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「芸は身を助ける」~2023.2.11 プレミアリーグ 第23節 アーセナル×ブレントフォード レビュー

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レビュー

フォーメーション選びとプランのギャップ

 エバートン戦で敗れてリーグの無敗記録が止まってしまったアーセナル。ミッドウィークに控える優勝を左右する大一番に向けて、この週末はなんとか勝利をあげたいところ。得意のロンドンダービーという舞台ではあるが、対戦相手はリーグ戦9試合無敗が続いているという難敵ブレントフォード。プレミアにおいてはニューカッスルに次いで無敗が続いているチームである。アーセナルは無敗が止まったタイミングで厄介な相手と戦う巡り合わせとなった。

 プレビューで触れたブレントフォードの注目ポイントはどちらのフォーメーションを選ぶかである。4-3-3というより静的で、かつアーセナルが勝ち点を最近落としているエバートンやニューカッスルが使用した陣形を採用するのか、あるいは3-5-2という直線的でビッグクラブとの対戦で頻繁に使う形を採用するのかである。

 結果から言えばブレントフォードは後者のフォーメーションを採用した。しかしながら、ハイプレスをかけて高い位置からボールを奪い、直線的にゴールに迫っていくという彼らのトレードマークのようなスタンスが前面に出ていたわけではなかった。立ち上がりこそ、単発で前線がプレスに行くことはあったが頻度は非常に散発的。アーセナルが何回かこのプレスを交わすと、プレスの意欲は一気に低下し、ブレントフォードは低い位置でブロックを組むようになった。

 5-3-2のフォーメーションはWBの手前、IHの横のポジションが立ち位置的に空きやすい。よって、保持側はSBが時間をもらえることが多い。前節のエバートン戦のレビューで触れたサカのインサイドにドリブルする動きはSBのホワイトがIHを引きつけることができれば比較的簡単にできる。

 しかしながら、そうした中盤が高い位置に出てくることで結果的にライン間のギャップを作る動きをブレントフォードは徐々に行わなくなる。リトリート主義に舵を切るスピード感や、はじめのプレスの思い切りのなさを見ると、自陣深くにブロックを構える形はトーマス・フランクがあらかじめ準備していたプランなのだろう。ブレントフォードのような好調なチームのこうした割り切りを見ると、自分たちは首位にいるのだなということを実感する。

 アーセナルはこの試合において、ビルドアップで困ることは90分を通してなかったと言える。プレスをかけられた際もバックラインは難なく回避していたし、むしろ背後をつくことができる大きなチャンスである。アーセナルのビルドアップの要であるトーマスもほとんど放置をされていたと言っていいだろう。トーマスから自在に左右のサイドにボールを配給するところまではアーセナルは何の問題もなく行うことができていた。

 撤退守備において5-3-2では4-1-4-1でエバートンやニューカッスルが仕掛けてきたようなWGへのダブルチームをつける難易度はやや上がる印象である。実際に、この試合においてはアーセナルのWGに対してダブルチームを仕掛ける頻度はあまり高くはなかった。

 逆に5-3-2で構える時のメリットはサイドのトライアングルに対して、比較的簡単に抑えることができることである。サイド攻撃の基本戦は大外、ハーフレーンそして後方支援の形がベース。この形を動き出しで壊してから三角形を再び構築する。この動きを繰り返しながら相手にマークの受け渡しなどのアクションを強いることでサイドを壊していく。

 5-3-2であればIH、WB、同サイドのCBの3枚でこのサイド攻撃の要である3枚はマンツー気味に抑えることができる。よって、アーセナルは数を合わせられたサイド攻撃にてどのようにリアクションするかが重要なポイントとなってくる。

シビアなクロスが求められる

 前節は特に左サイドにおいてWGが孤立してしまったアーセナルだったが、こうした問題は解消傾向にあった。左サイドではジンチェンコのサポートが増加。この日のアーセナルは先に述べた通り、トーマスが非常に自由だったため、ビルドアップにおけるジンチェンコへの負荷は低かった。そのため、サイドへのサポートに力を割くことができていた。

