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「ミス主導の流れの変化」~2023.4.9 J1 第7節 ガンバ大阪×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

先制点以上に流れを変えたのは

 川崎はルヴァンカップの浦和戦に引き続き、4-2-3-1型の踏襲でスタート。アンカーの隣に誰が立つか?が今季の川崎では議論になることが多いが、この形においては素直に瀬古と橘田というCHコンビが入ることが多い。

 SBは大外のポジションを取ることが多く、配置はあまり多くは変わらない。4-2-3-1という初期配置に対して、今の川崎は非常にオーソドックスなイメージ。この印象も浦和戦から引き継がれているといっていいだろう。

 相手のG大阪の非保持のスタンスも比較的浦和に近く、バックラインには無理にプレスの強度を上げてこないあたりは類似している部分といえるだろう。川崎のバックラインは立ち上がりから横幅を使いながら相手を外す動きをトライできていた。札幌戦では前が空いていてもあまり何もできなかった大南だったが、この試合においてはそれなりにいいトライも見られた。12分の外を見せておきながらインサイドに刺すパスは効いていた。

 川崎は自陣からのビルドアップはスムーズであり、G大阪のミドルゾーンまでは進むことが出来ていた。ただし、これは2列目が素早く帰陣するというG大阪の狙いとかみ合った感じがある。ミドルゾーンにおける横パスをカットしてからカウンターを放つという流れがG大阪の反撃のパターン。カウンターの旗頭であるアラーノがいるG大阪の左サイド側は川崎が主にこの試合攻めに使っていたサイド。前半の激しいマッチアップはこのサイドで行われていた。

 浦和戦からの継続でいえば、右の大外を基準とした崩しはそれなりに機能していたが挙げられる。永長のようなドリブラーはいないが、きっちり外に開けば相手は横幅をコンパクトにはできないし、ハーフスペースに走り込めばダワンはそちら側に引っ張られる。トップ下のチャナティップは積極的に流れることで家長と山根と連携できるなど、中央の選手を右に流しながらサイドを使うことで数的優位を創出。こうして、川崎は問題なくペナ角でフリーの選手を作ることが出来ていた。

 ただし、問題はここから。クロスを上げられる位置でフリーでボールを持っても、肝心の飛び込みで相手を外すことが出来ない。クロスへの入り方は浦和戦でも課題になっており、押し込む状況を作れてもなかなか得点につながる形に持っていくことが出来なかった。

 川崎のもう1つの攻撃手段はライン間のチャナティップ。インサイドながらターンからドリブルでボールを運べるチャナティップはいわゆる縦に早く進む選択肢であり、マルシーニョがいなくなった代替手段ともいえる。こちらの方がクロスも不要であり、今の川崎にとっては有望だったかもしれない。

 一方のG大阪は序盤から押し込まれる展開が続く。裏のアラーノなど単発では川崎も押し返されるが、アンカーのネタラヴィが封じられ、トップのジェバリには2枚で囲むことが出来ている序盤戦は川崎に対して反撃をするのが難しかった。

 アンカーをフリーにするメカニズムについては4分の半田のようなカットインドリブルなど、いくつかの手段は見えたが、現状では明確に実装をされていない様子。整っていない状況での強引な縦パスは川崎がボールを回収する手助けになっただけであった。

 20分を過ぎるとやや試合の潮流がかわる。まずは、トップ下のチャナティップがネタラヴィを追いかけきれずにフリーにする場面が徐々に出てくるように。宮代がトップに留まればカバーができるのだが、この試合において宮代はトランジッションで前残りをする家長の代わりにサイドのケアに入っていたため、前プレスには参加できない場面も多かった。

 家長とチャナティップの受け渡し程度であれば、ネタラヴィは周りの手助けを借りずとも1人で簡単に前を向けるだろう。ネタラヴィが前を向く機会を得ることで徐々に前線のメカニズムが構築されていくG大阪。序盤はてこずっていたジェバリも1on1であれば最低でもファウルを取ってくるという体の張り方で起点になる。こうして、ネタラヴィの解放とジェバリのポストからG大阪は徐々に川崎側の陣内に迫っていく形を増やしていく。

 川崎としては難しいところである。チャナティップは現状保持において見れば狭いスペースでのプレーを苦にせず、ドリブルで前に運べるチャナティップが欲しいのはわかる。だが、こんなに簡単にキーマンに前を向かれてしまってはどうしようもない。なお、強度面でこのタスクを担えそうなのは脇坂だが、この日はベンチ外。チャナティップと同じく強度面で不安がある小塚がベンチに入った。

 確かに脇坂はややパフォーマンスが落ち気味で、浦和戦でも決定機を無駄にしてしまってはいたが、それでもネタラヴィ対策としては明らかにチャナティップよりも小塚よりも適性があるだろう。少なくともベンチには入るべき存在だったように思える。このあたりは鬼木監督の今年の基準が信用できるのか?と言いたくなってしまうあたりではある。

 さて、押し込む機会を得たG大阪はセットプレーから先制する。ブラジル人不在のスタメンにおける身長的なミスマッチは明らか。ダワンが山根の上からのヘッドで先制点を決める。

 この先制点は川崎にじんわりと悪い流れをもたらす。保持において川崎の流れが変わったのは先制点よりもだいぶ前の13分。インサイドに強引につけたソンリョンのパスミスから石毛が決定機を迎えたシーンだった。このシーンでは事なきを得たが、ソンリョンはこれ以降ロングキックを優先して選択するようになった。

