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「最後にすがるもの」~2023.5.3 J1 第11節 京都サンガF.C.×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

家長の不調だけではない

 5月の晴れ渡るような亀岡での対戦はまるで昨年の状況の焼き直しかのようだった。中3日というシチュエーションも昨シーズンと同じ。日程的にも天候的にもタフな状況での一戦となった。

 そういったタフな環境や気温でも京都のプランはいつも通りであった。川崎のバックラインに対して、高い位置からプレスに出ていく。早いテンポでのプレーから川崎をおいていきたい意志が垣間見える立ち上がりだった。

 川崎からするとこれまでの試合のように車屋-高井-上福元のラインは距離をとってボールを動かしたいところ。しかしながら、序盤の川崎の保持のスタンスはやや慎重寄り。バックラインからの繋ぎは無理にショートパスにこだわることはなく、ロングボールが主体。まずはきっちりとボールを逃すことを優先する立ち上がりだった。

 それでもこれまでに比べれば川崎の後方からのボールはただ捨てるというアクションに比べると保持を意識したものだった。というのも上福元のミドルパスはソンリョンのロングボールに比べると、空いている選手に向けて繋ぐ意識が強いものだったからである。だが、これをマイボールにするアクションまではスムーズにいかず。セカンドボールの拾いあいをなんとか制することはあったが、ビルドアップに組み込んでいくというレベルにするにはもう一段階精度を上げる必要があるだろう。

 時間の経過とともに川崎は徐々にショートパスに軸足をシフト。京都のプレッシングを短いパスで外していくトライを行っていく。相手を背負っている中盤に縦パスを出してサイドに展開。もしくはCBでWGを引き寄せて、SBをフリーに。SBで京都の中盤を引き付けて代わりにシミッチをフリーにしていた。

 京都のCFにWGが追従するプレスに対する川崎のリアクションは良好。10分もすればショートパスからプレスを好転させることで、バックラインからの前進のルートを見つけることができていた。

 だが、そこから先のアタッキングサードの攻略が効いていたかは微妙なところである。ボールの預け先になっていたのは右サイドの大外に陣取る家長。京都の佐藤との1on1のマッチアップ。ここは後方からのロングボールの的になる機会もあるポジションだった。

 大外でボールを受けた家長が佐藤と正対する場面までは問題なく作ることができる川崎。しかしながら、この先がない。1つは単純に家長のボールコントロールのフィーリングが怪しいこと。パスが短かったりズレたりなどの彼自身のコンディションに問題があるように見えた。

 その一方で周囲のサポートも適切ではないように見えた。奥を取るアクションが少なく、手前のパスコース作りはかぶることが多い。家長がパスを出そうとしては躊躇ってしまい、展開を動かせないという状況そのものは家長だけに責任があるわけではない。彼とともに右サイドを動かそうとできなかった周りにも同様の責任がある。

 序盤に攻撃が活性化したのはここからさらにもう一度逆サイドを取るアクションで京都のスライドの逆を撮った時。押し下げた後の京都は4-5-1のブロック形成を優先し、比較的シミッチのマークを開けやすかった。左サイドの遠野のカットインからのミドルを活用できた時である。しかしながら、これもややワンパターン。効いていた即時奪回からの波状攻撃か、あるいはセカンドボールから中央をドリブルで切り開いていくことができる脇坂に打開を頼むかの二択の方が有望だったように見えた。

異なるアンカー起点の攻撃のカラー

 京都のボール保持はロングボールが主体。序盤から躊躇なく長いボールを蹴り込んでいく。しかしながら、このロングボールに対しては川崎は余裕を持って対応。シミッチがラインを下げながら山崎と競り合うことでロングボールの防波堤として機能していた。

 故に京都のロングボールは苦しいものとなった。ただでさえ高さで優位を見込めるかは怪しい状況な上に、押し込まれてしまい、ロングボールの出し手は苦し紛れになってしまう。そうなると長いボールでの一発の陣地回復は難しくなる。川崎は中盤とバックラインで山崎を挟み込みながら京都のロングボールを無効化していく。

 自陣からの脱出には苦労した一方で、敵陣にボールを進めることができてからはそれなりに京都側にはやりがいがあった。たとえばSBを上げるのに成功した時。11分のように登里のサイドを破るアクションなどを見せることができれば、エリア内にはクロスの受け手は十分。サイドにきっちりボールを届けて1枚剥がすことができれば、ハイクロスでも十分にチャンスの創出はできるだろう。

 さらに京都はショートパスでも徐々にチャンスの創出に成功していく。川崎の中盤のプレスの旗頭はシミッチ。素早い左右のスライドから京都のショートパスからの自陣の脱出をことごとく封殺。ボールを回収し、そこから波状攻撃を仕掛ける立役者として中盤に君臨していた。

 だが、逆に言えば京都はここさえ交わすことができれば、川崎の後方にスペースがある状態を作ることができる。このスペースへの入り込みが見事だったのが川﨑。後方で彼がフリーになってボールを受けることができれば、パス交換から潰しに出てきたシミッチが空けたスペースに入り込むことでチャンスを創出する。川﨑は高井を警告に追い込むなど、この日はパス交換からの抜け出しに存在感を見せていく。

 川崎はシミッチをフリーにすることでポゼッションの安定化を測ることができていたが、京都は川﨑をフリーにすることで縦に入り込んでいく攻撃を展開することができるように。異なる司令塔の活用方法を展開していった。

 試合は前半は決定機の少ない展開に。脇坂が中盤からキャリーして、宮代にボールを預けつつもう一度エリア内に入り込みネットを揺らしたシーンを作ることはできたが、これはオフサイド。試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。

