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「福岡の特性を利用したチェーン分断」~2023.4.29 J1 第10節 アビスパ福岡×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

福岡の特性を利用する後方サポートの活用

 福岡は4-4-2のフォーメーションを採用。前節の3バックから4バックにシフトし、回帰路線を選択することとなった。メンバーとしては負傷交代した中村のところには田邉が入った。

 一方、川崎はマイナーチェンジ。メンバーを変えずに中盤の配置を若干逆三角形のテイストを強くした状態でこの試合に臨んだ。

 福岡は基本的にはここ数試合の傾向に非常に沿った試合の入りをしたと言えるだろう。前線はアンカーを受け渡すのではなくCBに基準点を置く。中盤はこの前線のプレスに呼応するように列を上げていく。よって、序盤は川崎のボール回しにボール奪取意欲がマシマシな福岡の中盤が襲いかかるという構図だった。

 立ち上がりに車屋、脇坂などが安易に相手の予想が立ちやすいところにパスを出したせいで、福岡のカウンターを誘発してしまったのは川崎の反省点と言えるだろう。ただ、それを差し引いても序盤の福岡の中盤の守備の出来は悪くなかった。川崎のマイナスパスに対して、ラインアップのアクションをかかさず行っており、川崎の後方は圧力にさらされること。よって、序盤は福岡がショートカウンターからチャンスを握る流れとなった。

 だが川崎はすぐに福岡の守備への打開点を見つけることができた。というのは福岡の前プレス隊は強気でプレスにはいくものの、人を基準に抑えることはしない。よって、アンカーのシミッチが比較的フリーになりやすい状況が続くことに。動き回るシミッチは特に誰の力を借りることもなく、ボールを受けては反転して前を向くことができていた。

 インサイドはシミッチの移動に合わせて瀬古がサポートに降りてくるアクションを入れる。シミッチは自身が捕まっている時は前を向こうとせずに、開くCBにボールをつける。開いた位置でボールを受けたCBはボールを前に運ぶことができるスペースを享受していた。

 中央でボールを受けた選手がフリーになった後はサイドに大きく展開。サイドでもレイオフをしながら前を向く選手を作っていく。例えば右サイドにはおいては家長が大外に張りつつ開いたポジションを取った高井がサポートに入る。

 この試合の川崎は積極的にマイナス方向のやり直しのパスを使っていた。背負う選手の後方にきっちりと受け手を置き前を向く。先に述べたように福岡はマイナス方向のパスには中盤のラインの上げ直しを積極的に行うスタンスが目につく。

 川崎がこの試合で多用したのは後方のサポートにレイオフでボールを戻すことで、福岡の2列目をバックラインに食いつかせ、再度大外にボールを預けた後に、ハーフスペースからラインブレイクを狙う形である。重要なのは後方のサポートをきっちり使い、自陣側に福岡のSHを引き寄せること。マイナス方向のボールを入れることで福岡のSHとSBのチェーンを寸断。福岡のSBを孤立させてその周辺を攻め立てる形が目立った。

 大外の家長、もしくは右サイドやや中央寄りにサポートに入るシミッチが右サイドの攻撃の起点。ニアのハーフスペースで抜け出す機会の創出を狙うか、左の大外を目掛けたクロスが選択されることが多かった。

 大外の左サイドへのクロスは余っていることが多かったので、選択肢としては悪くはない。ただ、川崎の左サイドに入った遠野、登里は上背がないため空中戦を強いられてしまうと分が悪い。そのため、右サイドから一手ずつ同サイドに引き付けて逆サイドまでのサイドチェンジを行い、グローリや前嶋に広い守備範囲を守らせるか、もしくは登里のゴールのようにグラウンダーのラストパスから手早くフリーマンを活かせる形を作れれば左サイドを活用することができる。

 先制点のシーンにおいては右サイドの脇坂の打開が見事。こちらのサイドに引き付けた中盤を振り切り、逆サイドにアシストを決めて見せた。中盤で言えば、左サイドも瀬古が積極的にボールが出ていくことで、これまでの課題だったサイドへのサポート不足は幾分か解消されたように思う。

 川崎の左右のIHは非常にフィーリングが良さそう。サイドでの3人目の動きとなるプレー、前線への飛び込み、ビルドアップのサポートが的確。サイドへのサポートを欠かさないながらも、変に中盤を開けるケースがなく、今の川崎の中盤のタスクが比較的板についてきたと言えるだろう。

 大外の家長、そして中盤のシミッチを軸に福岡を押し込んでいく川崎。福岡にとっては苦しい展開が続く。大外とハーフスペースの挟み撃ちと大きなサイドへの正確な展開、そして頼みのサイドのチェーンが切れたことで、積極的なプレスはむしろ川崎の前進の養分になっていた。

 押し込まれた状態ではルキアンをきっちり押さえ込んでくる高井の頼もしさが際立つ。この年齢でルキアンと張り替えるのは立派。ただし、迎撃に積極的になりすぎてしまい、遅れて出て行っては入れ替わられてピンチになる場面もあった。継続しての課題であるため、この辺りは試合を重ねていくことでアジャストしていきたい。

 中盤でフリーマンを作ることができない福岡はサイドに素早くボールをつけての攻略を狙う。だが、頼みの綱の紺野は登里のマークとシミッチのサイドへのスライドによる二段構えで全く存在感を発揮できず。シミッチのスライドが決まり続けていたということで、福岡のボール保持が川崎の予測の域を出ることがなかったことを示していると言えるだろう。

