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「前向きに捉えるとするならば」~2023.5.20 J1 第14節 横浜FC×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

縛りプレーがいい流れを堰き止める

 両チームとも主力に出場停止選手がいる神奈川ダービー。その出場停止の選手以外でもンドカ・ボニフェイス、サウロ・ミネイロ、マルシーニョといった面々がベンチから外れるなどメンバーを入れ替えが目立ったスカッド構成となった。

 ただ、予想される試合の大きな流れにはそこまで大きな影響を与えるものだったとは言えないだろう。横浜FCは川崎にボールを渡し、FWの伊藤はアンカーの橘田をケア、川崎のCBはプレッシャーがない状態でボールを持つことを許してもらえる展開になった。

 CBがフリーでボールを持つことを立ち上がりの川崎はそれなりに利用できていたように思う。車屋は相手のシャドーが出てくるまでボールをリリースせずに我慢していたし、山村は外の山根を囮に使いインサイドのパスコースを作るなどのアクションをしていた。横浜FCのシャドーは守備の基準点が曖昧なので、CBとSBを織り交ぜながらシャドーを通過するという川崎のアプローチは理に適っていると言えるだろう。

 DF→中盤への川崎のボールの受け渡しはそれなりに時間とスペースを渡すことができた。川崎の中盤は時間の優位を生かしたターンでフリーになることはできていた。アンカーの橘田もパス交換を繰り返す流れでマークが外れることが多く、中盤がボールを持って前を向ける状況を作るのは難しくはなかった。

 しかしながら、川崎の攻撃がうまく流れていたと表現するには違和感がある。その理由の一つは不在の選手が担っていた役割を埋めることができなかったことである。真っ先に不在を感じさせたのはシミッチ。この日の川崎が普段と最も違ったのは、中盤での左右の揺さぶりが効かなかったことだ。

 先に述べたように中盤はマークを外れることがあったが、相手の薄いサイドの付くような素早いサイドチェンジはほとんど見られることはなかった。よって、崩しは同サイドに偏ることになる。どちらのサイドを攻めるかを決定し、そのサイドに人数を偏らせながらショートパスを繋いでいく。

 先に挙げた車屋と山村のゲームメイクもあくまで同サイド攻略の入り口。横浜FCの誘導を裏切るような前進はあまり多くはなかった。片側サイドの攻略に傾倒する方針の分、家長や大島といったいわゆるボールプレイヤーは自由に左右を動き回ることを許容されていた。

 狭いスペースの攻略を意図していた川崎だが、横浜FCはそうしたスタイルに環境面で対策をしていたのだろう。芝の影響からか川崎のパスワークがスピードが上がらなかった。特にこの影響をモロに受けていた感があったのは大島。個人的には近年パススピードの低下が顕著だと思っているのだが、この試合では特にパススピードが上がらずに苦戦していた印象である。同サイド崩しの縛りプレーをしている川崎にとっては苦しいディスアドバンテージだ。

 大島は左サイドの後方支援役からエリア内にいくつかパスを通していたが、そのパスのほとんどは浮き玉だったのは偶然ではないだろう。同サイド攻略に固執する分、奥行きを積極的に使わざるを得なかったという理由もあるかもしれないが、環境面の影響を受けている感じはかなりあった。

山積みだった守備面の課題

 当たり前だが、浮き玉を出口とするパスは難易度が上がる。この日の後方のメンバーはシミッチがおらず、CBは車屋と山村のコンビ。カウンター迎撃に不安があるため、この精度の低下は川崎にとっては痛かった。さらに川崎は同サイド崩しのためにポジションを偏らせていた。よって、ロスト直後においてはさらに後方の迎撃は不安定なものになっている。

 川崎は落としを受ける役を準備しないのに強引に中央に縦パスを刺したり、パスをひっかけたりすることによって危険なカウンターを受ける機会があった。明らかに守備に悪影響を及ぼすタイプのミスだ。だが、そういった事情を差し置いたとしてもこの日の川崎の守備は受け入れ難いクオリティのものだったと言わざるを得ない。以下に気になった点を箇条書きで羅列する。

  • 宮代、プレスバックの挟み込みのタイミングが一歩遅く相手を逃してしまう。
  • 瀬古、引っ張られやすい割にホルダーに制限をかけきれないので守備が数的優位の場面で後手に回る。逆に一発で飛び込んで交わされる場面が多い。
  • 橘田、ヘルプに行く時に1人目の守備者の方向を考慮した守り方ができず、自らの方向へのカットインについていくことができない。
  • 山根、ギリギリのタイミングでのタックルの成功率が低い。
  • 車屋、自分の持ち場を離れた守備で寄せが甘く通過される。
  • 遠野、外切りハイプレスを仕掛けるが、逆サイドの家長はリトリートして守っているので逃げられる。後方の登里も呼応できず、プレスが孤立する。