最後に控えていた大仕事

 後半、立ち上がりに良い攻撃を見せたのはホームの京都。早い段階でサイドを使うことで川崎のSBを引き寄せて、その背後に人を走らせることでサイドの奥を取ることに成功。左右のサイドからクロスを上げることで川崎を攻め立てていく。

 川崎はボール保持でもプレスを巻き直した京都に対して気圧される展開に。立ち上がりに相手のプレスによって押し込まれるのは前半と同じ展開と言えるだろう。

 川崎はバックラインの距離が近くなり、ポゼッションは時限爆弾のように。中央では相手を背負った選手に無理なパスをつけてしまうなど、冷や汗をかかされるシーンも出てきた。バックラインの中では車屋が比較的簡単に蹴ってしまいがちなので、京都のプレスはここに追い込んでからロングボールを蹴らせて回収というルートが目立った立ち上がりだった。

 その流れを食い止めたのは家長。50分に縦パスを引き出すと、左サイドにサポートに走った登里に展開することで京都のプレスのターンを終わらせる。人にプレスが来ていて呼吸ができない時はなんだかんだ家長。この日は安定感を欠くプレーの方が多かったが、ことプレスの脱出においては大きな役割を果たしていた。

 川崎は右サイドでタメを作り、左サイドからSBが上がることでボールを縦に運ぶアクションは後半にかなり見られた。登里はもちろんのこと、大南投入以降に左SBに車屋が入ってもこの動きは再現性があり、川崎の前進ルートとして機能していた。

 川崎は時間の経過とともにボール保持から陣形を整えていく。時間の経過とともにプレスに慣れて保持で時間を作れるようになるという流れもまた、前半とまた同じ展開だ。高井が少ないステップからサイドを変えるキックを見せるなど、立ち上がりはバタついていたバックラインも徐々にポゼッションに参加していく。

 そうした落ち着いた流れを乱したい京都はパトリックを投入。ロングボールの的を一新することで川崎にプレッシャーをかけていく。

 交代選手で雰囲気を変えたいのは川崎も同じ。こちらは負傷明けのマルシーニョを活用することで、依然高いラインをキープしていた京都の背後を狙っていく。

 だが、マルシーニョはゲームチェンジャーにはなれず。こちらはあまりにも川崎の後方がシンプルに早い段階で彼の裏勝負を強引に仕掛けるようなパスを出し過ぎてしまったのが要因だろう。手前で相手を止めるアクションも少なく、単純な競走に終始してしまっては彼の持ち味は半減してしまう。今の川崎のビルドアップであれば、こうした事態は十分に避けることができるはず。マルシーニョの活用の仕方についてはもう少し設計が必要なように思えた。

 対する京都はパトリック投入で威力を増したセットプレーから活路を見つける。そのパトリックとともにファーに狙いを定めた麻田の折り返しからパウリーニョがネットを揺らす。来日以来、川崎からしか得点を決めていないパウリーニョがまたしてもゴールを決めたかと思われた場面だったが、これはオフサイド。上福元が遅れてしまった飛び出しがオフサイドのラインを変えることにつながるという怪我の功名で川崎は失点を回避する。

 川崎は山田と小林を前線に並べる2トップにシフト。京都もイヨハを入れることで5バックにフォーメーションを変更する。京都の5バックは背後の枚数を確保しつつ、ハイプレスは継続という良いところどりの様相が強め。川崎は前線の枚数を増やしたことにより、京都のプレッシャーに対して積極的に蹴るようになっていた。

 こうしたロングボールが飛び交う展開になると途中投入の大島の存在感が消えてしまうのはいつもの川崎の流れである。しかしながら、この日は後半追加タイムに彼に決定的な仕事のターンが。インサイドのポストで時間を作ったマルシーニョからボールを受けた大島は浮き玉のファーのクロスを小林に送る。

 井上と白井に監視されていた小林はファーに膨らむ動きから井上を外して白井と空中戦に挑む。この空中戦に競り勝って、若原の頭上を超えるようなヘディングを逆サイドに。寸分狂わず設計されたヘッドは見事にすっぽりと。

 帰還したエースと中盤の舵取り役の決定的な大仕事。後半追加タイムの劇的ゴールで川崎は今季初めての連勝を飾ることとなった。

あとがき

 強度がある京都のプレッシングに対して、時間の経過とともに解決策にたどり着いたことは収穫だ。その一方で盤面を制御して押し込むアクションを長い時間できていた前半にもう少しクリティカルなチャンスは欲しかった。特に脇坂が絡まないルートでの攻撃は物足りなさが際立つ。シミッチからの展開は安定していただけに、その先の設計はもう一声欲しいところ。後半の課題となるマルシーニョの活用とともに向上していかなければいけない部分である。

 後半の乱戦ムードからはなかなか確固たる流れを掴めなかったことは満足とは言い難いが、こうした指摘はこの日の劇的な結末の前では野暮であると言えるだろう。大島や小林がこのチームに存在感を見出すことができるかどうかはスタイルの適用云々よりも彼らにしかできないスキルを見せられるかどうかであると個人的には思っている。理屈っぽく戦ってもうまくいかなかったその先に頼りたくなるもの。彼らにはそこに君臨してくれればいい。10番と11番はこの日の川崎が最後にすがるものとして素晴らしい働きを見せることができた。京都まで遠路はるばる足を運んだ川崎ファンにとってはこれ以上の手土産はないだろう。

試合結果

2023.5.3
J1 第11節
京都サンガF.C. 0-1 川崎フロンターレ
サンガスタジアム by KYOCERA
【得点者】
川崎:90+4′ 小林悠
主審:今村義朗

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