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「5バックだったのか?」~2023.2.14 UEFAチャンピオンズリーグ Round16 1st leg パリ・サンジェルマン×バイエルン マッチレビュー~

目次

空白の大外右レーン

 CLのRound16の目玉といっていい一戦は優勝候補同士の激突。パリ・サンジェルマンとバイエルンが相まみえる。

 メンバー的な注目ポイントがあったのはパリである。離脱していたムバッペはギリギリベンチに間に合った一方で、中盤ではリーグ戦に引き続きザイール・エメリが抜擢されるという意外性のあるメンバー構成だった。

 バイエルンはリーグ戦から3バックを継続採用。カンセロとコマンという異なるタイプのWBを大外に置く布陣である。非保持では3-4-3だったバイエルンだが、ボール保持においては2CHの一角であるゴレツカは1列前に入りながらある程度自由に振る舞うことが許されていた。よって後方はキミッヒをアンカーとする3-1型で形成されることが多かった。

 パリはバイエルンに対しては高い位置からのプレスでボールを取ることは放棄していた。2トップの機動力を考えると数的不利で技術的にも高い水準であるバイエルンの守備陣を追い回すことは無意味だということだろう。インサイドを固めながら相手に使われたくないスペースを消すことを優先する立ち上がりだった。

 一方のパリの保持に対してはバイエルンは積極的なプレッシングを見せていた。同サイドにきっちりと追い込むような形でパリのバックラインから時間を奪ったように思えたが、降りてくるパリの前線とSBはこうしたプレスには慣れっこ。プレスを脱出して安全なところまでボールを運ぶことが出来ていた。

 構図は異なるが、保持側のチームがゆったりとボールを回せる環境を構築できたという点ではどちらの保持の局面も少し似ている。よって、攻守の切り替えからのチャンスが比較的少ない展開になっていた。

 ただし、保持から敵陣に迫るという部分においては前半は明確にバイエルンに軍配が上がったといえるだろう。狭い4-4-2を敷くパリに対して、バイエルンは徐々に大きな展開で4-4-2を広げるアプローチを行っていく。

 崩しのキーマンになったのはコマンである。左の大外で彼がボールを持ったタイミングでインサイドが空けばムシアラ、ゴレツカ、サネにボールを渡して前を向かせればいいし、自分を放置してくれるのならばカットインからエリア内に迫ればいい。スピードに乗ったコマンであれば少なくとも1枚は簡単に抜いてクロスを上げることができる。

 パリのインサイドはコマンの進撃により徐々に苦しいクロス対応になり、跳ね返しに距離が出ないようになる。こうなるとパリの保持の局面はグッと減るようになる。それでも単発の攻撃であわやという場面を作り出すメッシは偉大。いびつさがありながらもパリが強いチームであることを示すことは忘れない。

 後半は両チームともに選手交代と共に方向性をやや変えて来た。よりわかりやすかったのはバイエルンの方だ。WBをカンセロからデイビスに入れ替えて、大外で直線的に振る舞える選手を両サイドに配置する。

 一方のパリはSBのハキミを下げて、キンペンベを投入。CB色の強い選手を3枚にする。放送では実況と解説が「3バックでWBがメンデスとエメリ」と紹介していた。確かに大外からのコマンの仕掛けにパリが苦労していたのは事実なので、5バックで大外を迎撃しやすくするというのは良い対応策のように思える。

 しかしながら、実際にはエメリが担当しているとされる右の大外のレーンは非保持においては空洞になることが多かった。素直にエメリが担当することもあればヴェラッティやダニーロが出て行くこともあるし、後方のマルキーニョスが横にズレることもあった。ゾーン要素があまり感じられない現象ではあるが、特に人基準のマンマークという感じもしない。前方のメッシとネイマールの守備のタスクのねじれなのか、そもそもエメリが役割にコミットできていないのか、他の理由があるのかは判断がつかない。

 よって、後半に変化を伴って見られたパリのシステムが5バックといえるものかどうかは微妙なところ。少なくとも大外→大外で完結したコマンの先制ゴールはパリの右の大外への対応が後手に回ったことから始まっている。大外で1枚抜かれたというプレーの結果なら仕方ない部分もあるが、そもそもの対応が決まっていない感があった故の後手だったのでちょっとモヤっと感が残る失点となった。

 モヤモヤの残る失点ムードを向き飛ばしたのは途中交代のムバッペ。彼の登場で試合は一気に動き出すこととなる。まず、目を見張ったのは投入と同時に見られたパリの直線的な動きの増加である。ムバッペ自身が左のハーフスペースから抜け出すことによる活性化ももちろんあるが、他の選手も素早い縦の動きを増やしながら上がったゲームのテンポについていった。

 保持だけでなく、非保持におけるプレッシングの強度も増すのだから驚きである。パリはまるでムバッペが入る瞬間を心待ちしていたかのように一気に躍動。ドンナルンマの大立ち回りで何とか2失点目を許さなかった先ほどまでとは全く別の顔を見せる。

 バイエルンもこのパリの姿勢に対して真っ向勝負。ハイラインを維持しつつ、高い位置からのプレスで殴り合いに応戦する。ムバッペにはネットを揺らすシーンが用意されていたが、惜しくもオフサイドでゴールは認められず。真っ向勝負に応じたバイエルンの男気は魅力的だが、パリ相手に速いテンポで殴り合うリスクも感じたはずである。

 試合は-0-1でアウェイのバイエルンが先勝し、突破に向けて一歩リードを得てアリアンツ・アレナでのリターンレグを迎えることになった。

ひとこと

 理詰めの前半で圧倒したバイエルンを殴り合いの後半でパリが盛り返すという構図は試合としてシンプルに面白かった。交代の意図が見えた先制点もバイエルンのカラーでパリのファジーな部分を殴る関係性になっており、この試合の全体図を象徴するものになったいたようにも思える。

試合結果

2023.2.14
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 1st leg
パリ・サンジェルマン 0-1 バイエルン
パルク・デ・フランス
【得点者】
BAY:52‘ コマン
主審: マイケル・オリバー

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