 家長、大島の運動量や登里の空中戦、山村のスピードといったわかりやすい弱みを抜いてもこれだけ気になるところがあった。特にこの試合では川崎の2人の選手がボールにアプローチに行っているのに、横浜FCの1人の選手に簡単に入れ替わられている場面が非常に多かった。こういった場面においては瀬古と橘田が特に悪目立ちしていた。

 瀬古はプレータイムの増加に伴い、評価を高めている印象があるが、個人的にはもう少し改善点を減らしたいと思ってしまう。守備における挟み込み、刈り取る部分の強度とでていく判断の精度のどちらも物足りない。低い位置からのパスには光るものはあるが、この試合では長いパスを縦に通した後にそのボールの落としを受ける選手がいないように思えた。横浜FCのプレス強度を踏まえれば、もう少し前のスペースでプレーする頻度を上げて、PA内で脅威になってほしい。

 少し話が逸れたが、川崎はこれだけ守備で懸念がある仕上がりだった。よって、横浜FCのボール保持の機会は非常に少なかったが、ボールさえ持てればそこまで難儀することはなかった。

 ましてや、カウンターであれば川崎の守備の精度や判断はさらに悪くなることは十分に推測がつく。横浜FCはカウンターから先制点をゲット。大島の浮き玉を引っ掛けた(これもいかにもこの試合らしい)ところから、横浜FCはカウンターを発動。上で挙げた守備の難点のうち、この場面で失点のトリガーになっているのは右サイドから山下に寄ってきた結果、簡単に自分のサイドの裏を取られた山根だろう。

 後方の選手が好き放題苦しめられた結果、自由な横断から井上に先制点を許してしまった川崎。だが、失点の種に関してはすでに先制点の手前の段階で撒かれていたと言えるだろう。ボールに引き寄せられては自分のいたスペースを簡単に使われる中盤とSBがいれば、横浜FCは空いているスペースを使うだけで簡単にゴール前に進むことができる。まるで、横浜FCが進むべきボールの道筋を川崎が丁寧に教えているかのような守り方だったと言えるだろう。

「4-2-3-1だから点が取れる」ではない

 逆に川崎の攻撃においては相手を動かした影響を活かすアクションは欲しかった。特に宮代のサイドの裏抜けに呼応するインサイドに入り込む動きがなかったのは気になった。攻守に鈍い動きと精度の低いプレーを見せていることは否めないが、インサイドに入り込むプレーでシュートに絡む機会が増えた登里がスターターなのはなんとなく理解ができる。

 遠野にはこうした仕事をもう少し担ってほしかったところ。中央でポストの落としを受けたチャンスの場面もあったが、ややボールタッチにまごついてしまい、シュートまで持っていくことができなかった。狭いスペースでプレーするには足元の精度がもう少し欲しいと言える。

 大外のワイドにはこの日はマルシーニョがおらず、控えにもWGタイプの選手はいない。大外で1on1を仕掛けられる選手がいないのであれば、1人が動いたときに断続的にその影響を活用することはマストと言えるだろう。

 右サイドはそもそも外から内側に入っていく動きができる選手がいない。DFラインを下げる方向にクロスを上げる家長はともかく、精度の低いハイクロスに終始していた山根への対応は久しぶりの出場となったモラエスにとっても楽なものだっただろう。

 この辺りの外→中への接続の部分の不出来は脇坂の不在が顕著である。サイドに3人目として入り込むアクションと、PA内に入っていく動きの両面でこの日の川崎は不具合を抱えることとなった。

 後半もペースとしては同じ。川崎はボールを持ちながら横浜FCのブロックを攻略していく。この構図から横浜FCは追加点をゲット。右の大外を駆け抜けた山下が追加点を仕留める。対応した車屋はスピードで負けたというフィジカル面と、インサイドのレーンに止まっていれば遅らせる対応は可能だったのでは?という判断の両面で疑問があるパフォーマンスだった。

 2点を追いかける川崎は4-2-3-1へのシフトを行う。普通に考えれば、中央のロングボールとクロスの的を増やし、そこからサイドの深い位置を使うためのアクションなのだろうが、瀬古と山根が守備で軽いプレーを続けていた右サイドに瀬川が登場したことで実質的には守備の手当てになっていたのも興味深かった。