 福岡の攻撃のチャンスは中盤でフリーマンができるか次第だった。前半の追加タイムにおいて前がボールを持てたシーンから前進ができた場面はこの一例と言えるだろう。この場面ではグローリを追いかけすぎた宮代と中盤の連携が合わずに、福岡の中盤を開けてしまったのが反省点になる。

 しかし、そうした機会はあまり多くはなかった。福岡はこうした文脈とは別に前半の中盤にセットプレーからチャンスを作る。CKからルキアンが瀬古のマークを振り切ることができたシーンは千載一遇の同点のチャンスだったが、福岡はこれを活かすことができず。試合は0-1の川崎のリードのままハーフタイムを迎える。

課題は更なる得点で解決

 後半、川崎は早々に欲しかった追加点を奪うことに成功する。左サイドの大外でラインブレイクした登里から、ファーの家長にライナー性のクロスを届けるとニアに飛び込んだ宮代が追加点を奪う。

 形としてもきっちり川崎の特性を生かされた良いゴールだったように思える。揺さぶってクロスを入れるための登里の抜け出し→ファーへの家長はより良い形を狙うための必要なワンステップだった。その場で待って受けるのではなくスペースに入り込む形でボールを引き出した宮代は対空性能に優れる福岡のDF陣とのマッチアップにおいて、どこで勝負すれば自分の良さを出せるかをきっちりと見出すことができていた。

 2点目のシーンで良かったのは登里の縦パスのところで一気に福岡のラインに後退のアクションを敷いていたこと。形はやや違えど、今季トライしている山根を中央に入れるアクションから縦パスを素早く狙う動きも、相手のバックラインに素早い撤退を促すという部分においては通ずる部分があると言えるだろう。

 後半は山根がインサイドに入ってのゲームメイクを行う場面が増えた。51分のシーンあたりはかなりスムーズに前に進めることができていた印象。脇坂や瀬古に比べればやや少しずつではあるが、彼も彼なりに今季のスタイルになじむステップを見出すことができている。脇坂がスムーズにレーンを入れ替えながら山根をサポートしていたのもなかなか印象的だった。中盤とのバランス、前線に飛び出していく意識、縦への速い攻撃への理想点のバランスをこの試合である程度きっちり提示ができたことは今後のチームにとっては大きなプラスになるだろう。

 2点のビハインドを突きつけられた福岡はロングボールからの陣地回復と、背走する川崎の後方部隊に対するプレッシャーをセットで突きつけるように。高井や脇坂が冷や汗をかかされるなど、川崎は脅かされる場面が徐々に出てくる。

 福岡はサイドにロングボールの起点を作りつつ、ポストプレーで中盤をフリーにするという、川崎の前半の前進の原動力となった形を活用して、川崎の即時奪回を破りにかかる。川崎は3センターを中心にこの福岡の動きに対してよく食らいついて行っていたが、60分すぎに瀬古が警告を受けたシーンなどを見る限り、やや受け切ることに怪しさが出てきた時間帯に入ってきたと言えるだろう。

 川崎は前節の浦和戦ではリードしているにもかかわらず、60分過ぎから試合の制御を失ってしまうという課題が突きつけられている。この試合でも瀬古の警告の時間帯のあたりはそうした課題が顔を覗かせる場面が出てくるようになっていた。

 だが、川崎は更なる得点でこの課題を回避。強気でプレスに出てきた福岡の前線に対して、左サイドから一発で遠野が裏をとると、その遠野に並行サポートを間に合わせることができた宮代がゴール前に。これが奈良のオウンゴールを誘発し、試合を決定づける3点目を手にした。

 終盤、福岡はウェリントンを投入し、FWの佐藤を左サイドに入れるなど、右サイドからのクロスが効きやすい形を作る。そして、この形から一矢報いることに成功。佐藤がレーンを入れ替えてクロスに入ったことで川崎のバックラインの混乱を引き起こし、この折り返しを鶴野が沈めたことで福岡は85分に1点を返すことに成功する。

 だが、反撃はここまで。大南、山村と堅実な交代カードを切り続けた川崎は終盤の福岡の攻撃をシャットアウト。2点差をきっちり守り切り、2年連続で博多の森の制圧に成功した。

あとがき

 川崎にとっては文句なしで今季のリーグ戦でのベストゲームと言えるだろう。自分たちのやりたい縦へのスピード感への出し方と局面における人数の掛け方、そしてそれぞれのプレーにおけるリスク管理などの調和が見事。ようやく今季のベースラインにたどり着いたと言ったところだろう。

 福岡の2列目のバックラインを追いかけ回す習性を利用したビルドアップも相手を見ていて非常に好印象。自分たちのやりたいことと相手と向き合うことの両立も見事だった。土砂降りの中でもボールコントロールが乱れないスキルの高さも見事。雨でも水溜りができない福岡のグラウンドキーパーの見事な仕事もこの日の川崎にとっては幸運だった。

試合結果

2022.4.29
J1 第10節
アビスパ福岡 1-3 川崎フロンターレ
ベスト電器スタジアム
【得点者】
福岡:85′ 鶴野怜樹
川崎:12′ 登里享平, 47′ 宮代大聖, 65′ 奈良竜樹(OG)
主審:山本雄大

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