 先述の通り、G大阪のプレッシングに対して前進するという観点ではこの日の川崎はいい入りが出来ていた。それだけにこの変化は歓迎できないものだ。このシーン以降はもうCBが幅をとりながらバックラインからつなぐチャレンジはほとんどなくなってしまった。先制点を取って以降は、G大阪がより前進に対して手数をかけて確実に行うようになったため、川崎は押し込まれるわ保持からの押し上げは出来ないわという苦しい状況になっていく。

 前にボールを送る状況が悪くなった川崎は、徐々に惜しいシーンもなくなってくるように。前線で裏抜けを試みる宮代にピンポイントでパスが入ることを祈るサッカーになっていく。ちなみに、序盤は機能していた右サイドと異なり、左サイドは初めから死んでいた。遠野がきっちりと幅を取るタスクをせず、登里が孤立する流れであったから、初めからこちらのサイドは捨てていたか、あるいは遠野が求められた仕事をしなかったかのどちらかだろう。

宮代の苦しい事情


 川崎がビハインドで迎えた後半は両チームとも選手交代なしでスタート。というわけで見られる盤面もほとんど変わらない展開となった。G大阪が結果を出したのは後半開始すぐ。右サイドでネタラヴィをフリーにしてしまったことで逆サイドに展開を許して、アラーノにスーパーゴールを決められてしまった。

 G大阪視点からすると見事なゴールだ。縦パスとリターンパスを駆使してネタラヴィをフリーにし、広いスペースに展開。大外とカットインの2択を川崎に突きつけつつ、マークが甘いと判断したアラーノが自らシュートを放つ。シュート自体の技術の高さを抜きにしても十分楽しめるゴールだろう。

 逆に川崎はアラーノに対する寄せ方が甘かった家長という問題点はあるものの、基本的にはネタラヴィに簡単に前を向かせて逆サイドの展開を許したのが良くない。その責任者はこの場面においては宮代だろう。チャナティップが三浦を追いかけるようにG大阪の右サイド側のケアに出て行ったため、ネタラヴィの監視役は宮代だった。

だが、縦パスをキャンセルした三浦からのパスに対して、宮代はネタラヴィを消すことが出来ず。再び右サイドに追い込んでからもネタラヴィを逃がしてしまい、簡単に脱出を許してしまった。アラーノにシュートを許した責任は家長にあるが、ボールを逆サイドに展開されたことは宮代に責任がある。

 しかしながら、情状酌量の余地もある。前半にも述べたように、流れの中で宮代は家長が埋められない分のSHのスペースを埋めるタスクをこなすことも多かった。この2点目のシーンにおいても、直前は右のSHまでスペースを埋めた直後のシーンである。ネタラヴィが逆サイドに流れた影響もあり、宮代は逆サイドまでマーカーを追う必要があった。つまり、家長のカバーとチャナティップとのマークの受け渡しによる守備の過負荷がこのエラーを呼んだと取ることも可能だろう。

 2点のリードを得たG大阪は撤退を優先するように。しかしながら、撤退守備における判断はそれなりに怪しい場面は多く、リスクをかけて多くの人数をサイドに流した川崎には追いつけるチャンスがないこともない展開だった。

 それを台無しにしたのが車屋の退場劇である。受ける側の家長が準備ができていない部分もあったが、基本的にはこのパスミスは出し手の責任だろう。車屋の位置からは家長の後方からボールを狩りに来ているG大阪の選手が見えているはずだし、そもそもこの場面で家長に預けたプレーがうまくいったとて、その先に大きなメリットが転がっているわけではない。しなくてもいい賭けに出て、弱すぎるパスで相手にカットする隙を与えた結果、自らを退場に追い込んでしまったという場面だ。前半のソンリョンのパスミスと同じく、不要なチャレンジで自らの首を絞めたプレーといえる。

 この場面より先については正直あまり論じることが多くない試合になった。更地になった場所を耕すような泥臭い作業を延々と繰り返すのみだ。そうした状況でも懸命にプレーする山田には頭が下がる。それ以上でもそれ以下でもない。

あとがき

そんならしさは捨てていい

 G大阪の得点は都度大きなファクターになったと思うが、それ以上に流れを変えたのは常に川崎のミスである。ソンリョン、車屋のミスはそれぞれ前後半の川崎の劣勢を決定的なものにしたといっていいだろう。立ち上がりは似た苦しみを抱えている両チームらしい展開だったが、保持のソリューションを明確にしていったG大阪と対照的に、川崎は不要なリスクの伴うチャレンジをきっかけに、正しいチャレンジもできない状態になり、最後は勝負にならなかった。

 負傷者が出ていることは仕方がない部分もあるだろう。だが、この試合のように不用意な退場でチャレンジの機会をなくしてしまうのはとてももったいない。そして、そういう状況をチームに長く在籍する選手が進んで引き起こしているというのが情けない。今年の川崎らしいといえばらしいが、そんならしさは今すぐ捨て去ってしまって何の問題もない。

試合結果

2023.4.9
J1 第7節
ガンバ大阪 2-0 川崎フロンターレ
パナソニックスタジアム吹田
【得点者】
G大阪:29‘ ダワン, 50’ アラーノ
主審:飯田淳平

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