 右サイドにおいてもウーデゴールが積極的に流れる頻度を増やしていたアーセナル。1stステップであるサイド攻撃に必要な人数を揃える段階はクリアしていたと言えるだろう。エンケティアがボールサイドの逆側のWG、さらには後方のCBなども積極的に顔を出して時には乱数を増やす試みもできてはいた。

 問題はここからである。サイドは同数で構えられるため、相手を外す動きを見せなくてはいけない。ビルドアップで前に進むことを問題なくできる代わりと言っては難だが、アーセナルはこのフェーズにはシビアに取り組む必要がある。

 というのもブレントフォードの5-3-2のブロックは非常に高さがある。5-3-2のもう1つの利点であるブロックに人を揃えることができるという部分に彼らの特性であるフィジカル強度が合わさっている形だ。そのため、ふわっとしたクロスボールは簡単に無効化される。両チームの競り合いとなるような場面はほとんどブレントフォード側に軍配が上がっており、この辺りは流石の強度を感じさせる。

 よって、アーセナルはクロスに工夫を施す必要がある。スペースに素早いクロスを上げることや、ファーに余っている選手に届けるなどは有効な手段である。42分の左サイドのクロスなどはその代表例。大外に余った選手にボールを届ければ、守備側の視点は大きく揺さぶられる。こうなれば、インサイドでのマークにズレが生じやすい。非常に対応しにくいクロスと言えるだろう。

 しかしながら、こうしたクロスを上げることができる場面は実際には多くはなかった。速いクロスにトライすればニアに引っ掛けやすくなってしまうし、滞空時間が長いクロスを上げればファーサイドでも競りかけられてしまったりなどなかなかうまくはいかない。サイドで相手を外せなければそもそもこうしたクロスをクリーンに上げることができる頻度も少なく、アーセナルは苦労していた。

 特に左サイドはまだ1人の動きに対して他の選手が連動しながらスムーズにプレーすることができていない印象。材料は揃っているけども、レシピがわからないといった風情で1人の動きに対して効果的なアクションを連鎖的に起こしていくことができなかった。

 右サイドは健闘しており、特に40分以降は抜け出すタイミングを作りながらブレントフォードのラインコントロールに対して先手を打てる場面もあった。このサイドはベン・ミーの存在が厄介。同サイドで抜けてきた選手を埋めつつ、いざとなればマークがずれてしまったサカの迎撃にもいくなど広い範囲で活躍することができていた。

 非保持ではエバートンと異なる課題を突きつけてきた感があったブレントフォードだが、保持面では似ているアプローチを仕掛けてきた部分もあった。それは前線へのロングボールでの陣地回復である。ラヤを軸としたフィードで一発で陣地回復を行うことができるのはエバートンと同じである。

 トニーの存在感はさすがで、長いボールを収めてきっちりと陣地回復をしてみせた。それにしても苦戦しながらもトニー相手にも何とか食らいついていけたことを踏まえると、先週のキャルバート=ルーウィンのパフォーマンスは異次元だったように思う。トニーですら、キャルバート=ルーウィンほどの百発百中感はなかったので、1週間空いてあらためてその凄さを感じた。

 ハイラインでボールを奪いたいアーセナルだが、引きつけながらも裏をついてくるブレントフォードのアプローチに苦戦。WBを活用しつつ最終ラインを引き出すと、その空いた最終ラインのスペースにロングボールを放り込んでくる。例えば、一番はじめのヘンリーの決定機は、ジンチェンコを引き出したところから背後を長いボールで使う形であった。

 ブレントフォードはエバートンに比べると、左右の広い範囲にロングボールを当てることが多かったのは、こうしたロングボールの使い方で勝負したからだろう。ロングボールを拾った後の攻撃バリエーションはエバートンよりも豊富。飛び出すヘンリーやIHは攻撃に厚みをもたらしていたし、トニーの相棒のムベウモはサイドの抜け出しを中心にチャンスメイクを行っていた。トニーがクロスバーに当てたシーンにおいてもムベウモの抜け出す動きがトリガーになっている。