 2点のリードを得た横浜FCはよりローラインの意識を高めていたため、川崎の4-2-3-1へのシフトは流れに沿ったものだとは思う。左SBを大外レーンで1on1ができる佐々木にシフトしたのも非常に自然な流れと言えそうだ。

 前半は機能していなかったサイド攻撃は徐々に復活。右サイドでは山村の攻め上がりをはじめとして多くの人数を割きながらパス交換をすることで、抜け出してからのクロスが少しずつ出てくるように。横浜FCの最終ラインは前半よりはめんどくさい対応を迫られることになる。左の佐々木の登場も横浜FCの守備をサイドから抉る役割を見せていた。

 波状攻撃に成功した川崎はFKから瀬古が追撃弾を得る。チャンスが増えて、実際に得点につながっているのであれば、頭から4-2-3-1にすればいいのでは?と思う人もいるだろう。だが、これは4-2-3-1にしたからというよりも4-2-3-1にして「後方の枚数を担保することをやめた」から増えたチャンスと捉えるべきである。

 例えば、瀬古のFK弾につながったファウルの前のシーンを見てみよう。右サイドからのクロスを山根永遠が弾き返したところを瀬古が拾って二次攻撃に繋げている。この時のCBの位置関係を見ておきたい。山村は右の大外に開いており、車屋は瀬古と同じ高さを保っている。

 そして、瀬古の背後にはマルセロ・ヒアンがいる。クロスを跳ね返した山根永遠は前を向きながら足を触れた場面なので、瀬古に引っ掛けてしまったのはたまたま。彼のボールが瀬古の頭上を超えてマルセロ・ヒアンに届かない保証はない。

 要は1つ間違えれば、マルセロ・ヒアンに上福元との1対1を許していたかもしれない陣形なのである。この状況を0-0から容認できるだろうか?個人的には2-0でも容認できるかは怪しいところという感覚である。最低でもマルセロ・ヒアンをマークするか、オフサイドにはできるポジションを取るべきだと思う。

 今季の川崎の得点が後半に多いのは4-2-3-1にするからというのはあまり的を得ていない。ビハインドの局面で迎えることが多い後半において、バランスを崩す機会が多いだけである。バランスを崩さなければ今年の川崎は得点から遠ざかりやすいのである。終盤における4-2-3-1はFWをエリア内に置きやすいから以上のロジックはあまりないように思える。

 かつ、このファイヤーフォーメーションで縮められる点差は1点差まで。それ以上は火力が足りないケースがある。例に漏れず、このパターンにハマった川崎は1-2で敗戦。お得意様である横浜FCに敗れ、今季2回目のリーグ戦連敗を喫してしまった。

あとがき

 この日の個々のパフォーマンスを足し合わせたら、この日の川崎くらいの完成度のチームが出てくるのは納得感がある。出場停止や不在の選手の影響の分、きっちりとできないことは増えており、かつ出ている選手のできることもほとんど示すことができなかった。

 ブロック守備の形成もカウンターの対応もできない。ハイプレスからのボール奪取もできない。そして狭いところも崩せない。個人個人の出来を見ればそういう出来になるのは妥当だし、今季の彼らのパフォーマンスが「こんなもんじゃない!」と胸を張って言えるほどいいものでもない。ただ、あれもできない、これもできないとなってしまえば、Jリーグは勝てない。

 少なくとも、ボールを保持しながら狭いスペースをこじ開けるような人選は短期的には避けるべきだろう。中盤は強度担保を優先。そうなればこの日いなかった脇坂とシミッチが最上位に来るだろう。レギュラー格である瀬古も含めて、この日出場した中盤は奮起が必要に思える。

 バックラインにも大南を戻した方が強度は担保できるはずだ。佐々木はそれなりに登里に取って代われない理由もわかったが、登里に今の出来が続くならば競わせてもいいのかもしれない。ただ、むしろこの試合の出来を考えれば、佐々木をはじめとするSBの控えメンバーが現実的に追い落とすターゲットになりうるのは右の山根の方かもしれない。横浜FC戦のパフォーマンスの水準は今季のパフォーマンスをさらにもう一回りトーンダウンさせた印象。この出来が続くのであればメスを入れる必要があると思う。

 内容面できっちり横浜FCに負けたスタイルを現段階でオプションとしてカウントするには無理がある。やっちゃいけないことを見極められたとするくらいしか、この敗戦を前向きに捉える方法は思いつかない。

試合結果

2023.5.20
J1 第14節
横浜FC 2-1 川崎フロンターレ
ニッパツ三ツ沢球技場
【得点者】
横浜FC:44′ 井上潮音, 48′ 山下諒也
川崎:68′ 瀬古樹
主審:池内明彦

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