逆転勝利。連敗を止めるウォード=プラウズの2ゴールでエバートンを同じ勝ち点まで引きずり込むことに成功した。
ひとこと
芸は身を助けるというがこの日のウォード=プラウズの一撃はまさにこれに当たるだろう。互いに安定しない試合運びの決め手になる武器であった。
試合結果
2023.1.14
プレミアリーグ 第20節
エバートン 1-2 サウサンプトン
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:39‘ オナナ
SOU:46’ 78‘ ウォード=プラウズ
主審:ジョン・ブルックス