 スコアは共に0で終わっているが、ゴールによりクリティカルに近づいたのはブレントフォード。そんな印象の前半だった。

先制点の崩しは満点

 後半の立ち上がりも前半と似たものだった。ブレントフォードは手始めにプレスを仕掛けてみるが、あっさりとこれはアーセナルに撃退される。そうなるとすぐさまブロック守備を敷く形にシフトしていく。

 ただ、ブレントフォードのボール周辺のホルダーへのプレスはやや弱まった印象。サイドから中央の狭いスペースに刺す機会は前半も後半もあったが、後半の方がより快適にプレーできた感じは見られるようになった。サイドの崩しは前半終盤のいい流れを汲んでいた感もあり、右サイドは抜け出す頻度を増やしながらゴールに迫っていく。

 ブレントフォードもトニーのロングボールからチャンスを作っていく形を模索。ただ、トニーのシュートが惜しくも枠をとらえきれなかった60分手前のシーンを境にブレントフォードは重心が下がっていく。ロングボールでは優位を取れていたことを踏まえると、アーセナルの攻撃の終わらせ方を寸断するやり方が段々とクリア的なやり方に傾倒してきたように思う。それだけこの時間帯はアーセナルの攻撃がブレントフォードの守備の中枢に迫っていたということだろう。

 アーセナルは完璧な形で先制点をゲットする。右サイドにおいて、ホワイトとサカの二段構えでの大外の抜け出しからサカが相手を振り切りラインブレイクに成功。この動きに対してブレントフォードのバックラインは完全において行かれてしまう。折り返しに反応したのは唯一この動きについていくことができたトロサール。無人のゴールに丁寧に押し込み、アーセナル加入後初ゴールを決めて見せる。

 失点に対するブレントフォードのリアクションはあまりいいものとは言えなかっただろう。ビハインドになったことで繰り出したハイプレスの守備はあっさりとアーセナルに外されていたし、ラヤのキックがあっさりとサイドラインを割る場面もあった。

 そうした悪い流れにおいても自分たちの武器を貫くことで解決策を見つけたブレントフォード。セットプレーから同点ゴールをゲットする。FKからファーにボールを送ると、そこからエリア内でボールを繋ぎ続けて最後はトニーがゲット。オフサイドに関する議論を呼ぶ場面もあったが、このゴールは結果的には認められてブレントフォードが同点に追いつく。

 追いかけたいアーセナルは左サイドにファビオ・ヴィエイラを投入。右サイドのようなハーフスペースの抜け出しを期待しての交代だろう。順足でよりラストパスに優れているヴィエイラの投入に期待されるものは明確だった。後半はエンケティアが左サイドからの抜け出しでゴールに迫るシーンがあったので、この抜け出しをヴィエイラができればエリア内にエンケティアが残る状態で攻撃は完結できるという青写真だ。

 しかしながら、なかなか思ったようにヴィエイラが抜け出す場面は作れず。左サイドはトロサールがインサイドと繋がれる機会が増えた分、前節よりも明確な改善は見られたが、ブレントフォードの守備ブロックを崩すには十分ではなかった。

 試合は1-1のドローで終了。アーセナルは公式戦3試合未勝利でシティとの直接対決に挑むことになる。

あとがき

 苦しい時間帯だったブレントフォードが追撃弾をセットプレーから上げたシーンを見ると、芸は身を助けるという言葉が思い浮かんだ。アーセナルもやるべき方向性でのアプローチはできているので、成績ほど心配はしていないが、タフなチーム相手に苦しんでいる状況を見るとやはりプレミアは難しいリーグだと思わされる。

 この試合のブレントフォードのアプローチを見ると、首位相手故の割り切りをしてくるチームは今後も増えてくる可能性がある。そうしたときにこの日のアーセナルのポゼッションでの崩しが「芸は身を助ける」と言えるレベルまで引き上げられるよう、1試合1試合真摯に取り組んでいきたいところだ。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
アーセナル 1-1 ブレントフォード
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:66′ トロサール
BRE:74′ トニー
主審:ピーター・バンクス

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